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吸血鬼の王?

次の日。

長ったらしい授業が終わり、チミーは伸びをして教室を出る。

先日出会った謎の男はあの後、結局見つからずに終わった。

『品物』も男が別の人に渡した事で行方不明となったため、回収できず。


しかし昨日の警察、山瀬はチミーが協力してくれた事には変わりないからと、チミーの要望を聞いてくれる事になった。

これによって、『マスク』に近付くことができれば良いのだが。


「ふあぁ...マンガ買いに行こうかな」


夕方はつい眠くなってしまう。

自転車に跨りながら欠伸をし、独り言を呟いたその直後。

ポケットに入れていた携帯端末がバイブレーションで揺れる。

電話だ。


番号は、昨日教えてもらった山瀬のものだった。

サドルに深く体重を預け、電話を取った。


「はい?」

「あぁ、染口さん。昨日言っていたやつ、許可貰えたよ。」

「ありがとうございます。」

「いつでも行けるけど、どうする?」

「あぁー....」


マンガ本を買いに行く予定だったチミーは、電話越しに少し嫌な顔をする。

が、後回しにする方が面倒なので、今から行くと告げて山瀬の警察署へ行くことにした。


永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』によって一瞬で事務所の前に現れたチミーに、山瀬は驚きながらも出迎える。

