よければ、僕も手伝いますよ。
周囲の騎士達や野次馬達は時が止まったように静まり返った後、爆発的な歓声を上げた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!」
ビリビリとひしめく騎士達の歓声に、チミーも自然と口が緩んでしまう。
「やった!勝った!!」
ユウリも周囲の騎士達と同じように大きな歓声を上げ、大きく跳ねて喜びを表している。
「ふぅ....私が当てたのは4発、か。私もまだまだ未熟だな。」
団長は兜を脱いで静かにそう呟いた後、ライカに一礼した。
「御試合、ありがとうございました。」
同じく兜を脱いだライカも、荒い呼吸を整えながら礼をする。
穏やかな、綺麗な礼だった。
2者の礼を見て、騎士達は再び声を上げる。
「しかし、本当に強くなったな。負けたのに、何だか嬉しい気分だ。」
顔を上げ、団長に背を向けたライカは、騎士達に囲まれながら円を出る。
団長はライカの反対方向へに向かってゆっくりと歩いていき、近くにあった石段に腰掛ける。
騎士達の注目はライカにいっており、団長は一人。
団長は空を眺め、一息をついた。
「調子、悪かったんですか?」
斜め前から、声が聞こえた。
団長は上を向いていた顔を下ろし、声の主.....シスニルの存在を確認すると、石段からゆっくりと腰を上げる。
「そんなことは無い。私は全力でライカと戦った。ライカは本当に、強くなったと思う。」
「しかし、団長の動きも以前見た時より、少し鈍かったように感じましたよ。全力で戦ったと言うのなら、少し腕が訛っているのではないですか?」
自覚していなかった部分をシスニルに指摘された団長は、少しキョトンとした後に大笑いする。
「はっはっは!確かに、そうかもしれんな。.....目の見えない奴にすら指摘される程なら、相当だろうな?」
「ええ。充分聞こえましたよ。団長の腕が、軋む音。」
シスニルがそう言うと、2人でふっと笑った。
団長は両手で自身の顔を叩き、表情を整える。
「やはり、私もこれを機に初心に返ってトレーニングをした方がいいのかもしれんな。騎士団を率いる者として、あるべき姿でなければならんからな。」
「よければ、僕も手伝いますよ。」
団長とシスニルはそう会話をしながら、ライカを囲む喧騒から離れるように歩き出す。
「そうだ、ライカの見送りの準備をせねばな。」
団長は閃いたようにそう呟いた。
夕方。
門の前には沢山の騎士達が、ライカを見送るために待っていた。
ライカの姿を確認すると、ザッと道を開けるように左右へ並ぶ。
綺麗な列だ。
一番奥、門のすぐ前には団長が立っていた。
騎士達の作った道を歩き、準備を終えたライカが団長の前に現れる。
「ライカ、今日はよく頑張ったな。お前もついに、1人前になったんだな......。」
話しながらほろりと涙を流し始め、声も震え始める団長。
感情が昂って涙が止まらない団長の姿に、ライカが戸惑う。
「そんな、二度と合わないわけじゃないんですから.....。」
普段は威厳たっぷりで立派な団長の顔が涙でぐちゃぐちゃになっているのと、それに戸惑うライカの様子を見て周囲の騎士達は思わず笑い声を上げる。
温かな笑い声につられてライカも笑ってしまい、団長も涙を拭きながら笑った。
「少し長いお別れになりますが、またいつか戻ってきます。....皆さんも、ありがとうございました!」
ライカは夕日を背景に、皆に向かって深く礼をする。
騎士達の声に見送られながら、ライカはゆっくりと門を出た。
しばらく歩いていくと、先に外で待っていたチミーとユウリと二坂、3人の姿が現れる。
「もっと話さなくてもよかったの?」
「もっと話しちゃうと、『鏡町』に残りたくなっちゃうので。」
そう言って静かに笑ったライカを加え、4人は帰路についた。
次の日。
扉をぶち壊す勢いで、元気よく扉が開く。
「おはよー!」
学校が終わったチミーが、大声を上げながら『チーム』の部屋に入ってきた。
先日ライカが加入したことにより、気分が良い様子。
「おはよー!」
「おはようございます。」
部屋には既にユウリとライカがいる。
二坂はまだ来ていないようだ。
あいつ、授業サボってるくせに何やってるんだ?
