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アンタは黙って、私に賭ければいい

平手打ち(ビンタ)を受けて倒れた景野の胸ぐらを掴み、腕を引いてその顔を目の前まで引き寄せる。


「アンタの目的がそれだってんなら......」


チミーは大きく息を吸った後、景野の目を真っ直ぐに見て言い放った。


「私が!それを叶えてやる!!アンタの妹を、救ってやるわよ!!!」


チミーの言葉を聞き、景野は呆然とした表情を見せる。

妹を.....彩花を救ってやる、だと?

軽々と口にしたようにも聞こえたが、その目は迷いがなく、真っ直ぐだった。


何よりチミーはそんな出任せを平気で言うような人間ではない事を、景野は分かっている。

だが『宝珠争奪戦』は命をかけた、強大な力を巡る戦争。


「.....ホントに、助けられんのかよ?」


景野はチミーを、信じ切れない。

しかし、そんな疑いの目をかけられても、チミーの目は揺るがなかった。


「できるわよ。アンタは黙って、私に賭ければいい。」

「もし、助けられなかったらどうする?」

「しつこいわね.....その時は!」


疑り深い景野にため息を吐きつつ、チミーは答える。


「アンタの妹に、毎日山ほどのお菓子を届けてあげるわ。」


景野はチミーの返答を聞いて表情が止まった後、その顔が僅かに緩んだ。


「.....ふっ。」


あまりにも真剣な顔で、そんな返答が出るなんてな。

景野が脱力したのを確認し、チミーが手を離す。


「.....だったら、勝ちを譲ってやるとするか。」

「ほんと!?」


顔を上げた景野が、『棄権(リタイア)』を宣言した。

突然の同意に驚いているチミーへ、景野は指を向ける。


「ただし!約束は守ってもらうぜ。毎日、彩花に目一杯のお菓子を届けろ。」

「バーカ、『救う』って言ったでしょ?その約束は、その後の話。」


景野の言葉にチミーが呆れたような、しかしどこか嬉しそうな顔をして返事を返す。

チミーから視線を外した景野は、虚空に向かって声を上げた。


「.....出てこい!」


『彼』を呼んだ。

すると音も気配もなく、『彼』が二人の間に現れる。

相変わらず顔は霧がかかったようにぼんやりとしていて、判別ができない。


「おや、決着はついたので?」

「何とぼけてんだ。どうせ全部見てたんだろ?」

「はっはっは。」


景野の睨みに『彼』が軽い笑い声を上げた後、そのぼんやりとした顔を景野に向けて最後の答えを問う。


「.....本当に、よろしいのですか?」


その問いを聞いた景野は一瞬チミーを見た後、再び向き直って『最後の質問』を答えた。


「あぁ。俺は『染口チミー』に賭ける事にするぜ。.....元々、勝てるかどうかも怪しかったしな。」

「クックック....それは結構。」


景野の答えに対し、満足したように笑った『彼』は、礼をしていた姿勢を元に戻して2人を見る。


「それでは、『宝珠争奪戦の案内人』として改めて宣言させて頂きます。」


そう言った後、『彼』は手を高く掲げ、高らかな声で宣言した。


「『宝珠争奪戦』を勝ち抜き、『創造』の力を手にする権利を得た優勝者は....染口チミー様、でございます!!!」


何も無い荒野に、『彼』の声が響く。

それを聞き終わった景野は、安心したように息を吐き、チミーの方向へ歩みを寄せる。


「.....約束は、したからな。戻ったら、ここに来い。」


そう言って景野が手渡したのは、住所が書かれたメモの切れ端。

景野の妹が入院しているという病院だろうと理解したチミーは頷き、改めて礼を述べた。


「うん、分かってる。.....ホント、ありがとう。私を信じてくれて。」

「俺がアンタを信じるのは、『結果』を出してからだ。.....じゃ、一足先に戻ってるぜ。」


そう言うと、景野は光の粒子と化して消滅。

直前まで景野が存在していた空間を見送っているチミーに、背後から『彼』が声を掛ける。


