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異世界に来たらピアニストになった俺~しかし面倒事は拳で片付る任侠一家の跡取り息子の見聞録~  作者: みえだ
第5章 魔族領へ ~ピアニストと囚われの魔王~
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91話 出会い4 金髪赤目の行き倒れ

その頃アルスを出た響介達は




「……我も落ちぶれたものだな」


 雫がポタッポタッと滴り落ちる音しか聞こえない一筋の光が射さない闇の中、誰も居ない空間でそれは呆れた様にポツリと呟いた。


(…よもや神の手助けを借りて我の寝首を掛くとはな)


 皮肉な話だと付け加えた。まさか魔族が神に助けを乞うとは露にも思わなかったからだ。


(片や血深泥な戦いを起こし『糧』にしたい、片や魔族の中心となり全てを支配したい。我から見ればどちらも私腹を肥やすだけ意味が無いことだ。だから利害が一致したのだろうな)


 試しに体を動かそうとしたが指先一つピクリとも動かせない。理由は今それがいる所に施されている強力な拘束用の空間魔法を応用した魔方陣と巻き付けられている魔法道具(アーティファクト)の魔封じの鎖による拘束によるものでだ。しかしそれだけではない


(この魔方陣の構築を見るに神が施したものだな…。取り敢えずこれが起動している分は生かされるか)


 足元の魔方陣は拘束だけではない、それの魔力を少しずつ、少しずつ吸収し奪っているのが分かった。恐らくそれの持っている魔力を全て奪い取る事も合わせて機能しているのだろう。そしてあえて少しずつなのはあの魔族の趣味なのも理解した。


(全く困ったものだな…)


 もうどうする事も出来なかった事に舌打ちが出た。魔力が完全に失うまでまだ猶予はありそうだが打開策がない。恐らく他の者も同じようにあえて殺さずに拘束されたであろうが、それが死んだ後に後を追わされるように処刑されることは想像出来る。此度の事を企てた魔族を知っているそれには容易に考えられるからだ。ただ


(……あの騒ぎの時、居なかったのが我にとっては唯一の救いか……せ、めて…お………)


 不意に口に出かけた時自分のようなのが何を思ってか笑いたくなったがそれ以上は思考が続かなかった。魔力を失った事で魔力欠乏症が出たのだろうが欠乏症状が起こったのももう何百年も前の事だったからかまるで眠りにつくように意識を手離し静かに沈黙した。








「さっすがキョウスケ!こんな方法を思い付くなんてすごーい!」


「ありがとうライミィ」


 ルーブルを発ったその日、響介達はアルスから国境を越え友好国のクオーコへと渡った。しかしそこからエリーに空間魔法『テレポート』を発動してもらいクオーコから姿を消してある場所へと移動し今響介は野営の準備をしていた。


「エリーもありがとうな。まだこの場所をマーキングで残してくれて」


「うん♪」


 一緒に野営の準備をしているエリーの頭を優しく撫でる響介。頭を撫でられるエリーは上機嫌に返事を答えた。響介達が移動した場所はというと


「ステラは?」


開発者(おとうさん)に近況報告してくるとさ」


 転送先はマルシャン公国のプトレマイオス遺跡。以前の救出クエストからエリーが『マーキング』で登録したままだったのを思い出した響介はオウレオールからの追っ手の事を考えてわざわざ国境を越えたと情報を残してから跳ぶ事にした。


「あのアリシアって聖女は諦めが悪いだろうな、多分追いかけて来る。俺の経験だけど」


 響介の経験談である。元の世界では一時期喧嘩三昧の日々を送っていた響介。しかし喧嘩をしていると警察を呼ばれる事もしばしばありそういう時は逃走一択、助っ人で出場した中学陸上の100メートル走で日本新記録を樹立した抜群の俊足とパルクールで鍛えた軽業を駆使しあの手この手で逃げまくり顔を見せる事という失態も見せず10回以上通報されても圧巻の補導歴0を誇る。

 そんな響介がオウレオールや聖女アリシアから煙に撒く手段として考えた事をライミィ達と家族会議の結果出したのが自分達の足跡をしっかりと残した上での転送だった。この世界の主な移動手段は馬車、そしてクオーコはオウレオールからだとアルスを横断する形になりどんなに急いでも最低十日はかかる事と、現地クオーコに赴いて調べるのも時間が必要なのは想像出来、仮に転送魔法の存在に気が付いて響介達の過去行った事のある場所を洗っても手遅れだ。響介達が赴いた場所は冒険者ギルドで受けた依頼を含めると小さい村から厄介なダンジョンまでありそこからの絞り込み事は難しいだろう。


「まあ、あいつらは私達の行き先も知らないもんね~」


「ああ、知る方法もないだろうな」


 ごそごそとテントの中で着替えながら相づちを打つライミィ、響介達の行き先は魔族領だ。

 エリーの母親が何かの縁か魔族領を移動するライミィの母親達ラミアの集団と行動を共にしている事をセフィロトから買った情報から知り響介達も魔族領に赴く事を決めた。それに魔族領に入ってしまえば簡単に追ってはこれなくなると響介は踏んだ。理由は