しばらくして、山瀬が入ってきた。
チミーやユウリが勝手に持ち込んできた私物で埋まり始めている部屋に少し苦笑いを浮かべつつ、口を開く。
「昨日はありがとう。ライカさんは、始めまして。」
「は、始めまして。」
ライカは椅子に座りながら、丁寧にお辞儀をする。
「早速で申し訳ないけど、この間言っていた準備が整ったんだ。」
「なんか謎の『品物』を盗った組織がなんとか〜、ってやつ?」
「いつ行くの?」
「今から、だよ。」
ユウリの質問に、山瀬は少し険しい表情で答える。
『チーム』が結成されてから初めての仕事。
少し面倒くさいが、『依頼』には『報酬』が出ると以前聞いていた。
一つ問題を解決するだけで、普通のアルバイトの何倍ものお金が貰えるという。
小遣い稼ぎだと思えば、気は楽だ。
突入の準備が完了し、一行はとある建物の前に立っていた。
町外れにある、小さなマンションのような大きさの建物。
これが、『煙星』のアジトだそうだ。
かなり目立つ大きさのアジトではあるが、案外こういう建物ほど警戒されないものなのだろうか。
山瀬が引き連れた30余人ほどの特殊部隊が、皆して建物を見上げている。
「そんじゃあ、行くか!」
後方に立っていた山瀬が声を張り上げると、隊員達は装備を構えて一斉に建物の入り口へ向かった。
扉を強く叩いた後、取り出した大型の工具で壊し始める。
あっという間に扉が破壊され、なだれ込むように隊員達が突入した。
「なんだなんだぁ!?」
「動くな!警察だ!」
目に入る人間全てに銃を向けながら、隊員達は奥へと進んでいく。
超能力者が中心となって結成された組織とはいえ、その中には能力を持たないチンピラも多く存在している。
超能力者への対応を訓練し、発砲許可を持っている特殊部隊が相手では、勝てるはずがない。
あっという間に1階を制圧していく様子を、チミー達はぼーっと眺めているだけだった。
感覚的には、ほんの数分もかからなかったように感じる。
チンピラ達を拘束し、その数を数えていたその時だった。
「ッッッ!?」
突然館内が揺れ、岩が落ちてきたかのような巨大な破砕音と共に、天井の一部が勢いよく崩れた。
その破砕音を辿り、警察隊がバッと後ろを振り返る。
立派なリーゼントで整えられた髪、筋骨隆々の身体、太い腕。
タバコをくわえている顎には無精髭が生え揃っており、荒々しい性格が滲み出ている。
そしてその背中には、並の人間よりも大きな大剣。
明らかに他の連中とは違う雰囲気を放つ男が、砂埃と共に瓦礫に片脚を乗せて立っていた。
「俺の仲間達をいじめるのは、そこまでだぜ。」
瓦礫から片足を下ろし、不敵な笑みを放って背中の大剣を持ち上げた。
「俺の名は龍豪寺元、24歳!好きな食べ物は、ハンバーグだ!推して、参るぜ! 」
龍豪寺と名乗ったその男は大剣を構えると、警察隊の一団に向かって脚を踏み出し、大剣を大きく振りかぶる。
床のタイルがまるで発泡スチロール材のように軽々と砕けた。
鈍器のように大剣を叩きつけた衝撃だけで、ビリビリと空気が震える。
「オラオラァ!!」
龍豪寺はさらに足を前に出し、大剣を持つ腕に再び力を加えた。
あの巨大な剣をまともに食らうのは、絶対に危険だ。
その時。
龍豪寺の上腕に、一筋の赤い線が走った。
「お?」
龍豪寺の上腕を斬ったのは、白銀の剣。
そしてその剣を握っていたライカが、龍豪寺の前に立っていた。
大剣の一振りを弾き、素早く大剣の範囲外に飛び退いてライカが構える。
「私が、この人の相手をします!皆さんは、上の階に。」
「お、いいぜ?さっさと倒して追っかけるだけだからよ。」
ライカを残し、一行は2階へ登る。
階段を駆け上がって行ったのを確認したライカが、再び前を向いた。
龍豪寺はその黒光りするリーゼントを整えながら、大剣を構える。
「んじゃ、準備はいいか?」
「ええ、いつでも。」
先に動き出したのは龍豪寺。
先ほどとは違う、柄を胸に引き寄せた構え方。
ライカは足を開いて水平に剣を握り、防御姿勢を取る。
「しゃあ!」
先ほどの大振りな動きとは異なり、放たれたのは素早い斬撃。
一発受け止めただけで、手が痺れそうになるくらい重い。
しかし、龍豪寺は容赦しない。
流れるような動きで斬撃を次々に繰り出していく。
この重い剣を受け切るのは難しいと判断したライカは剣から片手を離し、魔術を編んだ。
「自然錬成系魔術『爆波』ッ!」
手のひらに生成されたソフトボール大の火球を龍豪寺の顔面に向かって振り放つ。
着弾と共に、いくつもの小さな爆発が連鎖的に発生した。
「はぁっ!」
至近距離から爆破され、怯んだところを.....
しかし、ライカの剣は軽々と弾かれてしまう。
龍豪寺は全くの無傷。
爆発に怯んですらいなかったのだ。
剣を弾かれがら空きになった懐に龍豪寺の前蹴りが入り、後方へ吹き飛ばされてしまう。
「なっ.....。」
「至近距離で爆発したのにどうして無傷?って顔してんなぁ。いいぜ、教えてやるよ。分かった所で対処できる能力じゃねぇからな。」
龍豪寺はそう言うと、大剣は肩に担いだままでもう片方の手を腰に当て、胸を張って自身の能力を叫んだ。
「俺の能力だ。『あらゆる攻撃が効かない能力』.....『向かうところ敵なし』!!それが、俺の能力さ!」
龍豪寺はそう言って高笑いを上げる。
彼の言っている事が本当なら、あらゆる攻撃が効かない...確かに『向かうところ敵なし』の能力だ。




