胆魂斬
腰を深く落とした後、地を蹴って駆け出すシスニル。
それを迎撃するかのようにライカは剣を構え、両者は正面から激突した。
激しい火花が散り、鍔迫り合いと共に両者の闘気がぶつかり合う。
「強い.....!」
剣を弾いた後、ライカは一歩引いた状態から切り上げるような斬撃。
横に構えた剣で受け止めたシスニルだが、凄まじいパワーによって上方向に弾かれてしまった。
鬼神の如きパワーを持ったライカの一撃でバランスを崩したシスニル。
そんな彼の腹部を狙い、ライカが鋭い肘打ちを放った。
避け切れず、まともに食らってしまったシスニルは後方へ大きく吹き飛び、近くにあった石碑へ激突してしまう。
「がっ...!?」
「シスニルさん!」
不安定な体幹を戻しつつ立ち上がり、再び剣を構える。
その時には既に、ライカは目の前にまで接近していた。
「くっ!」
まるで大型トラックがアクセル全開で突っ込んできたかのような殺気。
体を半身にして剣を受け流し、そのまま数合打ち合う。
力の流れを利用してすり抜けたシスニルが、その一瞬の隙を使って魔術を編みはじめた。
「自然錬成魔術...『氷結柳』!」
シスニルが伸ばした腕の周囲に、複数の巨大な氷柱が生成される。
シスニルが腕を振ると、氷柱は弾丸のようにライカへ放たれた。
ライカは軽々と剣を振り、氷柱を叩き落としていく。
しかしそれは、シスニルの撒いたブラフだった。
「ここだっ....!」
顔面に向けて放った氷柱達に隠れるように、低い姿勢で詰め寄っていたシスニル。
兜を狙って放たれた剣は、僅かの差で首を傾けられ、回避されてしまった。
脚を持ち上げ、ライカはシスニルの腹部へ前蹴りを放つ。
地を擦りながら後ろに下がったシスニルへ、今度はライカが追撃するように魔術を発動した。
「自然錬成魔術...『死土竜』。」
シスニルとライカの間にあった鏡の地面が盛り上がり、中から土が噴水のように吹き上がる。
吹き上げられた土は空中で大岩ほどの大きさに固まり、雨のように降り注いだ。
「なっ...」
降り注ぐ土の塊を次々と切り落としていくシスニル。
上方からの攻撃に手一杯なシスニルに向かって、ライカが猛スピードで接近していた。
「ッ......!!」
シスニルが気付いた頃には、ライカの剣は突きを放っていた。
しかし。
ギギギと軋むような音が鳴り、ライカの剣がシスニルの目の前で急停止した。
見ると、ライカの剣先にはいくつものワイヤーが絡まっている。
「シスニルさん、ごめんなさい。」
ライカの剣に絡まる複数本のワイヤーの先には、モミジの姿が。
彼女がこじ開けた一瞬の隙を、シスニルは見逃さなかった。
「『胆魂斬』!!!」
シスニルはそう叫び、隼の如き剣でライカの腹部の鎧を貫いた。
その後、横方向へ思い切り剣を引き斬る。
しかしライカの体から血は全く出ておらず、代わりに半透明の何かが尾を引くように剣へ纏っていた。
「......。」
ライカはその一撃により、完全に動きを停止した。
ゆっくりと膝をつき、うつ伏せで倒れる。
「君には教えていなかった技だったね。けどそのおかげで、君を助ける事ができた。」
そう言って剣を納めるシスニルへ、モミジが申し訳なさそうな顔をしながら歩み寄っていた。
シスニルは振り向くと、彼女の心を見透かしたかのように言う。
「騎士同士の戦いに介入するのはご法度。それに触れてしまった事を、気にしているんだろう?」
「ええ。ですが、あのライカはもはや『騎士』では無かった。迷いましたが、そう判断してお節介をかけてしまいました。」
「ほう、奇遇だね。僕も同じ風に考えてたよ。」
モミジの解釈が自身と一致していた事に、シスニルが軽く笑った。
しかし笑った事が原因で、先ほどのダメージが痛む。
「いたたた....。」
「あのー.....ライカちゃんは?」
「大丈夫ですよ。さっきの技、『胆魂斬』。あれは本当にライカを斬ったわけではなく、『心』のみを斬る技なんです。」
「『心』を斬る...?」
モミジの言葉に首を傾げるチミー。
眠るライカを運んできた若い男性の騎士が、その続きを解説し始めた。
