十二話
花火を見た次の日の朝。夏海はいつまで経っても来なかった。いつまで待っても…来ない。
「夏海…」
会いたい、なのに…夏美のことについて、看護師さんや先生に聞く勇気は出なかった。
何故だろう。いやそんなはずはない、そんなわけはない。
あくまで私が考えているのは最悪の可能性…きっと、きっと寝坊したとかそんなことだろう。だからだからだから…。
「大丈夫…きっと…あの子は元気…。」
鼓動が、高鳴っている気がした。
結局あの子は。夜中になってもくることはなかった。
「夏海…なんで来なかったの…」
たった1日合わなかっただけなのに。私はといえばもはや放心状態だ。
「っ!」
その時、ノックの音が聞こえた。
「な、夏海!?」
「千春ちゃん!今来れる?」
「み、三沢さん?」
「夏海ちゃんが…」
気がつくと、私は駆け出していた。案内されるままに、彼女の病室に…私は。
「なっ、なつっ、み!!!」
ほとんど走ったことなどない私の体を引きずりながら彼女の病室の扉を開ける。気が狂いそうだ。
寝ている。寝ているはずの夏海とそれを取り囲む先生たち。
「夏海!夏海!!!」
生まれて初めてこんなに大きな声を出した気がした。
「…ぁ」
夏海の口が動いた。よかった。やはり寝ているだけではないか。朝からいままで寝ていたのだろうか?寝坊にも程というものがある。いくらなんでも…。
「…は、る…。」
「な、なに?聞こえない。聞こえないよ…」
夏海の手を握り彼女の口に耳を寄せる。
「…ち、はる…だい、すき…だよ。」
聞こえた。今度は、その言葉が、はっきりと。
「夏海…夏海…」
冷たいその手を握る。そうか。
私は、気がついた。いま、初めて。私はきっと、この子のことが好きなのだ…それは、友達として、ではなく。私は…
「…夏海…私も…あなたのことが…大好き……」
手を握る。その手が冷たくて、それが信じられない…
その手は本当に小さくて…それが信じられない。
こんなに、こんなにギリギリの状態だったのか…
なのに、あんなにも笑顔を…私の前で…。
「……あり、がとう…」
「午後9時14分です…」
私の、泣く声だけがよく聞こえていた。