94話 魔族の街 突然の襲撃
響介とライミィ、いちゃつく。
プトレマイオス遺跡から転送され魔族領の西の街ルイナスへとやって来た響介達一行。響介達は5人全員がいるのを確認するとその周囲を見る。側には高い塀があり周囲の雰囲気からしてどうやら街外れのようだ。魔族の住む土地と聞いていたが建物の雰囲気は響介目線人族国家と変わらず中世ヨーロッパのような建物が多く生活レベルも恐らく人間と同レベルみたいだ。響介達は隠密スキルを使い他の魔族に気付かれないように街を進み案内してくれるネロに付いて行くと一つの建物の裏手に来た。
「ここで、あってる?ネロ」
「ああ、こっちだ。来てくれ」
裏手の扉を開けて中へと入る。そこは倉庫のようだがネロは全員入った事を確認すると扉を閉めて施錠をすると壁際にあった棚をがさごそといじくる。すると
「わっ」
「隠し階段、ですか」
倉庫のぽっかりと空いていた空間に突如地下へと続く隠し階段が出てきた。
「この先がアジトだ。付いてきてくれ」
そう言うと先に階段を降りるネロに続く形で付いて行く響介一行。全員が階段を下るとネロは横の壁を操作するようにいじると地上への道が閉ざされるがネロ含め全員が暗視能力を持っている事もあり足元も先の道も見えているおり一行は進むと行き止まりに差し掛かる。
「ここだぜ」
ネロが手をかざすとガコンと音がしひとりでに壁が開き中には
「誰だ!」
「……!?」
「ネロ?!」
あの倉庫のような建物の入り口はどうやら会議室のような、大きなテーブルや壁に付箋や色々書き込まれている地図が貼られていたりしていた部屋に繋がっていたようでそこにいたのは響介より隆々とした体格と1回り以上大柄で頭に角を生やした大男、狼顔の人獣族の男、頭部含め全身に騎士風の鎧を纏った人物。
3人は、特に鎧の人物はネロを見るに駆け寄ろうとしたがネロの後ろにいた響介達に気付くと携えていた剣を手に掛け
「人間…!後ろですネロ!」
(ん?)
「まてクラリッサ」
今にも剣を抜きそうだったクラリッサと呼ばれた響介視点鎧の女性を諌める大男と
「ちょちょちょ!待ってくれよクラリッサ!キョウスケ達は敵じゃねぇ」
「ネロよ、後ろの人間は誰だ?」
「俺の協力者だよ」
「信用出来るのか?」
「ラヴァナ達と敵対してるし、例のウィクルを蹴り飛ばした奴だよ」
「「何…?!」」
大男と狼顔の人獣族がピクリと反応を示したが鎧の女性クラリッサは身構えたままでネロに尋ねる。
「ネロ、本当に信用出来るんですか?」
「出来るよ。俺の身の上を知った上で協力してくれるって約束してくれたんだ。頼むクラリッサ」
そうネロがクラリッサに頼み込む横で響介とライミィとエリーはクラリッサと呼ばれた鎧の女性に違和感を感じていた。クラリッサは剣から手を離すと響介達に頭を下げ
「ネロに寛大な処遇を取って頂きありがとうございました。私は亡霊騎士団団員のクラリッサといいます」
全身を鎧で固めた人物から頭を下げられた響介達。クラリッサの謝罪を聞きながらも気になったことは確認しないと気が済まない響介達は
「これはご丁寧にありがとうございます。あの、失礼なのは承知していますが貴女は女性のようですが少々違和感が」
「あ、キョウスケも思った?私もこの人からさ熱を感じないだよね」
「変、鎧の匂いしか、しない」
横で困惑していたステラだったがネロが
「初対面のクラリッサ相手にそこまで反応するのは初めてだ。その時点で只者じゃないのは分かんじゃねぇの?」
そう大男と狼顔に言うとその2人はぬうと唸り黙ってしまう。なんの事かと響介達は訝しげになった時にクラリッサは頭の兜を外す。すると
「!?」
「頭、無いよ?」
本来有るはずの頭が無かった。響介やエリー、ステラはどういうことかと考えていると
「成る程、貴女はデュラハンね」
「デュラハン?」
「魔族の一つだよエリー。確か幽霊だとかのおんなじくくりだったかと思うけど」
ピンときたライミィが幽霊と答えたのを聞いた響介は自分の中で亡霊騎士団の意味が分かった。
「そういう事ならネロ、亡霊騎士団というのは」
「そうだよ、クラリッサもハリエット達もみんなデュラハンさ」