「今のオウレオールも教会も金がない。例え魔族領に入ったことを知られたとして、確かに人員は揃っているが装備やアイテムを揃えるのは金も時間も掛かるし現段階で一介のピアニストを追うのにはリターンが少なすぎる」


 資金、要は金の問題だ。

 特に五神教会に言える事で先日ランベール卿がオウレオールに損害賠償を請求する旨を先に伝えており今後その支払いに追われることだろう。そして払うべきトリウス教会はニューポートの事で今絶賛財政が苦しい状況、全てを払うのは難しい、ならどうするか?あるところから借りて協力してもらうしかなくそれが他の五神の教会になり、結果全ての教会の財政に打撃を与える。

 要するに結果として響介は五神の勇者の後ろにいる教会の財政に直接攻撃(ダイレクトアタック)したのだ。

 勇者達は教会に支援して貰っている立場上後ろにいる教会(パトロン)からの支援が少なければ行動を制限せざるを得ない、アリシア・クラインのように実家が貴族なら実家からの支援もあるだろうがパトロンになるには少し頼りない事も調査済み、オウレオールという国がどう動くかによるがアルスとの国交改善を優先するだろう。

 その間に魔族領に入り雲隠れするにはトータル的に十分過ぎる時間稼ぎになるということだ。


「それにしてもキョウスケはすごいねー!そこまで考えてるなんて!」


「世話ないさ、たまたま状況が恵まれただけだよ」


 状況に恵まれただけと言う響介だが、半分以上が響介の思惑通りなのをライミィは知っている。むしろ普段は優しく誠実で面白い所がある響介だが時に出る駆け引きが強く狡猾で情け容赦無い所は自分達ラミアに通ずる所があり響介自身もそれをどこかで感じとっているからか凄い波長が合う、そんな所も響介がラミア達に気に入られている要因だったりする。

 ライミィはライミィで性格が素直な部分が多い為駆け引きは上手ではない反面響介並みの狡猾な手段をスマート且つ平然と行う手腕と度胸は響介視点その筋の人間を連想させる。そんな風に考えていると


「そりゃ『コウガミ家家訓その3、男は度胸、女も度胸』だよ~じゃ、お披露目~」


 みんなで決めた家訓を口にし新しい服に着替えが終わったライミィはテントから出てきた。


「じゃーん!どう似合う?ラミアの民族衣装!」


 アルスで生活魔法を使って服を作っていたのを見てライミィも生活魔法の裁縫(ソーイング)を習得しアルスで沢山の服の生地を買い揃え早速作ったのが隠し集落でラミアのみんなが着ていたラミアの民族衣装だ。

 その見た目は響介が一言で例えるならアイヌ民族の衣装ような服装で集落で良く着ていた着物風の動き易い狩猟服ではなく今回はダッフルコートのような上着でジャケットに変わりに羽織りウルフの牙をボタン代わり(現地調達)にあしらっており他にもレギンスや頭にはアイヌの民族衣装のマタンプシに当たるような鉢巻も頭に巻いている。


「おお、凄い似合ってるな。やっぱりライミィはセンスが良いし、綺麗だ」


「でしょでしょ!それに暖かいんだよ~」


 その理由の大部分は新しく習得した付加魔法のエンチャントで火属性魔法のフレイムウォールを付加した事だ。そのお陰で見た目によらず総合的に高い防御性能があるがライミィのアビリティ『神遣いの一族』の効果火属性魔法適性でさらに底上げされ、服の素材に使ったアルスの露店で買った魔力を帯びた絹は火属性魔法と相性が良く付加するのに最適だった。裾や袖や鉢巻に防御魔法を展開した時に出る何かの聖印が刺繍の様に入っていて着ているだけで神聖魔法、邪神魔法を無効化にするとんでも民族衣装が出来たのだ。


「お姉ちゃん、可愛い」


「ありがとエリー!後でエリーのも作ってあげるね!」


「わーい♪」


 ライミィとエリーが微笑ましいやりとりを穏やかに見ながら焼いていたウルフの肉の焼き加減を確認しているとふとライミィが響介に近付くと


「キョウスケー」


 ライミィに呼ばれ振り向くと首に何かかけられた。ライミィがかけたのはウルフの牙に何か付加魔法をかけて作ったネックレスだった。


「ヒートベールを付加して作ってみたの。キョウスケ私達のものいっぱい買ってくれたけどキョウスケは自分はいいって遠慮してたでしょ?だから、ね?私からプレゼント」


 顔をほんのり赤くし照れながら「いつもありがと」と話すライミィ。響介は響介で今までこのような形に残るプレゼントを貰った事がなかった事もあり


「えっ!?キョ、キョウスケ!?」


 嬉しさのあまりライミィを抱き締める、ライミィはライミィで響介のいきなりの行動は嬉しくもあったが今回は慌てた。しかし


「俺の方こそ、いつもありがとうライミィ」


 お礼を言う響介の言葉を聞いてライミィは心から嬉しかった。大切な人の為に作ったプレゼントを気に入って貰えた満足感と今響介に抱き締められている事での幸福感で胸がいっぱいになりライミィからも響介に手を回して2人は抱き合う。そんないちゃつく2人を


