この間の借りを、返しに来たぜ?
『ピエロ』は銀色の爪を突き出しながら、低い姿勢で突進。
チミーはほとんど動く事なく、上半身のみを傾けて爪を回避した。
通り過ぎた『ピエロ』の背中に向かって手を伸ばし、『永遠なる供給源』を発動。
『ピエロ』のエネルギーを操作し、地面に叩き付ける。
エネルギーが存在するなら、勝てる。
そう思っていたのも束の間、叩き付けた『ピエロ』の全身から煙が噴出し、その姿はマネキン人形へと変化した。
「えっ?」
直後、チミーの横方向から強烈な殺気が出現。
間一髪で掴んだのは、『ピエロ』が伸ばした銀色の爪。
どうやら奴は、自身の体をマネキン人形と入れ替えられる力を持っているようだ。
手のひらから血が滲むが、この手を離すと爪が突き刺さってしまう。
チミーは脚を上げて『ピエロ』の腕を叩き落とした後、地につけた足を曲げて跳躍。
『ピエロ』が反対側の手から放ったピアノ線のような糸を回避し、その顔面に蹴りを叩き付けた。
「ガアッ!!」
スニーカーがめり込むほどの蹴りを受け、慣性に従って『ピエロ』が吹き飛ぶ。
何度も地面を打って転がる『ピエロ』だが、またしてもマネキン人形へと変化した。
「カッカ!」
振り向いたと同時に再び飛んできた銀色の爪。
回避が間に合わず、チミーの頬を爪が掠めた。
鋭い切れ味によって綺麗な切り傷が入り、傷口の浅さに反して思いのほか量の多い血が垂れる。
反対側の手からピアノ線を伸ばす『ピエロ』よりも早く動き、その顔面に鋭い掌底を放ったチミー。
しかしその手は、『ピエロ』を庇う形で出現した新たなマネキン人形に掴まれてしまった。
手首を掴まれ、一瞬動きが止まってしまった所を狙った『ピエロ』が、マネキン人形ごと前方を切り裂く。
だが既に、その場にチミーはいなかった。
「ヒュー、危なかったねぇ。」
チミーを抱きかかえた二足歩行の合成獣が住宅の屋根に着地し、そこに立っていたデューゴが口笛を吹く。
「別にアンタの助けなんかなくたって、脱出できたんだけど。」
「まあまあ、保険はいくらあってもいいだろ?」
不満げな態度を取るチミーをなだめるデューゴ。
下に立っていた『ピエロ』が、その二人を認識した。
「カァッ!!」
銀色の爪を大きく開き、屋根に向かって跳躍する『ピエロ』。
そんな奴を、先ほどチミーを救出した二足歩行の合成獣が迎撃した。
合成獣の口に生えている大きな牙が、『ピエロ』の爪と噛み合い停止させる。
ボコボコと歪な形をした腕を持ち上げ、『ピエロ』の顔面を狙うが失敗。
くるりと翻りつつ『ピエロ』が回避した後、合成獣の伸ばした腕が輪切りに細かく切断された。
よくみると、『ピエロ』のピアノ線が通っている。
「ウガアアアアァァァァ!!!!!」
片腕を切断され、思わず叫び声を上げた合成獣の声は、顔面に叩き込まれたマネキン人形の拳によって停止した。
牙がいくつかへし折られ、血をこぼしながら合成獣が地面に落下する。
「あぁっ....ピリカームちゃん....」
ピリカームと呼んだ合成獣が落下したのを、名残惜しそうに見下ろすデューゴ。
そんな彼のすぐそばまで、『ピエロ』の爪が迫っていた。
「おっと!」
デューゴが一歩下がると、『ピエロ』の伸ばした爪は顔面ギリギリの所で停止。
本来なら当たる距離なのだが、『ピエロ』の腕に奇妙なものが絡まっていた。
ジェルのような、緑色の粘っこい液体。
デューゴが呼び出した、新たな合成獣である。
「君の戦闘スタイルなら、マリオくんが対処できそうだ。」
マリオと呼んだ合成獣は、まるでスライムのようにネバネバとした液体で体が構成されていた。
『ピエロ』が爪やピアノ線でその体を切り裂いても、すぐに液体同士がくっつき合って再生する。
代わりに、『ピエロ』の顔面へ質量のある拳でカウンターが押し込まれた。
「グギィッ!?」
液体を右腕だけに集中させ、巨大化した右腕によるマリオのパンチは、『ピエロ』を突き飛ばすには充分。
そして後退した『ピエロ』に、景野が忍び寄っていた。
「はぁっ!」
影から生成した手による拳を回避し、代わりに銀色の爪を御見舞する『ピエロ』。
しかし、影は実体が存在しないもの。
