95話 響介編 カチコミ改め
魔王ラヴァナ、完全に響介一行を敵に回す。
「道徳の時間だオラ!!」
近くにいた人獣族を蹴り飛ばした俺が転送魔法で飛んだのはレオエッジとかいう奴がいるルイナスから離れた奴らの拠点だ。
レオエッジは十闘将の頭目でもあるラヴァナの軍門に下った熊の人獣族で元魔王のグリズリアの腹心の部下の獅子人獣。獅子の見た目通り乱暴な男で勝つためなら卑怯な手段を平然と使いその男の部下も卑怯な連中が多く揃って下衆なのだそうだ。
「囲め囲めー!」
「なぶり殺しにしてやれ!」
「ヒャッハー!死に晒せ人間がぁ!」
現に一人で乗り込んで来た俺に対して数で押し潰そうと大勢で掛かってきた。多勢に無勢とでも言いたいのだろうか?だが
「寡を以て衆を制すという言葉を教えてやるよ」
これは道徳の時間だからな。意味としては一言多勢に無勢の真逆だ。そう言いながら剣で斬り掛かってきた人獣族の腕をへし折り投げ飛ばし、襲ってくる奴らに殴る蹴るで派手な大立ち回りと興じながら奴らの中心に躍り出る。
けしかけてきた魔獣の顔面に裏拳を入れ殴り飛ばし魔族の頭に回し蹴りを叩き込み蹴り飛ばす。隠密スキルを使い相手を引っ掻き回し混乱させ至近距離で功弾をぶつけぶっ飛ばすのを見た魔族達は離れたところから魔法で攻撃するが俺は玄武甲盾を展開し防ぎ展開したまま突撃して術者達を撥ね飛ばす。
なんてことはない。向こうでやってた喧嘩と一緒だ。今の甲盾張ってのぶちかましも鉄パイプを振り回すダボの仲間を盾にして諸ともぶちかましを再現しただけ。
根本的な戦い方は人間相手と変わらない。要点は敵が嫌がる事をすればいい。その嫌がる事とは何か?相手の立場になって考えれば自ずと答えは導き出せる。一例として
「よっと」
俺は後ろから来た人獣族の顔面にお手製の目潰しを投げつける。すると
「人間がぁ!どこ行った!?」
目を潰された人獣族は持っていた斧を無茶苦茶に振り回す。俺は素早く離れ近くにいた人獣族の影に潜み隠密スキルを使い気配を消すと
「バカ!やめろ!」
「ぎゃあ!」
近くにいた仲間に掠め一人の人獣族に斧が刺さる。あの目潰しはポーションのビンを砕いたものも混ぜているからかなり痛い、つまり視覚を一時的に奪われ痛覚を刺激されたことで近くにいた気配を俺と誤認したのだ。
タイマンも得意だが1対多は俺が最も得意としていた喧嘩だ。なんでかって?それは
「オラァ!」
隠密スキルを切っていきなり現れた俺に反応出来なかった人獣族の戦士に功弾を加えた右ストレートを叩き込みぶっ飛ばす。すると後ろにいた奴らも巻き込まれ一発殴っただけで5人程戦闘不能になった。
俺が1対多を得意とする理由、それはどうすれば手っ取り早く相手を崩せるのかを考えるのが好きだからだ。今みたいに同士討ちを誘発させればいいし全力でぶっ飛ばして巻き込んでもいい、数いる敵を掻い潜り調子に乗ってる奴と強いと粋がってる奴から全力で潰して下の奴をビビらせるのもいい選択肢だ。
さっきからぶっ飛ばしを多用してるのも人獣族の連中は図体がデカイのが多く一人ぶっ飛ばせば2、3人は巻き添えになるからだ。そうしながらかかってくる連中をぶっ飛ばしていると
「に、逃げろ!」
「やってられるか…!」
「化け物だ…」
「し、死にたくねぇ、死にたくねぇよ!」
さっきまで強気だった人獣族達がビビって逃げようとしている。まあ三下には興味がないからいいがこう派手に暴れていると
「なんだなんだぁ!?腰抜け共が!」
粗暴な大声と共に強い殺気を放つものが奥から飛び出して鋭い爪を振り下ろして来た。
一瞬でスピードに乗り飛び出す脚力、力強く振り下ろし大地に爪痕を残す程の一撃、俺はすかさず反応しひらりと避ける。相手は凶悪という言葉が似合う面をして返り血に染まった鬣がそれを象徴している大男。お目当ての片方だ。
「人間でも活きのいいのがいるじゃねえか!特別にこのレオエッジ様が直々相手をしてやる!!」
この後も「グリズリア様が」とかぐだぐだ言っていたが俺は話し半分に聞き周囲の探知を始める。周りにいた人獣族や魔族は逃げたり明らかに距離を取っているが、唸りながら俺に近付く反応もある。
成る程、汚い男と聞いていたがその通りのようだ。
「この俺様が直々に相手してやるよぉ!」
レオエッジが吠えた瞬間だった。突如として俺の後ろから三頭の獰猛な虎の魔獣がどこからともなく俺に襲い掛かってきた。
「ガハハハ!この俺様が人間ごときに相手なぞするか!貴様はタイクンタイガーの餌食になるがいい!!」
勝ち誇るかのように高笑いを始めるレオエッジとざまあみろと言いたいような表情で笑う人獣族達。
