そこだけは、『運命』に任せた方が面白いだろ?
これまでとは明らかに違うチミーの様子に、フォルゴは唾を飲み込んだ。
チミーの体から放たれる覇気だけで分かる、その強さが。
「.....面白い!」
フォルゴが仕掛けた。
正面から突進し、側頭部を狙ってハイキックを放つ。
チミーはそれを腕でガードした後、フォルゴの膝を狙って2度の蹴り。
片足で体を支えていたフォルゴは蹴りによってバランスを崩すが、足を地面から離して宙に浮かぶ。
チミーの背後に回ったフォルゴはその背中に尻尾の一撃を放った。
「フン!」
再び着地し、拳の連撃が始まる。
常人であれば一瞬でミンチと化してしまうような、音を置き去りにした連打。
腕を構えてそれを受け続けていたチミーは、全身から衝撃波を放つ事で距離を離す。
腕を構え、4発のエネルギー弾を撃った。
全ての弾を華麗に回避したフォルゴが拳を突き出すと、それを腕で流したチミーはフォルゴの顔面に頭突きを放ち、一瞬怯んだ所で顎に拳を叩き込む。
「ぐうっ!」
「おらァ!!」
吹き飛んで距離が離れたフォルゴのエネルギーを掴み、引き寄せる。
その顔面に掌底を放つべく腕を引くが、空中で一回転したフォルゴが叩き付けるような踵落としを放ち、チミーはそれを回避。
フォルゴが指を鳴らすと、回避したチミーの着地点が爆発した。
「なっ....!?」
フォルゴに集中していたせいで、気付かなかった。
爆発をまともに食らってしまったチミーは宙に投げ飛ばされ、落下。
顔を上げた時にはフォルゴが目の前まで迫っていた。
蹴り上げを横にずれて回避し、顔面に放たれた裏拳を受け止める。
もう片方の腕でフォルゴの腕を叩き落とし、回し蹴りを食らわせた。
フォルゴは回し蹴りによってよろめいたものの、足を踏み込んできたチミーの拳を回避。
胸ぐらを掴み、地面に叩き付けた。
叩き付けられた衝撃を利用してすぐさま起き上がり、放たれた黒色のエネルギー弾を回避。
しかし、避けた先に回り込んでいたフォルゴのハイキックをまともに食らってしまった。
間髪入れずにもう片方の脚を繰り出し、続けてハイキックを放つ。
2度目の蹴りを受けたチミーはその威力に耐え切れず、後方へ転がってしまった。
口から垂れた血を拭い、フォルゴを睨む。
対するフォルゴも余裕の顔は消えかかっており、肩で息を切っていた。
「なかなか、手こずらせてくれる.....。以前のは、本気では無かったという事か。」
「はぁ、はぁ.....まぁね。けど、今は全力を出せる。」
常人を超えた独自のトレーニングを毎日欠かさず行っていた。
今のチミーは、全力を出しても数時間は戦える。
唾を飲み込み、チミーは大きく息を吸う。
腕を構え、上半身を捻った。
「だっ!!」
上半身を戻すと共に、拳を前に突き出す。
拳に突かれた虚空は衝撃波を生み、真っ直ぐにフォルゴへ飛んだ。
腕をクロスさせて防いだフォルゴにチミーが接近。
足を踏み込んで放たれた拳を避けるが、その側頭部に回し蹴りが直撃。
そのまま脚を背中に振り下ろして叩き付け、腕を構えてエネルギー弾を発射した。
地面を転がる事でエネルギー弾を回避したフォルゴが、脚を回転させつつ起き上がる。
チミーの拳を受け流し、横蹴りによって突き飛ばした。
距離を離されたチミーは、腕を構えて破壊光線を放つ。
一直線に伸びた破壊光線をフォルゴは横に飛んで回避し、それを追う形でチミーは破壊光線を横一閃に薙ぎ払う。
「ッ!!」
翼を広げて上空に飛翔する事で回避したフォルゴが見たのは、破壊光線が空気を焼いて虚空が爆発する光景。
空中に逃れたフォルゴを追うためチミーは脚を曲げ、跳んだ。
迎撃するために放たれたフォルゴの蹴りを横にずれて回避し、その顔面に拳を放つ。
拳を腕で受け止めたフォルゴがボディブローを返すも、既にチミーの姿は無かった。
「おぉ、らァ!!」
チミーの声と共に、フォルゴの背中に蹴りがめり込む。
