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まるで祭りだな。

キョトンとした表情のライカに、団長が補足説明を加える。


「確かにライカは騎士見習いから1人の騎士となった。だが、いかんせん実戦経験が無い。」


確かに、ライカは1人前の騎士に昇格してから一度も実戦経験をしたことが無い。

ギルガンが出現しても、他の騎士達に先を越される始末だ。


「いずれ危険な目に遭ってしまった時にきちんと対応できるかどうかを、私が実戦によって判断するということだよ。.....というわけで1時間後、中央広場へ来なさい。そこで、決めるとしよう。」

「1時間後!?そんな急になんて.....」

「実戦に、準備の時間なんてものは無いんだぞ。1時間なんて、むしろ贅沢な方だ。」


なんとなくで相談したつもりだったのに、いきなり実戦とは。

しかし上手く団長に言いくるめられたライカに、戦う以外の選択肢は無かった。




そして、1時間が経つ。


1時間後、教会の麓の街にある中央広場に、かなりの数の騎士達が集結していた。

その中にはシスニルさんやモミジさん、他にも見た事のある騎士達が混じっていた。

周辺の人々も、一体何が起こるのか気になっている様子。


「ほえ〜、すっごい数。」

「まるで祭りだな。」

「ワクワクする!」


そんな騎士達に紛れて広場に訪れていたチミー達3人は、いい感じの見物場所を見つけて陣取っていた。

近くの露店で売っていたバニラシェイクを飲みながら、チミーは広場の中心部を眺める。


騎士達が円を作って出来上がった舞台(リング)には、ライカと団長の2人が立っていた。

団長が、ルールを説明する。


「私に一撃でも当てられればライカの勝利。逆に私に十発当てられた時点で私の勝利となる。審判はゴエリアに務めてもらう。」

「よろしくお願いします。」


団長の言葉と共に、円の先頭に立っていた大柄の騎士ゴエリアが1歩前に出て、両者に挨拶をする。


「もし、負けた場合は?」

「何だ、不安か?」

「.....いえ!」


団長の言葉に、キッパリと言い返したライカ。

兜を被り、剣を構える。

その意思に応えるように、団長も兜を被って剣を抜いた。


「始まるよ!」


深緑色の鎧を揺らしながら、ゴエリアが両者の近くに歩み寄っていた。

二人を交互に見比べ、尋ねる。


「双方、準備はよろしいか?」


その言葉に対し、二人はほぼ同時に頷く。

呼応する形でゴエリアが頷き、腕を高く掲げて息を大きく吸った。

いよいよ試合が始まる。



「それでは。始め!!!」



大きな声と共に、ゴエリアの腕が振り下ろされた。



様子を見るためじっとしていたライカへ不意打ちを仕掛けるように、団長が勢いよく地を蹴って動き出した。

数メートル離れた距離を一呼吸もせぬ間に詰め、ライカの左側に剣を振り下ろす。


「っ!?」


