89話 建国祭8 天とヒトに示す紅い翼
響介とライミィ、不思議な事が起こる。
それだけ言うとアリシア一行と共に忽然と消えたトリウス神。空間魔法を使ってオウレオールに逃げたと容易に想像出来たが同時に
「がああぁぁぁぁ!!!」
先程まで呆然としていたロン・ハーパーの様子が激変した。何かに昂り奮えるような雄叫びを上げる姿に響介達以外の人間達が狼狽える。
「何をした?」
間違いなくトリウス神が何かやっただろうが何をしたのかが分からずロンを警戒する響介。その響介の様子に後ろにいたエリーとステラが2人の元にやって来た時側にいたライミィが訝しげな表情になる
「ちょっ、何こいつ……!」
「どうしたライミィ!」
「魔力の流れがいきなりおかしくなったの!こいつの元からあった魔力がいきなりはね上がってる!」
「エリーも分かる、こいつの魔力、ぐちゃぐちゃしてる」
「ステラ!」
「畏まりました!」
名前を呼ばれただけで響介の意向を理解したステラは後ろにいたランベール親子やライアン達に向かって声を張り上げた。
「皆様!一刻も早くお逃げください!」
響介の声色が変わったことで異常事態と判断したステラは後方に呼び掛ける。ステラの呼び掛けに狼狽えるメアリー達に視線を向けた時、ロンから発していた音が変わったことに響介が気が付くと同時に
「キョウスケ下がって!フレイムウォール!!」
ライミィの言葉に即座に反応し側にいたエリーとステラを抱えて飛び退く、飛び退く響介と入れ替わる形でライミィは前方に大きく分厚く中央に紋章輝く炎の壁を展開した。展開した直後に何発もの魔力の塊が大きな音を立てて弾かれる。
「ナイスタイミングだライミィ」
「さっすがキョウスケ!」
抱えたエリーとステラを降ろしながら響介とフレイムウォールを展開したライミィは真っ直ぐ魔力弾を放った相手を見る
「あっはっはっはっはっは!凄いよすごいよぉぉトリウス様あぁぁぁぁぁぁ!!これが勇者の力かぁぁ!さあひれ伏せ下民共ぉぉぉぉ!」
トリウス神から与えられた力が余程嬉しいのかライミィが作ったフレイムウォールを嬉々として壊そうと魔力弾をしこたまぶつけるロン。しかし
「見苦しいな」
「そだね~」
そんなロンを白けた表情で見る響介とライミィだった。そんな事をしてもフレイムウォールはビクともしない。
それもそのはずあのロンが放っている魔力弾は神聖魔法に当たる。ライミィの新しいアビリティ『神遣いの一族』の効果でフレイムウォールに接触する瞬間に神聖魔法としての効力を無効にしておりぶつかるのはただの魔力弾。そうなれば後は単純な魔力勝負になるがライミィとは月とすっぽん位の差がある為勝負にもならずドォン!ドォン!とぶつかる音はすれどフレイムウォールには傷一つ付かない。そんなロンの様子を端から見ればおもちゃを買ってもらってはしゃぐ子供にしか見えない鴻上夫妻は
「あれならエリーほうがお利口」
「激しく同意」
そんな2人に同意して思わず頷くステラと
「それほどでもない。謙虚なエリーは、格が違った」
と、金色おめめをキリッと決めるエリー。本当にそんな言葉を何処から覚えたと響介は甚だ疑問だが満足そうにしてたので取り敢えずおいとくことにして
「どうしましょう?キョウスケ様」
「取り敢えず、何時も通りだが色を加える」
そして響介は3人に流れを説明し戦闘態勢に入るライミィ達3人、未だに無駄な攻撃を続けるロンを見据え
「ライミィがフレイムウォールを解いたら仕掛けるぞ」
「オッケー」
「うん」
「了解」
ライミィが後ろを見やる、後ろにいたランベール卿達が撤退してこの場にいない事を確認し
「あっはっはっはっはっはっはあぁ!!じっとしてるだけかぁ!壊れちまうぞぉ!!」
「フラッシュ」
ライミィは光属性魔法のフラッシュを詠唱、辺りは眩い光に晒される
「うわっ?!」
魔力弾を放つのに夢中になり予想だにしない強い光に目が眩むロン。
