随分と、弁えてるようね
チミーは既にフォルゴとの戦闘でかなり消耗していた。
そして景野も、それは同じ。
「だいぶ疲れてるみたいだけど.....本当に、今やるの?」
「さっきの戦闘でアンタが消耗している今しか、勝てる気がしないからな。ここで決着を付けさせてもらう。」
「....随分と、弁えてるようね。」
景野の台詞に、チミーが口の端を持ち上げる。
とはいえ、フォルゴとの戦闘で最も体力を消耗したのがチミーなのは事実。
景野はこれを、狙っていたのだろうか。
「戦いは既に、始まってるぜ?」
その言葉と共に、チミーの足元に違和感が発生。
気付けば足首を、チミーの影を介した無数の影の手が掴んでいた。
「っ.....!」
引き抜こうと脚に力を入れるが、抜けない。
上に飛ぼうと能力を発動するも、凄まじい力で引き戻される。
そうこうしているうちに、景野の接近を許してしまった。
放たれる無数の影の手による連撃。
光速のスピードを持つチミーであれば回避できるものだが、今は脚の動きを封じられている。
その可動域には、限界があった。
「ぐっ!!」
顔面に放たれる拳を腕で受け流したその時。
その拳をカモフラージュとして、真後ろから続いた2つ目の拳がチミーの顔面にクリーンヒット。
上半身が仰け反った状態となり、そこをさらなる影の手が襲う。
『影の手』の弱点は光。
チミーは光エネルギーを集め、全身から放出する事で襲い来る影の手を掻き消した。
だがどれだけ光が強かろうと、自身の影を消す事だけはできない。
自身の影から現れる手によって、動きは封じられたままだ。
「だったら.....」
腕を担ぐように後ろへ引き、上半身を軽く捻る。
拳を握った後、前方の景野に狙いを付けた。
「だっ!!」
上半身を元に戻す勢いを利用して、拳を前方に突き出す。
運動エネルギーを増幅させた、あまりにも早い拳の突きによって、殴られた虚空は衝撃波となった。
拳大の衝撃波は一直線に飛び、景野の額を叩く。
音速で飛ぶ衝撃波に光エネルギーを纏わせた、不可視にして必中の空気弾だ。
「いっ.....!?」
見えない空気弾の攻撃により、景野は鋭い痛みと共に上半身を仰け反らせてしまう。
意識が緩み、チミーの足を掴む影の手が一瞬消えた時を狙い、膝を曲げて跳躍。
空中に飛び出し、影の手から逃れる事に成功した。
「ちぃっ!!」
チミーを逃してしまった事に舌打ちを立てた景野が影の手を放つ。
運動エネルギーを操ってチミーは飛行を開始し、空を華麗に舞いながら影の手を避け始めた。
「ふん。そんな事したって.......あれ?」
得意げな顔で地上を見下ろしたチミーが、ある事に気が付く。
地上に、景野の姿が見当たらないのだ。
しかし、影の手は際限無くチミーをつけ狙う。
チミーは顎に手を当てて、目を少し細くしてから呟いた。
「どっかの影に溶け込んだワケね.....。」
厄介だ。
影に溶け込んだ景野のエネルギーは検知できないし、フォルゴのように影に手を突っ込む事もできない。
影に干渉できないチミーは、影の中に入った景野から一方的に攻撃されるだけである。
生憎と、フォルゴのせいで瓦礫まみれの荒野と化したこの戦場。
潜む影は、無限に存在する。
「....だったら!」
チミーは影の手を回避した後、脚を大きく広げて右腕を掲げた。
その手は人差し指を立て、中指と親指をくっつけた形を作っている。
「『大閃光』!!!!」
そう叫び、指を弾いた。
次の瞬間。
───────────ッッッ!!!!!