そこには以前話を聞いた超能力の専門家、下風の姿もあった。


「久しぶり。」

「『奴』は何をしでかすか分からんからな。下風さんに同行をお願いしたんだ。」


チミーが山瀬に依頼した『協力』。

それは『吸血鬼の王』と呼ばれる男と面会する許可の申請である。


『吸血鬼の王』。それは以前、チミーに対して下風が口にした単語だった。


以前。

下風の事務所にて、『吸血鬼』に関する情報を見ているうちに、その情報がやたら詳しい事に気付いたチミーは、彼にそのことを聞いた。


「すごい情報量ですけど、どうやって手に入れたんですか?」

「幾つか吸血鬼は捕らえられた事例があってね。噂じゃ実験も行っていたとか。けど、ほとんどの情報は『吸血鬼の王』に教えてもらったかな。」

「『吸血鬼の王』?」


その名の通り、吸血鬼達の始祖である存在。

チミーがまだ孤児院で暮らしていた頃くらいの時に、地上に現れた『吸血鬼の王』が地上を吸血鬼の楽園にしようと画策した大事件を引き起こしたのだという。


現在はとある刑務所の地下深くで捕らえられており、面会はほぼ不可能。

警察の許可がなければできない、との事だった。


その話を覚えていたチミーは先日、山瀬に面会の許可をお願いしたのだ。

下風は少しだけ、心配するような複雑そうな表情を浮かべている。


「前の話、覚えてたんだね。.....あいつは何をするか分からない。本当に行くのかい?」


だが、今更ここで引き下がろうと思うチミーではない。

拳を握りしめ、下風に向き合って口を開いた。


「行きます!何かあったら....その時は、ぶっ倒します!」

「まぁぶっ倒せるかどうかはアレだけど.....ま、会いに...行こうか。『吸血鬼の王』に!」


チミーの様子を見て覚悟を決めたのか、下風も喝を入れるようにそう声を張った。






下風が運転する車に揺られて1時間と少し。

チミーの住む街から少し離れた場所。

十数メートルはあるであろうコンクリートに囲まれた、要塞のような施設に到着した。



「うぅ...」

「大丈夫?」


車酔いをして苦しげな表情を浮かべながら車を降りるチミーに、後から降りてきた下風が心配そうに声をかける。

いつの間にか隣に立っていた山瀬が、目の前の施設を紹介した。


「ここは、特殊な犯罪者を収容している所だ。凶悪な能力を持つ超能力者とか、何かの拍子にギルガンと融合してしまった人なんかもいる。」


大きな鉄格子のような入口の前に立っていた、4人の監視員に山瀬がパスポートのような許可証を見せる。

監視員達は次々にそれを確認したあと真顔で軽く頷き、入口のゲートを開けた。


廊下をまっすぐ渡り、少し歩いた所で大きな下り階段が見えた。

山瀬は後ろで興味深そうに周囲を見渡して歩くチミーをちらっと確認した後、階段を降りていく。


結構長い階段を降り、廊下を進んでいく。

左右に囚人の部屋であろう鉄の扉が連なっているのを見て、独特の緊張感を覚えながらチミーは歩いた。


その廊下の奥に、更なる下り階段があった。

手前で下風が振り向き、チミーに説明する。


「この先だよ。この階段の下に、『王』はいる。」


かなり長いのだろう。

下が暗くて何も見えず、まるで奈落の底に通じる階段のようだった。チミーは唾を飲み込んだ後、階段をゆっくりと降りて2人についていった。







どのくらい降りただろうか。数分くらいだったかもしれないし、十分近く降り続けていたかもしれない。

時間感覚が狂いそうな単調な階段をまっすぐに降りていくと、ようやく終わりが見えた。

下は短い廊下に繋がっており、その先には1枚の鉄の扉が。


扉を開け、中に入る。

中には数人の看守のような人がおり、チミーの姿を見て少し警戒したが、隣にいる山瀬に気付くと短く頷いて警戒を解いてくれた。

山瀬も呼応するように頷き、先へと進む。


その部屋を挟んで奥の方に、もう1つの部屋が存在していた。

こちら側の面が分厚いガラス張りとなって中の様子が確認できるようになっているが、ガラスの面から部屋の中を覗いても姿が無い。

空っぽだ。


「いるんだろ?姿を見せろ。」


下風が苛立ったような口調で空っぽの部屋に声をかける。

その時の下風の目付きは、同一人物とは思えないほどに鋭かった。

彼はここにいる『王』と、何かしらの因縁でもあるのだろうか。


少し経った後、何も無かった空間からフェードインするかのように部屋に人影が現れる。


「久しいの、下風.....おや?可愛らしいお嬢さんもいるではないか。」


乾いた笑い声と共に現れたのは、5〜60代くらいの見た目をした細長い老人だった。ワカメのように波打った髪は枯れたように白く色が抜けており、灰色に近い色をした肌は乾き切っていた。


山瀬は怪訝な顔を浮かべながら、彼を紹介する。


「彼が吸血鬼の『王』だ。」


そう紹介された『王』は、再び乾いた笑い声を上げる。

そんな様子の『王』とは対象的に、下風は心底不愉快そうな顔を浮かべていた。


吸血鬼の『王』と呼ばれる存在なのだから、もっと凶悪な見た目をしているものかと思っていたが、単なる死にかけの老人にしか見えない。


「アンタが、『王』.....。」

「言いたいことは分かるぞ。儂も昔は『王』と呼ばれるに相応しい見た目をしておったのじゃが、何せここには10年近くも幽閉されていてな。ロクに血を吸っていないせいでこの通りじゃ。」


両手を広げて眉を下げ、わざとらしい悲しげな表情をする『王』。

チミーはガラスに歩み寄り、早速本題に入ることにした。


「アンタに頼みがあって来たんだけど。」

「頼みとな?」

「『吸血鬼』は、その眷属の事を何でも知っている、って書いてた。あらゆる吸血鬼の始祖であるアンタは、全ての吸血鬼の事を知っているって事?」

「知っているも何も、今どこで何をしているのか、何を見ているのか何を聞いているのか、全て分かるぞい。おかげで、10年近く捕らえられていても娯楽には困らんわい。」


そう言って呵呵と笑う『王』。

正直、吸血鬼に関する手がかりが得られればいいかな程度に思って来たのだが、場所まで分かるとは思わなかった。


「だったら、ある『吸血鬼』の事を教えて欲しいんだけど。」


チミーは『王』を真っ直ぐ見て、そう口にした。

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