通してもらうぜ
場所は戻り、『煙星』のアジトの1階。
チミーは投げ捨てるように、眼鏡の男を床へ落とす。
気を失っている状態の彼を見た『煙星』のリーダーは、頭を押さえて苦笑いを浮かべていた。
「いやぁ、まさか『四天王』が全員、倒されてしまうとは....。」
龍豪寺、弓浜、百合ヶ丘、そしてこの眼鏡の男。
岸山という名らしいが、この4人が『煙星』の中核を担う『四天王』と呼ばれているらしい。
しかしそんな彼らも、チミー達の『チーム』に敗北し、警察隊に拘束される。
大人しく手錠をかけられていたリーダーが、山瀬に視線を向けた。
「そこの方。アナタが今回の指揮を執っている方ですよね?」
「一応、そうだが。」
「一つ提案があるのですが、聞きませんか?」
「提案...?」
含みを持たせたリーダーの言葉に、山瀬が片眉を上げて話を続けるように促した、次の瞬間だった。
ヒュッと空気が割かれるような音が鳴り、建物の壁の一部が崩落する。
慌てて戦闘態勢を整える警察隊の目に映ったのは、3つの影だった。
「染口チミー。見つけたぞ。」
崩れた壁から現れたのは、機械で合成された声に、黒いシルクハット。
チミーを執拗に追い回し、その命を狙っている『マスク』の姿だった。
隣には『吸血鬼』の眷属ディーンと、そして後ろにもう1人、日本甲冑を全身に纏った大男が立っている。
チミーは滑るように体を半回転させ、『マスク』の方へ向く。
『マスク』の周囲を舞っている6つの刃付き円盤が、威嚇するかのように唸っていた。
ここで戦えば他の警察隊達にも被害が及ぶ可能性があると判断したチミーは、脚に力を込めて真上に跳躍。
天井を突き破り、上の階へと移動した。
それを追う形で、『マスク』も上の階へと移動する。
チミーと『マスク』が上へ飛んだ事に周囲が気を取られている隙に、ディーンが階段へ向かって走り出した。
しかし、そんな彼の前に一人の影が立ちはだかる。
「おっと、ここは通さねぇぜ?」
階段まであと1歩、という所で二坂が現れる。
舌打ちと共に、ディーンは走りながら右の拳を振り下ろした。
二坂も対抗して拳を飛ばし、拳と拳がぶつかり合う。
爆音とともに、ビリビリと衝撃波が走った。
骨を直接揺らすような空気の揺れに、思わず隊員達はヘルメットを押さえる。
「久しぶりだな、おっさん。」
「今はお前なんかと戦ってる場合じゃねぇ。そこを退け!」
ディーンは反対側の拳を素早く放つが、二坂が小さく跳躍した事で不発。
二坂はそのまま、空中で回し蹴りを放った。
鎌のように鋭い蹴りを左腕でガードし、右拳を腹部に叩き込む。
右拳がクリーンヒットした二坂は後方へ吹き飛び、壁に激突した。
あまりの速度に、壁に体がめり込んでしまっている。
「がっ....!」
「通してもらうぜ。ケンカならまた今度、買ってやるよ。」
二坂が腹部を押さえて怯んだ隙に、ディーンは床を蹴って跳躍するように階段を登り始めた。
すぐに立ち上がった二坂はディーンを追おうとするも、うまく力が入らない。
押さえていた腹部を見ると、殴られた部分を中心に出血が発生していた。
ディーンは『吸血鬼』。
先ほどの一瞬で血を抜き取る事など、造作もない。
「前よりも...強くなってやがる.....。」
二坂は驚きと悔しさの混じった歯軋りを起こしながら、静かにそう呟いた。
二坂が倒れたのを見て、上の階へ上がっていったディーンを追いかけるライカとユウリ。
しかしそれを阻む形で、目の前に巨大な影が現れた。
「ふしゅぅぅぅぅ.....ヴヴゥゥ....」
2メートルは超えているであろう巨体は真っ赤な日本甲冑に覆われていて、奇妙な唸り声を上げている。
『マスク』と共に現れていた『それ』は明らかな殺意を持って、背中の刀を抜いた。
「ッ!」
咄嗟にライカが前に出て、『それ』が放った薙ぎ払いを弾く。
『それ』は片手、ライカは両手で剣を握って受け止めたにも関わらず、危うく吹き飛ばされそうになるほどの威力。
こいつの刀を受けるのは、危険だ。
しかし、その巨大な体躯から放たれる大太刀は、到底避けられるようなものではない。
