けどそれは、俺も一緒だ。
二坂は自身の能力『消し去るもの』を発動。
空気抵抗を消し去り、一瞬で弓浜の目の前まで詰め寄る。
「おっと!」
二坂の素早い右ストレートを左腕の手甲で受け止めた後、顔面に向かって蹴り上げられた脚を紙一重で回避。
右手を弾いて後ろ方向に跳躍し、距離を取る。
「逃がすかっ!」
すかさず二坂が床を踏み、一瞬で距離を詰める。
しかし弓浜の表情は、相変わらずリラックスを続けていた。
次の瞬間、弓浜が凄まじいスピードで後方へと移動。
再び二坂との距離が大きく離れ、振っていた左の拳が空振りになってしまった二坂は驚いたように目を見開く。
「なっ...!」
「君の能力が、とりあえず素早いって事は分かった。けどそれは、俺も一緒だ。」
自身から離れた弓浜の姿を見て、二坂はある事に気が付いた。
先程までただのズボンを履いていた弓浜の腰から下が、紅の具足に覆われていた。
手に装着された手甲といい、これが弓浜の『能力』だろうか。
「何の能力だ...?」
二坂の漏らした呟きに、弓浜が軽く笑う。
「はは、オレの能力はちょっと複雑.....っていうか色々ややこしくてな。当てるのは難しいと思うぜ?」
「だが殴られれば倒れる。そうだろ?」
思考を巡らせる必要はない。
能力が分からなくても、ただ奴を倒せばいい。
現時点で能力を考察するのは無駄だと判断した二坂は、再び空気抵抗を『消した』スピードで弓浜に接近する。
先程と同じ動きで接近してきた二坂に、弓浜は呆れたような苦笑いを浮かべた。
「オイオイ、それは俺にはムダだって。そこんとこ、分かってんのか?」
「分かってねぇのはそっちの方だ!」
先ほどと同じように後退しようと踵を傾けた弓浜。
しかし何故かその体は、『二坂に向かって進んでいた』。
そんな謎の現象に弓浜は一瞬焦りながらも、迫ってきた二坂の左手を受け止める。
だが一瞬の動揺は視界を狭める隙を生み出すもの。
続けざまに放たれた右ストレートが、顔面に叩き込まれた。
「ごはっ.....!」
頭蓋が歪んだような痛みに耐えつつ、弓浜がふらふらと後退していく。
そんな彼を、二坂は逃さない。
「俺とテメーとの間にあった『空間』を消したんだ。消えた部分は圧縮され、俺の目の前までテメーは引き寄せられる。スピードには相当自信があったみてーだが、空間そのものを縮められちゃあひとたまりもねぇみたいだな。」
「や、やるじゃねぇか.....。」
「そのヘラヘラした面も、すぐに叩き潰してやるぜ。」
二坂に胸ぐらを掴まれながらも強がる弓浜に、容赦なく叩き込まれる拳。
何度も何度も打ち込まれた二坂の拳は、突然停止する。
「っ....!?」
「そこまでだぜ、この野郎。」
二坂の拳は、金属に阻まれていた。
弓浜の顔面を、古代ギリシアのスパルタ兵が身に付けていたような兜が覆っていたのだ。
弓浜はお返しと言わんばかりに頭を振りかぶり、二坂の顔面に頭突きを放つ。
「だっ.....!?」
咄嗟に痛みを『消し』て耐えたものの、頭への攻撃は脳によく響く。
一瞬平衡感覚が無くなり、よろめいた。
「テメェ....マジでぶっ潰す!!」
頭を押さえた二坂の顔が、怒りで歪んでいる。
『消し去るもの』を発動し、足を踏み込んだ。
右、左と放たれた拳を弓浜はひらりと回避し、続いて放たれた右拳を手で掴むことで食い止める。
『消し去るもの』によって反発力を『消されて』いるにも関わらず、だ。
「なんっ.....だと!?『反発力』を消しているのに.....!?」
「この手甲は『触れたモノから受ける影響を限りなく0に近付ける』能力を持ってる。お前のパンチは、無駄だって事だ。」
