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オゴってやるよ

浩太は街の中央近くにある、大きなレストランの片隅にある座席で座っていた。

周囲には上品にステーキを頬張る老夫婦から山盛りのサラダを口内にかき込む荒くれ者まで、多種多様な人種が分け隔て無く食事を楽しんでいる。


たまにはこういう、賑やかな場所で食べるのも悪くない。


しばらくすると、注文していたカルボナーラがテーブルに届いた。

大きいレストランでは従業員数も多いのか、かなり早い。


ほかほかのカルボナーラを前に、手を合わせる。


きしめんのような、平べったいパスタ麺。

タリアテッレやフェットゥチーネとも呼ばれるその麺に卵とチーズとが絡み、絶妙な甘さと旨味を引き出している。


美味しい。


カルボナーラを巻くフォークの動きが止まらない。

次から次へと夢中でカルボナーラを口に運んでいた浩太の目の前に、突然誰かが相席してきた。


「よう、一人か?」


そう話しかけてきたのは筋骨隆々の、大柄な男だった。

よれたシャツの下に見える、日焼けした筋肉がツヤツヤと光っている。

カルボナーラを口に含んだ状態の浩太が黙って頷くと、男は白い歯を見せて大きく笑顔を作った。


「俺達と一緒に食わねぇか?オゴってやるよ。」


正直、一人で料理を楽しみたかった所。

『彼』に貰った謎のカードがあるおかげで金銭にも困っていないし、男の申し出を承諾する理由はない。


しかし、彼の屈託ない笑みを見ると、つい断れなかった。


「...いいですよ。」

「おっしゃあ!んじゃ、ついて来いよ。」


浩太の返事を聞いたその男は再び笑みを作り、席から立ち上がる。

着いてきな、と言いたげに首を動かす彼の後を、カルボナーラの乗った皿を持ったまま追いかけた。


「おう!コイツも仲間に入れてやってくれ。」


訪れたのは、十数人単位で座れる巨大なテーブル席。

そこには男と同じような荒くれ者達が、思い思いに食事を楽しんでいた。

男が浩太を紹介すると、荒くれ者達はにこやかに歓迎する。


浩太は言われるがまま席に座らされ、持ってきていたカルボナーラの続きを食べ始めた。

隣に座った先ほどの男が、浩太に顔を寄せる。


「俺はテグ。お前は?」

「滝ノ辺です、滝ノ辺 浩太。」

「滝ノ辺が苗字で、浩太がファーストネームか?」


カルボナーラを食べたまま、浩太は再び頷いた。

テグと名乗った男はにこりと笑い、「よろしくな」と小さく告げる。


テグの反対側に座っていた、枯れ木のように細く縮んだ腕をした老人が話しかけてきた。


「見ない顔じゃな。旅の人かえ?」

「まぁ、そんなところです。」

「そう警戒せんでええ。コイツらは賑やかなのが好きなだけの連中なんだ。」


老人が怪しい笑みを浮かべてそう言ってくれるが、どうも落ち着かない。

だが本当にこのカルボナーラの料金は立て替えてくれたらしく、悪い人達ではないのは分かった。


「浩太はどこから来たんだ?」

「えっと.....」


テグの質問に浩太は口ごもってしまう。

まさか別世界からやって来ただなんて、言っても信じられないだろうし言っていいのかも分からない。


返答に困る浩太を見て何かを察したのか、テグは目を瞑って静かに頷いた。


「まぁいいや。言いたくなけりゃ、それでいい。」


彼がそう言った直後、席の反対側で骨付きチキンをかじっていた若い女性が身を乗り出してテグに声をかける。


「テグさん、もうすぐ時間ですよ。」

「なに!もうそんな時間か!」


女性の言葉を受け、ポケットから時計を取り出したテグが慌てたように大声を上げる。

状況が分からず、浩太は不思議そうにテグを眺めていると、気付いた彼が説明してくれた。


「俺たちゃ『狩人ハンター』なんだ。昼過ぎくらいから活動を始める奴がいてよ、そいつを仕留めに行くんだ。」

「は、『狩人ハンター』....?」

「なんだぁアンタ、何も知らないんだな。」


突如出てきた『狩人ハンター』という単語を不思議そうに復唱した浩太へ、隣の席の老人が驚いたように声をかける。


「『狩人ハンター』ってのはこの辺に潜んでる危ない生き物を追い払う仕事よ。この辺の地域、土地は有り余ってるのに建物が少ないのは、周囲に住んでる凶暴な生物がウヨウヨいるからだな。」