ネロのその言葉を聞いて納得する響介達。それを見たクラリッサは響介達を意外そうな声色を横で抱えた兜から
「あの、デュラハンと聞いてなんとも思わないんですか…?」
「いや、話しが出来ますから特には」
うんうんとライミィ達3人が頷くのを姿を見て
「な?信用出来るだろ?」
アハハと笑うネロを見て「全く…」と返すクラリッサの声色は少し明るいのを感じた響介。そんな響介達を見ていた
「人間に、珍しいなラミアとダークエルフにターロスか」
狼顔の人獣が響介達を一瞥して種族を言い当てる。ライミィは人間状態でエリーも認識阻害の護符を付けているのにも関わらずピシャリと言い切るのを見た響介は
「正解だ。あんた鼻効くんだな」
「人狼族のヴーレだ。人間、貴様の名は」
「キョウスケです。それが?」
「いや…」
「分かるぞヴーレよ。この人間、只者ではない!強者の気がプンプンするわい!」
「ランガよ、お前という奴は…」
はぁとため息を吐く人狼族のヴーレの横でがははと笑う角が生えた大男は一頻り笑い響介達に向き合うと
「某は戦鬼族のランガ。此度は我らが主アルフォンス様救出の助太刀感謝する」
戦鬼族。
人間はもとより鬼人族より大柄な体格が特徴で卑怯な事を嫌い闘う事に矜持と高潔な精神を持つ種族とオリビア達から教わっており戦鬼族に対して悪い印象は無かった響介。今目の前のランガと言うトロールの戦士を見ても武人という印象しかなく不思議と信用出来そうな感じだった。
(そうか、頭の京町さんみたいな雰囲気だからか)
と、いうのも鴻上組組長の祖父孝蔵の側近にして頭を務めた男で、喧嘩に負けて泣いて帰ってきた当時4歳の響介に喧嘩のいろはと技術を祖父と共に教え鍛えて6歳時に響介を『悪魔』と呼ばれる化け物にした恩師でもある元キックボクシングのチャンピオンの経歴を持つ頭の京町と同じような雰囲気を持つこのトロールの戦士に悪い印象はなかった。ランガは響介を見ると
「こんな時でなければ貴公と一戦交えたいのだがな!」
まるで好敵手を見つけたように嬉しそうに笑うランガにネロやクラリッサ、ヴーレは呆れたように
「悪いなキョウスケ。トロールみんなこんなんだからさ」
呆れているように話すネロ、まあ戦闘狂という奴だろうと流した響介達。そうしているとネロがヴーレやクラリッサに尋ねた。
「所で、俺が離れてる間の状況はどうだ?」
「それが……」
ネロはクラリッサから状況を聞くとどうやら芳しくないらしい。魔王ラヴァナの四天王の1人ウィクルの配下の十闘将と呼ばれる魔族との闘いで徐々に追い詰められているらしくこのルイナスまでラヴァナの手が延びようとしているそうだ。
「あんまり、よくない?」
「そのようですねエリー様。今の話しを聞くに多くの魔族がラヴァナという魔族に味方をしているようです」
質の悪い事に魔王アルフォンスを封じた事に今が好機と幾人の魔王やその配下が魔王ラヴァナの軍門に下っておりどんどん勢力を拡げているそうだ。十闘将というのもその勢力拡大した事で出来た四天王の配下だそうで様々な魔族がいるそうだ。
「そんな強いんだ」
「レベル的な話しをしたほうが分かりやすいと思いますが大体がレベル30以上、ネロ様でもレベルは37と奴らよりかは高いですが何分数で来られたら人堪りも…」
「えっ?そんなもんなの?」
意外そうに声を上げてしまったライミィと横で聞いていた響介も魔族にもレベルという概念があったのに少し驚いていた。というのも現在のレベルが
響介→87
ライミィ→73
エリー→52
ステラ→49
と、響介一行は類を見ない程高い。理由としては響介のアビリティ『頼もしき兄貴分』のお陰で経験値ブーストがかかっている上で響介始め1対多数の戦いを得意としているため倒した魔物の数が聞いた者が引く程の討伐数をほこりレベルもガンガン上がりこれが当たり前になっていたライミィ達は拍子抜けしてしまったのだ。
慣れというものは恐い。
そんなことを知らないクラリッサは焦ったように
「そんなものって言いますが本当に分かっているんですか!?」
「だって、エリーより、低い」
「「「「は?」」」」
エリーの一言でネロを含めた4人は呆気にとられる。しかし次の瞬間だった。
ドゴォォォォォォォォォォォォン!!
