来なよ
「ある『参加者』?」
「あぁ、『宝珠争奪戦』の参加者で、昨晩の内に既に1名、参加者を殺害している。」
景野の情報を聞き、チミーは一人思い当たる人物がいた。
昨晩、多数の『参加者』が集まった時。
大量の重火器で鉄の雨を降らせるジョージという男を殺害した、ピエロのような姿をした化け物。
実はあの場には景野も立ち会っており、ピエロのその後を追跡していたようだ。
「詳しい話は『集合場所』で話す。ついてこい。」
「『集合場所』...?って、うわぁ!?」
チミーが聞き返す前に、目の前が真っ暗になった。
景野の能力によるものだろうか。
彼の能力によって、チミーは地面の下へ沈められてしまう。
「ちょっ...どうしたら....」
突然の出来事に困惑し、何とか上がれないものかと必死にもがく。
そうこうしているうちに、視界が急に明るくなった。
到着したのは、小さな小屋だった。
そこには景野の他に、昨日見た合成獣使いの男が椅子に座って優雅に本を読んでいる。
チミー達の出現に気付いた彼は、片手を軽く上げて気さくに挨拶した。
「よ!始めましてだな。」
一体どういう状況なんだ?
チミーは景野の方を振り向き、説明を促す。
「君と同じように、『ピエロ』討伐に誘ってみたんだ。話が通じそうなのは、この人くらいしか居なかったからな。」
「俺はデューゴ・イングロー。よろしくな。」
男はデューゴと名乗ると、再び読書に戻った。
『参加者』であるならば、敵同士。
にも関わらず、なぜ彼はここまで楽観的な態度なのだろうか。
デューゴが名乗った事に便乗する形で、景野が長外套のフードを取った。
現れたのは黒くて少しくせ毛のある髪に、シャープな輪郭。
「改めてだが、俺は景野 政孝。超能力者だ。」
「私は染口チミー。....で、わざわざ私達を呼んでまで討伐を計画するって事は、何かあるんでしょ?」
チミーは早速、本題に入ろうとする。
チミーの予想に、外套を再び被った景野が頷いた。
「実はあの戦闘の後、奴を尾行していたんだ。」
「あんな奴の尾行なんて、なかなか肝が座ってんね。」
「そこで奴は、『ピエロ』は....人間を喰っていたんだ。」
人間を、喰っていた。
景野の言葉に、チミーは思わず固まってしまう。
「一般人に被害が出てるんだ。止めないと、やべーだろ。」
景野の主張は最もだ、とチミーは思った。
なるべく『参加者』を殺さずに勝つ、と決めていたが、それによって他の人が死ぬなら意味が無い。
「ま、俺たち人間が豚や羊を喰うのと何ら変わらないんだがな。けど被捕食者にだって、抵抗する権利はある。」
デューゴも何度か小さく頷き、『ピエロ』を共に倒す意思を示す。
「あいつは既に『参加者』を一人、殺害している。話が通じる相手でも無さそうだし、一筋縄でいかないのは確実だろうな。」
『ピエロ』は強い。
もしかすれば、やむを得ず殺害という手段を取らねばならなくなるのかもしれない。
桜を殺してしまった時のような激しい罪悪感は、二度と負いたくない。
だが『ピエロ』の、躊躇無く他人を殺害する姿はチミーもよく見ていた。
アレを野放しにするのは、もっと罪悪感に苛まれるだろう。
少しだけ悩んでいたチミーだが、ようやく決心したように口を強く結んだ。
そんな彼女の様子を見た景野は満足気に頷き、口を開く。
「それじゃ、行くか。」
「...どこに?」
場所は変わり、先ほどチミーが妙な食べ物を食べていた場所とは違う町に着いたようだ。
煉瓦の敷かれたさっきの町とは異なり、固い土が道を作っている。
「なんでここに?」
夕暮れの町内を歩きながら、チミーは隣の景野に疑問をぶつけた。
景野はよく聞いてくれた、とでも言いたげな顔で頷いた。
「『ピエロ』は朝と昼にはほとんど動きが無かった。となると動くのは夜。調べた限りだと、昨日はここで人間の『狩り』をしていたみたいだ。」
景野の説明に、チミーの頭に疑問が生まれる。
