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お前こそ何やってんだ?

「この時をずっと待っていたんだよ。ずっとな。」

「なん...だと.....?」


今まで自身の『眷属』として自分に従ってきたディーンが、自分の命令を拒否。

突然牙をむいた彼に、吸血鬼の男は困惑の表情を浮かべる。


「あの女の子...名前は知らねぇが、感謝するぜ。『眷属』は決して『親』には勝てない。だから、外部の者に倒してもらう必要があった。」


ディーンはそのダルマのように丸く巨大な図体を屈め、地を這う吸血鬼を嘲笑うかのように覗き込んだ。

その表情に、吸血鬼の背筋に悪寒が走る。


「ざまあねぇなぁ。....ようやくテメーを殺せる。」

「どういうことだ...?」

「あ?」


困惑した吸血鬼の言葉が癪に触ったのか、ディーンは這いつくばっている吸血鬼の横腹に、力強い蹴りをお見舞する。


『眷属』とはいえディーンの持つパワーは強力だ。

弱った肉体に刺さった蹴りに、思わず咳き込む吸血鬼。


吸血鬼と一緒に日に照らされ、少しずつ皮が焦げている事など気にする様子もなく、ディーンは怒鳴り散らす。


「忘れたとは言わせねぇぞ!テメーがどうやって俺らを『眷属』にしたか!」


ディーンは山の奥にある小さな集落で生まれた、ごく普通の人間だった。

裕福では無かったが食べるものには困らず貧乏でも無い、至って普通の暮らしだった。

だがそんな『普通』の暮らしは、ある日を境に『普通』では無くなってしまったのだ。


「カート...テメーは自分の『娯楽』のためだけに村の皆を殺した!そして生き残った俺達を『眷属』にした.....。覚えてるよな?」


カートと呼ばれた吸血鬼はディーンの顔を見上げながら、ディーンが本気で自身に殺意を向けている事にようやく気付いた。

今すぐ逃げなければ、と這いつくばった状態で手を動かすも、ディーンが足で背中を押さえつけているため身動きが取れない。

ディーンの話は、まだ続く。


「そして俺以外の『眷属』も死に、俺だけが生き残った。俺はずっとお前を殺す計画を考えていたが、俺だけでは力不足だった。外部の者を頼る必要があった。少し予定とは違ったが、ようやくツキが回ってきたんだ。」