いや、正確には魔力弾がフレイムウォールに接触の瞬間に壊れたように解除しただけ、破壊したと勘違いした事で強い光に目を眩み怯んだ所に
「とおぉ」
「はあぁ!」
「ぶっ!?」
顔面にエリーからドロップキックを、ステラからは鳩尾にケンカキックを同時に叩き込まれ悲鳴を上げる暇もなく蹴り飛ばされゴロゴロと地面に転がる。そして
「オラおかわりだ!」
「おまけだよ~」
うつ伏せ状態で起き上がろうとした所で響介はサッカーボールを蹴るかの如く脇腹目掛け蹴り上げライミィは尻尾を鞭のように扱い顔面にお見舞いし手痛過ぎる追い打ちをかける、またゴロゴロと転がり最後は
「ざーこ、ざーこ♪」
子供のエリーが煽り詰り馬鹿にする事で僅かに残っていたプライドすらボッコボコにする。
普段ならここまでしないが響介が行ったのに2つ理由がある。
1つは法から逃げた外道は徹底的に叩き潰す為、もう1つは隠している勇者の力を使わせる為だ。むしろ後者の方が本命でありこのロンなら簡単にバラすだろうと踏んだ。
これが分かれば今後オウレオールの勇者とやり合う事になった時に対策が出来るようになると考えた。ちなみにこの際エリーは奴を煽るのにノリノリだった。
「くっ、くそがぁ…!」
痛む体を引きずり息も絶え絶えにしながらも必死に起き上がろうとするロンを見据える響介達。外道相手に容赦はしない。響介達の大前提である。
「ズタボロだね」
「蹴り上げた時あばら骨を何本か折ったからな、息するのも辛いはずだ」
「流石キョウスケ様です」
必死に起き上がりロンは血反吐吐きながら響介達を見るや否や唾を撒き散らせながら
「くそがあぁ!舐めやがって!!俺は勇者だぞ!その勇者様にこんな事してどうなるか分かってんのかあぁぁ!!」
「知らない、ざーこ」
「「「雑魚」」」
「こんのガキ共ぉ…!」
煽られ歯をギチギチと鳴らし憎悪の宿し血走った目で響介達を見るロンは
「殺してやる…!てめえら全員殺しやるよぉぉ!後悔しやがれこれが勇者の力だぁぁぁぁ!!」
そう叫ぶとロンの足元に巨大な魔方陣が浮かぶ、すると不気味な咆哮が聞こえたと思った次の瞬間それが現れた。
「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!」
魔方陣から現れたのはドラゴン。黒みが入った銀色で、まるでロンの醜い心を写し出したかのような凶悪そうなドラゴンだった。
「あっはっはっはっは!どうだ!これがトリウス様に、五神に選ばれた勇者の力!『ドラゴン召喚』だ!このホーリーブレイブドラゴンでてめえらを「ふん!!」おぉ?」
ロンがいい気になって喋っている時だった。ステラが振り上げたバスターブレードで召喚されたドラゴンの目掛け振り下ろし一刀両断にした。
「手応えありました!」
戦闘用の人造人間であるステラのパワーで振り下ろされた一撃は凄まじいの一言、真上から振り下ろされた大剣を受け沈むかに思えたドラゴンだったが
「…!?油断するなステラ!まだだ!!」
「!?」
なんとステラの強烈な一太刀を受けたドラゴンは凄まじいスピードで自己再生したちまち元の通りになってしまった。ドラゴンの一撃をかわし飛び今度は独楽のように回り攻撃する技スピンドルで横薙ぎに斬り裂くもまた自己再生するドラゴン
「あっはっはっはっはっはっはっは!このホーリーブレイブドラゴンがそんな攻撃でやられるわきゃねえだろ!!やれぇホーリーブレイブドラゴン!!」
再生したホーリーブレイブドラゴンはブレスを吐こうとしていた。街の中でブレスなんて吐かれるものなら被害が甚大に及ぶ、響介は即座にブレス吐く寸前を狙いドラゴンの顎目掛け渾身の力を込めたアッパーカットを叩き込む。すると行き場を失い口の中のブレスは口の中で膨れ上がり暴発、空に向かって大爆発の音が街中に響いた。
「やっぱりこの方法は効果的だな」
以前にもドラゴンにやった方法だがまた上手く行くとはと思う響介。流石に倒せはしないがかなり怯ませる事は出来た。ロンもこの様に
「おい!何している!!怯んでないでさっさとこいつらを殺してこの街を焼き払え!!」