昨晩は、チミーがいた町に出没していたはずだ。
「昨日って、別の町にいなかった?」
「恐らく、戦闘音を聞きつけて来ただけだろうな。少し戦闘した後に、こっちの方角へ来たんだ。」
そう説明し終えた頃には、辺りは暗くなり始めていた。
町中の、景野が指示した場所辺りで3人はスタンバイし、夜を待つ。
日が沈んでから数十分後。
その辺で色々買い物をしながら、軽い眠気に襲われ欠伸が漏れてきたその時。
『.....来たぞ!』
全員に配布されていた、デューゴの通信用合成獣の叫び声に眠気が吹き飛んだ。
肩に乗せていたため、耳元で叫ばれる形となったチミーは嫌な顔をしながら合成獣を拾い、声の主、デューゴの元へ向かう。
足元もすっかり暗くなり、人通りもまばらになってきた町中で、奴は現れた。
大きな図体と、その身体と変わらないぐらい大きな右腕。
金属のような銀色の右腕が、月の光を反射して光っている。
光の漏れ出る一つの民家に目を付け、『ピエロ』はニヤリと笑みを浮かべながら歩を進めた。
「!」
民家まであと数歩という所で、『ピエロ』が何かに気づいた。
振り返り、その勢いで左手の指から鋭い糸を飛ばす。
『ピエロ』が放った糸が貫いたのは、景野のシルエット。
だが手応えは無く、貫かれた影はぼんやりと消え去った。
残像である。
「こっちだぜ。って言ったって、見れないと思うが。」
背後から聞こえた景野の言葉に反応し、『ピエロ』はその巨大な体を振り返らせようとする。
だが、体は動かなかった。
「ガガッ.....!?」
「『影縫い』。お前の『影』は縫い止められている。影と連動している本体は、動けねぇよ。」
『ピエロ』から伸びる影には、黒い剣のようなものが突き立てられていた。
これがある限り、『ピエロ』は動く事ができない。
「他の連中が来ても困る。さっさと終わらせるぜ。」
そう言って影から先ほどのものと似た黒い剣を生成する景野。
だが『ピエロ』も、そう簡単にやられるようなタマでは無かった。
虚空から、3体の影が出現する。
地響きと共に現れたのは、ショッピングモールなどでよく見かけるマネキン人形。
2メートルほどある巨大なマネキンは着地した後、自ら意思を持つかのように動き出した。
「くっ!」
その巨大な体躯から放たれる腕の薙ぎ払いに、景野は思わず後退。
薙ぎ払いによって『ピエロ』の影に突き刺さっていた剣がへし折られ、『ピエロ』は再び自由の身となった。
巨大なマネキン人形は、『ピエロ』による尖兵だったのである。
マネキン人形は深く腰を落とし、景野に向かって突進。
モノレールの如く早い等速直線運動によって急接近したマネキン人形を、景野は自身の背中から放った黒い手で食い止める。
そんな景野の背中から、チミーが現れた。
「それ。前も出してたけど、何なの?」
「俺の『影を操る』能力、『影の手』によって生成した、影の手だ。.....ってか手伝ってくれると有り難いんだが。」
「任せてよ。戦闘に関しては、誰にも負けない自信あるから!」
チミーは胸を張ってそう宣言してその場で構えると、景野の背後から飛び出した。
伸ばされた脚がミサイルの如くマネキン人形に激突し、その頭部を粉砕する。
頭部を失い、糸が切れたようにその場に崩れ落ちたマネキン人形。
着地したチミーは、その脚を軸に2体目のマネキン人形へ回し蹴り。
そのまま深く腰を落として腕を構え、エネルギー砲を発射し奥から現れた3体目のマネキン人形を吹き飛ばした。
エネルギー砲を真正面から受けてしまったマネキン人形は、 吹き飛んだ先に立っていた『ピエロ』によって細切れに裂かれる。
『ピエロ』は歯を見せて感情を表していた。
厚く塗られた化粧のせいか、悔しげな表情にも楽しげな表情にも見える。
巨大な腕を開き、1メートル程ある鋭い爪を出現させた。
戦闘意思を示した『ピエロ』に対し、チミーはクイと指を曲げて挑発する。
「来なよ。どっちが強いか、教えてあげるから。」