「俺を殺したいんだろう?だったらさっさと殺すんだな。所詮は田舎のクソ餓鬼、『眷属』として扱うには荒馬すぎたということか。」


捨て台詞のように吐かれたカートの煽りに、ディーンは乗らなかった。

落ち着いて見下し続けるその様子に、カートは悔しげな歯ぎしりを立てる。


「確かに俺はお前を殺す。だが、『テメーの力を奪ってから』だ。」

「なんだと?」

「テメーの血を吸うことで俺は『親』であるお前の力.....『本当の吸血鬼』の力を奪える。残ったテメーは吸血鬼ですらねぇ、ただの絞りカスとして死ね。」


そう言い放ち、ディーンはカートの首を掴んで持ち上げた後、ずらりと並んだ鋭い牙を見せる。

一拍置き、首筋に向かって勢いよく齧り付いた。


「──────ッッッ!!!!!」


異物が食い込んでくる感覚。

血液がとめどなく溢れ出していく感覚。

カートは背を反らせ、激しく痙攣を起こした。


首を中心に身体から血管が浮かび上がり、やがて細くなって消える。

吸血鬼の力を奪われたカートはミイラのような哀れな姿となり、ボロボロと灰のように崩れていった。


日光に背を焼かれながらも、ディーンはカートが消えゆく様子を最後まで眺めていた。







下水道から上がってきた下風と結に駆け寄るチミー。

吸血鬼を撃破し、下風はホッとした表情を浮かべているものの、目的であったディーンについて一切情報を得られなかった事に複雑な影を抱いている。


「『親』のいない『眷属』は少し身体脳力が高めなくらいで後は人間とほぼ一緒。『吸血鬼の王』では恐らく、探知の範囲外だ。」


振り出しに戻った、という訳か。

チミーは思わずため息を吐きそうになったが、そんな事をしても事態は動かない。

また別の作戦を考えないといけないな。

ため息を呑み込み、チミーは空を見上げた。


『マスク』......アンタは一体、何者なの?」





吸血鬼退治から、数日後の事。

一段落つき、チミーはしばらく戦いのない日常を過ごしていた。


家でビデオゲームをしていると、突然携帯端末に着信が入る。

コントローラーから手が離せないチミーは横目で携帯端末を確認すると、そこには警察官、山瀬の電話番号が表示されていた。


「何?今忙しいんだけど。」


耳と肩に携帯端末を挟み、ゲームを続けながらチミーはぶっきらぼうに要件を聞く。


「悪いな。すぐ終わる話だ。」


内容は今度、再び警察署に来てほしいとのことだった。

色々話があるが、そこでまとめて伝えるとのこと。

要望通りすぐに話を終わらせてくれた。

なんだかんだ言って、山瀬はこういう配慮が上手い。


「それにしてもまた警察署に来てくれって...何か嫌な予感。」


チミーはゲームのコントローラーを操作しながら、口を曲げて小さく呟いた。






そして翌日。


警察署を訪れたチミーは、ある一室に案内された。

会議室を縮小したようなオフィス。

独特の清潔な匂いにくらりと頭をやられつつ、並べられてあった椅子へおもむろに座る。

チミーの体重に反応して傾く背もたれが心地良い。


山瀬は一体、何の用でここに呼び出したんだろうか?


考える間もなく、部屋の扉が開いた。


「あ?」

「へ?」


部屋を覗きこんだ人物とチミーとがお互いに困惑の声を上げる。

黒目がほとんどない大きな三白眼に、炎のように逆立った白髪。

部屋に現れたのは、チミーが今の学校に来てから最初に戦った元『校内最強』の男、二坂だった。


「何でここにいんのよ?」

「お前こそ何やってんだ?」


どうやら二坂も山瀬に呼ばれここに案内されたらしく、チミーと同じく詳細な話は聞いていないという。

二坂が扉を閉めたのとほぼ同時に、再び扉が開いた。


「お邪魔しまー.....ってあれ?」


明るい声を発しながら入ってきたのは、見知らぬ少女。

見たところチミー達と同じくらいの歳の女の子だが、一つだけ違う点があった。


耳が無く、代わりに頭の上に猫の耳のようなものが付いている。

そしてドアノブを掴んでいる手は毛むくじゃらで、太い指にピンク色の肉球が付いていた。

チミーはこの手の人種を知っている。


『ヌーベル』だ。


この星にギルガンが出現し、遺伝子に異変が起きて現れたのは超能力者だけではない。

まるで他の生物の機能を取り込んだような構造に変化した人間.....例えば彼女のように他の動物の耳が生えていたり、足裏が蹄のように硬くなったり、そんな人間達も出現したのだ。


そんな人達は新たな種族の生物として『ヌーベル』と誰かが名付け、人間と共存を果たしている。


目の前の彼女は部屋にいたチミーと二坂とを見比べ、口を開いた。


「山瀬さん、知らない?」


やはり彼女も山瀬によってここに案内されたらしい。

チミーが首を振ると、少女は「そっか。」と小声で返した後、自然な流れで手前にあった椅子に座った。


少しの静寂が過ぎた後、沈黙に耐え切れなかったのか獣耳の少女が口を開く。


「えっと.....私、ユウリっていうの!2人は何て呼べばいい?」

「私は染口チミー、チミーでいいよ。」

「.....。」


ユウリと名乗ったヌーベルの少女に対し、チミーが快く返事をした。

しかし二坂は目を瞑って壁にもたれかかり、うつむいている。

話を聞いていない様子にイラッときたチミーは二坂の髪を指さした後、思い切り手前に引いた。


ブチッ、と何かが千切れるような音が鳴り、二坂が一瞬で目を覚ます。

頭を押さえ、顔は瞬間的な苦痛に歪んでいた。

チミーは能力を使い、二坂の髪の毛を一本引き抜いたのだ。


「いっ.....!?」

「名前。その子...ユウリちゃんに教えてあげてよ。」

「理不尽すぎだろ....二坂吾郎。」


チミーを睨みつつも、半ば投げやりに自身の名を名乗った二坂。

2人の名前を聞けたユウリは、満開の笑顔を浮かべていた。


「じゃあチミーちゃんと、ゴローくんだね!」


無邪気さ全開の笑顔を見せられると、流石の二坂でも咎める気にならない。

そうこうしているうちに、山瀬が部屋に現れた。

入り口から一番遠い椅子に深く腰掛けていたチミが、腕を組みながら山瀬に尋ねる。


「これは、どういう事?」

「順を追って説明するよ。」


山瀬は扉を閉め、3人に集めた理由を説明し始めた。


「まず一つ。この間染口さんにも手伝ってもらった、危険な『品物』の行方が見つかったんだ。」

「私はそれで、また呼び出されたってわけね。」

「そしてもう一つ、その『品物』を現在持ってる奴らが、これまた面倒くさい連中なんだ。」


指を立て、嫌な顔を浮かべた山瀬はその名を口にする。


「『煙星』。そう名乗ってるチンピラ集団だ。」

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