今の君は、一般人とそう変わらない
チミーは景野の胸ぐらを掴んで揺すり、説明を促した。
「ちょっと!!どういうこと!?」
「おお、おいおい、落ち着けって。」
掴んでいた手を払い除けると、景野はこれまでの経緯を語る。
妹.....彩花の体調はチミーの干渉を受けてから凄まじく健康な肉体と化し、もっと良い治療が受けられるかもしれないと医者に太鼓判を押してもらったそう。
つまり、景野が苦労して資金を集める必要は無くなったのだ。
そんな景野だが、『宝珠争奪戦』の勝ちを譲った対価とはいえチミーに対してかなりの借りが存在する。
「.....ってワケで、アンタの手助けをする事にしたんだ。ヨロシクな。」
景野の憎たらしい微笑みに、チミーは呆れたようなため息を吐いた。
そして、数日後。
久しぶりの、登校日である。
チミーは制服の襟を揺らしながら、自分の教室の扉を勢いよく開けた。
その姿を見つけた星羽が、チミーに大きく手を振る。
軽い微笑みと共に小さく手を振って返し、滑り込むように自分の席へ着いた。
「はぁぁーーー.....」
桜の救出に、『宝珠争奪戦』。
最近色々とあり過ぎて、チミーの身体にはかなりの疲労が溜まっていた。
それに.....チミーが桜を刺した原因であろう、柳渡の問題もまだ残っている。
席の近くに寄ってきた星羽などお構いなしに机に突っ伏し、大きなため息を吐いた。
星羽はそんなチミーの頭をポンポンと叩きつつ、心配そうな目を向ける。
「.....疲れてるの?」
「うん...最近いろいろあり過ぎて.....。」
「そっか、大変だねぇ〜...」
疲れているチミーに気を遣ったのか、星羽は最低限の会話だけを終えてから前を向く。
授業中も机に伏せ、心配なぐらい眠っていたチミーだったが、昼頃にはいつもと同じくらいの状態まで回復していた。
まだ少し疲れはあるようだが、朝の時ほど酷くはない。
授業が終わり、生徒達は次々と教室を出ていく。
いつもなら一目散に帰っていくチミーだが、今回は何故か教室から出る気が起きない。
教室の後ろの床に足を伸ばして座り込み、ため息を吐いていた。
「はぁ〜....帰る気が起きない〜〜.....」
「チミーちゃん、汚いから床に座らない方がいいよ〜?ほら、とりあえず椅子に座って?」
「うぅ〜.....」
星羽の手を借りながら、チミーが立ち上がる。制服のスカートに付いたホコリを払うと、椅子に勢いよく腰を投げ出した。
.....なんだかボーッとする。
授業中に寝過ぎたからだろう。
ふわふわとした気分に気合いを入れるべく、深呼吸をして両手で自身の頬を軽く叩いた。
「...よし、帰るか。」
ようやく帰る決心がついたチミーと、その様子に微笑んだ星羽とが話をしながら廊下を歩いていく。
ほとんどの生徒は部活へ行ったり帰ったりして、数える程しか残っていなかった。
階段を降りて廊下を歩いていると、2人の前に1人の男子生徒が現れた。
男子生徒はチミー達の存在に気が付くと、すぐさま端に寄って道を譲る。
すれ違いざまに、男子生徒はチミーの肩に手を置いた。
咄嗟に反応したチミーが手を払い、男子生徒の顔を睨む。
「.....!」
逆光で見えていなかったその生徒の顔には、チミーは僅かながら覚えがあった。
チミーがこの学校に来た時、最初に話しかけてきた男子生徒。
学校に来たばかりのチミーに、二坂を紹介した人。
「よ、染口さん。」
男子生徒の正体は、酒城 扇輝だった。
気付けば星羽の姿が無い。
それどころか、校内で僅かに響いていた生徒の声も風の音も、全てが消え去っていた。
明らかに、コイツが何かをしたに違いない。
「アンタ、一体何をしたの。」
