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過剰損耗

「おお、らぁ!」


チミーの、迎撃のしようがない拳が迫る。

『マスク』は円盤を盾のようにしてその拳を受け止めたが、エネルギーを最大まで引き出したチミーの一撃は強烈を極めたものであった。


衝撃に耐え切れず、『マスク』は盾にした円盤ごと大きく後方へと吹き飛ぶ。

『マスク』の吹き飛んだ軌道をなぞるように、衝撃波による風が吹いた。


「まだま、だっ.....」


突然チミーの声が霞んだ後、チミーの体がゆっくりとバランスを崩し、床に倒れてしまった。


過剰損耗(オーバーヒート)』。


超能力者は、その能力を使用する度に体力を消耗する。

それが自身の限界値を越えると、目眩などの症状を起こして倒れてしまうのだ。

エネルギーという巨大な概念を操るチミーとなれば、その消耗も激しいものになる。


「染口!」

「けっこう.....限界、かも。」


咄嗟にチミーを守る形で前に立った南へ、汗を拭いながら微かな声で限界を伝えるチミー。

しかし、それは『マスク』も同じことを考えていた。


「私もおいとまするとしようか。貴様ら2人を、警察隊が来るまでに始末できるとは思えんしな。」


そう告げた『マスク』が唐突に背を向け、その場から立ち去った。


「待っ.....」


車酔いをしたかのような悪い感覚に抗いつつ、チミーが『マスク』の背に手を伸ばす。

しかし『永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』が発動するより先に、『マスク』は消滅してしまった。


