どっちが勝つかな?
ヘリコプターの窓に、巨大なロボットが荒野を滑走している姿が映っている。
『チーム』のメンバー達は山瀬が特別に手配したヘリコプターに搭乗し、現地まで1時間もかからずに到着することができた。
ここ一帯は鉱山地帯らしく、巨大ロボットは断層をくぐり抜け、土煙を上げて滑走している。
「開けた所に先回りして待ち構えるか。」
山瀬の指示に従い、操縦士が操縦桿を切る。
猛スピードで先回りしたヘリは断崖に着陸し、『チーム』のメンバー達は次々と降りていく。
はっきりとした姿は見えないが、断崖と断崖の間を縫うように噴き上がる土煙で、ロボットがこちらに来ているのが分かる。
「あんなのマンガでしか見たことねぇな。」
「ま、とりあえず適当に戦ってみるか。」
ディーンの感想に対して景野はそう言うと、唐突に地面へと飛び降りた。
地上から十数メートル離れた断層から、『影の手』を使って影の手を崖に食い込ませながら降りていく。
「よく降りれるね〜.....」
崖の下を覗き込み、汗を垂らしながら呟くユウリ。
そんな彼女に対し、ライカが小首を傾げた。
「猫だったら、高い所から落ちても平気なのでは?」
「そうは言うけど!高い所から落ちた事なんて無いから怖いよ〜!」
ライカの率直な疑問を押し退けるユウリ。
「まぁ、猫とはいえ落ちれる高さに限界はありますからね。この高さは流石に厳しいですよね.....なので、落ちてください。」
「へぇっ!?」
手のひらが、ユウリの背中をゆっくりと押し出す。
崖から離れて足場を無くしたユウリの体は、加速しながら自由落下を始めた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
空中で体をひねり、姿勢を整えて地上を見る。
その高さ、十数メートル。
やっぱり高すぎる!
目を瞑り、半ば諦めに入っていたユウリだったが、全身にふわりと浮かぶような感覚を覚えた。
ゆっくり目を開けると、地上から上向きに吹く風がユウリの体を支えている。
「ふふ。ちゃんと風魔術は用意してましたよ。」
「それを先に言ってよ、もう!」
続いて同じように降りてきたライカにプンスカとユウリが怒った。
しかし、遠くにあった土煙がかなり近くなっている事に気付くと、すぐに顔を前方に向ける。
桜と二坂、そしてディーンも下に着地し、全員が前を睨んだ。
「いよいよだな。」
断層の間から土煙が爆ぜる。
その土煙を割くようにして、鋼色に鈍く光る巨大ロボット───ヴァルグリースが、その姿を表した。
「ッ!」
滑り込んできたヴァルグリーズが6人を捕捉。
ヴァルグリーズから放たれた拳の叩きつけを回避すると同時に、6人が散開した。
地面を穿った拳の隙間を高速で潜り抜け、最初に攻撃を仕掛けたのは景野。
「『影の手』!!」
能力を発動すると、景野の背後から無数の影の手が現れる。
ヴァルグリーズの右手に影の手が絡み付くと、景野はそのままヴァルグリーズの背後へと滑り込む。
影の手が絡み付いていた右手が思い切り背後に引っ張られ、何かが割れるような音を立てて捻じ曲がった。
「喰らえっ...!」
片膝を着いてバランスを崩したヴァルグリーズの顔面を狙い、『重力』を消し大ジャンプした二坂が蹴りを放つ。
ヴァルグリーズの装甲が持つ『反発力』を消し、その顔面に大きなクレーターを穿つほどの一撃をお見舞いした。
「へッ!今のは、ちったァ効いただろ?」
着地した二坂が振り向き、ヴァルグリーズにそう告げたのもつかの間。
ヴァルグリーズの反応を見た二坂の表情が、みるみるうちに曇っていく。
ギチギチギチギチ......!
