表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/96

なんでアンタが

「道がある。....って事は、この世界には人がいるみたいだな。」


草原の中に見つけた道を歩きながら、浩太は独り言を呟いた。

だったらまずは、人のいる場所を探そう。

何も知らない世界で、何の情報も無いのは不安だ。

先の見えない長い道を、のんびりと歩んでいたその時。



その背中に、一筋の風が空を切って襲い掛かる。



カァン!



甲高い音を鳴らし、浩太の首筋を襲った『何か』が天高く弾き飛ばされた。


「.....?」


音に反応した浩太は振り向き、弾き飛ばされた落下した『何か』の正体を確認する。


落ちてきたのは、1メートル以上の長さを誇る巨大な矢だった。

鋭く光る金属の矢尻が、その殺傷性を嫌というほど主張している。


「.....ッ!?」


この矢から浩太を守ったのは、浩太の周囲に自動的に張り巡らされた『結界』によるもの。

浩太が得た『大いなる力の箱』に含まれていた機能の一つが、浩太を守ったのだ。


結界が弾くまで、浩太は矢が飛んできた事など全く気付かなかった。

結界がなければ今頃、首元を貫かれてその命を落としていただろう。

ぞくりとして、振り向く。

その先には深い緑の森があった。

恐らく森のどこかから、狙撃されたものと思われる。


「.....早速、か。」


浩太は唾を飲み込み、静かに呟いた。







「.....ヌゥ。やはり『当たり』であったか。しかし無傷とは...」


森の中。

巨木の幹にひとつ、影が膝を立ててしゃがんでいた。

黒く禍々しい鎧を全身に纏い、手には2メートルを越える大きな弓をたずさえている。


そして何より特徴的なのは、遠くを見据える髑髏どくろかお

比喩などではなく、完全に人間の皮が剥がれてしまい剥き出しになった頭蓋そのものだ。

男の視線の先には、首元を狙って射ったにも関わらず全くの無傷な少年の姿。


「これくらいの矢では歯も立たぬか。流石は『参加者』、一筋縄ではいかんな。」


禍々しい暗黒の髑髏は、ぽつりと一言そう言った後、巨木から飛び降りる。

弓を左手に持ちながら、草木をかき分けその場から立ち去ろうとした、その時。


「さっき弓を射ったのは、あなたですか?」

「ッ!?」


泥濘ぬかるんだ土に足を食い込ませ、髑髏は急停止する。

目の前にいたのは先ほど弓を射た相手、浩太だった。


髑髏は返事を返す事なく、目の前の浩太の両肩をがしりと掴んで腹部に膝蹴りを食らわせる。

突然の不意打ちに怯んだ浩太の横腹へ、下ろした足を軸にした回転蹴り。

勢いのままに浩太は吹き飛び、近くの木にぶつかった。


「がっ!!」

「...悪いな。」


倒れ込んで痛みをこらえる浩太に一言そう言った後、髑髏は消えてしまった。


「痛いっ.....けど、耐えられる。」


髑髏が去った後、腹部を抑えながら浩太が立ち上がる。

突然の出来事に混乱してはいるが、先ほどの矢を防いでくれた結界に、一瞬で髑髏に追い付いたスピード。


そして、明らかに手練の動きをしていた髑髏の攻撃をマトモに食らっても、すぐに立ち上がれるようになった耐久力。


.....『大いなる力の箱』は、本物だったんだ。


謎の髑髏に襲われた事よりも、自分に『力』が備わっている事が知れた事に、浩太の体は震えていた。







白い大きな建物を中心に、円状に広がるように造られている街では人で賑わっていた。チミーは辺りを見渡しながら、街道を歩く。


ここの世界は『宝珠争奪戦』のために造られた世界で、あらゆる言語は瞬時に相手に伝わるようになっている。

『彼』から確か、そんな説明を聞いた気がする。


「そういえば、これも貰ったな。」


思い出したように呟いたチミーは、ポケットから1枚のカードを取り出した。

『彼』から渡された、所謂クレジットカードのようなものらしく、『争奪戦』中は無制限での使用が可能なのだという。


これで飢えは回避できる。

なかなか、ヌルいシステムだ。


今日はとりあえず、これで宿を借りようかな。

チミーはカードを握りしめ、街道を歩いた。


「久しぶりだな、染口チミー。」


陽は落ちかけ、周囲にほとんど人がいなくなった街道の中心で、声が一つ。

聞き覚えのある声だった。


振り向いた先にそびえていた建物の影。

その影から浮き出るように、声の主の姿が現れた。


見覚えのある茶色い長外套。

それは、以前『宝珠』を博物館から盗み出し、チミーが追跡した挙句、逃げられてしまった男の顔だった。


「なんでアンタが.......!?」

「ま、こっちにも事情があるってことだ。...まさかアンタも、宝珠争奪戦の参加者の1人だとはな。」


チミーの参戦には、彼も少し驚いているらしい。

男はチミーと一定の距離を取ったまま、話を続ける。


「アンタは人を、殺せるのか?」

「.....殺さないよ。勝つ条件は『相手を戦闘不能にする』でしょ?皆が戦えなくなるか、戦う気を無くすまで、私は勝ち続けてみせる。」

「......そうか。」


強く宣言したチミーに対して、男の対応はやけにドライだった。

チミーに背を向け、小さくため息のような息を吐く。


「ここに集まった皆が皆、アンタと同じように『自分の命を賭けてでも力を手にしたい』連中だ。死にものぐるいで来るやつもいる、気を付けるんだな。」


男はそう言い残し、背を向けて再び建物の影に沈みこむように姿を消していく。


「ま、一応知り合い同士だし。できるだけ仲良くやろうぜ。じゃーな。」

「戦わないの?」

「アンタと正面からやり合って、勝てる勝算が高いと思うほど自惚れちゃいねぇよ。」


その言葉は、『それでも自分は諦める気など更々無い』と言っているようなものだった。

チミーの実力を知っている上でのその覚悟は、何故なにゆえなのだろうか。








その夜。


真夜中、元の世界とは違い明かりに乏しいこの世界。

辺りが全く見えない闇に沈んだ宿の中、染口チミーは目を覚ます。


それは偶然ではない。

目覚めたのには、確かな理由があった。


「....音?」


ベッドから起き上がってゴーグルを装着しつつ、チミーは小さく呟いた。

そう、少し離れた場所に、不自然な音エネルギーを感知したのだ。

時刻は夜中の2時頃。

こんな時間に起きている人など、そういない。


......気になるな。


妙な胸騒ぎがしたチミーは窓を開け、音のする方向を見る。

冷たい夜の風を浴びて顔を(しか)めた後、窓に脚をかけて外へ飛び出した。

そのまま反対方向にある民家の屋根に飛び移り、屋根を伝って音のした方向へ走り出す。


辿り着いたのは、そう遠い場所ではなかった。


走ること数分。

街から少し離れた場所に、音の原因を見つけた。

そこには2人の人影と、『人ではない影』が複数。

チミーは気付かれないように自身のエネルギーを抑えつつ、物陰に隠れて様子をうかがう。


「はは!早速獲物がかかるとはな!」


2人の人影のうちの片方、短髪で褐色の肌に白衣を羽織っている、彫りの深い顔をした男性が両手を広げて高らかに笑っていた。


その視線の先には、複数の『人ではないもの』に囲まれた、黒く光る鎧を纏う髑髏の顔をした異様な姿の戦士が立っている。


前者は白衣という明らかにこの世界に似合わない格好。

後者は髑髏の顔をした、そもそも人かどうかすら不明な者。


この世界にとって『異質』な存在である事は、目に見えて分かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