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ありゃ完全に、理性を失ってんな

「元々観光する気は無かったけど、楽しかったな〜」


ベッドに寝転びながら、上機嫌な様子のチミー。

シスニルの計らいで鏡町を散々堪能することができ、つい色んなものを買ってしまった。

宿泊施設で買ったものを整理する時が、一番楽しい気がする。


「ちょっと早いけど、寝る...かぁ.......。」


時計は夜の10時を回っている。

沢山運動したし、あちこちでいろんな食べ物を食べた。

チミーに睡魔を襲わせるには、十分すぎるほど。


部屋の電気を消し、ベッドに再び寝転がった。

疲れもあってか、すぐに意識が遠のいていく。月明かりに照らされながら、チミーは深い眠りに落ちた。


そんなチミーの部屋に、不穏な影が近付いていた。

とす、とすと木の廊下を踏み、ゆっくりと歩いている。


スーツ姿に、シルクハット。

そして周囲には、静かに駆動音を鳴らす刃付きの円盤。

そして顔を覆う仮面が、月明かりに照らされ銀色に光っていた。


『マスク』だった。

廊下を歩く『マスク』からは、ただならぬ気配が漂っている。


「染口チミー...ようやくか。」


『マスク』は小声でチミーの名を呟き、固く握っていた右手を開く。

周囲を舞っていた6枚の円盤のうち1枚が、開かれた右手に吸い寄せられるように移動。

そして、変形を始めた。


トゲのように円盤を囲っていた無数の刃が1箇所に集まり、長いカッターナイフのような形に連結される。

円盤部分は柄のように変形し、1枚の円盤は1本の直剣へと変化した。

円盤が変形した剣を握りしめ、『マスク』はチミーの部屋の前に立つ。


電気錠に軽く手を添え、能力を発動。

すると音も無く電気錠が外れ、鍵は簡単に開いた。

ドアノブを掴み、部屋の中に入ろうとしたその瞬間。


「!」


突如地響きが鳴り、部屋全体が激しく揺れた。

『マスク』は大きくバランスを崩すも、掴んでいたドアノブを基点に立った状態を維持する。


「クソッ.....よりにもよってこのタイミングで.....!!」


押し殺すような怒りの声を漏らしつつ、『マスク』は一度、部屋から出る事にした。

一瞬だったものの、凄まじい揺れだった。

疲れているであろうチミーも、流石に今ので起きないはずがない。


このまま寝起きの彼女と戦うのも一つの手だ。

しかし、染口チミーは強い。

それに狭いこの宿泊施設という空間では、自身の能力を最大限に活用することができない。


『マスク』は色々と考えた結果、退散する事に決めた。

先ほどの揺れの事も気になる。


さっきの揺れは、明らかに自然のものでは無かったからだ。





「何?今の....。結構揺れたっぽいけど...」


チミーが眠い目を擦り、ゴーグルを装着しようと手を伸ばしたその時。

『あらゆるエネルギーが見えてしまう目』が、あるものを捉えた。


巨大なエネルギー。


尋常ではないそのエネルギーの塊を見たチミーはベッドから勢いよく立ち上がり、着替えて窓から飛び降りる。

永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』発動し、空高く上昇した。


時刻は午前1時。

周囲に光はほとんど存在せず、ゴーグルをかけた通常状態なら真っ暗で何も見えない。

ゴーグルを外し、翡翠色の目で周囲を見渡すと、先ほど見た巨大なエネルギーの塊が、やはり存在していた。


巨大なエネルギーの塊が蠢き、そこから波紋を呼ぶように周囲で多数のエネルギー反応が発生している。

ゴーグルを戻し、エネルギーの塊がある場所へと急降下した。


街灯がポツリと置かれているだけの、簡素な広場。

その中心に、巨大なエネルギーの正体がいた。

物凄い力で暴れており、あちこちの壁や物を破壊している。

チミーは一瞬ギルガンの出現を疑ったが、実際は違った。


「あれは.....」


チミーより僅かに大きいくらいの大きさで、銀色の鎧が街灯に反射している。

