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リフレーション・フロントライト

『仮面の者』は6つの円盤を操っている。

永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』が効かない以上、あの円盤は避けるしか方法が無いのだが、6つとなるといくらスピードがあっても判断が追いつかない。


だったら、狭い場所で戦った方が良いだろう。

奴の狙いは恐らく私。

戦いの場は、私が決められる。


そう判断したチミーが再び校舎へ入るべく、くるりと踵を返したその時だった。


「ここにいたのか。」

「ひゃぁっ!?」


振り向いた先にはいつの間にか知らない男子生徒が立っていた。

何の前触れも無く、全く気付かないまま振り向いたため、思わず肩を跳ね上げて間抜けな声を漏らしてしまう。


髪は少し長く、目付きの少し鋭いその生徒を見た南が声をかける。


「黒田くん?何故こんな所に。」

「星羽に『チミーちゃん』とやらの安否を頼まれてな。こんな所にいるとは。」

「星羽に?」


黒田と呼ばれた男子生徒は、星羽の頼みによって現れたらしい。

南の耳打ちによると、彼は星羽の彼氏さんだそうだ。


色々と聞こうと思ったが、背後からチミーの頬を円盤がかすめ、再び戦闘の意識に戻される。


「.....まぁ話は後で!校舎に入るわよ!」


擦れてひりひりと痛む頬を撫でながら、チミー達は校舎の入り口に向かって走り出した。






一方その頃。

校舎の中、2階の廊下にて二坂と大男とが戦闘を始めていた。

二坂の振りかぶった拳と大男の振りかぶった拳とがぶつかり合い、周囲の空間がびりびりと震えている。


「なっ...『壊れ』ねぇ...だと!?」

「ほぉ、なかなかやるじゃねぇか。だが、無駄だな。」


驚く二坂に対し、大男は余裕の表情を浮かべている。

二坂は『消し去るもの(デリーター)』の能力を使う事で、大男の腕の『反発力』を消した。


反発力が消え、力をありのまま受け入れてしまう状態で殴られれば、大男の右腕は粉々に砕けるはずなのだが.....