爪は影の手をすり抜け、意味を成さないものとなった。
景野からの攻撃は通るが、『ピエロ』の攻撃はすり抜ける。
そんな理不尽極まりない能力だが、『ピエロ』はその能力に隠れた、弱点の片鱗を既に見出していた。
奴の前方で、マネキン人形が更に出現。
影の手による叩きつけを後ろに滑って回避し、踵で地面を蹴って景野の元へ詰め寄る。
弾丸のような速さの左拳を回避し、続けて放たれた蹴り上げを、自身が影になる事ですり抜けた。
その時だった。
「ッ!!」
マネキン人形と『ピエロ』の姿が突然入れ替わり、鋭い右手の爪が景野の顔面に向かって襲いかかる。
自身が影そのものとなる事で物理攻撃をすり抜けられる景野だが、この一撃から強烈な危険性を直感で感じ取り、咄嗟に影の手を出現させて食い止めた。
直感は的中。
影の手によって進行方向が変わった爪は、景野の肩部分を深く突き刺したのだ。
影の手を使っていなければ首元に来ており、間違いなく死んでいた。
「痛っ....!」
外套を翻し、影に溶け込んで一時離脱する景野。
その影からは、血が滲み出ていた。
景野の肩を突き刺した『ピエロ』の銀色の爪が、月の光を反射して光っている。
これこそが、景野にダメージを与えた原因なのだ。
影とは、光が強ければ強いほど濃くなるもの。
月からの僅かな光を銀色の爪に掻き集めて攻撃し、極限まで実体に近い状態まで影を濃くすることで景野へ直接的なダメージを通した。
要は、『強い光を纏った攻撃』が景野の能力『影の手』の弱点である。
景野は自身の影に潜る事でその場から離脱したが、肩に受けた一撃による出血が影に滲み出ていた。
影から滲み出る血の匂いを辿れば、景野が潜んでいる影の場所を特定することなど容易い。
『ピエロ』は背後を振り向き、自身の影に手を突っ込む。
景野が自身の影に入ってきた事を、血の匂いで検知したのだ。
景野の外套を掴んで引っ張り出し、持ち上げる。
「キキキキ.....」
負傷した景野を見た『ピエロ』は勝ちを確信し、爪を構えて笑みを浮かべる。
しかし、他の二人がそれを許すはずが無い。
「だああああぁぁっ!!!」
猛スピードで走ってきたチミーが地面を蹴って飛び上がり、両足を『ピエロ』に向けて飛び蹴りを放った。
左手で掴んだマネキン人形を盾にして飛び蹴りを防いだ『ピエロ』が爪を突き出すと、チミーは『永遠なる供給源』によって運動エネルギーを操作し、垂直に真上へ飛翔。
追って顔を上げた『ピエロ』に向かって手を構え、エネルギー弾を4、5発ほど放った。
エネルギー弾が着弾し、黒い煙を撒き散らす。
だが直後、黒煙を切り裂いた『ピエロ』がチミーの元へ飛び上がっていた。
空中のチミーに向かってピアノ線を放つ『ピエロ』に、横方向からデューゴの合成獣、マリオが襲いかかる。
「ギイイィィッ!!」
マリオの手を掴み、空中で取っ組み合いの形となる『ピエロ』に、チミーは空中で体勢を変え、突進を仕掛けた。
と、その時。
衝撃と共に『ピエロ』の身体が突然、爆発した。
至近距離での爆発に対処しきれず、チミーは爆風を思い切り受けてしまう。
咄嗟に構えた腕が、熱波に当てられヒリヒリする。
「熱っ....!」
『ピエロ』の爆風により、取っ組み合いをしていたマリオの、液状の肉体が吹き飛ばされた。
そして『ピエロ』は再び、マネキン人形を乗っ取り復活する。
「....キリが無くないか、これ。」
「なかなかキツいな!多彩な攻撃を仕掛け、あのマネキン人形がある限り何度でも復活する。」
景野がボヤき、デューゴがそれに便乗。
チミーは熱波を受けた腕を払いながら、地上のマネキン人形と成り代わった『ピエロ』を睨む。
その顔が、少し上に上がった。
「アレは.....!?」
『ピエロ』の後方上空に、『あるもの』を見たのだ。
「はーっはっはっはっはっはっはっは!!!!」
大きな高笑いが、夜の街に響く。
顔を上げ、その声の主を見たデューゴは目を大きく見開き、口から息を漏らした?
「おいおい、嘘だろ....?」
その声の主は、死んだはずだった者。
「この間の借りを、返しに来たぜ?」
『鉄の嵐』ジョージ・ガタストンだった。




