まさか、こんな所で再開するなんてね
結と下風の他に、桜という頼もしい戦力が同行を決めた事を確認した結は、さっそく転移魔法を発動する。
「今日中に来い、って言ってたんだよね....?だったら、すぐに取り返しに行こう!」
結がそう言って指を振ると、チミーが酒城に指定された場所へ、4人が飛んだ。
その間、わずか数秒。
気が付けば、辺りが木々に埋もれた森の中に立っていた。
「ここが...指定された場所?」
「だね。けど...さらに進まなきゃならないっぽい。」
桜の呟きに答えながら、結は目の前にある2つの分かれ道を睨み付ける。
明らかに酒城からの挑戦状だろう。
二手に分かれた道の右側を結とチミーが、左側を桜と下風とが進む事にした。
木々に囲まれた薄暗い道を、ゆっくりと注意しながら進んでいく。
「ホントにこの先にいるんですかね?」
「どうなんだろ...」
チミーと結とが、周囲を見渡しながら森を歩いていたその時。
少し開けた場所に出た2人の視線の先に、1つの 影が立ち塞がっている。
「お!案外早かったな。そのゴーグル、間違いねぇ。『頼まれてた相手』だ。」
立ち塞がっていた人影は、20代くらいの若い男性だ。
爬虫類のように鋭い目でチミーの姿を見つけた彼は、ゆっくりと背中に手を持っていく。
そこには、1メートルを超える直剣が装備されていた。
「アンタは何者?酒城の仲間か何かなの?」
「おいおい、一度に幾つも質問するなよ。」
男はチミーの質問を遮る形で、ため息混じりにそう言うと歩をこちらに進めた。
僅かに差し込む光に当てられ、その全身が顕わになる。
燃えたぎる炎のように逆立った茶色のショートヘアに、パーカー姿という軽装な出で立ち。
所々に装着されている妙な機械が、彼が只者ではない事を示していた。
背中の剣を引き抜きながら、男はニイッと鋭い八重歯を見せる。
「そうだなぁ、俺の名前は.....」
引き抜いた直剣を振り下ろし、剣先でチミー達を指して名乗った。
「『デンジャー・ソード』。そう呼ばれている。」
「『デンジャー ・ソード』......!!」
男が名乗ったその名前に、結は目を見開く。
咄嗟にチミーを庇う形で前に立った結は、チミーにその正体を語った。
「チミーちゃん、『デンジャー・ソード』は.....非能力者でありながら、人工遺物を使って戦う、殺し屋の名前なの。『能力者狩り』とも呼ばれていて、彼が本物なら、その辺の超能力者よりもずっと危険よ。」
「詳しいじゃねぇか。俺のファンか?」
結の解説に、デンジャーソードが軽く笑う。
結の言う『人工遺物』とは、彼の体に取り付けられている機械の事だろうか。
なかなか動きを見せない二人に対し、待ちくたびれたようにデンジャーソードは口を開いた。
「もういいか?じゃ、行くぜ。」
先程までリラックスした状態だったデンジャーソードは、その言葉を合図に地を蹴る。
まるで弾丸のように、とても非能力者とは思えないほどのスピードで駆け、チミーに向かって一直線に突進した。
だがチミーは能力を失ったとはいえ、能力に適応するため変化した肉体......『副産物』はそのまま残っている。
『永遠なる供給源』による強烈な負荷に耐えられるような構造と化した肉体は、それだけでも一般人を遥かに凌ぐもの。
チミーの持つ天性の身体能力と動体視力は、確かに生きていた。
体を半分ずらし、デンジャーソードの振り下ろした剣を回避。
剣に打たれた地面から、ふわりと砂煙が舞う。
デンジャーソードは素早く剣を切り返し、チミーの上半身を狙って振り上げる。
仰向けに上半身を倒す事で回避したチミーだったが、気付けばデンジャーソードは素早く姿勢を落とし、鋭い足払いを放っていた。
「んなっ.....!?」
不意を突かれ、足を取られたチミーは重力に従って仰向けに倒れてしまった。
そこに、デンジャーソードが剣を振り下ろす。
だがしかし、デンジャーソードの剣はチミーの目の前で停止。
結が魔法を放ち、チミーの前に青白い盾を作って防いだのだ。
「ちっ!やるねぇ。」
デンジャーソードは舌打ちをしつつ剣を払い、数歩下がる。
その目は結を捉えており、チミーよりも優先すべき相手だと判断しているようだった。
「自然錬成魔法『流頭岩』!」
結が魔法を唱えると地面が隆起し、内部から生えるように複数の大岩が出現。
出現した岩は加速しながら転がり、次々とデンジャーソードに襲いかかった。
「石ころで人は殺せやしねぇよ。」
結の放った大岩を鼻で笑うデンジャーソード。
当然のように岩を真っ二つに切断し、間髪入れずに放たれた氷の槍も剣で受け流す。