砕けない。

大男の岩のような拳は、しっかりと二坂の拳を迎撃している。


「とんでもねぇ力だな。俺が『普通の人間だったら』どうなっていたことか。想像するだけで怖ぇなぁ?」


大男は笑みを浮かべながらそう呟き、右脚を二坂の脇腹に向けて振り上げる。

二坂は大男から拳を離して距離を取ることでそれを回避。

再び睨み合いが発生した。


「お前がどれだけの力で俺の拳を壊したとしても、俺はそれを上回る速さで『再生』する。それだけさ。」

「チッ、『再生』能力者か。うぜぇな。」

「そういうわけでも無いんだがな.....ま、お前には関係ねぇか。」


大男が笑ってそう返した後、近くに設置されてあった消化器を二坂に向かって蹴り飛ばす。

それを回避した二坂だったが、顔面に向かって正確に飛んできた消化器に隠れて接近してきた大男が見えていなかった。


腹に一発の拳と、顔面に向けて斜め上から振り下ろされた蹴りをまともに食らってしまう。

顔を背けて衝撃を流し、カウンターとして大男の脚を殴る。


そのまま足を踏み込んで距離を詰めた二坂が顔面に拳を放った。

大男は左手で拳を受け止めた後、突き上げるようなアッパーをお見舞する。


「がっ....!」


大型家電をぶつけられたかのような衝撃。

が、二坂は怯まない。

消し去るもの(デリーター)』は『痛覚』を一時的に削除する事ができる。

ダメージは蓄積していくが、壊れなければ問題ない。


「おらァッ!!」


大男の脇に向かって薙ぐような蹴り。

その勢いを保ったまま体を回転させ、もう片方の足で踵落としを放った。


「ちっ!」


顔面をえぐるような踵落としを大男はスウェーで回避する。

さらなる追撃を仕掛けようと、行き場を失った踵落としの足を軸に体を回転させた、その時だった。


「何っ.....!」


突然、床が砕けたのだ。

砕けた箇所から連鎖するように床が崩壊していき、大きな穴を生成していく。

崩れていく穴に、二坂と大男が巻き込まれてしまった。


1つ下の階へと落下した二坂は、一緒に落ちてきた瓦礫を退けながら立ち上がる。


「あれ、二坂?」


そんな彼に驚いた様子で声をかけたのは、チミーだった。

どうやら仮面の者が放った円盤が天井.....二坂達が元々いた場所の床にあたる部分を壊し、崩してしまったらしい。


「ちっ、また一人増えたか。」


二坂の登場に、苛立ちを隠せない様子の仮面の者。


「お、『マスク』!お前3階にいたんじゃ?」

「ようやく来たか。」


二坂と同じく1階に落ちてきていた大男が、仮面の者の姿を見つけてそう叫んだ。

『マスク』と呼ばれた仮面の者と、この大男はどうやら仲間らしい。


「遅れて来たからには、しっかり働けよ?」

「へいへい。『あの女の子以外を、足止めする』。だろ?」


『マスク』の命令に大男は肩をすくめて首を振った後、『マスク』とチミー達との間に立ち塞がり、ニヤリと笑って構えを取った。


「そこの女の子以外は、通行税を払ってもらうぜ。赤い血の通行税をな。」

「知るか、そんなもん。」


そんな大男にキッパリと言い返した黒田が、自身の能力を発動する。

窓から射し込んでいた光が急に強くなり、大男の目を照らした。


「ぐあっ!」


激しい光に照らされ、大男は思わず目を塞ぐ。

その隙に『マスク』を追おうと大男の脇を通り抜けていった黒田だが、そこである異変に気が付いた。


目に光を当てられた大男の様子がおかしい。

強い光とはいえ、大男に当てた光は目くらまし程度のものだった。


にも関わらず、目を塞ぐ指の隙間から灰色の煙が微かに漏れ出ている。

大男も、目くらまし以上に動揺しているように見えた。


「.....?」


黒田は首を傾げながらも、チミー、南と共に『マスク』を追って走る。

光の届かない場所まで逃れ、ようやく目が使えるようになった大男が見たのは、指を鳴らしてこちらに歩み寄る二坂の姿ただ一人だった。


「さて、邪魔者はまた居なくなったな。さっきの決着を付けようじゃねぇか?」


『マスク』の指示を守れなかった大男だったが、そんなこと今はどうでもよかった。

ただ、目の前のこのクソガキを、ぶっ潰してやりたい気持ちで満たされていたから。

口の端を持ち上げ、大男は構える。






「...役立たずめ。」


自身を追いかけるチミー、南、黒田の3人を見て、大男に対する怒りを呟く『マスク』。

体を反転させ、牽制するように3枚の円盤を放った。


「うぉっ.....」

「下がって!」


南の前に立ち、エネルギーで作成した盾を構えて円盤を防ぐ。

盾を持っている腕を持ち上げて円盤の軌道を真上に逸らした後、低い姿勢でダッシュした。


エネルギーを増幅させて『マスク』の元へ一気に詰め寄る。

『マスク』が指をパチンと鳴らすと、奴はチミーの目の前から消滅した。


「んなっ....!」


直後、チミーの背後から突然現れたエネルギー反応。

素早く振り向いて、手に持った円盤を振り下ろす『マスク』の一撃を回避した。


「『熱狂に誘う炎幕ダンシング・キャンプファイア』ッ!!!」


『マスク』がチミーに気を取られているうちに、横方向から南が超能力を発動。

組んだ手から燃え盛る炎が生成され、竜巻のように唸って『マスク』を襲う。


『マスク』が炎の竜巻を認識していないにも関わらず、周囲を舞っていた円盤の一つが動いた。

炎の竜巻に対して円盤の面の部分を向け、『マスク』を守る盾のようにそれを弾く。


円盤に弾かれた炎の竜巻は行き場を失い、教室の扉枠へ激突。

そのまま飲み込むように、一瞬で扉を灰へと変化させた。


「邪魔をするな。」


南の攻撃に気が付いた『マスク』はボソリとそれだけ言うと、炎の竜巻を防いだ円盤を回転させ、南に向かって薙ぐような一閃を放つ。


しかし、当たらない。

確かに南の、体を通ったのに。


「はぁっ!!」


南を気にしている暇は無かった。

正面から、拳を振り上げたチミーが接近する。

チミーの拳を円盤で防ぎながら、少しずつ後退していく『マスク』。


逃すまいとチミーが距離を詰めた時を狙い、突き上げるような円盤がチミーの顎下を襲う。

寸でのところで回避した瞬間、その円盤が()()()であることに気付いてしまった。


チミーの鼻先を通り上へと突き抜けた円盤の下に、もう一枚の円盤が()()()いたのだ。


しかし、2枚目の円盤も、チミーに命中する事は無かった。

確かにチミーの首元を、通ったはずなのに。


「どこ狙ってんの?」


先ほど南に、円盤を放った時と同じだ。

『当たったのを見た』のに、『当たっていない』。

困惑した様子を隠し切れない『マスク』に対して、答え合わせを始めたのは黒田。

彼はそのからくりの、全てを知っていた。


「俺の能力『光征く曲がり道リフレーション・フロントライト』だ。『光を屈折させる』能力。アンタが見えているものは、虚像なんだよ。」


黒田の能力は『光を屈折させる』能力。

屈折角度を変えることで、本来いるはずのない場所に『いる』かのような虚像を作り出したのだ。

『マスク』の円盤は、チミーに届かない。

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