吹き飛んだフォルゴのエネルギーを掴み、空中から地面へと叩き付けた。
「お...の、れ.....。」
ふらふらと立ち上がるフォルゴの前に降り立つチミー。
放たれた拳を掴み、『永遠なる供給源』で増幅した握力によって拳を握り潰す。
フォルゴは怯まず、もう片方の腕を振るった。
だがチミーは脚でそれを弾いた後、肩幅に脚を開いて腕を構える。
もう片方の手でフォルゴの胸の皮を掴み、構えた拳を強く握った。
「はぁッ!!!!」
運動エネルギー、最大。
光の速さで加速する拳が、フォルゴの顔面に叩き付けられる。
ねじ込まれた拳が生み出す衝撃波はフォルゴの脳をかき混ぜ、頭蓋に無数のヒビを生み出した。
耐え切れるはずもなく、フォルゴは後方へ吹き飛ぶ。
「.....ふぅ。」
手を叩くように払いつつ、一息つくチミー。
彼女の目に映るフォルゴは急激にエネルギー量を減少させている。
出血多量により、戦闘不能に陥るだろう。
「くっくっく.....我輩は死なんよ。」
「しぶといわね。遺言があるなら早くしてくれない?」
顔面から血を滝のように吐き出しながら、フォルゴが顔を上げた。
「我輩の性質の一つ『転生』。今ここで死んだとて、数日後には再び蘇る!!貴様の実力は認める.....だが、我輩は何度でも蘇るのだよ!!!」
そう言って高笑いしたフォルゴに対し、チミーは至って冷静な様子だった。
地面に座っているフォルゴに歩み寄り、その頭を掴む。
「よかった。なら、『消して』も良心が痛まないわね。」
次の瞬間、チミーは『永遠なる供給源』を発動。
するとフォルゴの身体が、チミーの触れた手を中心にぼろぼろと崩れていく。
『永遠なる供給源』のエネルギーを操る能力を使い、フォルゴからあらゆるエネルギーを『抜き取っている』のだ。
全てのエネルギーを失った生物に待つのは、『消滅』。
「『転生』できるんでしょ?好きにしなさい。ただ、その頃には『宝珠争奪戦』は終わってると思うけどね。」
「な.....んだ....と。」
「じゃあね、バイバイ!」
チミーが笑顔を作ると、フォルゴは跡形もなく消滅した。
周囲が荒野と化したその場で、しばらくの静寂。
チミーは振り返り、感心したように笑みを浮かべていたムーへ口を開いた。
「さて、これで残り3人。アンタのシナリオとやらは、次に何を見せるのかしら?」
「いいや。残り『2人』だ。」
チミーの言葉に対し、ムーは告げる。
「ついさっき、俺は『宝珠争奪戦』を棄権した。残るは君達、2人だけ。」
「は.....はぁっ!?」
先ほどムーがチミーからの共闘の頼みを断ったのは、敵だからでも陰謀があるわけでも無い。
ただ、『宝珠』を巡る争いから外れたためだった。
ムーは初めから、チミーと景野が残る『シナリオ』を描いていたのだ。
「俺は『宝珠争奪戦』が始まってからずっと、誰が相応しいかを見極めていた。『創造』の力を手にするに値する人物を。」
「初めから、お前には『創造』の力を得る気が無かったってことか.....?」
「それに沿って言うなら、俺が欲していたのは『創造の宝珠にふさわしい人物』だったって感じだな。」
フッと軽く笑った後、ムーは眼鏡を持ち上げて2人を見る。
「そして、君たち2人に絞られたってワケだ。」
見ると、ムーの足元が少し消えかかっているのに気が付いた。
ムーは棄権によって『元の世界への帰還』を選択したため、この世界にいる肉体は消滅する。
身体が少しずつ消えていく中、ムーは2人に告げた。
「最後の一人だけはあえて決めなかった。そこだけは、『運命』に任せた方が面白いだろ?」
2人に背を向け、片手を上げたムーはそのまま消えてしまった。
再び静寂が訪れるが、先に動いたのは景野。
気付いたチミーが振り返ると、景野の目は鋭く真っ直ぐチミーを狙い、そして『影の手』を発動し、影の手を展開している姿があった。
残り、1名。
『宝珠争奪戦』。
最後の、戦いだ。