周囲が真っ白に変わる。
空気が持つエネルギーのほとんどを光エネルギーに変換し、影すら現れぬ程の光で周囲を包み込んだのだ。
数秒後、景色が元に戻る。
地上には、景野が現れていた。
目元を押さえ、瞑った目が開けられないでいる。
空気を光に変換するという荒業によって影を失った景野は地上に締め出され、そこで凄まじい光を目の当たりにした。
暗い影の中から明るすぎる地上に締め出された彼の目がやられるのは、当然に等しい。
「くそっ....何なんだ一体......。」
ようやく薄目を開けることができた景野のぼんやりとした視界には、チミーの姿が映っていた。
危険を察知し影へ潜り込もうとするが、その胸ぐらを掴まれて阻止されてしまう。
「はぁ。やっと捕まえた。」
疲れと安堵の混じった息を吐く。
景野は動かない。
「...少し、話がしたいんだけど。」
誰もいない荒野に、チミーの落ち着いた声が響いた。
その言葉を聞いた景野は気だるげなため息を吐き、顔を上げる。
「.....はぁ。何だ?」
チミーは一瞬だけ視線を外した後、景野を掴む手を離す。
一歩下がった景野の目を真っ直ぐに見て、問いかけた。
「アンタは...『創造の宝珠』を得て、何がしたいの?」
チミーの問いに、景野はしばらく沈黙。
少し息を吸った後、景野がゆっくりと語り始めた。
「...俺には、妹がいるんだよ。」
病気で、ずっと入院している妹が。
体が弱い事が原因で治療が難しく、地道な治療を続けるにも長い年月と莫大な金がかかる。
その金を得るために、景野は手段を選ばなかった。
俺の能力『影の手』には価値がある。
それを理解していた景野はアンダーグラウンドの世界へ飛び込み、高値で様々な依頼をこなす何でも屋と化したのだ。
そんな生活をしているうちに、景野はある老人と出会う。
その老人は景野の実力を高く評価し、よく依頼を持ちかけてきた。
ある日、彼が『博物館にあるお宝の奪取』を景野に依頼する。
そう、チミーが初めて景野と出会った時の事件だ。
そこで博物館に展示されていたお宝.....『宝珠』という存在を知った景野。
老人は『宝珠』についてよく知っているらしく、結と同じく『宝珠争奪戦』に導いた『彼』を呼び出す事ができるほどの人物だった。
『彼』から次なる『宝珠』は『創造の力』である事を聞いた景野は、『宝珠争奪戦』への参加を決意する。
「俺だってこんな生活してて、いつか倒れるかもしれない。だから今ここで、彩花......妹の生活を保障するための『大金』を『創造』する。」
景野は『創造の宝珠』を手に入れたい理由を言い終えた後、チミーを嘲笑うような笑みを浮かべた。
「どうだ、戦うしか道はないだろ?」
「.....。」
チミーは俯き、黙っていた。
そんな彼女に対し、景野は能力を展開。
影の手を生成して再び戦う意思を見せた景野だったが、その動きが止まる。
「.....?」
チミーがゆっくりと、片手を景野に向けたのだ。
その動きに妙なものを感じた景野は、距離を取るべく体重を後ろにかける。
しかし、体は動かなかった。
「────ッ!?」
むしろ、体は前に出ていく。
まるでチミーの伸ばした手に、引き寄せられるように。
「.....本当にバカね。」
チミーが小さく呟いた。
『永遠なる供給源』を使って景野をすぐ目の前まで引き寄せた彼女は、もう片方の手を持ち上げる。
ゆっくりと振りかぶられるチミーの手。
景野は体内エネルギーを掴まれ、動けない。
次の瞬間。
巨大な風船が割れたかのような、強烈な破裂音。
チミーの全力を使った平手打ちが、景野の頬を直撃したのだ。
チミーは顔を上げて、怒りの言葉を放つ。
「だったら....『妹の病気を治す』くらい、言ってみなさいよ!!!!」
その平手打ちは、フォルゴを倒した拳よりも......力がこもっていた。




