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異世界に来たらピアニストになった俺~しかし面倒事は拳で片付る任侠一家の跡取り息子の見聞録~  作者: みえだ
第4章 貴族の国 ~本領を発揮するピアニスト~
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目指す行く先は

響介一行、アルスに別れを告げる。




 響介達との別れの翌日、メアリーは父親とオルセーへの帰路へついている。オルセーへの道中、馬車に揺られメアリーはここ数日の事を振り返る。


「大変、充実した日々でしたわ」


 一言で言えば賑やかという言葉が彼らには一番最適だろう。あの時の出会いが何の縁かここまで自分の人生に充実感をもたらす事になるとは思わなかった。

 彼らと友人になれた事はかけがえのない財産といっても差し支えないとメアリーは考える。


「本当だ。メアリー、君は素晴らしい出会いに恵まれたな」

「御父様こそ」

「そうだったな」


 とても満足そうに笑うランベール卿、だが大変なのはこれからである。オウレオールとの外交と今後、アルス国内の新たな法整備、なによりもランベール家の問題とやるべき事は山とある。だが


「キャリスの親とはもう決着したよ。ニコラスに一任させて正解だった。キョウスケ君達から貰った山のような証拠を突き付け大人しく捕まる道を選んだようだ。この時点でこの件に携わった使用人含め旧王家に関わったとして重犯罪者として強制労働行きの終身刑は確定し伯爵家は取り潰しとなった」


「流石の手並みですわね。継母(おかあさま)は?」


「流石にショックを受けていたようだ。先にオルセーに子供達と帰したよ」


「そうですか」


 ふうと息を吐いて窓の外を見るランベール卿、それを見ていたメアリーは思う。


(不思議な方でしたわね、キョウスケさん)


 本当に不思議な人間だった。ラミア、ダークエルフ、人造人間(ターロス)と種族を気にせず平等に接し信頼関係を築け慕われるあの姿はまるで家族そのもの、誰に対しても礼儀を弁える謙虚な青年。その一方彼が怒った姿は末恐ろしかったがその怒りは他の誰かを思い理不尽な非道を許さない義憤を持ち合わせる他人の為に怒ることが出来る優しい人間だった。そしてメアリーはふと


(そういえば、キョウスケさんは任侠者だとライミィさんは言ってました。初めて聞く言葉でしたが確かライミィさんは)


『私もキョウスケから教えて貰ったんだけど任侠者っていうのは自分の周りにいる人達の笑顔を守る人ってことなんだって。キョウスケもおじいちゃんから継ぐ組はそういう事を重んじてるって言ってた』


 自分の周りの人の笑顔を守る。

その言葉を聞いた時思い浮かんだのは紅の翼を羽ばたかせ勇者とドラゴンを焼き払った響介の姿を見た国民達の表情だった。あの時、避難していた国民達は恐怖に駈られ下を向き不安を口にしていた。

 しかし響介はあの場の誰よりも冷静で皆を率いて解決に貢献し、あの胡散臭い神聖王国の聖女、果ては神と名乗った者に対しても引かず神の一撃からライミィと共に皆を守り抜き勇者に引導を渡し空に示した。


 あの時の国民達の笑顔と歓声は忘れない。忘れたくない。あれこそが本来の自分達貴族が、国を興す者が成さねばならない矜持であり義務なのだ。

 メアリーは思う。あの響介のスタンスこそ今の貴族である自分達に必要なものだと。つまらない種族の壁など必要ないと思い知らされた。

 彼に突っ込んで聞いたところ彼はもう自分の故郷に帰る事が出来ないと言っていた。しかしそう言った彼の表情に故郷への未練はなかった。彼は今も自分の信念の元に歩き続けるだろう。

 彼女達が、家族が側にいる限り。


(キョウスケさん達は任侠者であり冒険者でした。私も冒険者になれば見聞を広められるでしょうか?)


