好き勝手言ってくれるわね
そして迎えた当日。
『チーム』の部屋に、7人の人間が集まっていた。
『神の目』、酒城、結、下風、チミー、桜、景野。
『神の目』は結の呼びかけによって駆け付けてくれた下風に頭を下げた。
「忙しいだろうに、来てくれてありがとうございます。」
「いえいえ。『未来の消滅』なんてことを聞かされた以上、無関係ではいられませんから。」
下風は遠慮するように手を振って、そう答える。
「それじゃ、早速だけど行きましょうか。早いほうが、良いですから。」
『神の目』がそう言って結に合図を送ると、結は魔法を発動。
部屋中が金色の光に包まれ、中にいた7人が消滅した。
空間転移魔法。
その名の通り、空間を飛び渡る魔法によって7人が移動する。
一瞬にして景色が切り替わり、チミーが先日訪れた地下の空間へと出現した。
「それじゃ、行こう。」
『神の目』が先陣を切って車椅子を前に進め始める。
他の6人も慌ててそれについていく形となった。
「『戦闘力も無いのに、何故着いてきたんだ』と。君達はそう思っているに違いないと予想しているんだが、どうだろう?」
「そうですね。何故なのか聞いても?」
『神の目』の言葉に対し、下風が答えを促す。
『神の目』は前を向いて進みながら、ポツリと呟くように答えた。
「倒すよりも、交渉ができないか試したいんだ。やっている事は許されざる事とはいえ、『未来の消滅を防ぐ』というその目的は一緒のはずだから。」
そう語りながら、真っ直ぐで長い通路を歩いていたその時。
「危ないっ!!」
『神の目』のすぐ後ろを歩いていたチミーは、前方に大きなエネルギー反応を感知した。
咄嗟に手を伸ばし、『神の目』の車椅子を掴んで強引に手前へ引き寄せる。
突然後ろに車椅子を引っ張られた『神の目』が驚いた顔でチミーの方を振り返る。
しかしそれよりも早く、先程まで『神の目』のいた場所が爆発した。
「....!?」
爆発した箇所は真っ黒に焦げており、非力な『神の目』が食らっていれば即死だっただろう。
一同が一斉に警戒体勢に入る中、硝煙の香りを纏いながら1人の影が現れた。
「まさか気付かれるなんてな。気配は完璧に消していたはず、なんだが.....」
「伊蛾山.....!」
目元以外を隠した、忍者のような黒装束をした男が煙を払って現れる。
伊蛾山と呼ばれたその男は一行を物色するように眺め、ゆっくりと腕を組んだ。
「『神の目』。アンタが知ればすっ飛んでくるのは分かっていたが、計画の邪魔は困る。ここで時間稼ぎでもさせてもらおう。」
伊蛾山の言葉に表情を曇らせる『神の目』。
その横に並び立つ形で、下風が前に出た。
「僕がコイツの相手をします、皆は先へ!」
下風の指示に従い、『神の目』達は先へと進む。
当然それを許すはずがない伊蛾山が、止めに入ろうと上半身を傾けた時。
足元が、氷漬けにされている事に気付いた。
前方を見れば、下風がニヤリと笑っている。
伊蛾山は以前、廃校にて下風と交戦した事を思い出し、フッと鼻で息を吐いた。
クナイを取り出して逆手に持ち、もう片方の手の指を立てる。
「曇乱。」
伊蛾山が唱えると、彼の周囲から爆発するように煙が飛び出た。
煙が晴れた時には伊蛾山の姿は無く、消えた伊蛾山に下風は困惑する。
そして、次の瞬間。
パシャッ。
水の跳ねる音と共に、下風の首元にクナイが突き刺さった。
しかし下風の首は波紋を生み出すだけで、傷は付いていない。
「なるほど、『そういう』能力者か。厄介だな。」
虚空からにじみ出るように出現した伊蛾山。
クナイの一撃が通らなかったものの、動揺の色は無い。
「以前は極力戦闘を控えるよう言われていたせいで本気は出せなかったが、今回は違うぞ。」
逃亡一辺倒だった以前とは明らかに違う雰囲気を放っており、本気を出せなかったというのは決して嘘では無いだろう。
だが、下風も負けてはおらず、構えると挑発的な表情を浮かべた。
「そう言って負けてきた奴を何人も見てきたんだけど、君はどうなのかな?」
下風と伊蛾山との戦闘が始まったのを後にして、一行は暗い廊下を抜けていく。
一度来た事のあるチミーが先頭に代わり、先にあった扉のノブを捻った。
「やはり、来たか。」
開いた部屋の中には島本が待ち構えていた。
