少し探して欲しい人物がいる
山瀬が口にした『煙星』という組織。
当然三人は知らない。
なので山瀬が、事細かく説明してくれた。
『煙星』は超能力者を中心とした組織だ。
超能力者は文字通り人智を越えた力を持つ。
能力次第ではそれこそチミーのような、無限の可能性を秘めたものだって珍しくはない。
そんな能力を持っていると分かれば当然、自分の欲の向くままに能力を使う者もいるだろう。
しかし、単独で動けば即座に警察が総動員されて逮捕される。
だったら、集団で動けばいい。
そうやってあちこちで超能力者を中心とした集団が出来上がり、悪事を働いていく。
その中でも特に力を持っているのが『煙星』というグループだという。
主に行っているのは不正品の販売やこの国で禁止されている武器などを始めとした密売。
暴力や強盗など証拠が残りやすく検挙されやすいものではないため、なかなか手が出しづらいといった状況だった。
しかし、前述の『品物』を『煙星』が手にしたという情報を手に入れる事に成功する。
正直、『煙星』の存在は下位の超能力者組織の悪事を牽制する効果があったためあえて放置していたが、『品物』が絡むとなると話は別だ、と山瀬は語った。
「さらにその『煙星』ってのは最大級の組織と呼ばれるぐらいだから、かなり戦力がある。」
「それで俺達を戦力として呼び出した、ってとこか?」
「そういうことだ。情けない話だがな.....。」
超能力者が出現し始めたのはギルガンがこの星に現れてからで、ギルガンがこの星に現れたのはほんの二十数年前。
すなわち、超能力者は二十代前半より若い人間しか存在しない。
警察だって、若い超能力者に危険な事で頼るわけにはいかない。
しかし超能力者を倒すためには、どうしても超能力者が必要なのだ。
「本当に申し訳ない。けど、君達の力が必要なんだ。君達3人で、ここに『チーム』を結成してほしい。」
そう言った山瀬は、警察署の偉い人とは思えないくらい深く頭を下げる。
『チーム』を結成してほしい、という事は今回以外にも、何かあれば協力して欲しいという意思があるのだろう。
普通の人であれば速攻で断るような案件だが、チミーは違った。
「私は.....協力するよ。」
『マスク』に関して、知らない情報がほとんどだ。
警察に協力するということは、逆に警察に協力してもらえる可能性があるという事。
彼らの持つ情報網は、きっと役に立つだろう。
チミーはそう考えたのだ。
そんなチミーの言葉に便乗するように、二坂も同意の意を示す。
「俺も、協力するぜ。警察サマの名の下に、合法的に人を殴れるなんてサイコーじゃねぇか?」
「まぁ間違ってはないが、間違ってるな.....。」
不純すぎる二坂の協力理由に若干引きつつも、山瀬は協力してもらえる事に安心の息を吐く。
そして3人目、ユウリ。
彼女も、警察に協力する気だった。
先ほどまでの無邪気な表情は一変、神妙な顔で頷く。
「私も....やります。今まで助けてもらった警察さん達に、恩を返したい!」
話によるとユウリは『ヌーベル』という理由で家族から虐待を受けていたそうだ。
そこを助け、さらに育ててくれたのは警察達だという。
『ヌーベル』は超能力者同様、以前は異種族として差別され、虐げられてきた。
そんな子供達を守るため、専用の施設を署内に用意している警察署も、複数あるらしい。
3人共に同意を得る事ができた山瀬は、口を固く結んで力強く頷いた。
「本当に、ありがとう。」
こつん。こつん。
薄暗い建物の中、硬い靴の音が響く。
「ここに来るなんて珍しいねディーン....おや?以前の君とは少し違うようだけど。」
車椅子に座った眼鏡の青年.....『神の目』が、来訪者の姿を見て変化を見抜く。
訪れたディーンは以前に比べ姿こそ変わらないものの、体から放つ強力な覇気が感じられる。
鋭い目つきに、『神の目』が思わず車椅子を後退させるほどだった。
「久しぶりだな。...『主』を喰らったんだ。俺はもう眷属じゃねぇ。正真正銘、本物の吸血鬼だ。」
「やっと、成し遂げたんだな。」
「あぁ。」
『神の目』の労いの言葉を噛みしめるように、ディーンは震えた声で返事をする。
「それはよかった。.....で、何か用があって来たんじゃないのか?」
単なる報告だけのためにこの『鏡町』に来るような奴ではない。
そう考えていた『神の目』だったが、その予想は的中していた。