ライカは咄嗟に自身の剣を構えて受け止めるが、団長は瞬時に剣を引き、ぐるりと1回転して反対側から遠心力のかかった剣を放つ。

目にも止まらぬ素早い動きと、重い一撃。

ライカは何とか剣を反対側へ構えてガードしたものの、衝撃に耐えきれず弾き飛ばされてしまう。


下向きに弾かれ、団長はガラ空きになったライカの肩部分を、ノックするかのように軽く剣で叩いた。

挨拶代わりといった様子で、まだまだ余裕の表情である。


「ひとつ!」


ゴエリアが叫ぶ。

ライカは不安気な表情を強めながらも気持ちを落ち着かせるように呼吸し、剣を切り返して一度団長から距離を取った。


「賢明だな。引きの判断は、重要だ。」


団長は剣を構え直し、ライカの行動を評価する。

しかし、団長に勝てなければ意味がない。


地面を思い切り蹴り、突撃。

団長は動かず、その場で迎撃しようと剣を横に構えた。

ライカは走りながら剣を片手持ちに変え、もう片方の手で魔術を編む。


「身体強化系魔術『疾速旋(フィロック)』!」


団長の目の前まで迫ってきたところで、ライカが音を立てて消滅。

直後、団長は前方から視線を逸らして身体を半歩ずらし、剣を後ろに振った。


金属同士がぶつかり合う音。

ライカは魔術による高速移動で団長の背後に回っており、間一髪のところで団長が防いだのだ。

ライカは団長と鍔迫り合いをした状態のまま、地を蹴って自身の身体のみを少し飛び上がらせる。


その後空中で身体を捻り、剣ごと半回転。

ライカの体重を合わせた重さで、のしかかるように上から圧をかけていた剣。

それが回転することで重心が少し移り、伴って団長の剣が少し揺れた。


その隙を見つけたライカは空中で腕を素早く振り、団長の剣を退ける。

着地と同時に放たれた突きをバックステップで素早く回避し、団長は低い姿勢から横薙ぎを繰り出した。


ライカは横薙ぎを剣で受け止める。

しかし、腰を落として力強く放たれた横薙ぎに一瞬力の意識が持って行かれてしまう。


それを逃さなかった団長は素早く剣を引き戻し、ライカの反対側の肩部分へと振り下ろした。

寸でのところでガードが間に合わず、金属の揺れる感覚と甲高い音で直撃を認識。


「ふたつ!」


2発目を当てたにも関わらず、団長の攻撃は容赦がない。

素早い突きを繰り出し、ライカの後退を許さない動きだ。


ライカは剣をうまく捌いて突きの軌道を逸らしていくが、団長は突きに紛れてタックルを放ち、ライカを後方へと突き飛ばした。


「くっ....」


団長の追撃は止まらない。

休む暇もなく団長が距離を詰め、斜め下から切り上げるように剣を握る。


剣を縦に構えて防御。

剣と剣とが触れ合う刹那に、反対側へ向かって団長が足を踏み込んだ。


一気にライカの横方向へ半身を移動させ、踏み出した足を軸に回転。

その遠心力を利用した一撃を、ライカは足を引いて素早く剣を引き込むことでガードした。


切り返し、追加で2発ほど放たれた剣を弾く。

すると突然、団長が姿勢を大きく下げた。


(下段.....!)


