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異世界に来たらピアニストになった俺~しかし面倒事は拳で片付る任侠一家の跡取り息子の見聞録~  作者: みえだ
第4章 貴族の国 ~本領を発揮するピアニスト~
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87話 建国祭6 その判断をするのはてめえじゃねえ

4人、聖女の敵前逃亡を見る。





 魔物を制圧し住民の避難も衛兵達に任せていた響介達は此度の首謀者ロン・ハーパーを追っていた。事前にセフィロトからの情報と先のスタンピードと騎士団からの情報を照らし合わせてこの男以外考えられず、響介は


「この手の輩は報復して相手が苦しんでいる様を見たいが為に足を運ぶ筈だ」


と踏んでいた。ロンの獄中での様子もセフィロトは掴んでおりその際騎士達から必要以上の酷い暴行を受けている事を知った響介達はロンがアルスに対して復讐紛いな事を仕掛けてくると判断した。

 動機としては十分過ぎる理由がロンにはあるのだ。

 響介からしてみれば元の世界で喧嘩でボコボコにした後日に逆恨みからの襲撃はよくある事で選民意識が高く他人を見下しているロンならと簡単に察せる事もありセフィロトから情報を仕入れた建国祭2日目のうちにランベール卿にロイジュ卿を始め主だった人物を集めてもらい協力を取り付けて対策するなんて事は難しい事ではなかった。なにより


「これは我が国アルスに対してのテロ行為と見なしてもいい、確かに此方にも非はあると言っても過言ではない。しかし彼は越えてはいけない一線を越えてしまった。越えてしまった以上見過ごす訳には出来ないな」


 そう言い終えた後「問題は山積みだな」と呟いたランベール卿、自身の身内事も新興国家故の問題も浮き彫りになった形になったがその後の事はそこに住むヒトの問題の為響介達は話を戻し目先のロンに対しての話し合いを進め対策を練ったのだった。






 そして今、響介が投擲した棒苦無が深々と刺さり苦痛のあまり苦しみ喘ぐロンともう逃げたと思われたアリシア達と相対する響介達。馬車から降りてきたアリシア達に響介は


「よう、まだ逃げてなかったのか」


 ニコッと笑いながら挨拶する、しかしアリシア達は響介を見ると揃って顔を引きつらせた。

 それもそうだろう。目に見える程の怒りが達しているようなドス黒いオーラを纏っているかのような目の笑っていない笑顔を見れば誰だって顔を引きつらせるだろう。そしてアリシアは響介の目を見ようと努力して見る事にした。

 さっき言われた『目は口程に物の言う』それを実践しようとしたのだ。そして


「!?!?」


 アリシアが見た響介の目は「俺の獲物に手を出すな」と言わんばかりに目を肉食動物のように目に爛々とした光を宿していたからだ。アリシアが何か衝撃を受けているのに気が付いたウィル達が心配して駆け寄ると響介は手にしていた棒苦無を投げる。それは


「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」


 投げた棒苦無は逃げようとしたロンの太腿のど真ん中を的確に当て走り出そうとしたロンはその場で崩れ落ち痛みに悶える。

 響介が足を狙って投げたのは勿論理由がある。その理由は勿論逃げれなくするためだ。動くことが出来なければ逃げるのすらままならない。

 それを目の当たりにし、今度は円月輪を取り出し指でくるくると回し始める響介を見てアリシアは堪らず


「止めなさい!」


 なんとロンと響介の間に割り込むように入り込んで来たのだ。アリシアからすれば別の教会の勇者と言えど同じ祖国の同胞。それに加えて響介が平然と行う血も涙も無い行動に我慢が出来なかった。そんなアリシアの様子を冷静に見ていた響介は


「メアリーさん。これどうなりますか?」


「はい。そこのロン・ハーパーは今現在のところ罪状は脱獄罪及び住居等への不法侵入罪は確定、今後の取り調べ次第では二度と祖国の土が踏めなくなるくらいには罪が重くなるでしょう。更に状況によってはアリシア伯爵令嬢も罪に問われる可能性が出てきますわ」


 メアリーに話を振ってみるとメアリーはロン・ハーパーのアルスでしでかした諸行を法に照らし合わせ、庇ったアリシアの状況を響介達に話すとアリシアのお供の一人老魔導師のウィルが察したようで顔をしかめる。するとその横でエリーが響介の服をちょいちょいと引っ張り


「どうした?エリー」


「お兄ちゃん、あいつの、持ってる杖、臭い」


 エリーが指差したのは倒れているロンが持っている、ボロボロのローブの下に隠し持っていた杖だ。見るからに怪しい水晶玉を付けた杖に響介はすかさず鑑定スキルを使いその杖を見ると



