88話 建国祭7 トリウス神の計算外
4人、ちんちくりん(神)に遭遇する。
『そこの女はラミアね!』
凱旋の女神トリウスがライミィを指差して断言するとその場は一瞬にしてどよめきが起こる。
特にラミアと聞いてアリシア達オウレオールの人間の顔色が変わり中でもパメラに至ってはぶつぶつと何か呟いている。トリウス神が何処か勝ち誇ったような表情をしたと思っていた中、しんと静まり返った広場でライミィが口を開いた。
「うん。そだよ。それが?」
『はえ?』
当のライミィは一切の否定をせずトリウス神にあっけらかんと肯定の返事を返した。トリウス神はトリウス神で予想外の答えに肩透かしを食らったようになりアリシア達共々呆気にとられる。その場にいた人間達が呆然としている中メアリーがライミィに近付き
「ら、ライミィさん、貴女は本当にラミアなんですか?」
「うん。そだよ。変身しよっか?」
「な、なんで黙ってたんですか?」
「え?だって聞かれなかったから」
「そんな『ライミィさん、貴女ラミアですよね?』ってピンポイントな質問ありません!」
まるで然も当たり前のように答えるライミィにすかさず突っ込みをいれるメアリー。その様に思わずランベール卿や心配で一緒に来ていたメアリーのメイド達が吹き出し笑う。
オルセーやルーブルの別宅でよくやっている微笑ましいやりとりをそのまんまやっていたのだから仕方ない。あっけらかんと笑っていたライミィだったがその時
「っ!?危ない!!」
ライミィはメアリーを庇いながら火属性魔法のヒートベールを唱える。ライミィ達の前に火の壁が出来た瞬間に何本もの光輝く槍が突き刺さりメアリーに刺さる寸でのところで止まっていた。
「メアリーさん大丈夫!?」
「は、はいライミィさんのおかげですわ」
「あんた街のど真ん中で魔法ぶっ放すなんて何考えてんの!メアリーさんに当たるとこだったよ!」
ライミィは直ぐに自分もろとも魔法で攻撃してきた神官パメラを怒鳴り付ける。自分だけならまだしもメアリーにも危害を加える所だった事を考えるとライミィが怒るのも無理はない。しかし
「黙りなさい!ラミア風情が我々誇り高き人間に意見など無いと知れ!ラミアなんかと馴れ合う人間も同罪です!罰を受けなさいラミア!!神よ!我に仇なすものを貫く槍を我に与えたまえ!聖槍!!」
そう言いパメラは先ほどとは違って数が減ったものの2本の輝くランスを作りライミィ達に向かって飛ばしてきた。ライミィはまたヒートベールを詠唱しようとした次の瞬間
「キョウスケ!」
なんとライミィ達の前に割り込んだ響介が飛んできた2本のランスを掴み取りそのままパメラに向かって連続で投げ返すとランスはパメラの目の前に大きな音を立てて突き刺さる。何が起きたのかようやく理解出来たパメラは顔面蒼白で腰が抜けたようにペタンとへたりこみ近くにいたアリシアやウィル達が一歩も動けず唖然とする
「嘘だろ…?キョウスケの奴、魔法で出来た槍を掴んで投げ返しやがった……」
「でたらめだ…」
魔法に詳しいリノリノやリアムが響介の行動に信じられないと目を疑い
『ありえない、神聖魔法を力づくで防ぐなんて……!』
トリウス神ですらも呆気に取られた。ライミィの属性魔法による光槍の相殺もだがそれより上位魔法の聖槍をキャッチして放ったスピード以上で投げ返すなんて芸当を人間がしでかすとは思ってもみなかった。
神聖魔法とは、その名前の通り神の力を借り行使する魔法で使う事が出来るのはオウレオールの五神に遣える神官と認められた勇者のみ、使う者は限られはするもののどれも強力な魔法で生半可な事では防ぐ事が出来ない。出来ない筈なのだ。トリウス神やアリシア達が理解が追い付かず立ち呆けていると
「あああああ!!!」
ブチブチブチという何かが千切れる音とパメラの悲鳴が聞こえたのだ。
「パメラさん!?」
「パメラ!」
我に帰ったアリシアやレイモンド達がパメラを見る。すると
「おい、まだ終わってねえぞ」
響介だ。いつの間にか腰を抜かしたパメラの目の前に立っており、頭を抑えて崩れ落ちるパメラを前にした響介の足元になにか落ちているのに気が付いたアリシア。そしてそれは
「パメラさんの髪の毛…?」
落ちていたのはパメラの髪。明るく綺麗で流れるような亜麻色の髪を綺麗にストレートで揃えていたパメラ、響介が彼女に何をしたのか?響介達の後ろにいる人間達は絶句していて何人が自分達と同じように唖然としていた。なにをしていたと疑問になっていたら
「いや、いや、やめて…」
「ライミィが同じような状況になったらてめぇは止めねぇだろが、自分に都合が良すぎなんだよ」
「いやぁ!」
響介はパメラの髪の毛を乱暴に掴むとなんとそのまま毟り上げたのだ。それを見たアリシアは響介がなにをしたのかを理解した。理解したが目の前の光景を疑いたくなる光景だった。
髪の毛を引き千切れる音と毟られた痛みで悲鳴を上げるパメラ。苦しむパメラを蔑んだ瞳で見下ろす響介は引き千切った髪をパメラに見せつけるように捨て靴でぐりぐりと文字通り踏みにじる
「あ、あ、私の、髪の毛…」
前髪と登頂部の髪の毛を毟り取られ変わり果てた姿になったパメラは踏みにじられている自分の髪をまるで魂が抜けたかのように呆然と見ている事しか出来ない、一同絶句している中