かなり困惑しており響介達から注意を外した。だが
「ですがどうすれば…!」
一番困惑しているのはステラだ。自分の渾身の力で振り下ろした一撃は確かに手応えがあった。しかしたちまち自己再生し仕留める事が出来なかったのだ。
「あの、ドラゴンが、回復すごい?」
「いやそれはないな」
「うん、ないと思う」
エリーがドラゴンの回復力を指摘するがドラゴンを見据えながら否定的な意見を出したのは響介とライミィだ
「なんで?」
「俺の見たところ、致命傷になるダメージを受けた時にあの再生能力が発動すると俺は考える。常に再生能力を使っているなら今の俺の一撃で怯む事はないはずだ」
最もである。あの自己再生をしたのはステラが致命傷を与えた時だけ。響介のアッパーカットからの暴発の傷がそのままなところを見るに恐らく再生するのにも条件があるだろうと響介は察していた。
「はい私からも」
「お姉ちゃん」
「熱感知してたらあのドラゴンと雑魚勇者の温度が一緒なの。それで魔力も探ってみたらなんか魔力が繋がってる」
「魔力が繋がってる?ですか?」
「…成る程」
ライミィの指摘に疑問を持ったステラの横で何か合点がいった表情の響介。
「お兄ちゃん、分かったの?」
「ロン・ハーパーとあのドラゴンは一心同体のように繋がっているだろう。恐らくロンを殺そうとしてもドラゴンと同じように直ぐにあの自己再生が始まる筈だ」
「それでは打つ手が……!」
「何言ってるステラ」
「キョウスケ様?」
狼狽えていたステラだったが響介の不敵な表情を見た。そして響介から出た言葉が
「片方ずつ殺せねぇなら両方同時に殺せばいいだろ」
突拍子のないことだがそれが最適解と感じた3人。確証はないが現にドラゴンと魔力が繋がってるなら試してみる価値はある。何よりも簡単そうに話す響介は頼もしい。
「ではどうしましょうか?」
「俺に考えがある。3人共耳を拝借していいか?」
そしてどうするかをざっくり説明しているとロンが持ち直したドラゴンをけしかける。
「なにこそこそやってんだ!!お前らみぃんな死ぬんだよ!!やれぇホーリーブレイブドラゴン!!」
ロンの汚い喚きに呼応するかのように咆哮を上げてドラゴンが響介達に襲い掛かる。しかしガキン!と音を立ててドラゴンの攻撃は響介の玄武甲盾に防がれた。
「じゃあ頼む、みんな」
「じゃ、エリーから、クリエイトゴーレム」
パンと手を合わせてクリエイトゴーレムを詠唱したエリーが作ったのは3頭のロックウルフ。ゴーレム一体作るのに対してウルフは三体作れる為スタンピードの時から重宝している。そのロックウルフはドラゴンの横をすり抜けロンを襲撃した。
「ぎゃああああ!!」
ロックウルフに押し倒され鋭い牙で噛み付かれるロンは振り払おうと必死にもがく
「ホーリーブレイブドラゴン!こいつらを放り払え!!」
ドラゴンにロックウルフを追い払うよう命令するロン。ドラゴンがロンに意識を向いた瞬間をステラは見逃さなかった。
「ここです!!どぉおりやゃぁぁぁぁ!!!」
隙だらけのドラゴンにステラは大きく振りかぶった斬り上げ攻撃をドラゴンにお見舞いする。渾身の力を込めたステラの一撃はドラゴンを宙に飛ばしロンの真上に、それを見たエリーは
「ありがと、エアプレッシャー」
ロックウルフを原子崩壊させると同時にエアプレッシャーを詠唱したエリーはその場でロンを拘束する。
エアプレッシャーはその場の重力を急激に強くし標的をその場に拘束する魔法。一般ではそう言われておりそれなら効果範囲のある重力が使用される事が多い。しかし、このエアプレッシャーには重力には出来ない事があるのをエリーは気がついていた。ドラゴンがロンの真上に来たのを見計らい
「反転!」
エアプレッシャーはその場の重力を急激に強くする。それは一方向だけではない。逆方向に力場を変える事が出来るのだ。その結果
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
