ようやく、目的が達成できるね
「なんで私の名前を.....?」
「そりゃあ何でも見通せる『神の目』ですからね。人の顔と名前ぐらいは、ほとんど知ってますよ。」
「えぇ....」
あっさりとそう答えた『神の目』に、チミーは怪訝な表情を浮かべる。
そんな中、茶髭を生やした騎士の男.....シスニルが『団長』と呼んでいた男性が、彼に声をかけた。
「では、私はこの辺で。」
「ええ。ありがとうございました。」
「僕も戻るね、染口さん。」
教会を出ていく団長に便乗する形で、シスニルもその場を後にした。
残ったのは、『神の目』とチミーの2人のみ。
早速、『神の目』が口を開いた。
「探してほしい人がいる、んだっけ?」
「はい。」
そう言ってチミーは『神の目』に『吸血鬼の男』の事を話した。
チミーの話をじっと聞いていた『神の目』は、話が終わると軽く頷く。
「なるほど。大柄の男性で、体が丸く見えるほど発達した筋肉を持つ『吸血鬼』か......。探してみるね。」
そう言うと『神の目』は掛けていた眼鏡を外す。
見開かれた眼が葵に発光し、遥か遠くを見つめているかのごとく虚ろに変わる。
これが『神の目』と呼ばれる能力なのだろうか。
数秒経った後、『神の目』の眼が元の色に戻った。
しかし『神の目』は目を瞑り、首を横に振ってチミーに伝えた。
「...見つからないな。」
あらゆるものを『視る』事ができる筈なのに、見つからない。
そんな結果に疑問を抱きつつ、チミーは『マスク』の事を話し始めた。
しかし、こちらもノーヒット。
あの2人の情報は、『神の目』の力を借りても一切入らなかった。
『神の目』は顎に手をやり、険しい顔を浮かべる。
「おかしいな。全く見つからなかった。」
「ホントに能力が機能してるんですか?」
「してるはず.....なんだけどね。」
2回も連続で外した『神の目』の能力自体を疑うチミーだが、ここまで信頼されている彼の能力に嘘は無いだろう。
だったら何故?
疑問は残るが、今ここで考えても答えは見つからないだろう。
そう判断したチミーは『神の目』に礼をした後、帰るべく踵を返した。
「ありがとうございました。また何か分かったら教えてください。」
「ごめんね、気を付けて帰ってね。」
『神の目』の能力でも見つからなかった『マスク』や『吸血鬼の男』.....
一体何者なのだろうか。
扉が閉まり、『神の目』以外に誰もいなくなった教会。
『神の目』が小さなため息をついた後、独り言のように口を開いた。
「....やれやれ。彼女が『嘘を見抜く能力者』とかだったら終わってたな。」
そう言って車椅子越しに振り返った『神の目』の視線の先に立っていたのは、チミーが探していた『マスク』だった。
いつの間にか壁に背を預ける形で立っている『マスク』が、軽くシルクハットを持ち上げて『神の目』に近付く。
「それで、彼女は君が探していた人で間違いないか?」
「ああ間違いない。前回は『過剰損耗』が原因で退散せざるを得なかったが、今回の奴に味方はいない。」
「ようやく、目的が達成できるね。」
『神の目』の言葉に、ふっと笑い声のような電子音を鳴らす『マスク』。
チミーが歩いて行った方向を睨み、どこからともなく刃付きの円盤を1枚取り出した。
教会から外に出たチミーは、庭に設置されているベンチに座っていたシスニルを発見する。
その兜で覆われた視線の先には、ひたすらにトレーニングを行っているライカがいた。
「あの、シスニルさん。」
「うん?」
チミーの声と足音に気付いたシスニルは上半身を後ろに回し、半身になってチミーの方向を向く。
「結局、探していた人は見つかりませんでした。これから帰ろうかと思って。」
「あぁ、なるほどね。」
「....心配なんですか?」
帰りの挨拶をするだけのつもりだったが、シスニルの様子を見たチミーはそう問いかけた。
ライカを眺めるシスニルの後ろ姿に、不安を感じたからだ。
「...少しね。あの子、自分の実力に自信が無いみたいで。」
シスニルは、少し暗い声色でそう呟く。
「1回、運悪く試験に落ちちゃった事が響いているのかな。体力も技術も充分備わっているのに、本来の実力を出し切れていない。」
ため息をついて俯くシスニルを見たチミーは、何か閃いたように顔を上げた。
「そうだ。もう少しだけ、ここに居させてもらってもいいですか?」
「構わないよ。...ちなみにどうして?」
帰ろうとしていたのに、急に残ろうとするチミーへその行動の理由を問うシスニル。
重い剣を素振りするライカの姿を見ながら、チミーは答えた。
「ライカちゃんと、少し話がしたくって。歳の近い人と話をすれば、少しは気持ちが楽になってくれるかなーって思って。」
「確かに、ライカは歳の近い人間と交流する事がほとんど無いからね。...いいと思うよ、彼女の力になってあげて。」
そうシスニルに送り出され、ちょうど休憩に入ったとみられるライカの元へ走って行った。
「こんにちは。」
「あっ...こんにちは。」
ベンチに座り、小手を外して間食のサンドイッチを取り出していたライカに、チミーが声をかける。
ライカは突然現れたチミーに少し驚きつつも、挨拶を返した。
「隣、いいかな?」
少しぎこちなくライカに尋ねるチミー。
近い年齢層とはいえ、初対面の人に話しかけるのは少しだけ緊張する。
「いいですよ、全然。」
「ありがとう。」
チミーはライカの隣に座った。
ライカは手に持っていたサンドイッチとは別にもう1つ、サンドイッチをバスケットから取り出してチミーに渡した。
「良かったら、食べますか?」
「いいの?ありがとう。」
「えっと...『神の目』に会いに来たんですか?」
「あぁ、うん。」
『マスク』達が見つからなかった事を思い出し表情を曇らせるが、すぐに表情を戻して話をした。
「ある人を探していてね。その手がかりを得るために来たんだけど、見つかんなかった。」
「...大切な人なんですか?」
「ううん、むしろ逆かな。」
ライカの問いに、チミーは首を横に振る。
「分からないけど、私の事を恨んでいるみたい。...殺したいほどに。」
チミーが口にした言葉に、ライカは目を見開いた。
ライカの動揺を察知したチミーは、大丈夫だよと言うように笑顔を向ける。
「けど、奴が何者なのか、なぜ私を狙っているのかを知りたい。『6年前』...奴はそう言っていた。」
「心当たりは...あるんですか?」
「うん。あの日のことは今でも忘れられない。」
そう言ってチミーは、遠くを眺めながらライカに語り始めた。
『6年前』の出来事を。




