ヴァンパイアかよ?
デューゴには妻と、愛する娘がいた。
だが妻は昔から病弱な体質があり、娘も同様に病弱であったため、よく病気に悩まされていた。
そんなある日、娘が突然倒れた。
医者の診断によると、娘が発症したものは治療法はおろか原因すら解明されていない、いわゆる『不治の病』。
もって2ヶ月だろう、そう言った医者の言葉通り、娘は2ヶ月後に亡くなってしまった。
そして悲しみに明け暮れる暇もなく、今度は妻がその病気を発症し、また2ヶ月後に亡くなってしまった。
ただ、デューゴだけが生き残った。
「何故、俺を残したんですか.....。」
教会の椅子に座り、デューゴは涙と共に一人呟く。
妻と娘をほぼ同時に失ったショックをかき消すように、デューゴは自身の仕事.....生物実験にひたすら取り組み始めた。
それも何日も休まずに、周りの人間に心配されるほど。
そんなある日、とある物質に対しての反応が異なる生物2体を用意して、その物質に対しての反応に関する実験を行っていたデューゴ。
彼はその時、閃いた。
この2体の遺伝子を組み合わせれば、どうなるのかと。
そこから、デューゴの生物合成実験が始まった。
この実験が進めば、いずれ究極の生命体を造れるかもしれない。
そう公言していたデューゴだったが、本心は別だった。
.....妻と娘を奪った病気に対する、ワクチンを作れるかもしれない。
遺伝子を合体、改造させる技術が進歩すれば、自分のように不治の病で家族を失う思いをする人間が激減するだろう。
デューゴは、『万能薬』を求めていた。
命を賭けて『創造の宝珠』にそれを願ったが、叶わなかった。
夜。
梟の声が鳴り響く真っ暗な草原を、金色の髪が往く。
『鉄の嵐』ジョージ・ガタストンはこの夜、敵を探すため草原に赴いていたのだ。
「...つっても、どいつもこいつも尻尾を出しちゃくれねぇな。手掛かりがほんとねぇや。」
ジョージは草を蹴りながら1人、愚痴を呟いている。
『彼』によってつい先程、『参加者』の一人であるデューゴが死亡した事が通達されたが、どこにも何の動きもない。
「あのゴーグル女はこの間見かけたが、アレに勝てる気はしねぇからなぁ.....どうしたもんかね。」
草をかき分け、草原を横断していく。
『参加者』がなかなか見つからない事で、足元の草にすら腹が立ってくる。
「ったく、元の世界じゃこんな野原、車ひとつですぐ行けたのになぁ!乗り物が無いってのはほんと、不便だぜ。」
大きな声で独り言を喋っていたジョージだったが、すぐさま顔を上げた。
「!」
『複製』していたジョージの一人が、『参加者』を見つけたのだ。
「へっ、ようやく見つけたぜ!」
ジョージは地面から水柱のように湧き出てくる黒い物体を避け、そこに散弾を放つ。
しかし黒い物体は一切の反応を示さず、再び地面に溶け込んだ。
「見えにくいな...。これを使うかっ!」
暗い夜に、黒い物体。
視覚的にこちらが不利だと判断したジョージは右手で銃を構えたまま、左手でベルトにかけてあった小さな赤い筒を手に取る。
発炎筒だ。
口でキャップを咥えて開け、口を使って器用にキャップを操る。
咥えているキャップに付いている摩擦材へ発炎筒を近づけて勢いよく擦る。
発炎筒から煙と共に炎が燃え上がり、周囲を赤く照らした。
「そらよっ!!」
掛け声と共に、ジョージが草の少ない方向へ発炎筒を投げた。
炎が多少草へ燃え移ったが、むしろこのぐらいが丁度いい。
燃えすぎない程度に周囲を照らし、視界が明るくなる。
「ちっ!そう来たか...。」
舌打ちと共に、声が聞こえた。
ジョージはすかさず銃口を声のする方へと向ける。
炎に照らされた草から伸びる影。
その中から浮き上がってくるように、長外套を被った男......景野が出現した。
「こうも連続で『参加者』にぶち当たるとはな.....!」
「俺は逆なんだ、羨ましい限りだぜ。」
ジョージは景野の愚痴に嫌味ったらしくそう返す。
気付けば複製した何人ものジョージが、炎と共に景野を囲んでいた。
「撃ぇーーーーい!!!!」
暗く静かな草原で、大声と共に銃火器の轟音が鳴り響いた。
複数人のジョージが出現させた無数の銃が、中心にいる景野へ一斉放火する。
まるで隕石が落ちてきたかのような衝撃。
草は焼け散り、地面はクレーターのように穴が開く。
しばらくしてから銃撃を止めさせる合図を取ると、『鉄の嵐』によって草原は荒野の如き不毛の光景へと変えられていた。
「だが、これぐらいじゃ死なねぇだろ?『参加者』さんよ?」
「当たり前だろ。」
クレーターの中心。
隠れる場所など一切ない中で、景野が平然とした様子で立っていた。
『鉄の嵐』もまるでそよ風が吹いた程度の影響しか与えていない。
「なんとなく分かっちゃいたが、ここまで平然とされるとちとムカつくなぁ.....」
土煙の中、少し眉をひそめてジョージが言う。
「今度はこっちから行くぞ。」
景野がそう言うと、発煙筒が吹き飛び再び暗くなった荒野の影に溶け込む。
