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イエローカードを出されているんだ

次の日の朝。

染口チミーは教室の机に向かってうなっていた。


「ぐぬぬ.....」


自習の時間中、用意されていたプリントの答えが、なかなか思いつかないのだ。


チミーは『あらゆるエネルギーを操る』という無敵に近い能力を持っているが、完璧な人間だというわけでもない。

勉強はどちらかというと、不得意な方だ。


答えが分からず、仕方なく教科書をチラ見する。

しかし、求めている答えが載っている箇所が見当たらない。


「それ、41ページだよ〜」


前から聞こえた声に顔を上げる。

前の席に座っている、栗毛色の髪をした女子生徒がこちらの顔を覗き込んでいた。


「あぁ、ありがとう。」

「化学の勉強とか苦手なの?」

「まぁね。歴史の勉強とかは好きなんだけどな〜.....」


答えの載っているページを見つけ、プリントに書き込んでいくチミー。

ふと前を見ると、先程の女子生徒がこちらを向いたままな事に気付いた。

しかし、チミーはクラスメイトの名前をまだ覚え切れていない。


「えっと.....」

芝本(しばもと) だよ、芝本(しばもと)星羽(せいう)。星羽でいいよ〜」


チミーの考えていた事に気付いたのか、その栗毛色の髪の女子生徒.....星羽はにっこりと笑顔を浮かべ、自身の名を名乗った。


「私も、チミーちゃんって呼んでいい?」

「え、別にいいけど...。」

「やった!」


二人の会話は、既に星羽のペースに流れ始めていた。

彼女はお喋りが大好きなのか、思い出したかのように続けて口を開く。


「そういや昨日のやつ、凄かったね!私見てたよ〜」


どうやら彼女は、先日のギルガンとの戦闘を見ていたらしい。


「あれって、念力とかそういう能力?」

「んー....割と近いけど、正確には『エネルギーを操る』能力なの。」

「へぇ!エネルギーがあるものなら、何だって操れるってこと?」

「そうね。あんまり大きすぎるものとかは操れないけどね.....。」

「じゃあ、もっと化学の勉強しないとだね〜。」

「うっ.....」


星羽に痛い所を突かれたチミー。

確かに化学をもっと理解すれば、『永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』でさらなる応用が可能となり、チミーはもっと強くなれる。


とはいえ、分からないものは分からない。

何度も行き詰まって苦しくなってきた頭をスッキリさせるため、別の話題を星羽に振ってみた。


「星羽は南 健太郎...って人、知ってる?」

「あぁ、2組の。.....もしかしてチミーちゃん、ちょっと気になる感じ〜?」

「あ、いやぁ、そういうわけじゃないんだけど......」


ニヤニヤと視線を送ってきた星羽から、思わず顔を背けてぎこちなく返事をするチミー。

実際気にはなっているが、多分星羽の想像しているそれではない。


「悪い人は許せない、いかにも正義の味方!って感じの人だよね。校内で騒ぎが起きれば、すぐに駆け付けてくるよ」

「そうなんだ」

「そして何より、すっごく強い!超能力者って結構ケンカっ早い性格の人が多いんだけど、この学校であんまり喧嘩沙汰が少ないのは彼がいるおかげなんだって〜。」


星羽から見ても、南健太郎は周囲から尊敬を集めている人物らしい。

チミーの疑いが外れそうな予感が強まるが、とにかく実際に見に行って確認すれば全てが決まるのだ。


昼休みの時間、チミーは南健太郎に会いに行く事にした。


2組の教室の扉を少しだけ開け、顔だけを出して教室内を見渡す。

いた。


真っ直ぐな姿勢で学食の弁当を食べている。

短めに切られた黒髪と、着崩すことなく制服を着用しているその姿はまさに『真面目』の擬人化と言っても良いだろう。


あれが、南 健太郎。

チミーは唾を飲み込んだあと、少し息を吐いてから教室の扉を開けた。


「南 健太郎!」

「んっ?」

「ちょっと、話があるんだけど」


親指でくいと廊下を指し、教室から出るようチミーが促す。

南はチミーの姿を見て、何かを思い出したようだ。


「君は、二坂吾郎と絡んでいた女子生徒!待て、すぐに向かう!」


チミーを指さしてそう伝えた後、弁当を持ち上げて入っていたおかずを一気に口の中に流し込む。

手を合わせて「ご馳走様。」と呟き、南が立ち上がった。


「へ?でっか.....」


椅子から立ち上がった南が思ったより巨体だった事に、チミーは驚きを隠せないでいた。

南の身長は190センチメートルを越えている。

160センチメートルにも満たない身長のチミーから見れば、見上げるほど圧巻の大きさだろう。


「さ、話とは何かな」


廊下に出た南が、チミーを見下ろしながら用件を尋ねる。


「アンタ、『炎』を操る能力なんだって?」

「その通りだが、それが何か?」


南は自身の能力を隠す素振りすら見せず答えた。

本当に真面目な性格なのだろう。

チミーは南の返しを無視して、彼に質問を投げる。


「親はいる?」

「いるぞ。父親と、母親がな」

「ふぅん」


 南の即答を聞いたチミーは軽く息を吐き、深く腕を組んだ。

 重心を片側に預け、さらに質問を飛ばす。


「じゃあ......その名前は?」

「父親と、母親のか。......慎太郎しんたろうと、宮子みやこだ」

「んー......」


 南の回答に、チミーは腕を組んだまま首をひねった。

 チミーからは、彼が嘘を付いているようには見えない。

 不自然なエネルギーが一切見当たらない、純粋な答えだったのだ。


 しばらく考える仕草を見せた後、ぼそりと呟く。


 「シロ、かな」


 チミーは納得したような、それでいてどこかガッカリしたような表情を見せ、くるりと南に背を向けた。


 「ごめんね急に。ありがと」

 「なあ、何故その質問をしたんだ?」


 いきなり呼ばれ、よくわからない質問を投げられる。

 そんな南の頭には疑問が残っていた。

 真面目な性格の彼は、小さな疑問だろうと払拭しなければ眠れない性格である。


 南の質問に反応して振り返ったチミーは、少し元気のなさげな様子で答えた。


 「ある人を、探しててさ。アンタが怪しいかなーって思ってたけど、違ったみたい」

 「探しているのは、『火』を操る能力者なのか」


 先ほどの質問から目的を推察した南は、チミーにそう問いかける。

 チミーの返答を待たずに、彼は口を開いた。


 「君の言う『探している人』、俺も手伝おう。同学年の生徒が困っているのを見過ごす事はできないし、君は少々危なっかしそうだからな」

 「え、ほんと!?」


 南の提案に、暗かったチミーの表情がぱっと明るくなった。

 弱きを助け、強きを挫く任侠精神の持ち主である南なら、その人脈と人望はかなり広い。

 是非、お願いしたいものだ。


 「『危なっかしそう』って評価だけが、ちょっと気になるけど......」

 「二坂とつるんでいただろう。君は俺の中でイエローカードを出されているんだ」

 「あいつ、そんなに評判悪いのね......」


 真面目と不真面目。相反する存在が故に当然とはいえ、南の徹底的な二坂嫌いに苦笑いを浮かべる。

 話が脱線しそうになるが、南はすぐさま話を戻してチミーに質問した。


「その『探している人』の特徴ってのは、他に何かあるのか?」

「実は.....あんまりよく分かってないの」

「ええ...?」


南の質問に対し、急に自信なさげな様子でうつむいたチミー。

そう、『探している人』の情報は、ほとんどと言っていいほど()()のだ。

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