その手には剣のようなものが握られていて、兜に覆われた顔は見えないが、後ろから伸びるあの金髪は──────


「ライカちゃん!?」


そう、暴れていた巨大なエネルギーの正体はライカだった。

兜の奥にある目は禍々しいほど赤く光っており、凄まじいパワーによって壁を破壊している。


明らかに、正常な状態ではない。


「悪いけど、じっとしておいてもらうよ!」


チミーは腕を伸ばして『永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』を発動。

ライカの体内にあるエネルギーを操り、その体を地面に押さえつける。


「ハアァッ....!」


ライカが声を上げ、地面に横たわっていた左手を開く。

赤い眼光でチミーを強烈に睨みつけ、術式を唱えた。


「自然錬成魔術...『地堕没(ドリュー)』...!」


瞬間、チミーの足元に違和感が発生。

チミーを中心とした鏡の地面が大きな陥没を生み出した。


「ッ!」


突然の事にバランスを崩すチミーだが、能力を行使し自身の体を浮かせる事で空いた大穴に落ちる事を回避。

しかしその時、大穴に気を取られてライカの拘束を緩めてしまったのか、ライカの姿が消えていた。


「あれっ」


ライカを探そうと視線を動かした瞬間、チミーの顔の真横からライカの剣が飛んできた。

しかし、エネルギー感知能力によってその動きを完璧に察知していたチミー。

余裕の表情を浮かべ、頬から数センチ離れた位置で剣の刃を掴んだ。


「残念だったね....ってあれ!?」


得意気な顔で剣の方向を向いた途端、チミーの顔は驚きへと変化した。

チミーの向いた方向にはライカの剣しか無く、剣の持ち主であるライカの姿が無かったのだ。


チミーが振り向いた方向とは反対側の頬に、ライカの重い拳が突き刺さった。

防がれる直前で剣を手放して反対側に回り込んだライカが、油断したチミーの顔にストレートパンチを浴びせたのだ。


騎士らしさもクソもない突然の不意打ちに、チミーは自身の顔に引っ張られる形で吹っ飛ばされてしまう。


「いったぁ〜〜〜.....。」


地面に落ちる反動を利用して跳ねるように立ち上がったチミーは、ピシリと痛む頬をさする。

咄嗟にチミーが能力を発動し、その威力を減少させる事に成功したため頬の痛み程度で済んだものの、普通の人間がまともに食らえば頭蓋ごと爆砕するほどの威力だ。


ライカは本気で自分を倒そうとしている。

今の一撃で、チミーはそれを確信した。


「...強いなぁ。」


ライカとチミーとが睨み合っていると、こちらに近付いてくる複数の足音が聴こえた。

騒ぎを聞き、シスニルやモミジをはじめとした数人の騎士達が駆け付けてきたのだ。


「あれ、染口さん?.....ってアレは何?」


チミーの姿に驚いた後、赤い眼光の狂戦士に気付いたモミジがすぐさま構えを取る。

騎士である彼女が一瞬で戦闘態勢になるほど、今のライカが放つ殺気は尋常でないのだ。

チミーは『アレ』がライカである事を、騎士達に説明する。


「アレはどうやら、ライカちゃんみたいで。パワーも、凄く強いです。」

「なるほど、ライカが......。」

「ありゃ完全に、理性を失ってんな。」


シスニルの後ろに立っていた、大きな鎧を着ている騎士がそう呟く。

確かに、あんな姿のライカが理性を保てているとは思えない。


「うううぅ......」


ライカは手に持っていた剣を握り、シスニル達を兜越しに睨んだ。

どうやら彼ら騎士達の事も判別できていないらしく、『敵』として認識しているようだ。

前に出たシスニルが剣を構え、同じく兜越しにライカを睨む。


「染口さんはもう、手を出す必要はない。」


シスニルは落ち着いた声色で、そうチミーに伝えた。

チミーがシスニルから感じた気配は『無』。

殺気にまみれたライカとは正反対と言っても良いほど、シスニルは落ち着いていた。


「仲間に何かあったら、同じ騎士が助けるべきだからね。」

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