「君がここまで凄い人物とはね。最初に出会った時に、もうちょっと仲良くしとけば良かったかな?」
「.....質問に答えなさいよ、殴るわよ。」
「いいよ、やってみな。」
酒城の挑発に苛立ちを覚えたチミーは、望み通りやってやると言わんばかりに『永遠なる供給源』を発動。
酒城のエネルギーを掴み、こちらに引き寄せる───────
事は、できなかった。
エネルギーが、言う事を聞かないのだ。
能力が酒城に通用しない事に困惑していると、酒城が軽く笑いながら口を開く。
「それが、答えさ。」
そう、これこそが、酒城の持つ能力の力。
「『嗤う革命者。『触れた者の能力を奪う』能力。さっき、君の『永遠なる供給源』を奪わせてもらったんだ。今の君は、一般人とそう変わらない。」
相手の能力を奪う能力、だと。
能力を奪われた事によって、チミーの全身から力が抜けていく。
肩で息を切って崩れかけている状態のチミーに睨まれながら、酒城が口を開いた。
「安心しろ。俺は別に、君の能力を奪おうって気はない。ただ『器』としての資格があるかどうか、それを確かめたいだけだ。」
「『器』.....?何それ。」
酒城の放った意味深な言葉をチミーが聞き返す。
すると酒城は、1枚の紙をチミーの目の前に落とした。
「そこに来い。無事に来れたなら、全て話そう。....仲間は連れてきたほうがいいぞ。」
それだけ伝えると、酒城は踵を返し、どこかへ消え去った。
姿を消したと同時に、周囲の空間が音を取り戻し、動きが現れる。
膝を着いているチミーを発見した星羽が、慌てて駆け寄った。
「チミーちゃん!?大丈夫...?今日ちょっと、変だよ。」
「うん...まぁ、大丈夫大丈夫。」
チミーの言葉になおも心配の目を向ける星羽。
ゆっくりと立ち上がり、チミーはふらふらと歩き始めた。
星羽は心配しながらも途中でチミーと分かれ、それぞれの帰路につく。
チミーは帰り道を自転車で漕ぎながら、深いため息を吐いた。
能力が使えない事が、こんなにも不便だとは。
「桜と決着が着いたと思えば柳渡が現れて『宝珠争奪戦』、それが終われば今度は能力が奪われた、なんて.....ほんと、次から次へと災難が起きるわね。」
苛立ちと疲れが混じった大きなため息を、もう一度吐いた。
次の日、警察署内。
『チーム』の部屋にて、チミーと結とが相談をしていた。
内容はもちろん、先日の事。
チミーは自身の能力を酒城に奪われた、その経緯を結に説明する。
「なるほどね .....同級生に『相手の能力を奪う』なんて能力者がいて、チミーちゃんが狙われたと.....。」
「ごめん、お待たせ」
静かに扉が開き、数冊のファイルを抱えた下風が入ってきた。
ファイルを勢いよく机に落とすと、チミーの方を向いて困った顔を浮かべる。
「能力者にとって超能力は生まれ持った『才能』。それが増えたり減ったりすればどうなるかって事例は見つからなかったよ.....。警察に『能力を打ち消す』能力者ってのはいるけど、それも一時的に無効化させるだけで、『能力そのものを奪う』って事例は初めてだね。」
つまり超能力の専門家である下風にとっても、酒城の能力は未知数であるという事だ。
チミーは口を引いて唸るが、どちらにしろ能力は返してもらわねばならない。
酒城はメモに記された場所へ来いと言っていた。
分からなくても、彼の指定した場所へ行く事を決意する。
「私達も付いていくよ。」
「私も、行く。」
結の言葉に被せる形で、もう1人の声が入った。
振り返ると、声の主である桜がチミーのすぐ後ろに立っていた。
「私はチミーちゃんに助けてもらったから。今度は私が、チミーちゃんを助けるよ。」
そう言った桜の眼差しは、真剣そのものだった。