「っ!?」
「な、なに!?」
大きな音と揺れが起きたのだ。よろけるライミィとエリーをステラと共に受け止め冷静に状況を確認する響介はネロを見るとネロは何か察したようで
「まさか…!」
「襲撃か?」と言わんばかりの響介から目の問いかけを受けたネロは察した時にこの部屋に鬼人族と思われる戦士が入ってきた。
「ランガ様!十闘将レオエッジ達からの襲撃です!」
「状況はどうなっている!」
隠しアジトのあった建物から地上へ出た響介一行とネロ達はあちこちから上がる火の手を確認し鬼人族の戦士からの報告を聞いた
「突然の奇襲により足並みが崩れてしまい、レオエッジの他にもドライビー、ホークロウ、ゼブラス、フライオ達にも攻め入られ我が軍の戦士達に被害が…」
「何故だ?俺の部下も居た筈だ。遅れをとるなど考えずらいが?」
ヴーレの疑問に鬼人族の戦士は悔しそうに顔を歪ませ
「それが、レオエッジの部下が住民を人質に取ったのを見たヴーレ様の部下を庇いトロールの戦士達が…」
「クソだな」
最後まで言わなくても理解した響介が鬼人族の戦士の言葉を遮った。
言わなくても想像出来る。要は人質を取ってなぶり殺しにし最後に人質を殺したのだろうと、少なくともレオエッジという奴はとことん腐りきっているようだ。そして駆け付けた場所ではトロールの戦士数人の死体があり響介は目の前の惨状に怒りを覚えた。
そこにあった戦士達の死体は例外無く武器を持っていない。恐らく人質を取られ武器を捨てる事を強要され一方的に攻撃されていた様子がありありと伺えたからだ。その証拠というべきか近くには魔族の親子らしき母親と子供の死体があった。
反吐が出る。響介の、いや響介達の率直な感想だった。
響介の熱が怒りを孕んだものに変わったのをライミィが気付き
「相手は全員外道だねキョウスケ」
「ああ」
「コウガミ家、家訓その1。『仁義を持って仁義を成せ、外道には鉄槌を』」
「てっついをー」
こう響介達がやり取りをしていた横ではネロが鬼人族の戦士に尋ねた。
「奴らは?」
「我が軍の戦士達の善戦もあり退けましたが申し訳ありません。取り逃がしました。ですがヴーレ様の戦士達が奴らの部下に魔力を発信するアイテムを紛れ込ませたようで」
「なら、それを頼りに転送魔法で追えば奴らの後ろを付けるな」
ネロの言葉を聞いたランガとヴーレが即座に反応する。しかし
「なら、ここは俺達に任せて頂けませんか?」
「え?」
「き、キョウスケ?」
皆が唖然としていたがその中響介は続けた。
「ランガさんもヴーレさんも部下の仇を取りたいのは重々承知していますがここで貴方達がこのルイナスを離れてしまえばそれこそ好機としてこの街が落とされるかもしれません。ですので俺達とネロでその撤退している連中に奇襲する事を提案します」
響介の思いもよらない言葉にランガが即座に反論しようとしたがそれをヴーレが抑える。
「ヴーレ?!何のつもりだ!?」
「キョウスケの言っている事が最もだと思っただけだ。確かに我らが行くよりもネロはまだしも人間、なにより子供相手なら奴らは油断するだろう」
「だが!?」
「だが条件がある」
「条件とは?」
ヴーレは報告した鬼人族の戦士を呼ぶとある質問をし、確認すると響介達にこう言った。
「奴らは各々別れ今は5つに散らばった。ネロを含めればお前らは5人」
「5つを全て潰せばいいんだな」
響介の言葉にヴーレは「分かってるじゃないか」と言わんばかりのニヤリとした笑みを浮かべるがクラリッサが反論しようと声を上げた。
「そんな…!?いくらでもそれは」
「大丈夫さクラリッサ」
「ネロ?」