「ねぇねぇ、お兄ちゃん、お姉ちゃん」


 目の前で見ていたエリーは意を関せずに服をちょいちょいと引っ張って2人を呼ぶ。響介もライミィもハッと我に返り


「ご、ごめんなエリー!悪気はなかったんだ!つい嬉しくて」

「そ、そう!私も嬉しくなっちゃってね~、つい」


「ううん、違うの」


「「違う?」」


「ステラお姉ちゃん、遅いね?」


「あっ、そういえば」


 エリーが気になったのはステラの帰りだった。今野営している場所とプトレマイオス氏達の墓はさほど離れていなく大体10分前後の距離のはず、響介は懐中時計の取り出し


「エリーの言うとおりだな、2時間は経ってる」


 ステラが響介達に断りを入れて向かったのが約2時間前。ステラの事だから沢山話しているかも知れないが少し長いと思った響介は聴力スキルを使うと


「…近付いてくる足音一つ、息遣いはステラだ」


「でも、変だよ。熱がいっぱいある」


 熱探知をしているライミィが違和感を感じると響介達は向かって来る方向に身構える。茂みがガサッガサッと音を立てて揺れると


「皆様申し訳ありません。お待たせしました」


 バスターブレードを担いだステラが出てきた。だがステラは身体中至るところが土で汚れておりまるで土を掘っていたかのように泥だらけだった。


「ちょっとどうしたのステラ!?そんなに汚れちゃって」


「そ、それが」


「まず服にクリーニングを掛けよう。ステラじっとしててくれ」


「エリー、拭くもの、持ってくる」


 そう言って響介はステラのメイドドレスにクリーニングを掛けて綺麗にする。ステラ本人には効かないがメイドドレスに効くのは唯一の救いですぐに新品の様に綺麗になる。


「ありがとう御座いますキョウスケ様」


「ステラお姉ちゃん、はい」


「ありがとう御座いますエリー様」


 エリーからタオルを受け取り手を拭うステラに響介は確認を取る。


「早速で悪いが何があった?」


「それが、私が開発者(おとうさん)達のお墓に行ったらあの方達がお墓を荒らしていて…」


「あの方達?」


「こいつらか」


 ステラが締めたであろう奴らがロープに縛られ引き摺られていたのが茂みの向こうにあったのを見つけた響介は2人も見えるように茂みから引き摺り出した。


「えっ、何こいつら?」

「魔物?」


 響介が引っ張りだしたものを見て困惑するライミィとエリー。それは虎や猪などの動物が人間に近い成りをしていた連中がボコボコにされ気を失いロープでぐるぐる巻きにされていた。


「どうやらこいつらは人獣族(ライカンスロープ)、魔族だな」


 人獣族(ライカンスロープ)。人族には魔族に該当される種族に当たる獣人だ。人間に動物の耳や尻尾が生えた人間に近い獣人族とは違い動物がそのまま人形(ひとがた)になった風貌の種族。だからこそ4人はこの人獣族(ライカンスロープ)達を見て


「なんでここにいるのでしょう?」


 顔の土汚れを落としたステラが最もな疑問を口にする。確かにマルシャンは魔族領に近いにしても何でこんな攻略された遺跡にいるのか分からなかった。

 ステラの話しだとプトレマイオス氏の墓に行った時にこの人獣族(ライカンスロープ)達が墓を掘り返しておりそれを見たステラが問い詰めようとした所問答無用で襲い掛かって来たそうだ。しかし秒で返り討ちにして拘束した後荒らされた墓を今までずっと1人で直していたと言う。ステラの説明を聞いていると


「ん?」

「…?」


 聴力スキルや熱探知スキルを使ったままにしていた響介とライミィが反応しその方向の茂みを見た。


「どうしたの?」


「何かいるな。だが足元が覚束無い様子だ」

「熱もあんまり強くない」


 そう分析していると、茂みが揺れ出てきたのは


「うう…」


 出てきたのはボロボロのマントを全身に纏った人物。しかし出てきたとたんバタンと倒れた。目の前で倒れたのを見ては見て見ぬ振りなど出来ない響介は駆け寄る。


「おい!しっかりしろ!」


 倒れた人物を介抱する為マントを取り顔色を確認する。金髪に赤い瞳の中性的な印象で女性っぽく見えるが声を聞くにあたりどうやら男のようで顔色は良くない。脈拍を確認しようとすると弱々しい声で


「は、はらが…」


「腹か?腹に怪我でもしているのか?」


 そんな時だった。突如ぐうと腹が鳴る音が聞こえ響介達は顔を見合せると


「腹減った……」




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