金属の軋む嫌な音を立てながら、ヴァルグリーズのへこんだ顔面が変形する。
いや、変形しているというより『再生』と言ったほうが適切か。
「これが...山瀬さんの言っていた....」
「『再生』能力か....!!」
二坂が派手に蹴飛ばしたヴァルグリーズの顔面は、気付けば何事も無かったかのように元に戻っていた。
影の手に掴まれていない反対側の腕を動かし、払い除けるように二坂を弾く。
「ちっ...!」
『消し去るもの』を使って自身へのダメージは『消した』ものの、衝撃によって発生した慣性には逆らえず吹き飛ばされてしまう。
ヴァルグリーズは払い除けた手を引き戻した後、ぐるんと思い切り全身を回転させることで景野の拘束を払い除けた。
宙に投げ出された景野へ、構えたヴァルグリーズの正拳突きが放たれる。
「...『手品師の空間』!!」
桜が動き出した。
景野を狙ったヴァルグリーズの拳が空を抜ける。
景野の姿は消え、いつの間にか地上に瞬間移動していた。
「私の能力は『座標操作』!人や物の『位置』を、操る能力ッ.....!!」
桜に狙いを付けたヴァルグリーズの前へ、彼女が操る刃付きの円盤が彼女を守るように躍り出る。
チェーンソーの駆動音が如き凶暴な音を掻き立てながら、円盤達はヴァルグリーズの体の上を疾走し始めた。
ヴァルグリーズの全身を駆け巡り、円盤達はどんどん外側の金属を削っていく。
しかしそれを追いかけるようにヴァルグリーズの体が瞬時に再生していき、ヴァルグリーズは手を動かして円盤を3枚掴んだ。
指先で3枚の円盤をつまんだヴァルグリーズは軽く腕を曲げ、手裏剣のように桜の元へ投げ返す。
「ッ!?」
投げ返ってきた円盤へ手を伸ばし、即座に『座標』を停止。
直撃を防いだ後、コントロールを取り戻した。
「危ねぇっ!!」
ホッとしたのもつかの間、ディーンが叫ぶ。
桜の前へ飛び出したディーンは、放たれたヴァルグリーズの拳を受け止めた。
吸血鬼の翼を広げ、炎の力で壁を作り耐え続ける。
しかし。
ヴァルグリーズの握り拳が開き、周囲から光を吸収し始めた。
集められた光は次第に放電を始め、巨大化していく。
次の瞬間、集められた光が四方八方へ拡散し、大木のように太い光線が撃ち出された。
地面の岩を粘土のように溶かし砕き、閃光が辺りを包む。
ディーンの背中に隠れていた桜は無事だったものの、すぐ両隣の地面が融解している姿を見て戦慄した。
焼き切られた表皮を剥がし、ディーンは新たな表皮を再生する。
『不死身』で無かったら、二人共に即死だっただろう。
ヴァルグリーズは首を動かし、再びディーンと桜とを捉え、動き始めた。
「お、やってるねぇ。」
現場から少し離れた崖の上。
1人の女がコインを弾きながら、ヴァルグリーズが戦闘している姿を楽しそうに眺めていた。
「『暴走の宝珠』。なかなか良い感じに使いこなせてんじゃん、あのロボット。...ん?」
岩場に座り独り言を呟いていた女は、ヴァルグリーズと戦っていたある人物に気付く。
その視線の先にいたのは、ライカ。
彼女を見つけたか女は目を丸くした後、知り合いを発見したかのような笑顔を見せた。
「あの子は.....前に私が『暴走の宝珠』の力を試した時の子じゃん!あの時は.....変な騎士に邪魔されて、失敗したけど。」
同時にライカを打ち倒したシスニルの事を思い出し、不満げな表情を浮かべる。
得意の魔術でヴァルグリーズを翻弄し、的確に剣を当てていくライカ。
対するヴァルグリーズはそんな攻撃など意に介さぬ様子で瞬時に再生を繰り返し、激しい攻撃を繰り出していく。
そんな様子を眺めながら、女はコインを1発弾いた。
「どちらも同じ『宝珠』の力に魅せられた者...。さぁて、どっちが勝つかな?」
ちなみに猫が高い所から落ちても平気というのは限度があり、健康な成猫だと3mくらいの高さから落ちるとケガする事があるそうです。