二坂が戦っていた大男も早々に退散したようで、警察隊が到着した頃には、壊れた校舎だけが残っていた。









チミーは自転車に乗り、山沿いの道路を駆け抜けていく。

今日は校舎の損傷を理由に休校だ。

運動エネルギーを引き出された自転車が、自動車と同等のスピードで道路を疾走していく。


「...ここか。」


ブレーキを握り、片脚を地面につけて自転車を停止させ、携帯端末で目的地を確認する。

昨日、南に教えてもらった『超能力の専門家』が事務所にしている場所だ。


「能力は人それぞれ異なるもの.....逆に言えば、能力を特定できれば正体に近付けるかもな。」


南はそうアドバイスし、チミーに『専門家』の事務所を紹介してくれたのだ。

垂れてきた汗の一滴を拭い、自転車を停めて降りる。


『下風異能研究事務所』


艶のある高そうな石に刻まれた事務所の名を確認し、玄関に立つ。

一呼吸置いた後、インターホンをゆっくりと押した。


ガタガタと中の物が揺れる音が鳴った後、扉が開く。

扉を開けたのは20代前半くらいの男性だった。

男性はチミーの姿を見ると少し目を見開き、扉を大きく開けて中に入るよう促す。


「話は聞いてるよ、どうぞ。」




中には大量の資料や、本棚に詰め込まれた書類が沢山。

物は多いがきちんと整理されて清潔な状態で、まるで書斎のようだった。

そんな独特の空間を見渡しながら、ソファに着く。


...ちょっと落ち着かない。


ソワソワと何度もソファに座り直しているチミーへ、対面に位置するソファに座った『専門家』が声をかけた。


「ここで超能力を調査している下風(しもかぜ) 春人(はると)です。よろしく。」

「よ、よろしくお願いします。」


専門家....下風の挨拶に対し、チミーがぎこちなく挨拶を返す。

下風は本題に入る前に、雑談代わりとしてチミーが着けているゴーグルを指さした。


「そのゴーグル、『副産物』か何かの影響で付けてるの?」

「え?あぁ、はい。...これ外すと、『エネルギーの流れ』が()()()()()ので。」

「能力を聞いてもいいかな?」

「『エネルギーを操る能力』です。運動エネルギー、位置エネルギー、熱、音、光.....どれでも、操れる能力です。」

「へぇ!エネルギーを操れるって事は、何でもできるんだね。」


そう。

エネルギーとは、この世のあらゆるものが働くために必要な概念。

過剰損耗(オーバーヒート)』による力の制限こそあれど、その気になれば世界さえも滅ぼせる危険な能力だ。


「.....くれぐれも、悪用はしないようにね。」


下風は冗談交じりに、しかしハッキリとチミーに釘を差した後、本題に移った。


「それで、戦った超能力者はどんな事をしてた?」

「刃の付いた円盤みたいな武器を浮かせて放ってきたり、宙に浮いたり.....。」


チミーは『マスク』と戦った際に見た出来事を思い出しながら、少しずつ情報を伝えていく。

一通り情報を聞いた後、チミーから聞いた事を書いていたメモを睨みつつ、下風が首を傾げた。


「うーん.....その円盤?の材質は分かるかな。」

「多分、金属かなと。」

「なるほどねぇ。人の体とその円盤とを両方操れるなら、『鉄分を操る能力』とかの可能性も.....いや、瞬間移動しているから、それは違うか。なら、物質操作系の能力じゃないな。」


ぶつぶつと独り言を呟きながら、下風が『マスク』の能力を推理していく。

そして、ある程度の推測に至った。


「恐らく、その人は『概念操作系』の能力者か.....『無分類』の能力者の可能性が高いかな。どっちかと言えば前者の方だけど。」

「『概念操作系』?」


聞き慣れない単語に疑問を感じたチミーへ、下風が丁寧に解説を始めた。


「うん。能力には色々と分類分けができるんだ。」


下風曰く、円盤を的確に当てられるほど精密な動きを可能とするならば、『操作系』の能力に当たるという。


当てはまらないもので言うと、特定のものを増やしたり減らしたりとオン/オフする『スイッチ型』や、単純に筋力が数倍に増えたり牙が生えたりする『変身型』などが存在する。

例えば二坂の『消し去るもの(デリーター)』は『スイッチ型』だ。


そして『操作系』の能力の中でも、砂や火など質量のあるものを操る『物質操作系』と、エネルギーや意識そのものだったり、質量を持たない概念的な存在を操る『概念操作系』とが存在する。


『マスク』は自身の体を瞬間移動させていた。

人の体を構成する全ての物質を操れる能力ならともかく、その一部のみにしか干渉できない『物質操作系』であれば体を丸ごと瞬間移動させる事はできない。

であれば、『概念操作系』の能力だろう。


そしてチラリと言及していた『無分類』の能力は、念力のように概念に干渉しているのか物質に干渉しているのかを判別しづらいものや、超常の存在ではあるもののそもそも超能力者ではないものなど、分類が難しいものを『無分類』として呼んでいる。


「そもそも超能力者ではない、超常の存在.....」

「結構いるんだよ。ギルガン以外にもね。」


チミーの呟きに下風が答え、ソファを立って2つのファイルを本棚から取り出した。

一つ目のファイルを開き、チミーに見えるように机に置く。


「二十年前.....ギルガンが乗った隕石がこの星に落ちた影響で、人類の遺伝子に突然変異が起きた。ギルガンという外からの生物に遺伝子が危機を感じたのか、それとも隕石や奴らの表面に付着していた、星の外から来た成分が遺伝子を歪めたのか、それは分からないけど。」


チミーもこの話は、何となく知っていた。

二十数年前にこの星に巨大な隕石が落下し、そこからギルガンが現れた。


超能力者が生まれたのもその遺伝子変化の影響だそうで、故に超能力者は今のところ、それ以降に産まれた20代前半くらいまでの人間しか存在していない。


チミーが下風に見せられたファイルには狼のような広い口と鋭い牙を持った人や、耳が無く代わりに猫のような耳が頭から生えている人が載っていた。


現存する生物と人とが混ざったような見た目の、奇妙な人達。

この人達も、超能力者のように遺伝子変化の影響で生まれた人種だという。

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