9話 旅立ち 2人で歩む道
響介、旅立つ
正に蛇の狩りだ。一部始終を見ていたライミィの率直な感想だった。
自分達を捕まえ慰みものにしようとした人間の哀れな末路だった。
しかしその蛮行は同じ人間が、自分の愛しい人間が終止符を討った。まるで蛇の様に這うように近付き一瞬の隙を突き飛びかかる。響介の振り上げた右足は奴を完璧に捕らえ地に叩き潰した。
昔、お母さんに聞いた事がある。毒蛇はその強力な毒で仕留める為に敵の喉元目掛けて牙を突き立てる。今の響介の一撃は正に毒蛇が敵を仕留めるみたいだった。男を叩き付け反動を利用して華麗に着地する響介。
そして死んだ男に向かって低い声で
「あの世で詫びてろ」
私は思わず響介に抱きついた。
「キョウスケ君!ライミィ!」
ライミィに抱き付かれた響介はオリビア達に気付き振り向いた。マクルスを仕留め戦いは終わった。
「キョウスケ凄い凄い!」
はしゃぐライミィを宥め俺は追いかけてきた皆に向き合った。
「皆さん」
「終わったのね、お疲れ様」
終わった。マクルスがけしかてきた魔獣も全て片付き首謀者も討ち取った事で終わりを迎えた。するとリリスさんがマクルスを見て何か思い出したようだ。
「あら?こいつ、賞金首じゃないかしら?」
「賞金首?」
「えっと、あったあったこれよ」
リリスさんから受け取った紙には大きくworkingとあり名前と顔写真と賞金金額、そしてDEAD OR ALIVE(生死問わず)と書かれていた。名乗っていた名前も合っているし、顔写真を見てもまんまこいつだ。
「賞金金額、金貨3000枚!?」
「こいつ、そんなにヤバい奴だったのかよ!?」
この世界の通貨についてもオリビアさん達に教えてもらった。銅貨が俺の元の世界でいうと目安として100円、それに連なり銀貨が1000円、金貨が10000円。つまりこいつは賞金3000万が懸けられていた凶悪犯ということだ。
…確かにあれほどの調教魔法能力を使って悪用していたとなれば今までも悪事を重ねていたのだろう。
「どうします?オリビア様?」
キキョウさんがオリビアさんに確認を取る。オリビアさんはしばし考えると俺の方を向き。
「その金貨はキョウスケ君に全て差し上げます。みんなもいいわね?」
突然の事で流石に俺も慌てる。17歳が持っても良い金ではない。
「待って下さいオリビアさん!流石に俺は……」
「何いってんだよキョウスケ」
「「私達姉妹は異論ありません」」
「私も」
ベラさんやリリーさんリリアンさん達も始め集落のラミア達は異論が無く俺に譲ると言ってきた。
「ですが…!」
「キョウスケ君」
渋る俺にオリビアさんが向き合い。
「これは私の、私達からのお礼です。キョウスケ君は私達みんなを救ってくれたせめてものお礼です。自分で取り行って貰うことになりますが」
少し困った様に笑うオリビアさん、しかし躊躇われる。俺は結果として人を殺して金を得る事をしてしまった。人を殺めた時点でこいつと同類だ。その自責の念はある。そんな俺を察したのかライミィは
「ねえキョウスケ。私に教えてくれたよね?任侠の事」
「え?」
「キョウスケ言ってたよ。『任侠は自分の周りにいる大切な人達の笑顔を守ること』って、キョウスケは私達の笑顔を守ってくれたんだよ」
「!」
それは俺がライミィに任侠の事を簡単に教えた事、昔じいちゃんが教えてくれた事だ。
じいちゃんは教えてくれた。自分のした事に胸を張って自身を持てと、誰かがやらなくてはいけない事があるなら自分が行えと、例えそれが認められなくても。でも今は
「そうだよキョウスケ!」
「キョウスケ君が居なかったらどうなってたか」
「考える必要ないわ。だってそうならなかったんだから」
「ありがとうキョウスケ!」
「ありがとうね」
目の前のみんなは認めてくれている。
向こうにいたときはほとんど無かったなこんな風にお礼を言われたの。向こうにいたときは周りは俺に関わろうとしなかった。だから俺は危ない奴って扱いだった。
それを見て俺は
「そっか、俺は間違って無かったんだな」
ちゃんと認められた気がした。いいもんだな。認められるって。恥ずかしながら泣きそうになった俺はぐっと我慢し
「皆さんありがとうございます。慎んで受け取らせて頂きます」
「今日は宴だー!」
