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ムカついたら、ぶっ飛ばすだけだ

「恐らくその人は、『熱』を発生させる何かしらの能力を持っている....くらいしか。」

「『熱』そのものではなく、発生させる要因が含まれているなら可能性に含まれるってことか?いくら何でも、情報が少なすぎるな。」

「だよねー.....。」


南に言われて改めて考えると、あまりにも情報が少ない。

数年前の出来事とはいえ、もう少し何か思い出せないものか.....


「染口さんはその人をなぜ探しているんだ?」


その言葉を聞いたチミーの表情が、途端に曇った。

ゴーグルを着けていて目線が伺えないにも関わらず、はっきりと分かるほど。


「...ある出来事があってね。その真相を、知りたくて。」

「そうか。」


呟くようなチミーの返答に暗いものを感じた南は、あまり深く詮索しない方が良いと判断し、そこで聞くのをやめた。


「とにかく、情報を集めないとな。君の知り合いに、『その人』を知ってる可能性がある人は?」

「一応関係してる人は2、3人いるんだけど。みんな、知らなかったみたい。」

「困ったな.....。」


なかなか解決の糸口が見つからず、頭を押さえて唸る南。

しかし、解決のキッカケは、すぐに現れる事になる。


「.....ん?」


チミーが何かに気付いたように、顔を上げた。


永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』によって感じ取った、音エネルギーに異変を感じたのだ。

チミーの様子を見た南に、嫌な予感が走る。


次の瞬間。


「わああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


廊下の奥から、大勢の生徒達が悲鳴を上げて押しかけてきていた。

何かから逃げるような必死なその表情を見て、チミーと南は思わず身構える。


「な、なにごとだ.....?」


生徒達が逃げていく中、南はその流れに逆らう形で廊下を進んだ。


「危ない!」


突然チミーが南の腕を掴み、後ろへ引き寄せる。

凄まじい力で引っ張られ、大きく後方へ傾いた南の目の前に、「何か」が突き刺さった。


平たい円盤のような形をした、銀色の物体。

その周囲には無数の刃が付いており、まともに刺さっていれば軽いケガでは済まなかっただろう。


「伏せて!」


再びチミーが叫ぶ。

南が咄嗟に頭を伏せると、すぐ上を先ほどと同じ円盤が通り過ぎた。

「それ」は2人の頭上を通り過ぎた後、2人を認識しているように引き返してくる。


「何なのよ、一体.....!」


チミーは襲い来る「それ」に腕を伸ばし、『永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』を発動。

運動エネルギーを操作し、停止を試みる。

しかし、「それ」は止まらなかった。


「なっ....!?」


あらゆるものに備わっているエネルギーという概念。

それを操る『永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』を持ってしても、円盤を操れなかったのだ。

横に転がって回避し、過ぎていく円盤の進行方向を睨む。


「アレを『見てから』避けたのか。流石だな、染口チミー。」


円盤が戻っていった先に、人影が在った。


銀色に光る仮面を装着しており、機械で合成されたような声。

黒いシルクハットを深く被り、スーツで包まれたその体はわずかに宙に浮いている。

その周囲を先ほどの円盤が計6つ、本体を守るように絶えず回転していた。


「私の事を知ってるみたいだけど......何者?」


その『仮面の者』はチミーの名を口にしていた。

永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』を使っても操れない事も含め、只者では無いことは明らかだろう。