ジョージの背後に出現し、1人目のジョージの背中に触れた。
「『影抜き』。」
ひとつ、景野が呟いた。
景野が触れているジョージから伸びていた影が、地面から引き剥がされ景野の体に吸い込まれていく。
「ッ.....」
景野に影を吸い取られたジョージは、声も無く倒れた。
影と本体は一心同体。
景野が『影縫い』によって影を固定すると本体も動かなくなるように、影を吸い取る事で本体の生命力も失われる。
「なっ.....!?お前、何を....。」
「さぁな。」
驚くジョージに不敵な笑みでそう返すと、景野は再び影へ溶け込んだ。
しかしジョージもやられっぱなしではない。
再び腰から発炎筒を取り出して、火をつける。それに習うように、他のジョージ達も次々と発炎筒を取り出して火をつけた。
数人に増えたジョージが焚いた発煙筒によって、草原は赤々と照らされる。
すると草影から景野が、少し苛立ちを持った表情で浮かび上がってきた。
「やっぱりお前、光に弱いんだろ。ヴァンパイアかよ?」
「ヴァンパイアくらい、強い能力だったら良かったんだがな。」
景野はため息まじりに言葉を返す。
周囲を見渡して抜け道が無いか探すも、十数人に複製されたジョージが円を組んで景野を狙っているため、どこにも隙が見当たらない。
「撃ぇーーーーーーーーい!!!!!」
ジョージの合図と共に、再び激しい銃声。
大雨が局地的に発生したかのような銃弾の嵐が景野へ降り注いだ。
「はぁっ!!」
景野が両腕を横へまっすぐ伸ばす。
背後から影の手なが無数に出現し、景野を守るように重なってドームを作り出した。
ジョージの『鉄の嵐』と景野の『影の手』とがぶつかり合う。
ジョージは攻撃の手を緩めない。
景野は『影の手』によって銃弾から守れているものの、時間の問題だろう。
「ちと賭けになるが、この状況ならやるしか無いか....!!」
景野はそう呟くと、広げていた腕を引いて右腕を前方に突き出す。
影の手によるドームの隙間から一本の影の手が外へ走り、ジョージ達の円の背後にある木を掴んだ。
景野は左手を振って、影の手による守りを一瞬解く。
凄まじい量の銃弾が、景野に降りかかった。
「おおぉっ!!!」
景野は影の手に指示を出す。
銃弾の雨の中、景野の体は木に掴まった1本の影の手に引き寄せられる。
「させるかっ!!」
景野の前方には2人のジョージが散弾銃を構えて待ち構えていた。
景野は空中で一回転し、新たに影の手を発動。
ジョージが放った銃弾を弾きながら2人の首元を影の手が掴み、地面に叩きつける。
そうして景野は影の手が掴んでいた木に到達する。
そこにジョージ達の銃撃が襲うが、景野には届かなかった。
「光から離れさえすれば、俺の独壇場だ。」
影に溶け込んだ景野の声が、どこからともなく響く。
するとジョージ達が足下に転がしていた発炎筒が次々と消えて始めた。
突然視界が暗くなり、ジョージ達は一斉に混乱に陥る。
「くそっ!どこだ...あぐっ!?」
「おい!どうしちまったんだ!?うおっ...!?ぐぁっ!!」
「なんなんだよおい...」
暗闇の中。
ジョージ達は次々と、何者かに襲われていた。
いくら逃げても逃げられず、いくら探しても見つからない。
なぜなら、『自身の影から』攻撃されているのだから。
自身に殴られ続け、体中に痣ができる。
「くそっ....こうなっちゃ敵わねぇ!」
影から執拗に攻撃を受けたジョージは、撤退の合図を出した。
我先にとその場から撤退していくジョージ達。
自身の影に攻撃され、十数人いたジョージはたった数人にまで減っていた。
「はぁ...はぁ......撤退を...選んでくれたか.....。」
木の影から浮かび上がり、景野は静かにそう呟いた。
『ピエロ』にやられた肩の傷がまだ痛むのに、ここ最近の連戦は疲れる。
ジョージがリスクを冒してまで森に火を放とうとしていたら、どうなっていたか分からなかった。
景野は肩の痛みを押さえながら、森の奥へ入っていった。
明かりを頼りに、ジョージは街を歩いていた。
「ちっ.....この身体も、もうおしまいか....。」
景野による攻撃は思った以上に響いたらしく、全身がズキズキと痛む。
至近距離で、ひたすら殴られ続けたのだ。
このジョージは打ち所が悪く、鼻を骨折して歯も折れ、かなり出血している。
街へ到着したが、こんな夜中に起きている人など滅多にいない。
かろうじて明かりが付いている家を見つけ、ジョージはよろめきながら向かった。
しかし。
ジョージはその家の目の前まで来た所で、体から力が抜け倒れてしまう。
身体が上手く動かない。
立ち上がる気力も残っていない。
仮に誰かが気付いたとして、ここまで酷い状態で助かる気がしない。
『複製』能力によって生み出された者だろうと、人間は人間。
慣れているとはいえ、やはり死ぬ時の気分は良いものではない。
ジョージは深く息を吸った後、ゆっくり目を閉じた。




