俺の『命令』だ。
血がこぼれる。
桜の腹部を貫く刀の先端から。
その刀を握っている者は、当然チミーだ。
「どう.....して.......?」
刀を握るチミーは目を見開き、疑問の声をこぼす。
どこからともなく聞こえた「『殺せ』」という言葉を聞いた直後。
気がついた時には、チミーは刀で桜を貫いていた。
「なんで...?そんな.....」
チミーは震えた声でそう呟いた直後、校舎側から気配を察知。
振り向くと、1人の男が立っていた。
少し長めの金髪をしたその男は、真っ直ぐこちらを見て、口元に小さな笑みを浮かべていた。
見覚えのある顔。
チミーは自身の記憶を必死で駆け巡らせ、結論が出た。
「柳....渡.......!?」
その名前を聞いた金髪の男、柳渡は少し眉をひそめた後、感心したように笑みを浮かべる。
彼はチミーと同じ孤児院で過ごしていた人物、柳渡だった。
桜以外にも生き残っていた人がいたのが驚きだが、それ以上に、なぜこの場にいるのか。
「なんで、アンタが....?まさか、今のは.....」
「ん?あぁ。俺の『命令』だ。」
笑みを浮かべて放たれた柳渡の返事を聞いたチミーの表情は、みるみるうちに怒りへと変貌。
全身から電気が弾け飛び、風が吹き荒れる。
直後、チミーの姿が消えた。
「おっと。....『止まれ』。」
柳渡は動揺する事なく、そう一言呟いた。
その瞬間、チミーが柳渡の目の前に出現。
振り上げている拳は小刻みに震え、どれだけ能力を使っても動く気配はない。
まるで金縛りにでもあったかのように。
「...俺の事よりも、桜の事を心配したらどうだ?あいつ、そろそろ死ぬぜ。」
柳渡はそう語りかけ、振り返ってどこかへ去っていく。
金縛りが解け、再び動けるようになったチミーは柳渡を追おうとしたが、先ほどの言葉を思い出し、踵を返して桜の元へと駆けつけた。
「桜っ.....!」
桜の胸部からは大量の血液を溢れ、瀕死の状態だった。
結が先ほどから治癒魔法を施しているが、一向に具合が良くなる気配は無い。
「....重要な臓器のほとんどが溶けて、機能を停止しちゃってる。」
「どうしよう...このままじゃ...桜が.....!!!」
横たわる桜を抱きかかえ、チミーの目に涙が溜まる。
「うっ...く......」
「桜!?桜!?」
瀕死の桜が切れ切れに声を出し、ゆっくりと目を持ち上げてチミーを見る。
「チミー...ちゃん.....。」
「ごめんね、ごめんね.....!私が......!!」
「ううん。チミー.....ちゃんは...悪くない。」
涙を流しながら謝るチミーに、桜は首を振る。
「チミー...ちゃんは、私を....助けようとしてたんだもん...。」
桜の掠れるような声が、さらに小さくなってきた。
頑張って開けていた瞳も、だんだんと細くなっていく。
「だから....わざとじゃない......って、ちゃんと分かってる....。」
「桜っ.......!!!」
チミーは『永遠なる供給源』を使って桜の傷口を塞ぐが、内部の損傷が既に激しく、焼け石に水だった。
たとえチミーの能力でも、内臓を作り出すことは不可能だ。
「それ...より.......」
チミーに触れていた桜の腕が、力を失ったように落ちる。
チミーは涙をこぼし、桜の肩を力強く握った。
目をほとんど閉じ、息も切れ切れになっている桜は続ける。
「チミーちゃんが.....無事で...良かった.......。」
「っ.......!!!」
その一言で、チミーの目から涙が溢れ出してきた。
息を吸った後、震えた声で桜に怒鳴る。
「バカっ.....!!桜はホント、人の事ばっかり......!!」
震えながらも絞り出したその言葉を聞いた桜は、驚いたように少し息を吸った後、安心したように緩んだ顔を浮かべる。
「あはは...ごめん....ね......。ありが...と.......。」
最後の言葉が終わらないうちに、桜の声が途切れる。
桜の全身から力が抜け、重みを持ったのが分かった。
「桜!!桜っ...!?」
チミーが何度問い掛けても、何度揺さぶっても、返事は無かった。
「桜!!!桜ぁっ.......!!!っ......!」
やっと、『呪い』が解かれたのに。
ようやく、6年間もの苦しみから解放されたのに。
どうして。
「うっ...うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!」
涙も、声も、止まらない。
「あああっっ.......!!!ああああぁぁっっっ.......!!!!桜っ.......!!!」
「まだだよ!!!」
チミーの悲しみをかき消すように、結が一喝した。
顔を上げると、周囲の空間が青く染まっている。
「絶対に...っ!死なせなんてしない.......!!」
結はその手に、青色の光を放つソフトボール大の球体を持っていた。
何が起きているのか全く分からないといった様子のチミーに、結が説明を始める。
「これは『静止の宝珠』。今、この空間は、私とチミーちゃんを除いて凍結されている状態なの。」
「『宝珠』......?」
淡々とした説明の中で出てきた単語に、チミーが以前の出来事を思い出した。
以前....そう、博物館から盗まれたと言われ、盗んだ謎の男と戦い、『煙星』に行き渡ったそれを奪還した時のこと。
確か山瀬は、アレを『宝珠』と呼んでいた。
アレと同じものなのだろうか。
だが今は、そんなものの話などどうだっていい。
チミーは結へ、質問した。
「これから、どうすれば?」
「この空間内にいる時点で、桜ちゃんの魂は抜けずに留まっている。体を修復すれば、桜ちゃんは元に戻るわ。」
とは言ったものの、エネルギーを操れるチミーでも、構造の複雑な臓器などを修復するような芸当はチミーにはできない。
結の魔法でも、不可能だ。
「正直、二度と会いたくなかったけど。『彼』なら、叶えてくれるかもしれない。」
そう呟いた結が、杖を回して魔法を詠唱。
虚空に、黒い『穴』が開いた。
その『穴』に向かって、結が言葉を放つ。
「出てきて。話があるの。」
結が言葉を放ってからしばらく経つと、『穴』がより一層大きくなった。
窓くらいの大きさから、人一人が余裕で通れるくらいの大きさに開いた『穴』から、一つの影が出現する。
その姿を見て、チミーは目を見開いた。
スーツ姿を着た、シルエット的には恐らく男性のもの。
ただ、顔だけが見えないようになっている。
顔だけボカシの入った、霧のような状態になっており、認識することができない。
そんな『彼』は、『穴』から体を出し切ると一礼した。
「そちらの方は、始めまして。.....貴女は、2度目ですね。」
『彼』は微笑をはらんだ声で、結にそう呟いた。
「ここに私を呼んだ、という事は。そういう事ですよね?」
「ええ。あなたの事なんだから、もう事情は把握できてるでしょう?」
結にそう言われた『彼』は、横たわる桜を見て頷く。
『彼』はチミーの方を向き、2度頷いた。
「『創造』の力を欲しているわけですね?現在8名しか揃っていませんが、前回の勝者の頼みです。前倒しで、『開催』しても良いですよ。」
「何を?」
『彼』と結との会話が全く理解できていないチミーは、『彼』に問いかける。
「私が新たに創り出す『宝珠』の所有者を決定する戦争.....『宝珠争奪戦』の開催ですよ。」
『彼』の返答は、新たな火種をもたらすものだった。




