想像以上だな。
「『参加者』がさらに1人.....!?」
遠く離れた森の中。
蝋燭の光で、机に置かれた本に映し出されたその様子を見ていたムーが、大きな声を出した。
ゴーグル少女、影の男、合成獣使い、魔術師の少年、髑髏の男、『ピエロ』にジョージ、双子の少女、そして自分。
今回は9名で行うと『彼』は言っていたはずだ。
何故今さら、新たな『参加者』が現れたんだ....!!
「『途中参加』させて貰ったよ。少々強引なやり方ではあったがね。」
「ッ!?」
小屋の中で独り言を発したムーに対し、本に写った景色越しに『10人目』が語りかける。
こちらが『覗き見』をしていた事を、彼だけは感知していたのだ。
「あいつ、誰と話してんだ?」
「『途中参加』とか言ってたけど、そんなのあるの?」
唐突に現れた『10人目』に、誰もが困惑していた。
そんな様子を見た彼は、鞭のような細い尻尾をゆらりと動かしながら笑みを見せる。
「おっと、申し遅れたな。我が輩はフォルゴ。羅業需だ。」
「羅業需...だと.....!?」
フォルゴと名乗った異形の放つ単語に、デューゴが反応した。
景野が彼に説明を促すと、頬に汗を滑らせながらデューゴは語る。
「創作の存在とばかり思ってたぜ。羅業需ってのは、イメージ的には天使とか悪魔とかそういった、いわば俺達よりもワンランク上の存在だ。本当なら、相当やべぇぞ.....。」
「そんな奴が『宝珠争奪戦』に?」
自分達からすると上位の存在である『羅業需』という種族を名乗るフォルゴ。
そんな彼が参加するほど、『宝珠』の持つ力は絶大である事を意味していた。
デューゴは天使とか悪魔とかの類だと言っていたが、見た目的にどう見ても悪魔側だろう。
「さて、どいつから片付けようか...」
フォルゴは腕を組み、値踏みするかのようにチミー達を眺める。
次の瞬間、チミーの目の前にフォルゴが出現した。
「ッ!?」
腕を組んだまま、長い脚で鎌のように鋭い薙ぎ払いを放つフォルゴ。
咄嗟に地面を叩き、空中に飛び上がることで回避したチミーだが、既にフォルゴは追い付いていた。
「この中なら、お前が一番強そうだ。」
マシンガンのように次々と放たれる拳をひたすら避け続けるチミー。
とんでもないエネルギー量だ。
一撃でもまともに食らってしまうのは、確実に危険だろう。
「このっ.....!」
腕を構えてフォルゴのパンチを止めたチミーは、そのまま上半身を下げ、突き上げるような蹴りを放つ。
風圧が衝撃波のように周囲の空間を歪めた。
そんな鋭い蹴りを、フォルゴは涼しい顔で回避。
ガラ空きになったチミーの背中へ手を伸ばした。
チミーは突き上げた脚を下ろし、反対側の脚でフォルゴの手を弾く。
一瞬フォルゴの動きが止まった所を狙い、最初に突き上げた脚を再び上げる。
フォルゴの胴体部分に向かってケンカキックを放った。
その威力で、フォルゴの体が数メートル後退する。
しかし、フォルゴの表情は涼しいままだった。
「どうした?我輩を侮っているのか知らぬが、全力を出していないのは分かるぞ。」
直後、鞭のようにしなったフォルゴの尻尾が襲いかかる。
尻尾を両手で掴んだチミーだが、その顔面に蹴りが直撃。
後方へ吹き飛んだチミーに追撃をかけるように、フォルゴが構えを取った。
「さぁ。全力で防がねば、死ぬぞ?」
そう言った直後、彼の手のひらに黒い渦が生まれる。
周囲の空間を飲み込むように巨大化していく渦は、やがて球体に変化。
全長2メートルほどに巨大化した黒い球体を、チミーに向かって射出した。
球体は直撃し、真っ黒な砲煙が電流を纏いながら拡散する。
「染口!」
ビリビリと震える空気に、思わず叫んでしまう景野。
しかし、その心配は無用のようだった。
ゆっくりと拡散していた砲煙が突如、何かに引っ張られるように動き出す。
円を描きながら一か所に吸い込まれていき、やがて消滅する。
砲煙が消えた後には、腕をクロスさせてフォルゴの球体を防いだチミーの姿があった。
「痛っ!たぁ〜......やってくれたわね!」