その様を見て俺は少々失望した。
どんな手段を使ってくるかと思っていたが期待が外れた。こんな事は想定内だ。むしろ向こうではこんなのは当たり前だった。
「…っ!?消えた!?」
襲い掛かるタイクンタイガーとやらの攻撃を俺は新しく習得した気功術『刹那功』を使って瞬間移動することで回避。俺を探すタイクンタイガーの一頭の目の前に現れ『光速』『音速』『瞬速』の異なる速度の蹴りを三発同時に入れる三段式上段回し蹴りエリー命名『スリースパイク』をど頭に叩き込む、だが加減を失敗した。蹴り飛ばしたタイクンタイガーは他のタイクンタイガーも巻き込き拠点の外壁に激突して崩れた瓦礫の下敷きになると三頭共動かなくなった。
唖然とし静まり返る魔族達を尻目に俺はレオエッジに
「どうした?お前は来ないのか?かかってこいよ」
ちょいちょいと手招きしてかかってくるようにレオエッジに促す。俺は促しているだけだったがそれを挑発と捉え
「人間風情がぁ!後悔させてくれるわ!!」
先程飛び出して襲い掛かってきたようなスピードで迫り両腕の爪による連続攻撃を仕掛けてきた。しかし攻撃が雑だ。確かに速いが雑過ぎて避わしやすく余裕を持っても回避が間に合うくらいだ。
「ほい」
避わしがてらにパシッと音が立つように奴の頬に撫でるように軽く裏拳を入れる。
俺の態度に完全に頭に血が昇ったようで顔を返り血で染まっている鬣のように真っ赤にして逆上し襲いかかるが
「雑だ」
先程以上に雑になる連続攻撃をひらりと避わしまた顔面に今度はある程度力を入れ裏拳を入れよろけさせると間髪入れずどてっ腹に前蹴りを入れてずさぁと音を立てて後退り体制を崩すと顔面に左フックを入れて殴り飛ばす。レオエッジはゴロゴロと転がり立ち上がろうとするが俺は刹那功を使い一瞬で距離を詰め顔面に飛び膝蹴りを食らわして追い討ちを入れ蹴り飛ばす。
「がはっ…」
周りの人獣族達が呆然としてるのが音で分かる位静まり返っている。ふと一瞥すると皆まるで信じられないと言わんばかりの表情を浮かべている。俺が歩み寄ると
「ひ、ひいぃぃぃ」
先程までの殺気の満ちた勝ち誇った態度は消え命の危険を感じたようで部下の前なのにも関わらずすっかり怯えてしまい形振り構わずレオエッジは逃げ出してしまった。
「みっともない」
俺の率直な感想だった。さんざん調子に乗りいざというときにこの様、そんな所に
「我の前で随分好き勝手してくれたな」
レオエッジが逃げ出した時に奥から低い唸るような声が響くと取り残された人獣族達が一斉に声がした方に視線が集まる。現れたのは俺の倍位デカイ熊の人獣族
「おおっ…!」
「グリズリア様!」
「グリズリア様だ!」
どうやらお目当てのもう片方の十闘将の頭目元魔王、獣王グリズリアだ。人獣族達はグリズリアの登場にまるでヒーローが現れたように嬉々とした表情をした。
「レオエッジも情けない、こんな人間に」
グリズリアの言葉はここで終わった。
いや終わらせた。出てきた瞬間に俺が奴の脳天に毒蛇咬を叩き込み一撃で仕留めた。毒蛇咬は隠密スキルを最大まで使い高速で蛇のように地を這い近付き一瞬で飛びつくようにして食らわす上段振り下ろし叩きつけ蹴り。
確実に仕留める時は勿論この技の特徴からこのように奇襲にも使える技で俺にとってこの技は相手を必ず殺す時に使う。現に俺が一瞬で距離を詰めて攻撃する瞬間の驚愕した色を浮かべたグリズリアの目がそれを物語り叩き付けられた時の轟音と一瞬で殺されたグリズリアの最後を面前にして魔族達は開いた口が塞がらないという言葉が相応しいようにただ呆然としていた。
「ん?そこに逃げたか」
レオエッジが逃げ出した先で何かやっているようで俺はグリズリアの死体を全力で蹴り飛ばして外壁ごとぶち破りレオエッジに命中させるといきなりレオエッジの声がブツリと聞こえなくなった。俺は蹴破った先を確認するとそこには
「これは魔方陣か?」
起動していた何かの魔方陣がある。そこに浮かんでいる紋様を見て
「ネロが使ってたリタンスフィアの紋様に似ているな、ならこれは空間魔法の魔方陣か」
レオエッジに散々自由にさせていたグリズリアに落とし前をつけさせた俺はレオエッジに落とし前をつけさせる為迷いなく魔方陣に乗った。
「自身の身可愛さ故、何の罪もない親子を人質にし無抵抗の者を殺し挙げ句の果ては親子すら殺す。まさに鬼畜の所業。ならこちらも鬼にならねば無作法と言うものだ」
レオエッジ、てめぇは死すら生温い。この鴻上響介が生き地獄を見せてやる。任侠者を怒らせるとおっかねぇんだよ。