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少し、昔話をしてもいいか

何故ここが分かった...?

森の奥深くで、人払いの結界まで張ってある。

『ここにいる』と分かっていなければ、探す事など不可能な筈だ。


突然の襲撃に湧き出るムーの疑問を読み取ったかのように、カイルはここに来れた理由を淡々と答える。


「あの羅業需(ラゴジュ)に聞いた。ずっと俺達を監視してる、趣味の悪い輩がいるってな。」


ムーの知らない間に、カイルはフォルゴと接敵していたという。

ムーの『覗き見』を察知していたフォルゴが、それを欺くのは容易い。


「ちいっ!!」


大槍を引きずりながら窮屈そうに小屋へ侵入するカイル。

ムーは机に広げていた本とは別の本を懐から取り出し、その一頁へペンで何かを書き込んだ。

書き終わったページを破り、カイルに向けて投げる。


すると投げられたページから紅い鎖が出現し、カイルの全身を拘束。

続けてムーは、投げたページから数十本の杭を出現させてカイルの全身を壁に打ち付けた。


カイルの動きを封じるためのものだったが、相手は『不死身』。

カイルは杭が突き刺さった身を引きちぎり、鎖を砕いて強引に拘束から逃れた。


「なんてパワーだ!」


そこからの動きは早かった。

ムーは距離を取ろうと足を引くが、逃すまいと槍の切っ先が目の前に突き付けられてしまう。

表情のない頭蓋骨の顔に睨まれ、ムーは自らの死を覚悟する。

しかし、カイルの口からは意外な言葉が飛び出した。


「...貴様に頼みがある。」


そう言って槍を下ろすカイル。

不審そうな顔を向けてムーが続きを促すと、彼はムーを真っ直ぐ見て言った。


「俺を.....殺してほしい。」


今までカイル達『参加者』を監視し、フォルゴが現れるまで全く存在に気付かれていなかったムー。

そんな奴が、全員を倒す方法を考えていない筈がない。

カイルはそう踏んでいたそうだ。


ムーは問う。


「お前は自らこの戦いを諦める、ということか?」


彼の問いに、カイルは静かに首を振る。


「いいや、違う。」


と。

諦めるだけなら、この世界に留まることを選択すればいい。

わざわざ殺害を依頼する事には、理由があったのだ。


「...少し、昔話をしてもいいか。」


そう言ってカイルは、自身の過去を彼に打ち明けた。








生きる事は死ぬ事よりも苦痛だ、とよく言われるが、まさにその通りだろうな。


俺は小さな村に生まれ、育った。

山へ行っては狩りをし、山菜を採って暮らす平穏な日常だった。

決して裕福とは言えなかったが、妻を愛し、そして子供も授かり幸せな生活を送っていた。


しかし、そんな日々が一変した。


山奥に住み着いていた魔女と呼ばれる妖術使いが、村に疫病をばらまいたのだ。

村人は次々に倒れていき、その村人を介抱していた人も倒れていく始末。


だがそれでも村人達は助け合い、時には都市の医者を呼んで疫病と戦い、数ヶ月ののちに疫病の根絶が確認された。


しかし、疫病によって死んだ者の数は計り知れなかった。


俺は怒った。

どういう理由があってかは知らないが、疫病をばらまき、それでいて何も償う気のない魔女の事は許されない。

俺は支度をし、ある日村を出た。


それからは山を駆け巡り、魔女の住処すみかを探し求める日々が続いた。

何日も、何日も。

そうして痕跡を辿っていくうちに、ついに魔女の住処を見つけることができた。


肩から剣を抜きつつ扉に近づき、扉を蹴り開ける。

中にいた魔女達は俺の侵入に気付くと肩を跳ね上げて驚き、各々臨戦態勢を整えようとする。


しかし、住処に引き籠もって魔術の実験ばかりしている魔女達と、日常的に狩りを行っている俺とでは、戦闘技術の差が圧倒的だ。


低い姿勢でダッシュし、魔法を放とうと手をこちらに向けた魔女の腕を剣で跳ね飛ばす。

腹部に蹴りを入れて突き飛ばし、机にあった薬品をぶち撒けてやった。


「村に疫病をばらまいた事....後悔するんだな。」


魔女達は一斉に呪文を詠唱し、魔術を行使しようとする。

が、俺は一つ罠を仕掛けていた。


次の瞬間。

魔女達の背後に位置していた壁が爆発し、その火は大量の書類へ燃え移る。

一気に大火災へと広がった住処の中で、魔女達はパニックに陥った。


ここに入る直前、ありったけの爆薬を建物周辺に設置しておいたのだ。

相手がいくら大人数だろうと、爆弾で吹き飛ばせば一気に片付く。


「逃げんじゃねぇよ。」


近くを通り過ぎた魔女の肩を掴んでその背中に剣を突き刺し、引き抜く。

肉の焦げたような不愉快な臭いを漂わせながら、魔女はあっさりと倒れた。


俺は前へ進み、逃げようとする魔女を次々と殺していく。

しばらくすると魔女達の悲鳴はだんだんと収まってきた。


周囲に魔女の気配はもう無い。

恐らく、全滅だろう。

そう思い込んだ俺が、足を1歩引いて外へ出ようとした.......