地面に縛り付けられていたロンはドラゴン諸とも上空に放り出される。
「はああぁぁぁ……!!」
エリーとステラが息の合った連係を見せる中で響介は集中して気を高める、響介の溜めた気がオーラになって見えた時
「はあ!!!」
それが響介の背中に現れた。まるで響介の心を写し出したかのように輝く強い綺麗な紅の翼。その翼で響介は目に追えないスピードで空を飛ぶ。そして見えるのはその輝く軌跡だけ。
『朱雀翼』と命名した紅の翼は輝く軌跡を残して空を飛ぶとライミィが
「キョウスケ!ヒートベール!!」
空にヒートベールを展開すると響介は意図を理解しヒートベール目掛けて突っ込んだ。ヒートベールをくぐり響介の朱雀翼は更に紅く輝きを増す。それはまるで炎を纏ったかのように美しく、強く輝いて
「炎が、疾る」
空を見上げライミィが呟いた。エリーもステラも空を見てその軌跡を追う
「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
ロンとドラゴン目掛けて突っ込んだ響介。最初の一撃はかち上げるように一撃を加え更に浮かせると今度は真っ正面からの突撃を仕掛ける。絶望を張り付かせたような表情のロンは悲鳴を上げ
「く、来るな!来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
虚しいかな。響介はスピードを緩めるどころかさらに加速すると纏った炎が響介に呼応するように強く揺れ
「往生しやがれぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!!!!」
鋭い一撃と共に一瞬でロンとドラゴンは身体中に炎に包まれ焼かれる、真紅に輝く炎に焼かれ火だるまとなったロンは
「ああああぁぁぁぁぁぁ!?!?!?熱い!熱いよぉ!!パパ!ママ!トリウス様ぁ!!助けて!誰か!助けて!!助けてよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
最後まで身勝手な命乞いを断末魔代わりに叫びながら炎に焼かれ苦しみ、苦しみのあまり断末魔を上げるドラゴンと共に塵一つ残さず焼かれこの世界から跡形も無く消えた。
スピード緩めずライミィ達の元へと帰ってきた響介はズサァ!と音を立て着陸し空を見上げドスの効いた声で
「あの世で詫びてろ」
「「「詫びてろー!」」」
「あれは…?」
戦いの一部始終を離れた場所から見ていたメアリーとメイド達。ドラゴンがルーブルの街に現れたと思ったらいきなり空に舞ったのだから見るのは当たり前だ。
しかし疑問はその後だ。それを追いかけるように紅に輝く翼を持った「何か」が現れたのだ。ドラゴンより小さいが明るい空に負けないくらい紅混じりの輝く光の軌跡を残し駆けドラゴンを焼き払う何かを見ていると共に避難していた子供が指を差し
「ガルーダ様だ!」
ガルーダ様と嬉しそうにはしゃいで空を差すと周りにいた避難していた住民達が空を見る
「ガルーダ様…?」
「ガルーダって、霊獣様?」
「おお、ガルーダ様だ…!」
「ガルーダ様!」
不安そうにしていたルーブルの、アルスの国民達は皆明るい表情を取り戻し空を仰ぎ歓声に沸いた。
霊獣ガルーダ。
それは王国時代よりも遥か昔、かつて存在したと云われる邪神がけしかけた邪龍からその地に住むヒトを救ったと伝えられている霊獣。アルス共和国となった今でもその霊獣ガルーダの逸話はお伽噺として絵本として国民に親しまれおり勿論メアリーも知っている。
その逸話に出てくる霊獣ガルーダは紅に輝く翼で空を駆けるとその軌跡が光となりヒトビトを照らし仇なす者を紅蓮の如く業火を以て焼き尽くすと云われ、今まさに観衆はみな逸話の、霊獣ガルーダの再来をこの目で見れた事に沸いた。
こうして建国祭の中起こった魔物襲撃事件は首謀者オウレオールのトリウス教勇者ロン・ハーパーの死亡により幕を閉じた。