 そう考えていると丁度馬車がオルセーへと入り屋敷へ戻るとマルコフから響介達が昨日アルスを出国したと聞かされたメアリー達親子だった。




 後にメアリーは選択する。メアリーの選択は父親のランベール卿すら予想だにしない事を、そして後にアルスに大きな繁栄をもたらす楔を文字通り自身の得た規格外の力で撃ち込む事になる。







「なんて事をしてくれたんだ!!」


 時はランベール親子がオルセーへの帰路に着いた頃。

 神聖王国オウレオールの聖都リヒトブルクにそびえる王城の謁見の間、そこで玉座に座っているマディウス国王が突然帰国した聖女一行からの報告を聞いて驚愕した。

 いや、正確には彼女達の見苦しい言い訳にだ。すでにアルスから死亡したトリウス教の勇者ロン・ハーパーが起こした事件の全容と損害賠償と慰謝料請求に対する書状が届いており状況は把握していた。

 しかし国王にとっては重要ではない、既にロン・ハーパーはオウレオールの国籍を剥奪していたのが功をそうして請求は全てトリウス教会に丸投げしたからだ。教会は文句を言っていたがアルスもトリウス教会がロン・ハーパーの存在を認めている旨を何故か把握しておりそれに加え今までの責任問題を教会に非がある事を認めさせ莫大な賠償金は教会負担となった。よって重要なのはピアニストを王家に引き込む事が出来なかった事に焦点は当てられる


「ウィルよ、お前が付いていながら……!」


「…返す言葉がないの」


「…まあもうよい。聖女アリシアご苦労だったな、ウィルよ少し話しがしたい。他の者は下がってよいぞ。宰相よ、お前も来てくれ」


「はっ」


「いえ、ですが国王様」


「よいと言っている。下がれ」


「は…」


 何か言おうとしていたアリシアを遮り退席するよう鋭い視線を向け告げる国王。従うしかないアリシア達3人は謁見の間から退室させるとマディウス国王はウィルと宰相のシュルトを連れて謁見の間から国王の執務室へと移動する。執務室の中にいた兵士を下げ自分達しかいないことを確認するとウィルに向かって口を開く。


「にして、ウィルよ。ピアニストはどのような者だった?」


「そうじゃのう…」


 顎髭を擦りながらキョウスケとのやりとりを振り返るウィル、暫し思案したのち


「かの者は、良く見て理解しておる。マディウスよ、お主の目論見はほぼ見抜いておったよ」


「なんと…」


「じゃが、ピアニストは貴族が喜びそうな物には一切の興味を示さんかった。それよりオウレオール王家や貴族の統治に疑念を持つところから、ピアニストは大変良い教育を受けておる」


 ウィルの言葉に頭が痛いと言わんばかりに宰相のシュルトは頭を抑える。地位や名声を欲しがる貴族や冒険者、騎士達とは全く毛色が違い懐柔するには骨が折れるのは間違いなく、むしろこちらの政治に疑問をもつ辺りそういったものにも理解があるということは相手はただの平民という訳でもないのだ。


「ピアニストの懐柔は諦めたほうがいいの。情報にかなり明るく吟味しておるし、国王の依頼より先に受けておったエルフの子供の母親探しを行うあたりを見て、例え神であろうと筋を通さん者には手厳しいからの」


 ウィルが「アリシア嬢も見習って欲しいのう」とぼやいたのはスルーし、国王は頭を悩ませ宰相は難しい顔をする。

 法や常識をわかった上で自身の倫理観や道徳を持ちそれに反したとなれば相手が誰であろうと立ち向かうということだろう。なんとなくマディウスはピアニストという人間の人となりが掴めた。

 だからこそ国王マディウスはピアニストを迎え入れたかったのだ。自分の義の為に勇者を殺すなどの大それたを事を平然とやってのけ果ては神すら敵に回す事が出来る人間を、しかし


