誰の指示でここに来た?
4人の人間が、とある廃校舎の前に並んで立っていた。
チミー、ディーン、下風、結。
話を聞いていたライカも志願してくれたが、これはチミーの問題だ。
関係の無い人は、できるだけ巻き込みたくない。
「私を騙してたんですね?『神の目』さん。」
「あはは...あの時は悪かったよ。『マスク』の言う事を鵜呑みにして、君を悪者だと決め付けていたから......。」
先ほど『鏡町』にて『神の目』とやり取りした事を思い出した。
一度はチミーを騙したとはいえ、ディーンから事情を聞くや否やすんなり協力を決めてくれた辺り、人を助けたいという気持ちは純粋なのだろう。
目の前にそびえているのは、今にも崩れ落ちそうな廃校舎だ。
とても中に人がいるとは思えないが、『神の目』がいると言うのだから間違いないだろう。
校舎にいるのは桜と、以前現れた日本甲冑の男....通称『サムライ』の2人。
4人なら、有利に戦えるはず。
「それじゃあ...行くか!」
ディーンが声を上げ、先陣を切って歩き出す。
結、チミーも続いて足を進め、下風も同じように上半身を傾けたその時。
「.....おや?」
彼は背後で生い茂る木々の中に、何かを見つけた。
校舎の入口を、ディーンの巨体が窮屈そうにくぐる。
廃校舎にしては綺麗な状態で残されており、ところどころ棚が崩れている程度だ。
玄関を通り、廊下へ。
建物内にいるとは言われたが、常に移動している彼らの具体的な位置なんて『神の目』には分からない。
しかし、片っ端から探す必要はない。
何故ならチミーが居るから。
『永遠なる供給源』を使って周囲のエネルギーを探知する事ができるチミーなら、建物内にいる彼女らを簡単に見つけ出すことができる。
「さて、どこにいるかな.....」
小さく呟きながら、『永遠なる供給源』を発動。
周囲のエネルギーを探知し始めた、その瞬間。
「来てるッ!!」
チミーは反対側の廊下へ勢いよく振り返り、叫ぶ。
直後、爆発でも起きたかのような破砕音と共に、教室の扉を蹴破って『サムライ』が現れた。
鈍く光る紅の甲冑を揺らしながら、その隙間から見える肉食獣のごとき目が、こちらを獰猛に睨み付けている。
「早速来たかっ.....!」
「ディーン、任せたよ!」
「ガァァァァァァァァッッッッ!!!!」
『サムライ』は大きな咆哮をあげ、手に持っている刀を構えて突進してきた。
ディーンがチミーと結の前に立つように飛び出し、『サムライ』の長い袈裟斬りを正面から受ける。
しかしディーンは『吸血鬼』。
いくらでも再生ができる肉体を持った彼にとって、体を真っ二つにされる事など痛くも痒くもない。
体を再生させつつそのまま懐へと突っ込み、『サムライ』の顔面へ拳を繰り出した。
金属の歪む音。
ディーンのパンチは、兜越しに『サムライ』の頭部へ直撃する。
しかし、『サムライ』が怯む様子は無かった。
「ヴガァッ!!」
瞬時に向き直り、ディーンの頭を掴む『サムライ』。
凄まじいパワーを誇るディーンでさえ解けない力で、ディーンの顔面は床に叩き付けられた。
そのまま瓦礫を撒き散らしながら顔面を引きずり、『サムライ』はディーンを中庭へと放り投げる。
『サムライ』は再び刀を抜き、中庭へ降り立った。
そのままゆっくりと、ディーンの元へ詰め寄っていく。
「はぁ...はぁ.....ったく」
ディーンは傷だらけの顔面を撫でながら、血の混じった唾を吐き捨てて立ち上がる。
日光の届く中庭へ放り出された事で、ディーンの再生能力が弱体化したのだ。
しかし、完全に無くなったわけではない。
『眷属』から『吸血鬼』に成り上がったディーンの再生能力は、日光による延焼速度を上回っている。
ディーンはニヤリと笑みを浮かべ、『サムライ』へ拳を向けた。
「こいよバケモノ。ガマン比べといこうじゃねぇか?」
ディーンの心と身体は、熱く熱く燃えたぎっていた。
木の上に立っていた、一つの影。
黒い外套を被ったその者は、4人の人間が廃校舎に入るのを確認すると、背を向けて木から飛び降り、走り出した。
「なぁ、君は誰なんだ?」
明らかに自分に対して発せられたその声に、黒い外套の者は即座に立ち止まる。
振り返ると、そこには超能力専門家、下風 が立っていた。
「あいつらの仲間か?けどその様子じゃ、助けに来たって感じでもないみたいだ。」
下風の冷静な推測に、外套の者は1歩後ずさりをする。
突然外套の者を睨みつけ、下風は続けて問いかけた。
「....誰の指示でここに来た?」
その言葉を聞いたと同時に、外套の者は後ろに向かって大きく跳躍し、全力でその場から逃げ始めた。
一瞬反応が遅れた下風も腰を落とし、外套の者の後を追う。
木々を抜け、住宅街に入る。
外套の者は建物と建物の壁を交互に蹴って屋根に登り、再び走っていく。
しかし、そのすぐ後ろを、下風が既に追跡していた。
「ッ!」
身体能力が高いのか、あるいは何かしらの『能力』によるものか。
いずれにせよ逃げ切るのが難しいと判断した外套の者は、住宅の屋根から下へ飛び降りた。
続けて同じ場所から地面に降りた下風。
しかし、周囲を見渡しても外套の者の姿が見当たらない。
「───っ!」
下風から少し離れた陰から、銀色に光る投げナイフが3本。
音も無く飛んできたナイフに気付けず、下風は3本のナイフをまともに受けてしまう。
ぱしゃっ。
ナイフが下風に当たった瞬間。
下風の身体は細かく振動しながら小さな飛沫を上げ、身体に波紋が浮かび上がった。
ナイフは3本共に下風の身体を通り抜けた後、甲高い金属音を立てて反対側へ落ちる。
まるでゼリーを貫通したかのような感覚だ。
「静音性と正確性、普通の人間なら確実に致命傷だっただろうね。残念ながら、僕には効かないものだけど。」
下風はナイフが飛んできた方向を辿り、隠れていた外套の者の姿を捉える。
下風と目が合った外套の者は、再び逃げ出した。
「逃がすかっ!」
下風は右手に力を込め、能力を発動。
すると前を走っていた外套の者が、急に意識を失ったかのように勢いよく倒れた。
その後、外套の者に動く気配は無い。
「死んでなけりゃいいんだけど.....。」
そう呟きながら、倒れている外套の者に追いついた下風。
倒れている身体を、外套越しに触る。
「!」
しかし、手応えは無かった。
あったのは布の感触だけで、中に人は入っていなかったのだ。
そんな馬鹿な、直前まで水分があったじゃないか。
「ッ.....!」
気配を感じた下風が背後を振り返る。
その目には、遠く離れた場所で外套の者がこちらを見ている光景が映っていた。
その直後、外套の者は屋根から飛び降りて姿を消す。
距離的に追い付けない、仮に追い付いたとしてもまた避けられるだろうと判断した下風は苦い表情を浮かべて自身の後頭部を軽く搔く。
「正体は掴めなかった、か。いやー、やられたね....」




