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日本最後の高一の人妻 現状もっとも若い幼な妻

作者: 山目 広介

 2022年3月31日午前零時ちょうど。


 ここは市役所。


 事前に連絡をして、この時間に届けを受理してくれるように頼んだのだ。


 結婚届を。



 日本の法律では誕生日の前日に年齢が繰り上がる。


 日本では年度の始めが4月1日からなのに、学校での受け入れる誕生日は4月2日からだということに疑問に思った人もいることだろう。これは4月2日が誕生日であれば4月1日に年齢が繰り上がるからだ。4月1日が誕生日だとその前日であることから3月31日に年齢が繰り上がることになる。だから誕生日が4月2日の人から翌年の4月1日の人までが年度が同じ括りとなる。


 そして2022年4月1日から、とある民法が改正し、施行される。成人が18歳へと引き下げられる。これによって、2002年4月2日から2004年4月1日までに生まれた人たちは、2022年4月1日に一斉に成年に達することになる。そして2004年4月2日以降に生まれた人たちは、18歳の誕生日の前日に成年に達します。


 これ以外にも大きな変更点がある。それが女性の結婚可能年齢。現在だと16歳なのに、改正民法施行後である翌日の2022年4月1日では男性と同じ18歳へ引き上げられる。


 であるから2006年4月1日生まれの女性ならば、2022年3月31日に16歳となり、そこで同日に結婚すればなんと日本最年少人妻として2年間保証される。



 私は運動が得意ではない。かといって勉強ができるわけでもない。何も出来ない。だから何か自分でも他に真似のできないような記録とかが欲しい。自慢できることが欲しい。そんなことを思っていた。


 何もないからこそ、常に何かを探していた。そして見つかったのが、この「日本最年少人妻」という称号だ。これは都合がいい、と自分の両親を説得した。そして彼の両親にも相談する。


 彼とは近所に住む交差いとこだ。父の姉と、母の兄、その伯母と伯父の息子のことだ。年の離れた幼馴染でもある。あと、私の初恋の人物だ。


 彼は現在、独り身だし、恋人募集中。自分に自信があったわけではない。だから告白できずにいたんだ。


 伯母さんには、制服もののエロ本を持っているから大丈夫だと言われた。


 そんな性癖は知りたくなかったが、チャンスでもあった。


 照れ隠しだと分かっている。しかし日本最年少人妻になりたい、と押し切った。





「女子高生の人妻なら18歳で結婚すればいける。でも16歳の女子高生は私で最後だよ」


「……わかった」




「二十代三十代の中古と十代半ばの新品とどちらがいいの?」

「……十代」

「若い子がいいだよね」

「そんな選択だと当然だろ」

「いやらしい。じゃあ決まりね。結婚して」


 プロポーズをされた。「好き」とかそう言った告白などはなかった。しかも外堀も埋められていた。

 未来の奥さんからは逃げられない。


 よくよく話を聞いてみると、ちょっと分からないことが出てきた。


「え? これってオレが婿になるってこと!?」

「ん、そうだよ。誕生日プレゼントなんだから」


 誰からの誕生日プレゼントなんだろうか?