「なら仕方ないな」


 マディウスは諦めると決めた。そもそも自国の問題を外部に解決させようとしたのが間違いだったと気がつくと少し穏やかになり


「ウィルよ、ご苦労だったな。お前の任は解こう。お前もパスクには居づらいだろう」


「よろしいのかの?」


「無論だ。あの聖女の力量も量れた。パスク教会は自分達の息の掛かった人間を入れたがっていたから丁度良い。なによりもお前を巻き込む訳にはいかん」


「巻き込むじゃと?」


「シュルト、あれを見せてやれ」


「はっ」


 国王の言葉に宰相のシュルトは執務机にあった一部の記事のようなものをウィルに見せると、ウィルは驚愕しその記事を凝視した。


「私にここまで仕えてくれたお前を泥船に乗せる訳にはいかん」


 その一面には魔物を前に背を向けて逃げる聖女とドラゴンに立ち向かい戦うピアニストの写真が掲載されており見出しには『敵前逃亡の聖女と(まこと)の英雄』と書かれていた。

 発行元はピーター商会、そこの報道部だった。ピーター商会ということなら遅かれ早かれ人族国家に知れ渡るであろうこの情報は今後の聖女達の行動の向かい風になることは間違いないだろう。






「アリシア、いい加減しっかりしろ」


「はい…」


 王城を出て教会へと向かうアリシア達3人。特にアリシアの表情は冴えず何か考えているようだ。


「パメラ、お前もだ」


「分かってるわよ!」


 いつも以上に突っ掛かるパメラは人が変わったかのようにイライラしていた。トリウスのお陰で髪の毛も元に戻ったのはいいものの人前であんなにも恥をかかされた事を引きずっており


「許さない、あいつらに必ず神の罰を…」


 と、爪を噛みながらブツブツと呟いている始末にやれやれと肩をすくめるレイモンドだった。こんな雰囲気の3人に誰も近寄らず時期に神殿へとたどり着く


「…」


 すると神殿を前に一つ息を吐いたアリシアはふと口を開いた。


「神とは尊られ、崇められ、人々から讃えられる存在です。これは私達五神に仕えるものであれば皆知っている事です」


 誰に話しかける訳でもなく一人話し始めたアリシア、そして段々熱が入る


「ですが、あの者は神に反旗を翻しどんな者であれ神の徒である勇者を手に掛ける事で神を愚弄しました。赦されるべきではありません…!」


 そしてアリシアは一歩出て2人に振り向くと


「レイモンドさんパメラさん協力してください。私、アリシア・クラインは神の名の元にピアニストを討ちます」


 そう宣言し教会へ入るアリシアは決意に満ちた表情をしピアニスト達の情報を集める事に、しかし後日ウィルの離脱を教会から告げられ教会から紹介された新しい仲間を2人迎え入れ改めて情報を集めるがその後教会から例のピアニスト達がアルスからクオーコに出国した後忽然と姿を消した事を聞かされそれ以降の消息を追うことが出来なかったのだった。







 所変わってここはオウレオールの商業都市ニューポートの誰もいない貧民街の片隅に場違いな白いローブを羽織った女が急いでいるように歩いていた。教会の刻印が入ったローブは目立ち貧民街の住民に見つかればあっという間に囲まれるだろう、赤い髪を覗かせるトリウス教の女神官のアシャは周囲に誰も居ないことを確認しながら周囲を見渡す。すると


「時間通りね、スティーナ」


 どこからか声がしたと思いきやスティーナと呼ばれたアシャの前に現れたのはいつか響介達と事構えたダークエルフの魔導師リオレンだった。


「お迎えご苦労さまぁ」


 そうリオレンに喋った声は男そのもの、途端にアシャは魔法を詠唱するとそこにいた華奢な女神官は消え現れたのは頭に生えた2本の羊のような大きな角と筋肉モリモリの隆々とした体格の悪魔だった。


「やっぱりかたっ苦しかったわねぇ神官なんてやるんじゃなかったわ」


 見た目に合わないオネェ口調で喋るスティーナは大袈裟に肩をすくめる。


「そのわりには満足そうだけど?」


「当たり前じゃない。ちょっと前までいた神官長、下半身ゆるゆるだったお陰でいろいろ楽しめたわぁ」


 外見に似合わない気色悪い笑い方をするこのスティーナという男は魔族の中で悪魔族に分類される者でインキュバスと呼ばれるサキュバスの男版に当たり、要は淫魔である。


「最高だったわよぉ、楽しもうとしたあの男達の絶望した顔は」


 厳つい面に似合わない恍惚とした表情にリオレンは引いている。このスティーナという男はインキュバスだが専らの同性愛者、要は筋金入りのホモで男の精と男の絶望顔が何よりも好きなこの男はアシャに姿を変えたのに理由がある。

