助っ人?
下風や山瀬から散々警戒するように言われていた『吸血鬼の王』。
一筋縄ではいかないかと思っていたが、その返答はあっさりしたものだった。
「構わんよ。どんな奴じゃ?」
二つ返事で承諾した『王』に驚きながらも、チミーは以前出会った『マスク』と共に行動していた、大男の特徴を伝える。
「大柄で色黒の、筋肉質でダルマのような男か...」
チミーに情報を貰った『王』は何か思い出すかのように考え込む。
何人か候補が見つかったのか、あれでもないこれでもないとブツブツ独り言を呟いてる。
「この周辺の場所にいるのだと恐らくディーンじゃな。吸血鬼では無く、吸血鬼の『眷属』である男じゃ。」
「...『眷属』?」
新たな単語が飛び出してきたが、チミーには聞き覚えのある単語だったため、それなりに予想はついた。
その予想を確かめるため、チミーは『王』に問う。
「吸血鬼の手下か何かってこと?」
「まぁ『眷属』も吸血鬼である事には変わりは無いがの。純粋な吸血鬼よりは弱いというだけじゃ。」
そう言って『王』はチミーに、ディーンと呼んだ『眷属』の男の居場所を伝えた。
チミーは言われた情報を携帯端末で素早くメモし、ポケットに戻しながら『王』に聞く。
「ありがとう。ところでさ」
「うん?」
「何でそんなにあっさり教えてくれたの?ここに閉じ込められてる、って事は単なる善人なワケないと思うんだけど。」
正直、ここまであっさり教えてくれるとは思わなかった。
チミーはまだ、『王』を疑っている。
「くっくっくっくっく......」
しかし『王』はそんな疑いの視線を嘲笑するかのように、笑い声を上げた。
そして、回答する。
「なに、特に理由は無いさ。ただ『面白くなりそうだ』と思ったから教えたまでだ。ここで幽閉されている以上、外がどうなろうと関係無いしのう。」
「ホントに、それだけ?」
「吸血鬼は合理的な考えよりも、直感的に面白そうな方を優先する生き物なのじゃよ。人間には分からん感覚だろうが。」
半目でチミーの顔を眺めながら、『王』はそう答えた。
冗談めかして言ってはいるが、嘘はついてなさそうだ。
吸血鬼というものは、よく分からない。
「要件が済めば、早う帰ると良いぞ。あそこの男がイライラするからのう。」
そう言って下風を指さしながら笑う『王』。
やはりこの二人には、過去に何かあったのだろうか。
『王』のいる独房から退出し、階段を登る3人。
下風が、口を開いた。
「...もしかして、これから奴に言われた場所に行って、その吸血鬼と会うつもりだったりする?」
「はい。どうしても知りたい事があるので。」
チミーの素直な言葉に、階段を登りきった下風が呟くように言った。
「そう言うと思って、1人助っ人を呼んだんだ。さっきも言った通り、吸血鬼関係は何があるか分からないからね。」
吸血鬼の事を教えた自分にも責任があると感じていたのだろうか。
下風は、『王』がディーンと呼んでいた『吸血鬼の男』の元へ行くための、助っ人を呼んでいるのだという。
「助っ人?」
「うん。僕の知る限りでは最強クラスの魔法使いなんだ。『王』を捕獲する際、一番活躍した人なんだ。」
「へぇ....」
下風曰く、最強クラスの魔法使い。
そんな助っ人を呼んでくれるとは、正直心強い。
その人は既に、刑務所の外で待っているそうだ。
来た道を戻っていき、最初に入った大きな鉄格子の入口まで辿り着いた。
格子の隙間から、外で待っている1人の人影が見える。
鉄格子が開き、下風と山瀬の後について行く形で外へ出る。
外で待っていたその人は、出てきた3人の元へと駆け寄ってきた。
「初めまして、染口さん。」
おしとやかな雰囲気の、下風と同い年くらいの成人女性だった。
短めのローブを羽織り、つばの広いトリコーンを被ったその姿は、まるで童話に出てくる魔法使いのよう。
トリコーンから伸びる艷やかな黒髪からは、独特の気品が漂っていた。
「初めまして。えっと....」
「私の名前は小野 結。よろしくね。」
結と名乗った女性は片目を瞑り、にこやかに笑顔を作る。
その後、隣に立っていた下風を見た。
「結局、行くの?」
「あぁ。」
「おっけー。」
下風の返事に、結が軽く返事をする。
山瀬はこの後も用事が入っているようで、ここで別れると言い出した。
山瀬が抜け、ディーンという名の『吸血鬼の男』の元へ行くのは、チミーと下風と結の3人となる。
チミーが『王』に教えてもらった大まかな居場所を結に伝えると、その場所に心当たりがあるのか大きく頷いた。
「なるほど、その辺ね!じゃ、今から飛ぶよ?」
「...飛ぶ?」
チミーの疑問が結まで届くより先に、足元から吹き上げるような衝撃がチミーを襲う。
周囲は眩しく光り、足元の感覚が分からなくなってきた。
「うわぁぁああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」
虚空に吸い込まれるかのような感覚に、思わずチミーは声を上げる。
しかし、すぐに衝撃と眩しい光は元に戻った。目を開けると、そこは全く別の場所になっている。
「え....?」
「私の魔法だよ、転送魔法。」
何が起きたのか把握の追い付いていないチミーに、結が自身を軽く叩いてそう説明する。
どこかの山の麓に位置する林のようだ。
この辺りに『吸血鬼』がいるのだろうか。
「見つけたよ、多分ね。」
何かしらの能力を使ったのか、『吸血鬼』がいそうな場所を発見したと言う下風。
彼について行くと、斜面に面した大きなトンネルのような穴が空いていた。
トンネルから浅く水が流れているのを見るに、地下水道か何かだろうか。
「なんか、すっごいジメジメする....。」
水の跳ねる音を撒きながら、地下水道を歩いているチミーが呟いた。
巨大な水道内は湿った空気に覆われていて不清潔で、思わずチミーはしかめっ面をしてしまう。
「ホントにここにいるんですか....?」
「『吸血鬼』は強い紫外線、要は太陽光を嫌う。つまり日の当たらないどこかに身を隠しているわけで、この巨大な地下水道であれば移動も容易。住処にするなら絶好の場所だと思ったんだ。」
そう予想していた下風。
どうやらそれは、見事に的中していたようだ。
しばらく歩いていると、チミーが少し先に強力なエネルギー反応を探知した。
隣を歩いていた結も同じように気付いたらしく、表情が少し険しくなっている。
「この先にいるみたい。」
結は3つに分かれた下水道のうち右側の道を指さして下風に伝える。
チミーが探知したエネルギー反応も右側の道から来ているので、同じものを感じ取っているのだろう。
「...よし。僕達もいるけど、気を付けてね。」
下風はチミーにそう声をかけた後、右側の道をまっすぐに進み始めた。
しばらく歩いていると、広場のように開けた、貯水槽のような場所へ出る。
そこから1歩、下風が足を前に出した瞬間。
「何の用かな、人間。」
突然、その部屋に知らない声が響き渡る。
顔を上げると、正面の奥に、2つの影が座っているのが見えた。
先ほど声を発したと思われる方は何者か分からなかったが、後ろに立っていたもう1人の影には見覚えがあった。
そう、『マスク』と共に学校を襲撃した吸血鬼の男......ディーンである。