薄い煙が湧いている腕を払いながら、チミーがフォルゴを睨む。
「アンタが本気を出さないと勝てない相手ってのはよく分かった。.....行くわよ!」
チミーはそう言うと、残像を残して消え去る。
その場にいたほぼ全員が認識できなかったほどの速さだが、フォルゴだけはその動きを把握できていた。
背後から現れたチミーの拳を、腕で受け止めるフォルゴ。
拳を受け止めた腕は、小刻みに震えていた。
「ほう、想像以上だな。」
「そんな顔してられんのも、今のうちよ!」
チミーには『過剰損耗』の制約があるため、全力を出すなら短期決戦が望ましい。
だったら、接近戦で勝負するしかないだろう。
「だぁっ!!」
目にも止まらぬ拳の連撃。
フォルゴも対抗して手足を放ち、針に糸を通すように寸分の隙もない、緻密な格闘戦が始まった。
お互いの拳を避け、蹴りを受け止め、また拳を放つ。
そんな格闘の応酬の中、チミーの放ったハイキックがフォルゴの肩部分に直撃した。
『永遠なる供給源』によって運動エネルギーを最大限引き出したその威力は、フォルゴを地面に叩き付ける。
起き上がったフォルゴの表情も、余裕の笑みから少し驚きを孕んだ笑みに変化していた。
「はは!ここまでの奴が、人間にいるとはな!」
フォルゴの姿が消え、再びチミーの元へ出現する。
チミーは顔面に向かって放たれた2度の蹴りを腕で受け、鋭い拳を放つ。
身体を回転させることで拳の衝撃を和らげたフォルゴは、長い尻尾でチミーの顔面を叩いた。
「ぐっ.....!」
ヒリヒリと痛む頬を手で押さえつつ、横蹴りでフォルゴの肩を弾く。
身体を素早く回転させ、開いたフォルゴの胸部に反対側の脚で踵落としを叩き込んだ。
しかし、その脚は構えられた腕によってガードされ、カウンターとして放たれた、薙ぐような蹴りによってチミーは横方向に吹き飛んでしまう。
「こんの....!」
空中で姿勢を取り戻し、フォルゴを見上げるチミー。
腕を構え、エネルギーを集めたレーザービームを発射した。
凄まじい熱量によって空気を焼くほどの威力。
フォルゴは初撃を回避したが、薙ぎ払う形で動いたレーザービームに直撃。
咄嗟に手で作った結界で受け止めるが、あっという間に結界にひびが入る。
「なに?」
結界が割れ、間一髪のところで直撃を免れたフォルゴ。
顔を上げた頃には、チミーが詰め寄っていた。
「だっ!」
顔面に打ち込まれた拳。
対してフォルゴも腕を上げ、再び行われる拳の応酬。
エネルギーを最大限まで引き出したチミーにすら渡り合うフォルゴの実力に、チミーは焦っていた。
『過剰損耗』が来れば、確実に負ける。
そんな切羽の詰まった心理によって生まれる隙を、フォルゴは見逃さなかった。
「......!!」
針の穴を通すような殴り合いの末に発生した、ほんの僅かな瞬間。
フォルゴの尻尾が、チミーの首筋に直撃した。
ミシミシと音を立て、チミーは慣性のままに地面へ叩き付けられる。
硬い地面が砕け、破片が弾け飛んだ。
「く...そ......。」
震える手で体を支えながら、再び立ち上がろうとするチミー。
だが、もう限界だった。
「終わりだ。」
フォルゴは冷たくそう言い残すと、開いた手のひらをチミーに向ける。
黒い球体が、稲妻を帯びて生成され始めた。
その時。
「ギガァッ!!」
ジョージに全身を撃たれて死亡したはずの『ピエロ』が、銀色の爪でフォルゴの前腕を貫いたのだ。
「なんだと...?」
困惑の様子を見せながら、続いて放たれた攻撃を回避するフォルゴ。
カウンターとして顔面に蹴りを放ち吹き飛ばすが、いつの間にかフォルゴに突き刺してたピアノ線によって『ピエロ』が踏みとどまる。
気配は一切感じ取れなかった。
「糸で『自身』を操り人形のように動かしているのか、愚かな。」
ピアノ線を引き、再び距離を詰める『ピエロ』。
そんな様子を眺めていたチミーだったが、『過剰損耗』が訪れ、半ば意識を失った状態で前方に倒れる。
頭が地面に着くとほぼ同時に、チミーの身体が地面に沈んだ。
景野の能力『影の手』によって、影に引きずり込まれたのだ。