「少し探して欲しい人物がいる。」
「ほう?」
言った後、ディーンは一度唾を飲み込んでからその名を口にした。
「『染口チミー』を探しちゃくれねぇか。」
山瀬の頼みによって『チーム』となったチミー、二坂、ユウリの3人。
山瀬は改めて礼を言った。
「ほんと、助かるよ。他にも人がいればいいんだが、戦闘経験のある若者なんてそうそういないからな.....」
そりゃあそうだ。
喧嘩っ早い二坂や何でも能力で解決できるチミーが異常なだけで、たとえ超能力者だろうと争いを避ける者は多い。
だがチミーには1人だけ、心当たりがあった。
戦闘経験のある者を。
チミー、ユウリ、二坂の3人はとある場所に立っていた。
地面が鏡のように反射している町.....そう、『鏡町』だ。
「テレビで見た事はあるが、ホントに鏡みてーになってんだな。」
「どうなってるんだろ?」
鏡の地面に興味津々な二坂とユウリを横目に、チミーは久しぶりに訪れた鏡町を見てどこか懐かしさを覚えた。
通りがかった騎士がチミーの姿を見て道案内を申し出てきたが、丁寧に断った。
前に来た時は道を知らなかったため案内してもらったが、今回は知っているため『永遠なる供給源エターナル・エンジン』でひとっ飛びだ。
二坂とユウリはチミーの能力によって吹き飛ばされ、瞬時に教会までたどり着いた。
ユウリと二坂の2人は目の前にそびえる巨大な建物を見上げる。
「相変わらずめちゃくちゃだな.....。」
「この距離を歩いてくるよりはマシでしょ?」
吹き飛ばされた2人を追うように飛行してきたチミーがふわりと着地。
庭を歩いていたちょび髭の騎士.....以前シスニル達が団長と呼んでいた男性が、そんな3人に気が付いた。
「いらっしゃい.....おや君は、以前にも会ったかな?」
「まぁ〜.....はい。ライカちゃんはいますか?」
「ああ。ライカならあっちのほうで休憩していたよ。」
「ありがとうございます。」
団長に礼を述べた後、彼が指さした方向へ歩き始めるチミー。
あちこちを眺めていた2人も、チミーの背中について行く。
奥に置かれてある噴水のそばにあるベンチで、鎧に身を包んだライカが昼食のサンドイッチをつまんでいるのが見えた。
「ライカちゃん!」
チミーが呼びかけると、ライカはチミーの存在に気づき、驚いた様子でサンドイッチを飲み込んだ。
「あ、チミーさん。久しぶりですね?そちらのお二方は初めましてですね。私、ライカといいます。よろしくお願いします。」
「初めまして!」
ライカの丁寧な挨拶に対し、ユウリはフレンドリーな挨拶を返した。
3人の姿を確認した後、ライカは早速疑問をチミーに向ける。
「また、『神の目』さんに用があって来たのですか?」
「いや、今回はライカちゃんに用があって来たんだ。受けてくれるかどうかは分からないけど....」
チミーはそう前置きをした後、ライカにこれまでの経緯.....『チーム』のことを簡単に話した。
ライカはチミーの話を真剣に聞いた後、静かに頷く。
「なるほど。確かに、興味はありますね。」
「ほんとに!?」
「この前試験を合格して無事騎士見習いから騎士に昇格したんですよ。なのでこれから外に出て修行しようかなと思っていたところでしたし。...ちょっと団長に聞いてみますね!」
そう言ってライカは団長を探しに庭を駆け出していく。
ライカはあの事件の後、頼ってばかりの自分を変えようと努力を続け、騎士の試験に合格することができたという。
確かに走っている姿だけでも、どこかたくましさが感じられる。
団長はすぐ近くにいたようで、団長とライカが会話をしながらチミー達の元へ戻ってきた。ライカの説明が一段落終えたようで、団長が口を開く。
「つまりその『チーム』とやらにライカが加入し、警察と協力すると言うわけかな?」
「はい。良いでしょうか.....?」
「構わんよ、全然。」
神妙な顔をしているように見えたが、団長は即答だった。
ここまでスムーズにいくとは思っていなかったので、チミー達も少し驚いた様子で二人を見ている。
「だが、一つだけ...」
団長は何か企んでいるように目を細めた後、人差し指を立ててたった一つの条件を告げた。
「ライカ。君がひとつ、私と戦ってからだ。」
「え?」
団長が提示した条件.....それは、『団長と一戦交えること』だった。




