そりゃもう、バッチリです!
山瀬の話はこうだ。
先日、ある博物館に展示されていた貴重な品物が盗まれた。
その物品は非常に扱いの難しい代物で、専用の機器を用いなければ危険な物だという。
『鏡町』にいる、あらゆるものを見通す能力者『神の目』の協力よって犯人の居場所はある程度絞り込めているものの、その『品物』を扱える機器の到着が間に合っていない。
そしてその『品物』の扱いが難しい理由は、莫大なエネルギー質量を有しているためらしい。
そこまで聞いたチミーは、何となく自身に求められている事を理解した。
腕を組み、口を開く。
「つまり、エネルギーを操る能力者である私に、その『品物』を持って欲しいって事ですか?」
「そういう事だ。いつ何かが起きてもおかしくないくらい危険な代物だ、今すぐにでも同行願いたいんだが......。」
今すぐに、か。
今日はチミーの好きな体育の授業があるので少し悩んだが、そこまで危険な代物が盗まれたのなら仕方が無い。
「分かりました。.....ただし。」
しかし、他人の頼みをそのままホイホイと受け入れるチミーではない。
警察達に協力する代わりに、チミーからも1つ『協力』をお願いすることにした。
場所は変わり、色とりどりの看板が立ち並ぶ繁華街。
そこの一角に、大勢の警察官が集まっていた。
訪れた山瀬、丸野森、チミーの3人に、警察官達が頭を下げる。
「お疲れ様です!」
「準備は整ったか?」
「そりゃもう、バッチリです!」
目の前に立っていた若い男の警察官が、親指を立てて口の端を持ち上げる。
山瀬曰く、その『品物』を奪った犯人は、現在近くを移動しているらしい。
若い男性警察官曰く、既に準備は整っているとのこと。
そして今、『品物』に触れる事ができるチミーが到着した。
「それじゃあ、行くか!」
山瀬を先頭に、十数名で固められた警察官の集団が動き出した。
しばらく歩き、到着したのは交差点の角に位置する大型の雑貨屋。
『神の目』曰く、犯人はここに入っていったという。
山瀬は部隊を3つに編成し、正面の入り口、もう一つの入り口、そして従業員等が出入りする裏口へそれぞれ配置。
犯人が出てくるのを待ち、出てきたのを狙って囲う作戦だ。
互いに通信を取り合い、各出口の情報を共有し続ける。
そんな事を続けながら20分ほど経った時、変化が起こった。
「B班?」
2つめの出口を確保していたB班からの連絡が、帰ってこない。
途端、現場に緊張感が走った。
B班の元へ向かおうとした丸野森の肩を、山瀬が掴む。
「待て、誘導するための罠かもしれん。俺が行く。」
そう言って数人の警察官を連れ、B班の元へ向かった山瀬。
しかしそれを追い越して、突風のごとく駆けていった者がいた。
チミーである。
B班が担当していた出口から、出ていく1つのエネルギーを見たのだ。
それも、かなりの速さで。
「あれが、犯人ね!」
山瀬が到着する頃には逃げられてしまうと判断したチミーが、そのエネルギーを全力疾走で追跡したのだ。
地面を踏み、グングンと距離を詰めていく。
ビルの隙間から日が差し込み、犯人の後ろ姿が見えてきた。
暗い茶色の外套を羽織っている。恐らくは男。
向こうもこちらの接近に気付いたようで、唐突に角を曲がった。
床が窪むほど力強い踏み込みによって急転回し、チミーも同じように角を曲がる。
「あれ.....?」
しかし。
角を曲がった先には、誰もいなかった。
踏ん張って身体を急停止させ、一度深い息をつく。
どこに行った?