「あはは!スキンホークみたいになってんの!」
「ラ、ライミィさん、そんなに笑っては」
「いいんだって!どうせあいつも私を殺してこうするつもりだったんでしょ?なら自分がされても文句はないでしょ!」
変わり果てた姿のパメラを見て指を差して笑うライミィにアリシアは怒りを覚える。しかし本当に怒りをぶつけるべき相手はライミィではない。アリシアは響介を睨み付け声を張り上げた
「貴方は…!貴方はどうしてこんな酷い事を!」
「その神官はメアリーさん諸ともライミィを殺そうとし命を奪おうとしました。それに対して俺は命を奪われる恐怖というものを女性の命とも言う髪の毛を奪う事でその奪われる恐怖を神官に教えただけですよ」
そう穏やかに語る響介の姿、口調こそ穏やかでまるで言い聞かせるような喋り方に聞いていた周りの人間達は恐怖すら感じた。それもそのはず言っている事と行っている事があまりにもかけ離れているのだから
「あの女性はラミアです!ラミアは我ら人間の天敵ですよ!?何故あなたはそのラミアを庇うのですか!?」
「成る程な。そういう事なら答えてやる聖女様。理由はお前達と俺は敵だからだ」
「え……?」
「ラミアが人間の天敵だと、それはお前達オウレオールの人間が勝手に言っているだけだ。俺は力や社会的地位の弱い者の味方としてここに立っている。弱い者虐めに大義名分掲げてるお前みたいな奴の天敵って言えば分かるか?」
「なっ……!」
この響介の言い分に理解を示したのはランベール卿を始めとしたアルスの人間達だ。今の響介の姿がかつてのトライユ公爵と重なったからだろう。
かつて、虐げられていた民を守る為に王家と国を相手に戦った英雄と重なるその後ろ姿から目が離せなかった。いまだ食い下がろうとするアリシアだったがそこに
「トリウス様…?」
トリウス神が響介とアリシアの間に入り口を開いた。
『パスクの聖女、あいつに何を言っても無駄よ』
「トリウス様、ですが…」
『貴女じゃ荷が重いわ』
それだけ言うとトリウス神は憎悪が籠った瞳で響介を睨み付ける。
『お前は我が名誉を汚した。その罪、後ろの奴ら諸とも死を持って償うがいい!神光!!』
突如トリウス神は神聖魔法を唱えると巨大な球体が現れた瞬間眩い光線となって響介や響介の後ろにいた人間達に迫る。
しかし響介は逃げない。自分が逃げたら間違いなく後ろの人間達が死ぬ。だからこそ自分のやるべき事を理解した。
「黙って死ぬ程潔くは無い!!」
全力の気功で玄武甲盾を展開する。その瞬間響介の隣にライミィが滑り込み
「クリスタルシールド!!」
響介の隣で防御魔法のクリスタルシールドを詠唱し響介と共に人々の盾となる。その姿を見たトリウス神は高笑いをしながら
『あははははは!そんなもの無駄よ!!神である私の神聖魔法が防げるハズが』
その時だった。トリウス神に聞き覚えのある声が聞こえ
『あらあらまあまあ、そんな勝手な事、させると思って?』
『っ!?まさか…!お前は……!!』
そして、トリウスが声を聞いたのと同時、玄武甲盾とクリスタルシールドがトリウス神が放った神光とぶつかる瞬間、響介とライミィは頭の中で綺麗な声が聞こえたような気がした。
『達成条件を満たしました。アビリティを更新します』
鴻上響介
揺るぎ無い信念→地母神の加護 NEW!
青い瞳の悪魔
天性のピアニスト
頼もしき兄貴分
地母神の加護 効果
『揺るぎ無い信念』の精神異常完全耐性引き継ぎ
玄武甲盾始め防御気功術発動時に『神聖魔法』『邪神魔法』を完全防御
ライミィ・コウガミ
人間化→神遣いの一族 NEW!
蛇の感性
暗視能力
共に歩む為に
神遣いの一族 効果
『人間化』引き継ぎ
火属性魔法適正習得
属性問わず防御魔法発動時に『神聖魔法』『邪神魔法』の完全無効化
トリウスが放った神光が一帯を飲み込んだに思えた。しかし突如光線が収まり人々が見たのはその場にいた自分達を守るように玄武甲盾を展開した響介とクリスタルシールドを張る元のラミアの姿に戻っていたライミィの姿だった。
人々を守る2人の玄武甲盾とクリスタルシールドの中心には何かの聖印のような紋章が刻まれており、目の前にいる神よりも神々しい紋章と2人の姿に人々は目を奪われた。
対してその紋章を見たトリウスは全てを察しさっきまでの嬉々とした表情が消え
『き、貴様の仕業か!ちぼしいいぃぃぃぃぃぃぃん!!!』
目の前の状況、起きた事を理解し金切り声で叫ばずにはいられなかった。そして頭の中ではある結論が出た。
(間違いない!間違いないわ!あの人間は地母神の差し金!奴は我らが封印した筈、まさかまだ配下が残っていたのか…!しかもよりによってラミアに肩入れしていてあのアビリティまで発現を誘発させるなんて、不味いわ取り敢えずは…!)
『パスクの聖女よ。傷付いた貴女達を癒し聖都へと転送しましょう』
「え…?」
何が起きたのか理解出来ていないアリシア達に短く言うと今度は響介に向き直り
『そして、ピアニスト』
「鴻上響介だ」
『キョウスケね、二度と忘れないわ…!悪いけどパスクの聖女達は失う訳にはいかないの。勇者ロン』
トリウス神が手を軽く振るとロンは淡い光に包まれる。
『これは神からの神託よ、あの者共を仕留めなさい』