ネロが仲裁に入りクラリッサを宥める。クラリッサが反論するのは当然だ。最悪は十闘将全員と戦う事になるかも知れないのだから危険性は高い。しかし
「キョウスケ達はヤル気満々だからさ、大丈夫だよ」
そう言ってネロは響介達を見る。つられてクラリッサも響介達を見ると響介達は殺された魔族の親子とトロールの戦士に向かい合い手を合わせ哀悼の意を捧げていた。
「ライミィ、エリー、ステラ」
「んー?」
「なにー」
「はい」
「こんなものを見せられて、頭にキてるのは俺だけか?」
「私もだよー」
「許さない」
「万死に値する所業かと」
『堅気に手を挙げる事は絶対の御法度』
祖父の教えの一つ、組の絶対の掟であり特に任侠の世界では関係者の堅気の親家族や恋人に手を挙げる事は卑怯とされそれは構成員だけの問題ではなく組の信用問題に発展し干される対象となる。云わば不文律であり勿論響介も日本にいた時から尊守し今も守り続けている。
勿論この世界には任侠の不文律なんてものは無い、無いが無いからといってイコールやっていいという訳ではないのだ。
明らかに雰囲気の変わった響介を見てランガ、ヴーレ、クラリッサは身が強張った。それはまるで主アルフォンスを目の前にしたような緊張感と殺気を感じ
「奴らは、それなりの喧嘩の売り方をした。その場合はどうする?みんな」
「「「落とし前をつける」」」
「ふははははは!こうも上手くいくとは!」
乗っ取った魔王城の玉座にふんぞり返り座る犬面の人獣、魔王ラヴァナは全てが思い通りに進み上機嫌だが下品な笑いが響いた。
「流石ですわ~~ラヴァナ様ぁ♪」
「見事な御手前でございます」
そのラヴァナの前に跪き称えるスティーナとリオレン。2人はオウレオールからの帰還後はラヴァナに従い人族国家の動向調査の報告をしていた所であった。
「まぁ、当然だな。我輩はアルフォンスのような腰抜けではない。まずは魔族領を我が物とし人間共に宣戦布告してくれよう!!」
高らかに宣言するラヴァナに玉座の間にいた魔族達が歓喜に沸いた。人間共を滅ぼし魔族の世界にする。それが魔王ラヴァナの目的だ。その目的には
「まさかあの神ですら我輩に助力を申し出るとはな」
「それはラヴァナ様が力を持つのに相応しいからですよぉ♪」
「ふふふ、そうであろうそうであろう。笑いが止まらんわ!」
先程以上に笑うラヴァナは
(まさか戦いの神アイゴーンが我輩に力を貸すとはな、神も戦いに餓えていると言うことか)
戦いの神アイゴーン。それはオウレオールとその隣国コンバーテで信仰されている五神の神の一神である。戦いの神が魔族に肩入れするということは大規模な戦いを望んでいるということだとラヴァナは受け取ったのだ。
(我輩はアルフォンスなどとは違う。力は振るわねば意味がないのだからな…!)
その気になれば魔族全てを統一し人間共を滅ぼせる事が出来た魔王アルフォンスは何故かそれをせずに同族に目を向け光らせていた。まるで自身が魔族の抑止力のようにだ、しかしラヴァナはアルフォンスの事を所詮は吸血鬼の腰抜けとしか認識しておらず
(そうだ!我輩こそが!神に選ばれた我輩こそがこの世界の支配者に相応しいのだ!!)
そんな歓喜に盛り上がる玉座の間に
「魔王様!申し上げます!」
突如として人獣族の魔族が伝令を携えてラヴァナの元へとやって来た。
「無礼であるぞ!ラヴァナ様の御前だ!」
「も、申し訳ありません!ですが」
「構わんリオレン。今の我輩は機嫌が良い。申してみよ」
「はっ、それが…」
伝令を持ってきた魔族が何故か顔色が良くない事に誰も気が付かなかった。そしてその報告の中身に衝撃が走った。
「レ、レオエッジ様を始め十闘将が全滅しました!」