柳渡の姿は見えず、彼一人である。
『神の目』の姿を見つけた島本は皺だらけの顔にさらなる皺を寄せ、言葉を続けた。
「『神の目』。やはり、お主の手引きだったのか。」
「当たり前だろう。まだこんな事を続けていたなんて...」
「『こんな事』じゃと?」
『神の目』の言葉を聞いた島本はさらに顔を歪ませ、声を荒げる。
「貴様の『沢山の宝珠を扱える人物』は見つかったのか?見つかっておらんのだろう!?」
島本の鋭い眼光と畳み掛けるような威勢に、思わず『神の目』の表情も固まってしまう。
彼の言うとおり、未だ『沢山の宝珠を扱える人物』は見つかっていない。
「それは.....」
「無いものは無い!奇跡を待つよりも、それに匹敵するものを『作れる』のなら、それに越したことはないじゃろうに!!」
島本の激しい言葉に圧倒され、部屋の中はすっかり静まり返ってしまう。
しかし、そんな中でも構わずに、奴への反論を始めた人物がいた。
チミーである。
「ほんと、好き勝手言ってくれるわね。」
呆れたようにも、怒っているようにも見える態度でずかずかと足を踏み出し、島本の前に立つ。
前回ほどの激しい怒りは無いようだが、かといって感情に余裕のある様子ではなさそうだ。
「アンタは私を育ててくれた。けどそれは、『蠱毒』とやらのためだったってワケ?」
この男、島本は。
チミーの孤児院で子供達の世話をしていた職員の一人であった。
能力の解明のために街の大きな病院へ行った日、『6年前の事件』の当日。
その日、彼は街へ行くチミーを見送っていた。
そして、『6年前の事件』を引き起こしたのだ。
「未来が消滅する....世界中の人々が死ぬ事を避けるためには、仕方のない犠牲じゃ。それが運悪く、君達となっただけなんじゃ。」
「はぁ.....?」
島本は顔を伏せ、申し訳なさそうに言葉を吐く。
しかしその言葉が、チミーの態度を余計に逆撫でしてしまう。
チミーは以前と同じように身体中から熱を放ち始め、床を溶かし始めた。
「まずい!」
チミーの様子に気付いた酒城が真っ先に声を上げるが、時すでに遅し。
熱によって陽炎のように揺れ始めた空間の中で、チミーは島本を睨んだ。
その圧倒的な威圧感に気圧され、島本は僅かに冷や汗をかく。
「運が悪かったとか、人類を救うためだとか、好き勝手言いやがって。そんなの関係無い。言い訳を並べようが、私がアンタにムカついてる事は変わらない。」
熱によってコンクリートの床がヒビ割れたその瞬間。
島本の背後にあった扉が跳ねるような勢いで突如開き、島本は扉に吸い込まれる形でその場を脱出した。
それを逃がすまいと、チミーが続く。
「待って!」
チミーの後を追うべく桜が足を出したその時。
扉の前に巨大な影が一つ、ズシンと降り立った。
「悪ィが、ジイさんから足止めしろとの命令でな。」
そこには同じ人間とは思えないほどの巨体を持つ男が立っていた。
スキンヘッドの頭に、緑色のタンクトップ。
その肉体は凄まじく鍛え上げられており、まるで岩石だ。
「胡麻原...」
男を見た『神の目』がその名を呟く。
こちらも先程の伊蛾山と同じく、『神の目』の『元』仲間だ。
咄嗟に酒城が皆の前に立ち、胡麻原を睨む。
「こいつは俺が相手する。染口さんを追ってくれ。」
「.....分かりました。」
桜は酒城の言葉に従い、能力で座標を移動。
『神の目』、桜、結の3人を、胡麻原をすり抜けて瞬間移動させた。
そこで一人、酒城の他に残っている人物がいる。
酒城の影から浮かび上がる景野。
驚く酒城をよそに、彼の隣に並び立って胡麻原を見た。
「俺もコイツには因縁がある。手伝ってもいいか?」
「......是非とも!」
胡麻原は景野の姿を見て、丸くしていた目を鋭く伸ばす。
「景野ォ.....そっちにつくって事は、妹の事はどうでも良くなったのか?」
「おかげさまで、妹は治療できる状態になったんでね。」
「いやいや、違ぇよ。」
景野の返した言葉に対し、胡麻原は笑いながら首を振る。
構えた筋肉が膨張し始め、ただでさえ大きな体がさらに巨大化し始めた。
その姿はまるで、重機である。
「愛する兄ちゃんが死んじまったら、可哀想だろ?」
マッスルポーズを取りながら、胡麻原は満面の笑顔を見せた。