さらに足を引き、重心を下げることで団長の攻撃に対応しようとするも、それこそ団長の思う壺だった。


「甘いな。」


ライカの顔面に向かって放たれた、弾丸の如く鋭い突き。

咄嗟に頭を振って直撃を避けるが、あまりにも重心を傾けすぎた。


剣から離していた左手でライカの籠手を掴み、素早く引いた右手に握られた剣で右肩を叩く。

バランスを崩し、掴まれた右腕が邪魔になって左手による防御を封じられる、回避不能の一撃だった。


「みっつ!」


左脚で団長の胸部を蹴り上げる事で拘束から抜け出したライカ。

しかし、顔の見えない兜越しでもその消耗は見て取れるほどだ。

一方で、団長には呼吸の乱れが見当たらない。


体制を立て直す暇も無く、繰り出された連撃を何とか受け止めていく。

が、次第にバランスを崩していき、徐々に出来上がった綻びを狙われさらに一撃を受けてしまった。


「よっつ!」


黙って観戦していた二坂が、急に口を開いた。

他人にあまり興味の無い奴だが、血の気の多い性格なためなんだかんだ戦いを見るのは好きなのだろう。


「おいおい、全然ダメじゃねーか。フィジカルでも技術でも、完全にあっちのオッサンが上をいってる。」

「確かにその通り。けど一つだけ、ライカには勝ち目のある要素がある。」


二坂の言葉に返したのは、チミーでもユウリでもない第三者。

チミーはその声に聞き覚えがあった。

振り返ると、そこには1人の騎士が立っていた。

顔は兜で隠れているが、すぐにその正体に気付く。


「.....シスニルさん?」

「やぁ、染口さん。久しぶりだね。」


ライカと団長が打ち合い金属の音が鳴り響く中、シスニルは3人の隣に並び、先程の言葉の意味を説明し始めた。


「実は団長、魔術が苦手なんだ。かなり頑張ってはいるんだけど、どうしても合わないらしくってさ。だからライカが差を付けられるとすれば、そこかな。」

「確かに、あのおじさんはさっきから魔術みたいなの使ってないね。」

「一応、身体強化魔術を自身に付与してはいるんだよ。逆に言うと、できるのはそのくらいしかない。」


ユウリにそう返した後、シスニルは前方を指さした。


「それより、気付いてる?」

「何がですか?」


チミーはシスニルの問いに聞き返した後、彼が指さした先......団長とライカが戦う舞台(リング)を見る。

先ほどまで気付かなかったが、よく見ると円の中心付近にエネルギー反応が現れていた。


あれは一体?


「円の中の地面に対して、何か術式を組み立てているみたい。団長もそれに気づいてはいるようだけど、どんな術式かは僕達にも分からない。」


そう思えば、ライカは団長とギリギリの打ち合いを続けながら時折隙をついて地面に手を着き、少しずつ何かを描いている。


「.....そろそろ仕掛けるね。」


ライカが団長の一撃を剣で素早く流し、バックステップで背後に下がる。

団長が接近するより早く地面に手を着き、詠唱を開始した。


「属性変化系魔術....!『岩換銀鉄磁(ゴ・ランドル)』!!!」


ライカが少しずつ、地面に張っていた巨大な術式が発動した。


自身の足下の地面が隆起し始め、噴水のように勢い良く上へとライカを押し上げた。


「ほう.....?」


手前で足を止めた団長は力を抜き、どんどんと高く上っていくライカを興味深そうに眺めている。

ライカは下を見下ろし、一瞬躊躇した後に飛び降りた。


「やぁぁっ!!」


数メートルほどの高さから下にいる団長へ向かっての落下。

その手には剣が構えられており、団長も迎撃体制を取った。


ライカの剣が団長の剣と激突する直前、ライカは剣を持っていない右手を団長の顔に向かって伸ばし、素早く術式を発動する。


「自然錬成系魔術『崩霧煙(フィンダム)』!」


ライカと団長との間に、弾けるように大きな煙が巻き起こった。

生成したのは簡易的で小さな雲だが、濃度の高いその雲は、目くらましにするなら十分。


「ふむ...!自然錬成系魔術『波疾辿(ディアルト)』!」


団長は剣を上方向に構えたまま、術式を唱えた。

生成したのはほんの僅かな空気。

ライカの生成した雲を押し退け、降ってきたライカの剣を容易く受け止める。


しかし、その剣はあまりにも軽かった。


雲が完全に晴れると、そこにライカの姿は無かった。

当の本人は、既に団長の背後に回っていたのだ。


「属性変化系魔術『泥物化(ディオルング)』!」


団長が振り向くと同時にライカが素早く詠唱すると、先ほど迎撃された無人の剣が泥へと変化し、そのまま重力に従って団長の剣へにまとわりつく。

そしてさらに追加での詠唱。


「属性変化系魔術『槌還金(バゼウラ)』!!!」


団長の剣がライカに到達する直前。

まとわりついていた泥状が音を立て、金属へと変化した。


「なにっ.....!?」


変換先は、タングステン。

通常の鉄の倍以上の重さを誇るタングステンへと変化した泥によって、剣に急激なの重量の変化が生じてしまった。


突然の出来事に、団長は思わず剣を地面に下げてしまう。

最後にして最大のチャンスを、ライカは逃さなかった。


「自然錬成系魔術『氷刃斬(ジィアング)』!!!」


剣を泥化させ、素手の状態だったライカが腰だめに右手を構えると、空気中の水分が集まり、手のひらに氷の剣が生成されていく。

両手でそれを握り、団長へ振りかざした。


「はあぁぁぁぁっっ!!!」


カァン、という甲高い音。


それと共に、団長の鎧が一瞬揺れた。









「一本!!!!」



審判役の騎士ゴエリアが、腕を高く掲げ大きく叫んだ。

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