俺は強いぜ?
『地面』の上から地上の合戦を眺める複数の『観測者』達。
その中の1人、赤く燃えたぎるような髪をした青年....『12番目の観測者』べレムスは、少年のように目を輝かせて地上の戦いを見ていた。
「うお〜!!なんか面白くなってきたなぁ!俺も行く!」
べレムスはそう言って勢いよく『地上』から飛び降り、宙を落下していく。
取っ組み合いをしている軍勢の中心、敵と味方が入り乱れた場所へと思い切り突っ込んだ。
落下による激しい衝撃波と振動で、周囲にいた数十名が吹き飛ばされてしまう。
「さて.....強え奴はいねぇかな?」
こきりと首の骨を鳴らした後、べレムスは拳を振り上げた。
1秒後、振り上げた拳を真下の地面へと突き刺し、技を発動する。
「『大・噴・火』ァ!!」
次の瞬間、彼を中心とした四方の地面から真っ赤な溶岩が噴き上がった。
「危ねぇ!逃げろ!!」
軍隊の人間が1人、溶岩を見て叫ぶ。
溶岩の持つ温度は1000度前後だと言われ、火傷と呼ぶには生ぬるいほどの重傷に追いやる危険な物質。
そんなものをいきなり沸き上がらせた彼は、まさに『歩く天災』という表現がピッタリだろう。
「ははっ、さぁ逃げろ逃げろぉ!」
次々と溶岩を噴き上がらせながら、逃げ惑う人間を笑うイグデム。
だがすぐに、その表情が変わった。
噴き上がった溶岩が、一瞬で岩の柱へと変化する。
触れてみると、岩はひんやりと冷たくなっていた。
あれほど熱を持っていた溶岩の噴水を一瞬で冷やし、岩の柱へと変貌させる。
そんな芸当を行った張本人が、イグデムの前に立ちはだかった。
「おままごとはその辺にしとけよ、ガキ。」
腕を組んだ状態の二坂が、イグデムにそう言い放った。
その堂々とした態度に、溶岩を一瞬にして冷やす能力。
二坂が只者では無いことに、彼は既に気付いていた。
「お前なら、俺を楽しめそうだね。」
「俺は楽しくねぇ。さっさとくたばれ。」
先に仕掛けたのは二坂だった。
『重力』『空気抵抗』『摩擦』の3つを『消去』し、トップスピードでイグデムの顔面を狙う。
そんなあまりにも愚直な攻撃に、イグデムは呆れ顔を浮かべながら二坂の拳を軽々と受け止めた...
はずだった。
「ッ!?」
次の瞬間。
二坂の拳を受け止めたイグデムの手のひらは粉々に砕け、跡形も無く消し飛んだ。
イグデムはその顔に驚きを貼り付けながら、続いて放たれた二坂のハイキックを屈んで回避する。
一体何が起こったのか全く分からない、そんな表情だった。
『消し去るもの』を纏った二坂の拳は相手の『反発力』を消す。
例えべレムスのような超人だろうとも、二坂にとっては泥人形も同然なのだ。
「右手がそれじゃあ、靴紐も結べねーな?」
「.....テメェ。その辺の雑魚とは格が違うみたいだな。」
「当然。俺は強いぜ?」
べレムスが足を引いて腰を落とし、構えを取る。
次の瞬間、地を蹴って超高速で移動を始め、二坂が認識できないほどの速度にまで加速した。
しかし二坂は、そんな小細工で動揺する相手ではない。
指を鳴らして『消しさるもの』を発動すると、周囲を走り回っていたべレムスが突然急停止し、勢い余って尻餅をついた。
「なっ...!?」
「地面から『摩擦』を消した。大人しく、俺に殴られるんだな。」
べレムスに種明かしを行った二坂はゆっくり接近すると、べレムスの顔面に向けて大きく脚を振りかぶる。
その時見せたべレムスのニヤリとした笑みに、気付かないまま。
「なぁ...!?」
振りかぶった右脚が、動かない。
右脚のつま先から脚の付け根にかけて氷が貼り付いており、二坂は硬直を強要されていた。
脚の氷に気を取られた隙を狙ってべレムスが蹴りを放ち、二坂は後方に倒される。
「ちっ.....!」
二坂は思わず舌打ちをしてしまった。
『消し去るもの』は『あらゆるものを消す』能力。