 まずこのスティーナが言っている神官長というのがハーパー卿と愛人関係にあったトリウス教の女神官長で、あろうことかその女神官長は事が発覚するリスクを下げる為にニューポートにいる神殿幹部や神官に共犯者を作り秘密を共有するという手段を取った。その相手はハーパー卿に用意させ幹部や神官にあてがいみんなで楽しんていた。

 つまりスティーナはその時に本物のアシャを殺しアシャに成り代わって男漁りを楽しんだということだ。

 この様な五神に関わる教会の内部腐敗は今に始まった事ではなくただ表面化していなかっただけ、今回公衆の面前でピアニスト達に暴かれたことにより王家の息が掛かった監査団に踏み込まれた事で氷山の一角が露呈したということだ。

 

「やっぱり楽しいわねぇ、人間(バカ)同士の足の引っ張り合いは」


 ケタケタ笑うスティーナ、このオウレオールという国は腐っている。根幹を為す王家と教会が私欲の為に醜い争いをしているからこそ自分達が付け入る隙があるのだ。完全に同意だがリオレンはそんなことより確認したいことがあった。


「スティーナ、あなた邪神魔具(エビルファクト)はちゃんと渡してたんでしょうね?」


「もちろんよぉ、やっぱり使いこなすには勇者じゃないとだめよ」


「それは実際確かめたわ、あなたの言ってた通りだわ」


「でしょ~、そう考えるとあのゴミ勇者はいい実験台になってくれたわぁ。にしても」


 今までおどけていたように話していたスティーナだが声色が変わり


「例のピアニストよね?」


「ええ」


「ウィクルを一撃で蹴り飛ばしたって聞いたし色男だって話しだから楽しみだわぁ。強い男は大好きなの♪」


「あなたは相変わらずね。まぁいいわ私はあの同族の目を覚まさせないと……!」


 リオレンはあの時を思い出す。ピアニストと生意気な女の後ろに隠れるようにいたダークエルフの子供、あの子供はあの人間達になついていたようだがリオレンには関係無い。

 ダークエルフを受け入れる人間がいるなんて考えられない。きっと酷い目に遇わされているに違いないと思い切っている。かつての自分のように


「あらあら、力んじゃ駄目よリオレン。早く戻りましょ、お風呂入りたいわ」


「そうね、計画も折り返した。後はあいつから魔力を奪いきるだけ」


「あいつで思い出したけど、そういえば『隠し子』はどうなったの?あのハンサムボーイは?」


「まだ捕まってないわ。でも時間の問題よ」


「抵抗する連中は?」


「まだ全滅には時間が掛かるわ。オーガやトロールの鬼人族を中心にあいつ配下の魔族達が抵抗して十闘将が手を焼いているそうよ。その隙にあの隠し子は雲隠れしたらしいわ」


「まあでも今さら一人ぼっちじゃどうしようもないわねぇ」


「ええ、でも憂いは消しておくべきよ」


「そうね」


「「全ては我らが魔王ラヴァナ様の為に」」


 そうして2人は跡形もなく姿を消すのだった。




様々な思惑が交差し動き出すこのノルン大陸。

その後魔族達は目の当たりにする。『悪魔』を越えた『狼王』の存在を

 


 

 ここまで読んで頂き誠にありがとうございます!作者のみえだです!

 以上で第4章は終了です。先日大変有難い事に感想を頂け、確認した所ブックマークも90件程登録頂けまして嬉しい限りです。目標だった100件もあと少し、文章力(ぶんしょうちから)は未熟ではありますが第5章の構想は練れてますのでこれからも読んで頂けたら嬉しい限りです。

 気が向いたらでよろしいのでブックマークや評価を頂けたら今後の励みになりますのでよろしくお願いします。

改めて、読んで頂き誠にありがとうございました!

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