『仮面の者』は何かを考えるように俯いた後、仮面越しにチミーを睨み付けた。それは仮面越しでも十分伝わるほどに、憎悪のような黒いものが滲み出ていた。


「あえて名前は名乗らない。.....だが。」


仮面の者はチミーの問いには答えない代わりに、その正体についての大きなヒントを彼女に与えた。


「『6年前』の事。忘れたとは言わないだろう?」


『6年前』の事。

その言葉を聴いたチミーの表情は、疑問から畏怖へと変わっていた。

無意識に足を一歩後ろへ下げ、拳を握る力が強くなる。


「アンタ、まさか.....。」

「そう、そのまさかだ。殺しに来たぞ。」


そう告げた後、仮面の者は周囲を回っていた円盤を一斉にチミーの方へ飛ばした。

チミーは自身のエネルギーを操る事でスピードを上昇させ、6つの円盤を的確に回避していく。


「流石に速いか。だが.....。」


仮面の者はチミーへの視線を外し、腕を伸ばした。


伸ばした腕の先にいた南が宙に浮く。まるで見えない手によって首を掴まれ、身体を持ち上げられてるかのように。


「なっ...」


チミーが南に気を取られたほんの一瞬の隙を狙い、回避した円盤のうちの1枚がチミーの首を狙う。


「っ...!?」


チミーは直前で円盤の存在に気付き、上半身を傾けて回避。

しかし仮面の者はその行動を先読みし、既にもう一枚の円盤を飛ばしていた。


チミーは自身の運動エネルギーを操作し、滑るように横方向へ移動して回避。

さらに放たれた三枚目の円盤を、エネルギーを集めて作成した盾によりガードした。


だが咄嗟の行動が続いたため、チミーは無意識のうちに身体のバランスを崩していた。

追撃をかけるように四枚目の円盤が激突してきた衝撃で、背後に位置していた窓に背中が衝突。


硝子ガラスが砕け、チミーは窓から落下してしまった。


先ほどまでいた場所は校舎の3階。

常人なら重傷を負うような高さだが、チミーにそんな心配は無用だ。

エネルギーを操り、空中で身体の向きと落下速度を調整。

地面にふわりと着地し、チミーは上を見上げる。


窓からこちらを見下ろし、刃付きの円盤を構える仮面の者。

しかしその体が、大きく揺れた。


「なっ.....!?」


仮面の者の背中に向かって、南がタックルを仕掛けたのだ。

南の巨体から放たれたタックルは、窓から身を乗り出していた仮面の者のバランスを崩すには十分な威力。

南と仮面の者は諸共に、校舎の3階から落下した。


「ちょっ.....!?」


突然上から降ってきた2人を見て焦るチミー。

永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』を発動し、落ちてきた南の体をふわりと地面に降ろす。


「勢い余って落ちてしまった。助かったよ。」

「アンタ.....結構脳筋な所あるのね。」

「君が言うことか?.....とにかく。」


南とチミーは短く言葉を交した後、拳を構えて並んだ。

視線の先は、宙に浮かんで落下を回避した仮面の者。


「学校の平和を脅かすこの不届き者を、裁かねばな。」


握った南の拳から、噴き出すように炎が出現した。










「やけに人が見たらねぇ......てかいなくないか?」


こっそり授業をサボって屋上にいた二坂は、自動販売機でジュースを買うため階下へと降りてきたのだが、そこで異変に気が付いた。


どの教室を覗いても、人がいない。

時間的に授業中のはずだし、でなくとも校舎に一人も生徒がいない、なんて事はありえないだろう。


「!」


1つ下の2階から、爆発したような破砕音が鳴る。

音の鳴った方向を追うように、階段を降りていく。


2階に降りた途端、重い音と共に何かが二坂の前を超高速で横切った。

それは向かい側の壁に激突し、周囲では埃が吹き荒れている。


「二坂....?何でこんな所に...!」


二坂の前を横切った物の正体は、この学校の教師だった。

名前は覚えていないが、よく見る顔なので知っている。

教師は何故かボロボロになっている身体を持ち上げながら、二坂の登場に驚愕の顔を浮かべていた。


「ここは危ない、早く外へ....!」

「なんだァ...?また新しいのが現れたじゃねぇか。」


避難を促す教師の言葉をかき消すように、野太い声が近付いてくる。


振り向いた先には、まるで巨大なダルマのように筋肉で全身を覆っている大男が、二坂の前に立っていた。


「俺は上へ行きてぇんだ。そこのヒョロいやつみたいに痛い目を見たくなきゃ、そこをどきな。」


大男は二坂を睨み、そう警告する。

二坂には全く関係の無い相手だし、二坂は別に学校を守ろうなんて考えも持ち合わせていない。

この大男に道を譲る事は簡単な上に、デメリットも無いだろう。


が、しかし。





「どくわけねぇだろ。」


二坂はポケットに手を突っ込んだまま大男を睨み返し、キッパリとそう断った。

二坂が直前まで道を譲りそうな雰囲気を出していた事もあって、大男は少し面食らったような表情をしている。


「俺はここの生徒だが、別に学校への思い入れは無い。お前が何をどうしようが、俺の知ったこっちゃない。だがな.....。」


二坂は獲物を見つけたと言わんばかりの不敵な笑みを浮かべ、大男に言い放った。



「テメーのその偉そうな態度が、ちとムカついたんでな。ボコボコにしてやるぜ。」


恐ろしいほどにケンカっ早い性格の二坂には、正当な理由なんて必要ない。

ムカついたら、ぶっ飛ばすだけだ。

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