その攻撃範囲の広さ、恐らく4、5メートルは存在する。
動きは然程速いとは言えないものの、圧倒的なリーチによる攻撃は侮れない。
であれば、刀の届かない距離まで近づくのが正解だろう。
ライカの脇を通ってスライディングし、素早く『それ』に近付いたユウリ。
蹴りを放つ『それ』の肩に手を乗せて飛び上がり、背中に回り込む。
「はぁっ!!」
拳を振り上げ、風のように素早いパンチを放つ。
猫が放つ、いわゆる『猫パンチ』。
攻撃として放った場合、鳥や小動物さえ一発で気絶させられるほどの威力があるという。
人間大の大きさであるユウリが放てば、その威力は絶大だろう。
さらに『猫パンチ』の最高速度は秒速20メートル以上とも言われており、これはボクシング選手が放つ拳の最高速度、秒速10メートルと少しの記録を優に超える速さだ。
目にも止まらぬスピードで拳を叩き込む。
ユウリの猫パンチによって少しよろめいた『それ』が、苛立つように叫んだ。
「があああぁぁぁぁっっっ!!!」
『それ』が振り向く動作と同時に刀を振り払う。
ユウリはその場で高く垂直跳びをする事で回避するも、刀を振ったときに発生した凄まじい突風に巻き込まれ、横方向に流し飛ばされた。
勢い良く吹き飛び、壁に激突しそうなユウリをライカがキャッチする。
「ぐるるるるる......」
鬼のような形相の仮面を被り、立派な兜を装着している『それ』の目が赤く光った。
背中から無数の細い管のようなものが出現し、ライカ達をすり抜けて床を走っていく。
その先には、『それ』に背を向ける警察隊達がいた。
「なんだこれは!?」
「そいつに触れるな!何があるか....」
高速で迫ってきていた管に銃を向ける隊員。
それを止めようとしていた別の隊員は、自身の背後に別の管が回り込んできている事に気付かなかった。
「ぐあっ!」
蛇のように飛びかかり、管が隊員の背中に突き刺さる。
背中に管が突き刺さった隊員は気を失ったように俯き、脱力した腕を垂らしていたのだが、しばらくすると顔を上げて目を覚ました。
しかし、その目は赤く光っていた。
銃を構え直し、発砲。
しかしその銃口は『それ』にではなく、ライカ達に向いていた。
「なっ....!?」
剣を構えて銃弾を弾いたライカだが、『それ』の管が刺さった隊員は一人ではない。
複数人の隊員に狙われたライカは、その銃撃を防ぎきれなくなっていく。
剣をすり抜け、一発の弾丸がライカの脇腹に直撃した。
「くうっ!」
燃えるような激痛。
鎧を貫通し、赤い鮮血が漏れ出ているのを気にする暇もなく、新たな銃弾がライカに襲いかかった。
避けきれない、逃げないと。
そう判断したライカが腰を浮かした、その時。
着弾音が鳴るも、ライカには傷一つなかった。
顔を上げると、そこには大きな影が一つ、ライカを守るように立っていた。
筋骨隆々の肉体に、艶のあるリーゼント。
身の丈ほどもある巨大な大剣を引っさげた、龍豪寺の姿だった。
無数の銃弾を全身に受け、体中が銃痕で溢れている。
しかし、龍豪寺は動じない。
何故なら、その肉体は『無敵』なのだから。
「よぉ、お前ら!これ以上ウチのアジトを荒らすのは、俺達『煙星四天王』がぁ許さねぇ!」
龍豪寺の脇には、いつの間にか3つの影が立っていた。
弓浜、百合ヶ丘、そして岸山。
『煙星』が誇る、『煙星四天王』の面々だった。
「嬢ちゃんたち、こっからは任せな!」
ライカとユウリに向かって、弓浜がキザなウインクをする。
目の前には、ゾンビのように理性を無くして銃を構える警察隊と、その奥に聳える日本甲冑の化け物。
4人は横一列に並び、作戦会議を始めた。
「とは言ったものの、殺しちゃまずいよな?」
「ですね。あくまであの警察隊員達は人間。敵だったとはいえ、殺さない程度に無力化するべきかと。」
「手加減しろってか?面倒だぜ.....。」
「アンタはまだマシでしょ。私の方が殺さない努力をするの大変なのよ?」
岸山の回答へ気だるそうな呟きを返した弓浜に、百合ヶ丘が横から口をとがらせる。
何だかんだ言い合いながらも、4人は戦闘態勢に入った。




