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その様子、覚えてるみたいね

チミーが色々と考えているうちに、『マスク』の行動は始まっていた。

両側から挟むように、2枚の刃付き円盤が見える。

それはタイヤのように床を削りながら、一直線にチミーへ突進した。

チミーは慌てて背後へ飛ぶことで回避し、仮面の者を再び睨む。


「ッ!とにかく今は考えるより先に、アンタを何とかしないといけないみたいだね。」


『マスク』は自身の周囲を飛ぶ円盤のうち1つを掴むと、その円盤が変形。

周りに付いている小さな刃が1箇所に集結し、円盤は剣の柄ような形に変わった。

もう片方の手にも剣に変形させた円盤を握り、両手に剣を持った『マスク』がチミーを睨み返す。


「そっちが武器を使うってんなら、こっちも使わせてもらうわ!」


そう言ったチミーが右手を横に伸ばすと、その手のひらにエネルギーの塊が出現する。

それはうどんの生地のように薄く伸ばされていき、1本の刀の形に変形した。

エネルギーで創り出された刀を構え、チミーが床を蹴って駆け出す。


『マスク』に向かって走り出したチミーに、2枚の円盤が襲いかかる。

チミーは小さく跳躍し、腰をひねって1枚目を紙一重で回避。

もう1枚をエネルギーの刀で流しつつ、空間が縮められたかのような急加速を行って『マスク』に接近した。


チミーのエネルギー刀による攻撃を2本の剣で受け止めた『マスク』は、周囲を舞っていた円盤をチミーへと叩き付ける。

全ての円盤の動きを見切り、足の位置を変え、上半身の位置を変えることで回避。

頬に僅かなかすり傷が付いたものの、問題は無い。


続けて放たれた『マスク』の一閃を側転で避けたチミーは、その勢いを駆使して壁に向かって跳躍。

壁に足をつけて蹴り、再度『マスク』に向かって突進した。


「はぁっ!!」


チミーがエネルギー刀を振るうと『マスク』はそれを迎撃しつつ切り返す。

チミーと『マスク』は、空中に漂って剣の打ち合いを始めた。


しばらく打ち合っては離れてを繰り返していく両者だが、幸いこちら側の方が僅かに動きが速い。

奴がどのような能力を使っているのかは分からないが、流石に運動エネルギーの限界点より速く動く事はできないようだ。


しかし、『マスク』には両手にある2本の剣を除いた、4枚の刃付き円盤がある。

チミーより僅かに劣るスピードは、その手数の多さによってカバー。

結果、チミーと『マスク』との実力は拮抗していた。


このままではらちが明かない。

それどころか、前回戦った際には能力の過剰な使用による『過剰損耗(オーバーヒート)』が先に訪れたのはチミーの方だった。

加えて『煙星四天王』と戦った直後である。

先に力尽きるのは確実だ。


どこかで隙をつき、短期決戦に持ち込まないと。

チミーは剣同士が弾かれあった反動を利用して離脱し、走る。

跳躍して壁に足をつけると、そのまま重力の向きが変わったかのように壁を走り始めた。

それを追いかけるように飛んできた円盤の刃が壁に突き刺さり、壁を削りながらもチミーを追いかけてくる。


「これなら、いけるかな!」


ニッと口の端を持ち上げてそう呟くと、壁を走りながら後ろを振り向いて右手を伸ばした。

永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』を発動し、円盤によって削り取られた場所を超高速で修復していく。