「.....お疲れ様でした。それでは『創造の宝珠』の譲渡と、元の世界への帰還を行いましょう。」


『彼』がそう口にした途端。

チミーの周囲の空間が歪み、足元の感覚が無くなった。

立っているのかどうかすら分からず、歪んだ景色が気持ち悪いので目を瞑る。





「...........!?」



足元の浮遊感が元に戻り、チミーが目を開く。

そこは廃校舎の中。

チミーが『宝珠争奪戦』に参加する直前、桜と戦っていた場所だった。


呆然と立っていたチミーに、背後から声を掛けたものが一人。


「チミーちゃん...!!その手に持ってるのって......!?」


桜を抱えた状態の結が、チミーの帰還に気付いたのだ。

『宝珠争奪戦』内では何日も時間が経過していたのに、その直前であるこの世界は1秒も変わっていない。

体の傷も元に戻り、壊れたはずのゴーグルも装着されている。


「え?」


結の視線はチミーの手元に向いていた。

チミーが結の視線を辿るように頭を動かすと、その右手に光るものが。

ソフトボールより少し大きい程度の大きさをしたそれは─────────


「『宝珠』.....!!手に入れられたんだね......!!!」


結は目を見開き、感極まった声でそれの名を呟いた。

これが、『創造の宝珠』。

これが、桜を助けられる手段!


気が付けばチミーは膝を折り、手に持っていた『創造の宝珠』を横たわる桜へと向けていた。

使い方は、何故だか知っている。


「『創造の宝珠』.....起動!!!」


チミーがそう唱えると、持っていた『創造の宝珠』が高速で回転を始める。

徐々に光は強さを増し、辺りを包み込んだ。










しばらくすると、光が元に戻る。




「う.....あれ......?」





桜が、口を開いた。

ゆっくりと目を見開き始めた桜が最初に見たものは、自身に抱きつくチミーの姿。


「桜.....!!」

「あれ...チミーちゃん.....?」

「良かったぁ.....!!!」


桜が息を取り戻した事に、チミーの目からは涙が溢れそうだった。

桜は状況が飲み込めず少し困惑するも、ゆっくりと優しい笑みを浮かべてチミーによりかかる。


「チミーちゃんが...助けてくれたんだね」

「ううん...ちょっと違う。」


チミーは桜の言葉に、首を横へ振った。

チミーの頭には『宝珠争奪戦』で起こった出来事や出会った人々、そして『参加者』達の姿が浮かぶ。


「桜を助けられたのは...色んな人がいたから。私だけじゃ、桜を助けられなかったんだよ....」

「けど、チミーちゃんがいなかったら私は助からなかったでしょ?本当に、ありがとう。」


『宝珠争奪戦』にチミーが飛び込んでいなければ、『創造の宝珠』は別の誰かの手に渡っていただろう。

そうすると、桜は助かっていなかった。


他の『参加者』があってこそ桜の命があるのも、チミーが参加しなかったら桜の命は無かったのも事実。


そんな二人の姿を見た結が、安心したようにため息を吐く。


「これで一件落着、だね。」

「いや....まだです。」


結の言葉に、チミーは顔を上げてそう返した。

思い出したように突然立ち上がり、桜を見る。


「いきなりで悪いんだけど、今うちの奴と戦ってる桜の仲間。アイツを説得して戦いを止めさせてくれない?.....後は、任せた!」


桜へ短くそう頼んだチミーは唐突に、勢いよく走り出した。

突然の行動に、結は思わず疑問の言葉を投げかける。


「チミーちゃん、どこに行くの!?」

「やらなきゃいけない事があるんです!桜を助けるために協力してくれた人から....頼まれていた事が!」


桜を助けるために参加した『宝珠争奪戦』。

その最後の最後でチミーに願いを『賭け』、『棄権(リタイア)』を選択した人。


その人と交わした約束を。

チミーは果たさなければならない。




「景野......!!」

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