「現にほら、ライカちゃんの体からは血の一滴も出てないでしょう?」
「あ....ほんとですね」
思い切りライカを斬っていたはずなのに、血どころか鎧にすら傷が入っていない。
「『心』を斬れば、斬られた人の意識はしばらく離れるんスよ。だからあの技は、相手を全く傷付けずに無力化させる。最も強力で、最も平和的な技なんス。」
「だからもう、大丈夫。後は私達に任せて。染口さんも、こんな時間まで起きてて眠いでしょう?」
「はい.....すごく、眠いです......。」
戦闘が終わり、緊張が解けた途端急に眠たくなってきた。
モミジに促され、チミーは睡魔と戦いながら、ふらふらと宿泊施設へ帰っていった。
カシャ。
「あの子が『例の計画』とやらの子だっけ?」
カメラに収めたチミーの写真を見ながら、外套を羽織った若い男が木の上に立って喋る。
話し相手は、その木の下に立っていた、ボロボロの面を被った老人だった。
「その通り。 世界を救うためのな。」
若い男は老人の言葉に少し眉をひそめた後、木から飛び降りる。
それを見た老人は、思い出したかのように男へ声をかけた。
「あの子は今度の作戦の際、障害になるやもしれん。.....勝てそうか?」
「いやいや、無理に決まってんだろ。『あらゆるエネルギーを操る能力』だっけ?強すぎて話になんねーよ。」
「強すぎて話にならんのは、お主も一緒だと思うがのう?」
老人にそう視線を向けられた若い男は、困ったようにため息を吐いた。
学校の改修工事が終了し、学校への登校が再開する。
久しぶりの登校だ。
.....が、早速寝坊してしまった。
今日から登校再開だと言うことを完全に忘れていて、1時間ほど遅れて学校に来てしまったチミー。
弄っていた携帯端末を制服のポケットに押し込んで顔を上げると、校門前に年配の女性教員が立っていた。
「.....げ」
濃い化粧に、特徴的な天然パーマ。
美術担当の教師、筧だ。
とにかく口うるさい先生で、違反者を見つけるとかな〜りしつこく説教をしてくる先生だ。
アレに見つかると非常に面倒くさい。
別の場所から学校へ入るとするか。
そう考えたチミーは、そろりと踵を翻し、その場から離れるべく校門に背を向けた。
「染口さ〜ん?」
しかし、遅かった。
肩に置かれた手の先には、怒りを隠し切れない引き攣った笑みの筧が立っている。
「あ、あははは.....」
チミーもその表情につられるように、振り向きながらヘラヘラと笑って誤魔化そうとする。
当然、誤魔化せるわけも無かったが。
口元を引き締め、不機嫌な様子のチミーが廊下を歩く。
筧の長いお話のせいで、気がおかしくなりそうだった。
ずかずかと廊下のド真ん中を歩いていると、突然真横から声が出現する。
「なぁ」
「うわぁっ!?」
いきなり真横に現れ、チミーに声をかけたのは黒田だった。
「星羽を見なかったか?」
「はぁ?知らないわよ、そんなの。」
「そうか、足止めて悪いな。」
黒田に驚かされ、思わず無愛想に返事をしてしまうチミー。
チミーの返事を聞いた黒田は軽く謝ると、再び神隠しのように消えていった。
「.....驚かせた事に謝ってほしかったんだけど。」
黒田が去った後、チミーは小声で不満を呟く。
そんなチミーに、新たに声をかける者がいた。
「染口さん!」
声をかけてきたのは、ジャージ姿の体育教師。
先ほどの筧の事があったのでまた何か怒られるのだろうかと身構えていたチミーだったが、実際はそうでは無いみたいだ。
案内されたのは、校舎の端にある空き教室。
そこにはスーツ姿で40代くらいの男性と、警察官の服装をした若い女性が座っていた。
その二人の正面に位置する椅子に座るよう促され、よく分からないまま椅子に浅く腰掛ける。
男性が、口を開いた。
「始めまして、染口チミーさん。八多重警察署の山瀬です。」
「同じく、丸野森です。」
2人はそう自己紹介し、警察手帳をチミーに見せる。
この2人は警察のようだ。
しかし、そんな役職の人達が何の用でここに来たのだろうか?
その答えを、男性側.....山瀬が語った。
「あなたに、協力して頂きたい事があって。」