次々と放たれる氷の槍をひらりひらりと回避しながら、デンジャーソードは少しずつ結の方へと近付いていった。
デンジャーソードが剣を振り上げた瞬間、その脚が急停止する。
足元を見ると、デンジャーソードの足首に植物の蔦が絡まっていた。
結の仕掛けた魔法の一種である。
腕ほどの太さを持った蔦が膝下くらいまで纏わりついており、超能力や魔術でも使わない限り脱出は難しいほど強力な代物だ。
.....あくまで、相手が『普通の無能力者』なら、の話だが。
「.....へっ。」
今もなお侵食を続ける魔法の蔦に、デンジャーソードは余裕の笑みを見せていた。
片耳に装着されていたデバイスを操作すると、上半身を前に傾ける。
その直後。
冷却ファンが激しく回転する音と共に、デンジャーソードの下半身を覆う蔦が隆起し始めた。
隆起した部分は次第に前方へ伸び始め、それに引っ張られる事で蔦の繊維がブチブチと千切れ始める。
隆起した部分の正体は、デンジャーソードの脚。
彼は足首に装着していた人工遺物の力を使い、強引に蔦を引き千切り始めたのだ。
蔦の拘束から解放されたデンジャーソードが、地を蹴ってその姿を忽然と消滅させる。
一瞬の間に、結の目の前にまで接近していた。
「っ!」
結は魔法を用いて半透明な魔法の盾を生成し、デンジャーソードの繰り出した剣をギリギリで受け止める。
片足を引いてバランスを整え、盾を持っていない方の手で魔法を編み始めた。
させまいと言わんばかりに剣を返し、体重をかけた剣で盾を弾く。
盾を弾かれ、バランスが崩れた結の腹部目がけて横蹴り。
人工遺物の力もあってか、凄まじい勢いで結が後方へと吹き飛んだ。
風を切って飛んだ結の背中が、森の木に衝突する。
「うっ...!」
咄嗟に魔法で空気の塊を生成し、激突による衝撃を和らげた結。
しかしダメージを殺しきることはできず、苦しげな声が漏れてしまった。
デンジャーソードは余裕の表情を見せながら剣を肩に担ぎ、ゆっくりと結の方へ足を進めていく。
「!」
何かに気付いた。
デンジャーソードはふと結から視線を外し、剣を真横に振り払う。
硬いものに当たったような音が鳴り、剣が音叉の如く小刻みに震えた。
「くっ.....!」
その正体は、真横から飛び蹴りを放ったチミーの足。
能力が使えないとはいえ、常人より身体能力が引き上げられているチミーの蹴りを、片手で握っている剣で受け止めるとは。
やはりこの男、只者では無い。
デンジャーソードが剣を払うと、チミーは空中で一回転しつつデンジャーソードと距離を取る。
しかしデンジャーソードは、休憩の隙を与えなかった。
「ほぉら、避けてみろッ!!」
大きく振りかぶると、あろうことか持っていた直剣をチミーに向けて槍投げのように投げ飛ばし、それを追うように同じ方向へ走り出した。
「なぁっ!?」
突然放たれた飛び道具に驚いたチミーだが、『副産物』として発達した動体視力は剣の軌道を捉えていた。
僅かに腰を曲げ、頬を掠める直剣を横目で見送る。
しかし、デンジャーソードはチミーの行動を完璧に予測していた。
剣を追う形で走っていたデンジャーソードは片膝を曲げ、もう片方の足を突き出してスライディングの形を取る。
チミーの足元に滑り込み、曲げている膝を軸にもう片方の脚を大きく半回転。
鎌のような薙ぎ払いで、チミーの足を捉えた。
鋭い足払いによって引っ掛けられ、バランスを崩して再び転倒するチミー。
その足元を通り過ぎたデンジャーソードは滑りながら立ち上がり、腕を伸ばして飛ばしていた直剣を掴む。
腰を落として慣性を殺し、停止時に反対側へ流れる勢いを利用して、仰向けに倒れているチミーの顔面に向かって直剣を振り下ろした。
ズドン、とデンジャーソードの剣が地面を叩く。
土が飛沫を上げ、砂粒が雨音のような音を立てて落下した。
「...ふぅん?」
剣で叩きつけた地面を覗き込んだデンジャーソードが、不思議そうに首を傾げる。
そこに、チミーの姿は無かったのだ。
「間一髪、ってとこだったな!」
右方向から聞こえた声に反応し、デンジャーソードが振り向く。
そこには、全身を赤黒い鎧で包んだ男がチミーを抱きかかえて立っていた。
チミーは自身を助けたこの鎧男が誰なのか分からず困惑し、抱えられたままの状態で固まってしまう。
だがその声は、どこかで聞き覚えのあるものだった。
「まさか、こんな所で再開するなんてね。」
「後は、僕達がやりますよ。」
「はっは!一体どういう因果だぁ?」
チミーを抱える鎧男を囲うように、3人の影が現れる。
その影の正体。
それは百合ヶ丘、岸山、龍豪寺......チミーを抱きかかえている弓浜を含めた『煙星四天王』だった。