「オレが誕生日プレゼントなの?」

「祝ってくれないの?」


 断ったらオレが祝っていないように見える。


「そうは言ってないだろ」

「じゃあ、私をお嫁さんに貰って私に自分の苗字をくれるの?」


 このとき『嫁に貰う』か『婿に入る』の二択を迫られて、他の選択肢を考えることができなかった。

 どちらにしろ結婚することに代わりはなかったのだ。

 結婚しないという選択肢を思いつくことはなかった。嫌というわけではなかったのだから、別に良いけども。

 そして、いつの間にか結婚することが決まっていた。婚約をしたということだろうか。


「もう市役所には連絡入れてくれているそうだから、30日の夜出かけて申請すればいいよ」

「あれ? 31日じゃないのか?」

「零時に申請するのよ。31日はデートよ。高一最後よ。式も披露宴もしないから、いいでしょ」

「じゃあ4月1日はどうするんだ?」


 誕生日の本番はどうするんだろうか。そう考えることは普通ではなかろうか。


「高二の最初だし、もちろん初夜よ!」

「無理だろ。どちらの家も両親がいるんだぞ」


 そもそも31日の夜ではないのか。

 結婚するんだから当然だが、付き合ってもいないのに。こちらにも心の準備があるんだぞ。ゴムの準備もしていないし。彼女もいなかった童貞にそんなもの用意する必要がなかったんだから。

 それに防音設備なんてないんだから声が丸聞こえになるだろう。


「もうなんで一人暮らししてないのよ」

「金がないんだからだよ」


 そもそも一日中する(・・)つもりなのか。

 このご時世不景気なんだから仕方がない。


「じゃあラブホよ」

「だから金がないんだって」

「甲斐性なし」


 倒産したんだからしょうがないだろ。今は貯金を切り崩してるんだから、稼がないとないんだよ。

 あんまり無駄使いたくない、という気持ちを汲んでくれ。


「いつするのよ」

「あ~、両親が出かけたときとかかな」

「もーッ! 意気地なし」




 高校の途中で苗字が変わる。


 そんな人は普通、何某かの事情があるんだと察して詳しく聞こうとはしない。


 クラスが別ならば、気付きもしないだろう。


 同じクラスでも仲の良い友人ならば事情を知らされているかもしれない。


 距離があるならば、気になっていても周囲に気を遣う。


 通常は両親が離婚とかしたんじゃないか、とか。


 しかし、高校生というのはまだまだ子供で人生経験も少ない。


 何も気にせずに、どうして、と尋ねる人も中にはいる。



「ねぇねぇ。どうして苗字が変わったの?」


「ん。結婚した」



 気になっていた人は耳を欹てていた。


 その人達は、母親が再婚したのだろう、と思ったらしい。


 だが、尋ねた本人はそのまま捉えたようだ。



「誰と結婚したの?」


「ん、いとこ」



 ここで聞いていた人たちは、ちょっとおかしいということに気付いたみたいで訝し気な表情をしている。


 親が結婚したのならば、従兄弟ということは状況としてはあり得なくはない(例えば母親が父親の従兄弟と結婚、とか)が、違和感を覚えているみたいだ。



「かっこいい?」


「初恋に落ちたほど」



 話している内容がどう聞いても本人のことだと興味をそそられたらしい。



「どうやったの?」


「外堀を埋め、婿に来るかか嫁に貰うかの二択を迫って婚姻届けを突きつけ、相手を陥落した」



 いつの間にか人集りが出来ていた。



「いつから?」


「16になってから」


「去年からか、いいなー」


「ん、昨年度から」



 嘘は言っていない。ちゃんと訂正もしている。誤解は解けていないけど。



「先越されたな~。いい男ほしいー」


「……」



 まだHはしていない。そのため、その話題には視線を逸らした。



「でも結婚って早くない?」


「この機会を逃したら18まで結婚できないから」


「え、どういうこと?」


「民法が改正された」


「あ、成人が引き下げられたってやつ?」


「そう」



 ちゃんと世の中の動きを知っている人もいるらしい。



「それで女性の結婚可能年齢も引き上げられた」


「もう18歳にならないと結婚できないんだ」


「だから私は今最年少の人妻」



 他にも16歳の人妻はいるかもしれない。だが日数も含めれば私が最年少だ。


 最年少というのも複数いるのかもしれない。だがそれは同率一位。二位ではない。


 自慢できるものがなかったが、高校生で既婚者というのも最年少というのも他にはいないステータスだ。


 まあ、それを出汁に初恋をゲットしたんだけど。


 後悔はない。目的が達成したのだから。



 初恋で幼馴染の、およめさん。




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