人気の少ない道路を見渡すチミー。
直後、自身の背後にエネルギーが出現した事を感知した。
「ッ!」
「おっとぉ、動くな?」
勢いよく振り返ったチミーを牽制するように、首筋に何かが当たる感触。
チミーの首に触れていたのは、手のような形をした黒い物体の、指先だった。
黒い手の手首から、長い腕のように伸びていた先に、先ほど見た犯人が立っている。
外套のフードを深く被っているが、下から見えるその顔はチミーと同じ高校生くらいの男。
彼の周囲には、チミーの首筋に指先を触れている黒い手と同じものが複数本、伸びていた。
「アンタでしょ、なんかヤバい品物を盗んだってのは。」
「ん?あぁ、その通りだ。まぁ、今はもう無いけどな。」
男は自分が有利な状況だからか、チミーの問いにあっさりと答える。
「どこにやったの?」
「元々、持ってきてくれって頼んできたヤツがいたんだ。そいつにやったよ。今どこにあるのかは知らねー。」
男曰く、その『品物』は既にこの場には無いのだと言う。
だがチミーはその言葉を聞いて、逆に安心したように口元を緩めていた。
「だったら、アンタを派手にぶっ飛ばしても問題無いわね。」
そう言ったチミーは『永遠なる供給源』を発動。
男の足元にあった地面が、不自然に揺れる。
「!」
次の瞬間、突き上がるように勢いよく盛り上がった地面が、男を空中へと投げ出した。
宙に浮かび上がった男を狙い、チミーが腕を構えてエネルギーを充填させる。
「はぁっ!!!」
高出力のエネルギー弾がチミーの腕から射出された。
エネルギー弾は空中を燃やしながら、男に向かって駆けていく。
エネルギー弾を回避すべく、男は空中で姿勢を整え、近くにあったビルの方へ左腕を向けた。
すると彼の周囲にあった黒い手の1つが左腕と連動するように伸び、ビルの壁をガシリと掴む。
掴んだ部分に男の体が素早く引き寄せられ、エネルギー弾を回避した。
男に避けられたエネルギー弾は、明後日の方向へ走っていく。
地を蹴って跳躍したチミーを迎撃するように、男は周囲の黒い手を一斉にチミーへ伸ばした。
自身のエネルギーを操作し、空中で黒い手を回避していくチミー。
しかし、向こうの手数の多さが僅かに勝っていた。
「がっ!」
チミーの身長ほど巨大化した黒い手による張り手を全身で受けてしまい、地面に叩きつけられてしまう。
コンクリートの地面が砕けるほどの威力を受けたチミーだったが、跳ねるように立ち上がると、上方にいる男へ手を向けて能力を発動した。
「落ちろッ!!!」
男の持つ位置エネルギーを操作し、思い切り地面に叩き付ける。
爆散するような砂埃が立ち、落下した場所の周辺が見えなくなった。
落とされた男がどんな顔をしているか拝んでやろうと落下地点に歩み寄るチミーだが、自身の体の違和感に気付く。
「動か....ない.....!?」
まるで金縛りにあったかのように、唐突に全身が動かなくなったのだ。
直後、チミーの背後に男が現れる。
「いてて....追いかけられると面倒だしな。そこでじっとしてろ。」
「くっ.....!」
動かない体をどうにかしようと全身に力を入れるが、全く動かない。
その隙に立ち去ろうとする男だが、チミーもここで見逃すわけにはいかない。
能力を発動し、空中で生成したエネルギー弾を背後に発射。
エネルギーを探知できるため背後にいようと関係無い。
エネルギー弾は着弾し、地面の瓦礫を勢いよく吹き飛ばした。
瞬間、チミーの体の拘束が解ける。
「よし!観念しなさいよ.....ってあれ?」
体が動けるようになり、意気揚々と振り返ったチミー。
しかしそこには、エネルギー弾によるクレーターの跡のみが残っており、男の姿は無かった。
周囲を見ても男のエネルギーは完全に消失しており、男に逃げられてしまった事を察する。
「はぁ〜?ムカつく!」
遠くから、微かにサイレンの音が聞こえる。