イービルアイズワンド


アイテムランクS

魔法媒体不可

装備者よりも知力が低い人間や魔物を操る事が出来る邪神魔具(エビルファクト)。装備者の魔力と習得魔法のレベルによって操る事が出来る数の上限が変動し、その代償に理性が抑えられなくなる。



 ロンが所持していた杖、どうやらあの邪神魔具(エビルファクト)がスタンピードの原因と察した響介は


「メアリーさん。一つ確認ですがこの国は邪神魔具(エビルファクト)を所持している者がそれを使い悪事を働いた場合どうなりますか?」


 響介の言葉にライミィ達3人がいち早く反応し状況を察する。事前の打ち合わせの時にメアリーには邪神魔具(エビルファクト)の事を話していた。メアリーは内心驚いているだろうが表情には出さず口を開き淡々と説明する。


「…邪神魔具(エビルファクト)の所持は原則としては危険性がある物と判断された場合危険物違法所持ということで罪になりえます。そしてその危険性のレベルによって罪状は変わりますがキョウスケさんが確認したあの杖が危険なものと判断された場合最悪死罪は免れませんわ」


「ありがとうございます。だ、そうです聖女様一行。貴方方はそんなアルスにとって死罪に該当する人間を庇い立てするつもりですか?その場合はアルスとオウレオールとの国際法に抵触する可能性もあります」


 円月輪をしまいながら口を開く響介のこの問いかけは最もであり、今ならまだアリシア達の事を「見なかった事にする」という意味合いを含んでいる。

 響介の目的はあくまでロン・ハーパーに落とし前を着けさせる事でありアリシア達や神聖王国を陥れる事ではない。人族国家の中では新興国家ながらも法治国家として機能しているアルスとでは国家間が険悪になる危険性があるからだ。

 しかしそれを正しく理解していたのは残念ながらウィルだけ、中でもアリシアは自分の立場というものが分かっていないようで食い下がろうとする。


「ですが!こんな一方的な暴行が許されるはずが…!」

「その男は邪神魔具(エビルファクト)を所持している脱走犯です。そんな凶悪犯が下手な行動をしないように抑えるのは当然かと」

「貴方は…!貴方はニューポートで弱い者の助けていたと聞きました!この方はそうでは無いのですか!?このような不平等が」「そいつは対象外だ」

「え?」


「俺が助けるのは理不尽やどうしようもない現実に追いやられているヒトだけだ。そいつは自ら法の裁きから目を背け逃げた者、要は法の外に逃げた無法者。俺が助ける義理は無い、何故なら」

「善因善果、悪因悪果。全ては因果応報也。でしょ?キョウスケ」


 響介の言葉に後ろにいたライミィが口をはさみエリーとステラがうんうんと首を縦に振りメアリーが興味深く聞いていた。

 『善因善果、悪因悪果。全ては因果応報也』これも祖父の教えであり響介が物事を行動することにおいて戒めている言葉でライミィ達3人には一度は必ず教えた言葉である。

 この場の状況で説明すると今のロンの状態は今まで好き勝手やってきた行いのツケでありその精算を迫られているのだ。アリシアがまだ何か言おうと口を開いた時響介は


「「「!?」」」

「な、なんだ今のはっ!?」


 ロンが不審な動きをしたので功掌(こうしょう)を作り瞬時に邪神魔具(エビルファクト)を取り上げる。アリシア達は魔法でもない響介の行動に面を喰らうが響介はアリシア達に構わず


「何をするつもりだ?残念だがこれは没収だ」


 邪神魔具(エビルファクト)を一瞬で取り上げ響介はそれを後ろにいたステラに投げるとステラは賢者の懐中時計を出しすぐに杖をしまった。一つ一つの動作に淀みがなく、まるで事前にどうするかを決めていたような動きだ。


「今ライブラ使って見たけどこいつもう魔力残ってないよ。その怪我じゃもう逃げれないんじゃないかな」


 ライミィが魔法を使って冷静にロンを見極めて口を開いた。魔力もない、頼りだった邪神魔具もない、これでもう詰みだろう。


「さあロン・ハーパー。落とし前の時間だ」


 ポキポキと拳を鳴らしロンに接近する響介。ズタボロで響介に怯えきっているロンは痛む体を必死に動かし逃げようとするが着々と距離は縮まる。もう目と鼻の先という所でまたしてもアリシアが割り込り、キッと響介に鋭い視線を向けた。