壁を削る円盤に修復力が追い付き、直った壁に挟まれた円盤の動きが止まる。

円盤がいくら壁を削っても、それ以上の修復力でチミーが押さえつけているのだ。


「そ...こだぁ!!」


壁を蹴り、チミーは『マスク』のいる方向に向かって突進。

エネルギー刀を勢いよく振り下ろし、再び剣同士の打ち合いを始めた。


2枚の円盤がチミーによって封じられ、先ほどよりも手数が少なくなった『マスク』。

僅かにチミーのスピードが上回り、徐々に押されているのが目に見えて分かった。


「仕方ない...っ!」


不利だと判断した『マスク』は体制を立て直すべく後方へと下がり、少し高い位置まで浮き上がる。


チミーはエネルギー刀を片付けて腰を落とし、両腕を『マスク』に向けて大砲のように構えた。

直後、衝撃波が走り、チミーの両腕からエネルギー弾が2つずつ、計4つが交互に放たれる。


『マスク』は飛んできたエネルギー弾のうち2つを円盤でいなし、もう2つのエネルギー弾を剣で弾いた。

その後剣を切り返し、下にいるチミーに向かって回転しながら突進をする。


チミーと『マスク』とが激突するギリギリ手前の瞬間。

チミーの身体から黒煙と共に、爆風が放たれた。

爆風で『マスク』の勢いは相殺され、その隙を狙うかのように周囲を黒煙が素早く埋めつくす。


炭素を含んだ黒煙によって互いの視界が遮られるが、チミーにはエネルギーを視る事ができる眼を持っている。

対して、『マスク』は状況を把握する事はできない。


この一瞬が、最大のチャンスだろう。


「小賢しいっ.....!」


剣を振って黒煙を切り裂き、視界を開ける『マスク』。

しかしその先に、こちらへ突進してくるチミーの姿があった。


「おらぁっ!!」


再びチミーが手に持っていたエネルギー刀を、もう片方の剣で辛うじて受け流す。

だがチミーは受け流された勢いを逆に利用し、空中でくるりと回転して脚を伸ばした。


『マスク』の側頭部に叩きつけられるチミーのスニーカー。

それだけでは終わらず、『永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』を使ってもう一回転。

『マスク』の仮面のど真ん中に、蹴りが直撃した。


蹴りの威力に負け、床に叩き付けられる『マスク』。

その銀色の仮面が、蹴った際の衝撃で弾け飛んだ。

甲高い音を立て、仮面が床を転がる。


「えっ.......!?」


チミーは『マスク』の仮面が外れた顔を見て、驚愕の声を上げた。


「さ...桜っ.....!?」


『マスク』の正体。

チミーが桜と呼んだ()()は、チミーが孤児院で共に育った子だったのだ。

その正体を見てしまったチミーは、1歩2歩と後ずさりをしてパニックに陥る。


『マスク』もとい、桜はチミーを指さし、口を開く。


「その様子、覚えてるみたいね。」

「桜....私はっ......!」

「聞きたくない。」


チミーは桜ときちんと話し合うべきだと前に出る。

しかしその言葉をかき消すように呟き、桜は能力を使って消えてしまった。

憎しみのこもった、憎悪の視線を残して。


「何が....一体どうなって......。」


部屋に残ったのは、チミー1人だけ。

気付けば額に手首を当てながら、困惑の呟きを行っていた。


そんな中、下の階からの激しい物音により意識を取り戻した。

そうだ。桜はどこかへ行っちゃったけど、下にはまだ彼女の仲間がいる。


能力を使い続けてふらふらな姿勢をなんとか整えて、階段を駆け下りた。





1階では、相変わらず日本甲冑の大男が暴れ回っていた。

どうやら『能力を持たない者を操る』能力を持っているようで、本体の戦闘スタイルに似合わない姑息な能力に『四天王』は苦しめられる。


能力を持たないとはいえ四方八方から狙われるのはかなり大変だ。

オマケに日本甲冑の男本体の戦闘力も半端ではなく、自身の駒にしている警察隊員ごと屠る勢いで長い大太刀を振り回すその姿に、迂闊には近付けない。


そんな状態で拮抗していた両者だったが、大男が突然何かに気付いたように顔を上げた。

『マスク』もとい桜がこの建物から去った事を、感じ取ったのだ。


「フンッ。」


直後、もう用は無いとばかりにあっさりと背を向け、最初に空けた穴から建物の外へ出ていく。

龍豪寺が追いかけようと足を踏み出したが、百合ヶ丘に止められた。


自分達は今現在、チミー達と戦って手負いの状態。

帰ろうとしている奴を下手に刺激して、余計な戦闘を起こす必要はないと言いたいのだろう。


「けっ!ま、何にせよ助かったみたいだな。」


腑に落ちない感情を吐き出しながらも、すぐに気持ちを切り替えて振り返る龍豪寺。

ボロボロの二坂やライカ達を介抱していると、チミーが階段から降りてきた。


「あれ?もういないのか。ってか、すごい事になってるね.....。」


先程まで日本甲冑の男に操られていた警察隊達は能力が解除された途端、糸が切れたように全員が気を失っており、床に倒れていたのだ。

警察隊全員が床に倒れている光景は、流石のチミーでも困惑するだろう。


「『サムライ』の野郎、これまた酷え事したな。」


階段を降りたチミーの背後。

つまり階段から、ディーンが現れてそう呟いた。


「アンタ、さっきどこに隠れて....」

「あっっ!!テメェ!!!」


気を失っていた二坂が突然目を覚まし、ディーンの姿を見るや否や飛び起きて戦闘態勢に入った。

しかし、ディーンとチミーが横に並んで戦う気配を全く感じない事に違和感を覚え、2人を交互に見ながら口を開く。


「どういうことだ一体?こいつは敵じゃ...」


ディーンを指さして困惑する二坂を見て、ディーンが答えた。


「俺はもうアンタらの敵じゃねぇ。染口チミーの、味方につくことにしたんだ。」

「はぁっ!?」


突然の急展開。

頭が追い付かない二坂は、デカい声で叫ぶ事で頭の混乱を誤魔化し始めた。

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