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私、強いから

 この学校で一番強い奴。

 最初は驚いたものの、その質問はここでは然程さほど珍しくない。


 何せ一般人より明らかに突出した力を持つ、高校生達の集まりだ。

 自分の力を誇示しようとケンカの強さを気にする者は少なくない。


 しかし、線の細い女生徒であるチミーからその質問が出た事には驚いた。しかも転校初日で、ケンカよりも優先すべき事が沢山ある状況の中で、である。


 「なんでだ?」


 普段は他人の事情に首を突っ込まないタイプだが、そんな扇輝も驚きのあまりつい理由を聞いてしまった。

 扇輝の質問に、チミーは素直に答える。

 

 「私、ある能力者を探してるの。けど他人の能力なんて、詳しい人少ないでしょ?」


 チミーの言う通り、超能力者は基本的に他人に能力を明かす事はあまりない。

 理由は単純、何が起きるか分からないからだ。

 

 妙な奴に目を付けられても困るし、その能力に圧倒的な自信でも無い限り、最低限の情報のみを明かす程度で済ませる生徒がほとんどだ。

 扇輝はチミーに自身の能力をあっさりと明かしたが、これには理由が存在するからで、普通ならまずあり得ない事である。


 そんな状況の中で、最も情報を持っているのは誰か?

 その答えは、『ケンカの強い者』なのである。


 超能力者同士のケンカは壮絶だ。

 一歩間違えれば大事件を起こせる程の能力を、全力でぶつけ合うのだから。

 そう、『全力で』である。


 出し惜しみなく能力を使うため、その手の内が晒されやすいのだ。

 つまり一番腕っぷしの強く場数を踏んだ者がいれば、情報は自然とそいつに集まっていく。

 

 そんなチミーの考えを理解した扇柳は少し考えを巡らせた後、『この学校で一番強い奴』の候補として浮かんだ人物の名を挙げた。


 「一番かどうかは分からないけど、よく知られているのは・・・・・・『二坂にさか 吾郎ごろう』かな。」


 扇輝はその名を口にした後、周囲を少しだけ確認する。

 チミー以外に誰も居ないことを確認した後、話を再開した。

 

 二坂吾郎。

 気性が荒く、よくケンカを起こしている典型的な問題児で、よく誰々が二坂にやられたなんて話が流れてくるようなちょっとした有名人である。

 そこまで喧嘩っ早いのは、彼の持つ『能力』があまりにも強いから。教師陣でも手を焼くほど、危険な能力なのだ。


「ふーん。じゃあ、その二坂ゴローって奴がこの学校で一番強いのね?」

「俺の知ってる中では、ね」


 その情報にある程度の自信はある、といった様子の扇輝を見たチミーは、理解したように小さく頷いた。


「ふーん。分かった、ありがとね」


 チミーは感謝を述べながらパンの袋をポケットに突っ込み、扇輝の横を通って校舎に戻ろうとする。

 しかし、教師陣でさえ手を焼いている二坂の元へ彼女が一人で行くのは危険だ。


「ただ、会うのはおすすめしないぞ」


 かなりマイルドな表現に変えてはいるが、その真意は『会ってはいけない』なのだろう。

 だがそんな扇輝の心配など気にする様子もなく、チミーは彼の方を振り返って薄い笑みを作った。

 

「大ー丈夫。私、強いから」


 そう言い残すと、チミーはさっさとその場を離れてしまった。

 えらく自信のある様子だったが、大丈夫だろうか。

 扇輝は少しだけ不安を抱えながら、教室まで戻るべく踵を返した。




 

 放課後のチャイムが鳴り、生徒達が続々と外へ出ていく音が聞こえる。

 そんな音が僅かに響いてくる中、カメラの届かない旧校舎の裏で、寝転がりながら携帯ゲーム端末を操作している男の姿があった。


 その耳に草を踏む音が聞こえ、男はゆっくりと音のした方向を振り向く。


「探したわよ、なんとかゴロー」


 視線の先に立っていたのは、四角いゴーグルを装着した女生徒・・・・チミーだった。

 

 だがその男・・・・二坂はいきなり現れた彼女をちらりと見ただけで、すぐに視線をゲーム端末へ戻す。

 そんな彼の態度にへの字口になりながらも、チミーは彼に要件を尋ねた。


「ある人を探してるんだけど。この学校に、『熱』を操る能力者っている?」

「知らねー」


 二坂はゲーム端末に顔を向けたまま、考えるのが億劫なのか即答で言葉を返した。

 その態度に拳を軽く握り締めるも、チミーはめげずに次の質問を投げる。


 「じゃあ、『火を起こす』能力者とかは?」

 「知らねー」


 またもや即答。


 「話聞いてる?」

 「知らねー」


 ついには返事になっていない、適当すぎる返事が返ってくる。どうやら最初からチミーの話を聞いてすらいなかったようだ。

 そんな舐め切った二坂の態度に腹を立てたチミーは、最後の手段に出る。


「あー・・・・・・オッケーオッケー。ごめんね?難しかったよね、バカにお話は」


 チミーの口から放たれた罵詈雑言に、ゲーム機を操作している二坂の手がピタリと停止した。

 彼の反応を見た彼女はニヤリと笑みを浮かべ、わざとらしく言葉を継いでいく。


「ま、しょうがないか~。なんとかゴローは女子1人ともお話ができない臆病者だって、皆へ言いに行こうかな!」

 

 そう明るく言うと、チミーはわざとらしく足音を立ててその場から離れ始めた。

 だが彼女が先ほど行った挑発を、二坂が許すはずがない。


「おい、待て」


 喧嘩の腕に自信のある者にとって、『舐められる』のは最大の屈辱である。

 二坂は端末の電源をブツリと切った後、起き上がってチミーの方へ振り返った。


「お前、俺の事を知らねぇみたいだな?」


 燃えるように逆立つ白髪に、大きな三白眼を貼り付けた威圧的な顔がチミーを睨む。

 二坂に呼び止められて振り返ったチミーは肩をすくめ、馬鹿にしたように言葉を返した。

 

「そりゃあ、初対面だし」

「あんまり調子に乗ってると、殴るぞ?」


 隆々とした拳を見せて脅しをかける二坂だったが、チミーに臆する様子は全くとしてない。

 それどころか、彼の闘争本能に油を注ぐような態度を取った。


「殴れるもんなら殴ってみなよ。アンタには無理だと思うけど?」


 その言葉を火種として、二坂の中で何かが切れる音がする。

 次の瞬間、二坂が地面を蹴った。


「『消し去るもの(デリーター)』ッ!!」

 

 チミーに向かって一直線に走りながら、二坂が能力を発動する。

 彼は自身の能力『消し去るもの(デリーター)』によって、常人ではあり得ないスピードでチミーの前まで接近した。


「へぇ、早いね。」


 こちらに向かって振り上げられた拳を眺めながら、チミーは呑気にその感想を述べている。

 その後、チミーは二坂に向かって開いた手を向け、左側へ思い切り振り払った。


「!?」

 

 真っ直ぐに走っていた二坂の体が急に傾き、チミーが手を振った方向と同じ方向へ引っ張られる。

 巨人に腕を引かれたかと錯覚するほど凄まじい引力によって近くに設置されていた倉庫へ激突し、激しい土煙が上がった。


「早いけど、私には届かないかな」


 へこんだ倉庫に埋もれる二坂の姿を見て、チミーがニヤニヤと笑みを浮かべている。

 そう。もうお分かりかもしれないが……


 彼女の『能力』は、尋常ではないほどに強いのだ。

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