「もうお止めなさい!もう十分でしょう?!」

「あ?何が十分なんだ?まだ落とし前は付けてねぇんだけど?」

「これ以上は死んでしまいます!」

「それがどうした?」

「人が人を裁くなど…!あってはならない事です!」

「それは法で裁かれることが前提にある場合、法で裁かれることを拒否した以上待っているのは無法の裁きのみ」


 一向に会話は平行線、ブレない響介の態度にアリシアは思わず声を上げ


「神々の怒りを買いますよ!?」

「その判断をするのはてめえじゃねえ!!」


 思ってもみなかった響介の反論と剣幕に気圧されるアリシア。するとその時だった。


『そうよそうよ。判断するのは貴女じゃないわパスクの聖女』


「この声は……!?」

「ん?」


 その時、一帯に天から強烈な光が差す。光が差した一瞬その場にいた全員があまりもの光に思わず顔を背けた。光が収まりそこにいたのは


「ちんちくりん」


 エリーがそうはっきり言ったのが聞こえ響介とライミィは


「あははっ!ちんちくりんって!」

「くくっ、エリーそんな言葉、何処で、あっはっは!」


 声を上げて笑い、ステラとメアリーは必死に笑いを堪えていた。エリーの言った通りそこにいたのは何やら神々しい光を纏ってはいるのだがちんちくりんの言葉が似合う位見事なちっちゃいちんちくりんな女性?だった。


『だあれがちんちくりんですってーーーー!!!』

「な、なんて事を……」


 ちんちくりん呼ばわりされた女性?は顔を茹でタコのように真っ赤にし、そんな響介達の様を見て顔を青くしているアリシア達。すると


「今のはなんの光だい!?」

「一体なにがあった!?」

「メアリー!無事か!?」


 各所にいたリノリノやライアンとリアム、メアリーの事を心配したランベール卿達が何事かと集まって来たようだ。そんな中で何とか笑いを抑え響介が口を開いた。


「いや、失礼した。あんたは誰だ?」


 響介がそう訪ね、返答を待つとさっきまで大人しかったロン・ハーパーがその女性を見るやいなやすがりつくように近づき


「トリウス様!!」


 確かにそう言って近づく、トリウスと聞いて誰だと思った響介達。それを見ていたアリシア達がいきなりその女性に跪く、そして女性が響介達に向かって


『私は凱旋を司どりし女神、トリウスよ!』


 バァーン!という効果音が似合いそうな感じではっきりとそう言うと、今度は響介を指差す


「ん?俺に何か用でも?」


『あるわよ!大ありよ人間!!あんたのせいで私の信仰が大きく揺らいだのよ!神にとって信仰の強さは力も同然なの!どうしてくれるのよ!!』


(なんだ?神様ってのは暇なのか?わざわざそんな文句を言いにここに来たのか?)


 はぁ、と響介は一つ溜め息を付きさっきから顔を真っ赤にして文句を言っているトリウス神に対し


「揺らいだもなにも全部あんたの自業自得だろう」

『はぁ!?』

「あんたがロン・ハーパーを勇者にしたからこうした事態になっているだけでつまる所あんたの目が節穴だっただけだ」

『な、な、な、何ですってぇぇーー!さっきから人間ごときが神に向かってなんて口を!!』

「だったら神ごときが人の世に口出ししてるんじゃねえダボが」


 周りの者達はこの響介のトリウス神との問答を見て唖然とするアリシア達がいればリノリノやメアリーを筆頭にライアンやリアムの部下など腹を抱えて大笑いする者も、挙げ句の果てはライミィ達3人は平常運転の響介を


「いつも通りだー」

「いつも通り」

「いつも通りですね」


 笑ってのほほんと見守っている程である。その様子は盗賊をシメて説教しているかの如く、ライミィ達にとってはいつも通りの光景で響介にとって目の前の女神を自称しているちんちくりんは盗賊と同系列扱いなのだ。そしてトリウスはトリウスで神に敬意を払わない人間の存在を信じられないといったように


『考えられないわ!!これは神に対する冒涜よ!?分かっているの!!』

「なら敬意払って欲しかったらまず敬意払われる事をしろ。それが筋だろ」


 ここでドッと笑いが起き、ランベール卿が共感したようで思わず首を縦に振る。

 全くブレない男、鴻上響介の1ミリも変わらない態度に相手が他国が祭っている神だと忘れる位だ


『人間のクセに生意気よ!あんたのせいでこんな体で地上に顕現する羽目に』

「よく言うよ、貴女今全部魔力に回してるでしょ?」

『っ!?』

「ん?どういう事だライミィ」

「そのまんまだよ。その人身体の魔力が複雑に絡んでるんだけど絶妙にバランス保って身体中を巡ってる。その信仰ってのを多分使うって決めた魔法に耐えうる外見にして全部魔力に充ててるんじゃないかな」


 ライミィのこの指摘にトリウスは面食らったようだがそれも一瞬、どこか合点がいったように不敵な笑みを浮かべながらライミィを見据え


『やっぱりそうか、どうも変わった魔力だと思ったらそこの女はラミアね!』




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