三話
あの子のいなくなった私の部屋は驚くほどに静かだ。
それこそさみしさを覚えるほどに。
「あぁ。やめよやめよ。」
机に置いておいた本を取って開く。
病院に付属している図書館から借りてきたものだがこの本は私に世界を見せてくれる数少ない「窓」だ。
かつての病院生活を共にした私にとっての友人であるあの子や兄弟、親ですらもうめったに様子を見に来なかった私に、小さな窓から世界を見せてくれる本たちは私にとっての救いだ。
いや、そもそも。
こんな私に生きる価値はあるのだろうか。
親から愛想をつかされ友人もいない、そもそも作ろうとしない私に意味なんか…。
コンコン
「あっ、は、はーい。」
ノックの音が耳にとどく。
危ないところだった、今の施行はとても危険だ。
自分ではそうわかっていても孤独で暇な隙間時間には余計なことを考えてしまうのはわるいくせだ。
「千春ちゃん。はいりますよ。」
穏やかな女性の声。引き戸を引いて看護師の三澤さんが入ってくる。
「三澤さん。おはようございます。」
「はい。おはようございます。調子はどうですか?」
「体はいいんですけどね、最近入院したらしい美空さんが今日も今朝から私の部屋に来てよくわかんない話をしてたんですよ。信じられますか?これで三日連続ですよ三日連続しかもあの子、わたしのこと千春って呼び捨てにしてて…。まぁそこは別にいい気もしますけど…。」
私が話すのを三澤さんはいつも楽しそうに聞いてくれる。
私が話し切って息を整えていると三澤さんは小さく笑ってから口を開いた。
「千春ちゃんは本当に夏海ちゃんのことが好きなんですね。」
「…えっ?」
「だってそうじゃありませんか?三日間まいにち夏海ちゃんの話をしてますし、その時とても楽しそうで…。」
「私としても千春ちゃんに友達ができて本当に良かったです。」
ハッとした。
友達?
楽しそう?
私は…。
楽しいと思っているのだろうか、あの子と過ごす時間が。
友達.....?
「それはきっと…。違いますよ…。」
「えっ?」
「私。あの子に冷たくしちゃったから」
声が震えてるのが自分でもわかった。
「私。私は…。」
三澤さんは結局私が泣き止むまで何も聞かないで見守ってくれた。
私は…。
あの子とどうなりたいのだろうか。