弓浜の手の『反発力』を消した二坂と、二坂の拳による衝撃を限りなく0に近付けた弓浜の手甲とが相殺され、弓浜は二坂の拳を受け止める事に成功したのだ。
弓浜は掴んだ左手をぐるりと半回転させてねじると、すかさず左脚を前に繰り出す。
左手に注意が向いていた二坂の腹部に前蹴りが直撃し、二坂が数メートル後方へ吹き流された。
その後弓浜が大の字に体を開くと、どこからともなく紅色の鎧が出現、弓浜の全身は紅色の装備で覆われた。
「こっからが本番だ。強者の鎧、完全装着。」
全身を鎧に覆われ、再び構えを取った弓浜を見て、二坂は舌打ちをする。
現時点でもかなりのスピードで移動し、『反発力』を消されても二坂の拳を何事も無く受け止めた能力なのに、まだその先があるというのか。
「クソっ...!まだ余裕あんのかよ.....!」
「おいおい、反応が鈍ってるぜ?」
急いで対策を考え始めた二坂だが、思考を巡らせた事で目の前まで現れた弓浜の拳に反応するのが遅れてしまう。
そのまま拳を顔面で受け止めてしまい、鼻から血を垂らして床に倒れ込んだ。
「この具足は『速さ』。この兜は『硬さ』。この手甲は『守り』。そしてこの鎧は.....。」
そう言いながら腕を引き締める弓浜。
すると鎧がひとりでに動き始め、中心部のパーツが開く。
開いた鎧の中心部から、黒い『穴』が覗いていた。
「『レーザービーム』だッ!!!」
走る閃撃。
床を抉るほどの威力を持った閃光が、彼の鎧から放たれたのだ。
間一髪の所で回避した二坂は、飛び跳ねながら後退する。
「一つだけ能力が違いすぎるだろ.....何でもアリかよ.....!!」
「ほらほらァ!」
止まらない、弓浜の鎧によるレーザー砲。
いくら空気抵抗や摩擦を『消して』いる二坂とはいえ、光の速さで飛んでくる熱線を連続で回避するのは凄まじく厳しい。
勝負を仕掛けるなら、ここしか残っていない。
だがしかし、そんな事を考えていた二坂の表情には、先程のような焦りは無かった。
何かに気付いた様子で、レーザー砲を掻い潜りながらニヤリと笑みを浮かべていた。
「見えてきたぜ、テメーの能力!」
腰を落とし、腕を前に出して手を開く。
触れた『光』と『熱』を瞬時に『消して』いく事でレーザー砲を無効化した後、思い切りその手を払った。
するとその手に連動する形で、二坂と弓浜との空間が捻れる。
『空間』を消し、一気に弓浜の元へと辿り着いたのだ。
鎧の中心にある穴を手で塞ぎながら、二坂は大きな目を更に開いて核心を突く。
「テメー今、『この具足は、この鎧は〜』って言ってたよな?それにおかしいと思ったんだ。『何でそんな強い能力を使うのにわざわざ鎧を付ける必要があるんだ』って。」
弓浜は二坂から距離を取ろうと後ろに体重を傾ける。
しかし、動かない。
添えられた二坂の手と鎧の『隙間』を『消す』事で完全な真空状態を作り、離れないようになっているのだ。
「能力があるのは、この『装備そのもの』だ!こいつが無くなりゃあ、テメェはただの一般人に過ぎねぇ!!」
「ちぃっ....!」
「『消し去るもの』!!!」
二坂が叫び、弓浜を真上に持ち上げる。
すると途端に、弓浜の装備が彼を嫌がるように外れていった。
弓浜を雑に投げ下ろし、今の現象を解説する。
「テメェの体から『摩擦』を『消去』した。着ていた装備共は、なんの抵抗も無く滑り落ちちまうってワケだ。」
鎧は残ったものの、二坂から逃げるための『具足』、二坂の拳を受け止めるための『手甲』、二坂にダメージを与えるための『兜』が彼の元から離れてしまったのだ。
「さぁて、テメーに選ばせてやるよ。俺に顔面をボコボコにされて負けるか、自分から情けなく降参するか。どっちだ?」
引き攣った笑みを浮かべている弓浜を見下ろしながら、二坂は指を鳴らして最後の問いを放った。