その時だった。


物陰に隠れていた瀕死の魔女が突進し、俺に指先を突き立てて魔術を発動。

すかさず魔女を刺し殺したが、手遅れだった。

俺は意識を失い、爆発の炎に巻き込まれる事となる。


「...それが、俺が『死ねない呪い』を受けた経緯だ。」


黙って話を聞いているムーに感謝するように、カイルは途中から優しい口調で語り続けるようになった。


「せっかく疫病から逃れる事ができたというのに、妻はおろか娘さえも寿命によって俺より先に逝った。肉体のみが朽ち果てて骨になろうとも、死ぬ事はできない。ただ、周囲の人間や生物が死んでいくだけだ。」


そこから俺は各地を訪れ、次々に戦場を駆け巡った。

『死にたい』。

ただそれだけを原動力に。


何百もの戦場を渡り、何千何万もの兵を殺した。

だが、俺だけが死ぬ事はできなかった。

何十万もの兵の死体が転がる戦場で1人、俺は呟いたんだ。


「...誰か、俺を殺してくれないか。」


その一言を引き金に俺はこの世界に呼ばれ、『創造の宝珠』を得る殺し合いに参加させられたのだ。


「無感情な殺戮マシーンみたいなお前に、そんな過去があったなんてな。」


カイルが語り終えたのを確認し、ムーは嫌味っぽく感想を述べる。


「お前の事はよく分かった。.....いいだろう。」


しかしムーは数回頷いた後、再びカイルの目を真っ直ぐに見て、ニヤリと笑った。


「お前が死ねるように『書き換え』てやろう。」




ムーに促され、カイルは近くに置いてあった椅子に座る。

ムーは正面に位置する椅子へ座り、カイルに説明を始めた。


「俺の『事実を書き換える力』でお前の存在を『消滅』させる事ができる。ま、結構時間がかかるのと、あまり動かないでもらう事が必要なんだが。 」

「構わん。何百年も生きてきたんだ、ここで終われるなら、数分数時間の我慢はさして問題無い。」

「そうか。」


カイルの言葉を聞いたムーはフッと笑い、『書き換え』を開始した。

足下に黄金色の魔法陣が浮かび上がる。

呪いを受けた際に身体へ広がった魔法陣とは正反対で、温かみのある色の魔法陣だった。


ムーは机の上に置いてあった本を手に取り、何やら書き込みを始める。


「それは...何をしているのだ?」

「これは『真実の書』って言ってな。ここに書き込んだ事が現実に起こったり、性質を書き換えたりする事ができるんだ。ま、色々と条件は必要なんだがな。」

「それを使って俺の『死なない』体を『死ねる』ように『書き換える』という事か。」

「その通り。」


ムーは次々と『真実の書』に文字を書き入れていく。

カイルにかけられた呪いは、思っていたよりも複雑な術式だ.....しかし、ムーに書き換えられない事実は無い。

魔法式を一つ一つ 、着実に解いていく。



カイルの『呪い』が解除されるまで、約一時間ほどの時間を要した。

カイルの肉体は既に朽ち果てている存在のため、残るは死が始まるのみ。


カイルの身体は少しずつ崩れ、黄金の粒子と化して宙へ舞っていく。

そんな中、ムーはカイルへ聞きたかった質問を尋ねた。


「なぁ、もし俺でもお前を殺すことができずに、お前だけが生き残って『創造の宝珠』を手に入れていたら。お前は『創造の宝珠』に何を願うつもりだったんだ?」


既にカイルは、足下から膝辺りまで光の粒子となって消え去っていた。

カイルはしばらく俯いて沈黙した後、呟くように答える。


「...願望は変わらない。『俺を殺す事ができる者』を創造していただろうな。.......いや、」


カイルは1度そう答えた後、訂正するように再び口を開いた。


「もしかすると....『共に永遠の時を歩んでくれる者』を、創造していたかもしれないな.......。」


そう言ったカイルの無表情な頭蓋骨は、どこか微笑んだような気がした。


そうして、カイルは光の粒子となって消えた。





カイルが消え、再び静粛が訪れた小屋の中でムーは天井に向かって呟いた。

消えたカイルへ、言葉を送るように。


「『創造の宝珠』を得る事は無かった。だが、お前は願いを叶える事ができ、何百年もの孤独から解放された。そういう意味ではお前は......この戦争の優勝者、なんだろうな。」


『宝珠争奪戦』は願いを叶えるための戦争。

その願いを叶えることができたカイルは、『宝珠争奪戦』に『勝った』と言ってもいいのだろう。

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