温度を『消す』事によって溶岩を固める事は可能だが、温度を『増やす』事が必要になる氷を溶かすことはできない。
つまり、二坂は低温に対して無力なのだ。
下風と水瓶の『観測者』ビィーリとの戦いは、両者譲らぬものとなっていた。
ビィーリはその巨体からは想像もつかない速さで下風の蹴りを避け、水瓶を振りかぶる。
しかし水瓶が下風の体にぶつかっても、水が弾ける音と共にすり抜けていくだけ。
「やはり貴様、水人間か。」
「ご名答。物理攻撃は効かないよ。」
下風の返しに、ビィーリがニヤリと笑った。
「本当にそうかな?」
水瓶から放った波に乗り、一気に距離を詰めるビィーリ。
放たれる水瓶の攻撃を避けるべく水に潜り込もうとした下風だが、ビィーリはそれを読んでいた。
「オラァッ!!」
水瓶を振るうと、辺り一面に浸されていた水がみるみるうちに水瓶へ回収されていく。
「っ!」
下風は潜り込める場所を次々と追いやられ、仕方なく浮上。
そこに、ビィーリの蹴りが突き刺さった。
「ぐうっ!」
何かが砕けるような音。
下風の体は水と化しているにも関わらず、ビィーリの攻撃を許してしまった。
それはビィーリによって体の一部を、『凍らされて』しまっていたから。
砕けた脇腹を抱えながら、下風が地面を転がる。
「はっは、俺は水を司る『観測者』。水の状態を変化させる事など、造作もないのさ。」
軽く笑ったビィーリが、そのタネを明かす。
「だったら、どっちがより優れた水使いか。そういう話だな?」
下風は立ち上がり、そう言ってビィーリを睨んだ。
再び場所は変わり、『8番目の観測者』ヤソグラ。
それに対する鏡町騎士団の騎士達は、既に半分以上が倒れていた。
「つ、強い.....!」
彼の速度が見える精鋭揃いにも関わらず、ヤソグラによって次々と撃破されていく騎士達。
しかもヤソグラは息一つ乱れておらず、疲れている様子も一切無かった。
さらに、団長やシスニル達は徐々に彼へ接近できなくなっている。
それは騎士達が倒れた原因にも繋がる、『毒ガス』の存在だ。
「毒を持たないサソリは居ない。俺の吐く息は毒ガスとなり、蓄積され威力を増す。貴様達には、勝ち目が無いんだよ。」
こちらに目を合わせる事なく静かにそう言い放つヤソグラに、シスニル達は不気味ささえ覚えた。
「みんな結構、苦戦してるみたいだね?」
『6番目の観測者』クルグラが、椅子に座ったままの状態で酒城に話しかける。
対する酒城はかなり傷付いた状態で、息も少し上がっていた。
こいつ、強い。
だが諦めの顔は見せなかった。
拳を握り、声を張り上げる。
「だが、関係ねぇ!」
刹那のスピードで、酒城の拳がクルグラの顔面を通り抜ける。
酒城が打ち抜いた残像が消え、本物が椅子ごと背後に現れた。
「俺が『管理者』を倒せば全てが終わる。それまで持ちこたえてくれりゃあ、それでいい!」
1つ、2つ。次々と放たれる酒城の直線的な拳を、クルグラは椅子ごと体を移動させて軽々と避けていく。
しかし酒城は、次なる一手を打っていた。
自身の腰に装備している、『宝珠』の一つが光る。
「『昇華の宝珠』。俺の凡骨パンチを、『昇華』させてくれ!!」
すると酒城の拳が、明らかに変化する。
自分の思考でも追い付けないようなスピードで、クルグラの顔面を掠めたのだ。
大きなダメージは避けられたものの、まさか食らってしまうと思っていなかったクルグラ。
拳が掠めた頬を撫でながら、目を見開く。
「凄い......!」
クルグラは少しだけ酒城を認めたかのような笑みを見せる。
しかしそれは一瞬だけ。
次の瞬間には、睨みつけるような鋭い目つきに変貌していた。
「アナタ、命知らずなのね。」
先ほどとは全く違う、暗く冷たい声色。
ずっと椅子に座ったままで酒城を相手していたクルグラが、椅子から腰を上げて構えた。