つまり、土地開発のために障害となる危険な生物の排除が彼らの仕事らしい。

元の世界ではあまり縁のない職業だ。


「よかったら、着いてくるか?」


そんな職業に就く彼らに、浩太は少しだけ興味が湧いてきた。

テグの誘いに、浩太は頷く。


「よーし、そんじゃお前ら!そろそろ行くぞ!」


勢いよく席から立ち上がり、テーブルを囲う皆にテグがそう叫んだ。

『狩り』の、始まりである。





目的の場所は、店を出てからそう遠くは無かった。

自前の馬車に乗り、数分ほど走っていると、突然テグが馬を止めるよう指示を出す。


「見てみろ、アレだ。」


テグが指さした先には、何やら地面が隆起したような跡があった。

あれが一体何なのか、ついでに説明を入れてくれる。


「ありゃあ『ベングラ』っつーデケェ土竜もぐらが出てきた跡よ。昼の暖かい時間帯に、獲物を取りに地上へ現れる。」


デカい、とは言ったものの。

隆起した地面を見ると、その大きさは直径1メートルを越えている。

本当に土竜なら、元の世界の土竜とは比べ物にならないほどの被害を人間に及ぼすのだろう。


「それにしても、なんでわざわざ地上に出てくるんでしょうね?」

「体がデカすぎて、地中の生き物だけじゃ足りねぇんだろうよ。」


若い女性と軽く会話を交わし、テグが隆起した地面の前に立つ。

しばらく穴を覗いた後、すぐ横に立っていた初老の男性に指示を出した。


「さっき買ったろ?アレ出してくれ。」


初老の男性は頷き、背負っていたリュックサックから小さな水筒くらいの大きさをした筒を何本か取り出す。

それを受け取ったテグが、何かを企むようにニヤニヤと笑みを浮かべた。


直後、テグが隆起した地面の穴へその筒を放り込む。

近くに空けられていた似たような穴へも、次々と放り込んでいった。


「何ですかそれ?」

「こういうやつだ。」


浩太の問いに、テグは筒の蓋を開けることで答える。

顔に近付けられた筒からは、凄まじいほどの悪臭が発生していた。

思わず顔を背けた浩太に、テグが大きく笑う。


「くっせーだろ。ベングラに限らず、土竜は土の中で暮らしてるから嗅覚が強え。それに土の中ってのは結構な密閉空間だから、こういうのが効くんだよ。」


笑いながらそう解説していたテグが、穴の異変に気が付いた。

振り返るとほぼ同時に、僅かな地鳴りが感じ取れる。


......穴から、何かが出てくる!


浩太の直感は見事的中。

人間の子供くらいの大きさをした土竜の大群が、次々と穴から這い上がってきた。

ベングラは周囲に居るテグ達の姿を認識すると、鋭い牙を剥いて威嚇をする。


「やっちまえ、オメーら!」


凶悪な顔で突進してきたベングラの大群に、テグ達はそれぞれの武器を取り出して応戦する。

さっき料理を奢ってもらった恩もある、自分も何かせねば、と浩太は動き出した。


腕を伸ばし、力を集中させる。

『彼』から貰った『大いなる力』を使えば、役に立てるかもしれない。


『人間の赤ん坊は誰に教えられる事もなく産声を発し、虫は誰に教えられる事も無く飛びますからね。』

浩太は『彼』の言葉を思い出していた。

まさにその通りで、浩太は無意識に術式を理解していたのだ。


爆幕円(バル・ツラドン)!!」


浩太がそう叫ぶと、ベングラの足元に光が出現。

直後、その光は爆発となり、ベングラの大群を吹き飛ばした。

爆発で空高く飛んだベングラが落下してきた事に驚いた仲間のベングラ達は、圧倒的な危険を感じ取ったのか背を向けて逃亡を始める。


周囲はポカンとした様子で、そんな一連の流れを眺めていた。


「お前、そんな力が...?」

「あ、まぁ......一応。」

「すげぇじゃん!!」


初めてにも関わらずベングラの大群を一瞬で追い払うほどの魔術を放った事は、周囲だけでなく浩太自身も驚いていた。

テグ達の純粋な賞賛は、今まで無気力だった浩太にとってかなり嬉しいものだった。






場所は変わり、噴水のある大きめの広場。

チミーは石段に座って、昼食を取っていた。


ナンのような食べ物が少し気になって買ってみたが、少し独特な味がする。

が、何処かクセになる味だ。

虚空を眺めながら、ひたすらそれを頬張り続ける。


「なぁ」


ボーッとしていた所へ突然、背後から声が聞こえた。


「うわぁっ!?」

「おっと、驚かせてすまんな。」


突然の声に驚き。変な声を出してしまったチミー。

振り返った先にいた声の主は、以前『宝珠』を巡ってチミーと戦った男だった。

彼は予想以上に驚いたチミーに対し、両手を軽く上げて謝罪の言葉を述べる。


「びっくりした...。アンタは確か....」

「俺は景野かげのだ。よろしくな、染口チミー。」

「え、なんで私の名前を知ってんの?キモ...」


自身の名をいつの間にか知られている事に顔を歪めるチミー。

しかしそんな事は置いておき、景野と名乗った男に要件を尋ねた。


「で、昨日も現れたけど。今日は何の用?」


昨日に続いて今日も現れたという事は、単なる挨拶できたわけじゃないだろう。

チミーに尋ねられた景野は端的に、訪れた理由を口にした。


「...ある『参加者』を、倒さなければならない。」

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