晩御飯は宴となった。皆が騒ぎ楽しい食事の時間となった。
肉はたくさんある。ウイングタイガーやグランドウルフなど仕留めた魔獣達だ。むしろ食いきれず半分以上は干し肉として保存食にするそうだ。というのも
「集落を移動する?」
「ええ、私達がここにいるのがバレてしまったからね。今度は魔族領に入ろうと思ってるからかなりの大移動になるわ」
「それを俺が発つ日と一緒に、という訳ですか」
「ええ、遅かれ早かれ移動するなら一緒の方が世話ないわ。ここにいた痕跡も魔法で消せるけど何時まで誤魔化せるかわからないからね」
みんなと別れる。わかってはいたがやっぱり少し寂しいな。
マクルスの遺体は賢者の懐中時計に登録して運ぶことにした。懐中時計の空間は特殊な空間のようで劣化しない事が確認出来たからだ。流石にあんなのを担いだら怪しまれる分便利なアイテムだ。久しぶりにあの神様に感謝する。
……でも、ライミィともここでお別れか。
ライミィの方を見たらお腹いっぱいになったのかそれとも戦闘で疲れたのか静かな寝息を立てている。
「オリビアさん達何時頃に出発しますか?」
「干し肉の関係上2日後にここから移動するわ。キョウスケ君も忘れ物無いようにね」
「はい」
今は皆との思い出を作ろう。そう思っているとベラさんが
「お前ら!キョウスケに挨拶!」
「わう!」
ベラさんが連れて来たのはグランドウルフ計6頭。恐らく生き残りを調教魔法したようだ。
「ベラさん。どうしたんですか?そのグランドウルフ達」
「ああ、戦闘の後であたし達も一気にレベルアップしてさー、それでこいつらがいたからテイム取得したんだよ。こいつらみんな頭良いから狩りでも斥候でも役に立つからな」
確かに、言うことを聞く動物は立派な戦力になるな。ん?一気にレベルアップ?
「みんなそんなに上がったんですか?」
「数が数だからね。私も今35レベルよ。一気に11も上がったわ」
「あたし達も軒並み20台後半だぜ!中でもライミィは30いったみたいだけどな」
それを聞いて俺も自分のレベルを確認する。すると上がってた。今61レベルになっている。そんなに上がるものなのか?
「まあ、キョウスケはあんだけやりゃ上がるだろ。あたし達はキョウスケのおこぼれ拾ってたからだけどな」
「成る程」
結果的にあの戦い方は間違って無かったということだな。みんなが強くなってくれてちょっと嬉しい。
「キョウスケーこっち来てー」
「ん?どうしましたかマリーさん?」
マリーさんに呼ばれて俺は立ち上がり向かう。するとマリーさんの手には何やら不思議な物が
「マリーさん、なんですかこれ?」
「これはサウンドセーバーって言って音を記録するアイテムよ!あのデブの荷物に入ってたから初期化して使おうと思ってね」
ははぁ、合点がいった。
「ふふふ、キョウスケは察しが早くて助かるわ」
「俺のピアノを録音して再生して聴くってことですよね?」
それを聞いた周りから歓声が上がった。
「流石マリー!」
「名案だわ!」
「ねぇキョウスケ。お願い出来る?」
「お願いキョウスケ!」
皆さんが期待の眼差しを向けて来てくれる。ここまで期待されて断るのは男が廃るってもんだ!
「やらせて頂きます!」
みんなから歓声が上がり俺はピアノを出し演奏を始める。最初にここに来た時に弾いた曲は勿論、頭の中で思い付く曲全て弾いた。時には激しく時には穏やかに。仕舞いにはメドレー形式でも弾き気付いたら2時間ぶっ通しで弾いていた。コンサートってこんな感じだろうか?俺は楽しくて夢中になって弾いていた。
「皆さん、お世話になりました」
2日後の朝、発つ日がやって来た。
ピアノのも賞金首の遺体もみんなから貰った2ヶ月分の保存食も追い剥ぎ共から取り上げた武器と魔獣達から剥ぎ取った牙等の素材も懐中時計に収まったお陰で身1つで旅が出来る。
「気をつけろよキョウスケ!」
「また会いましょうね」
「はい。皆さんもお元気で」
俺はみんなを見ながら挨拶をする。
…俺が発つ事を言ってからライミィとあまり話す事が出来なかった。今日も朝から見ていない。ちゃんと別れをしたかったな。
「キョウスケ君、気をつけてね」
「ありがとうございますオリビアさん。あのライミィは……?」
「ライミィ?ライミィならあそこよ」
「え?」
「キョウスケ!」
俺の後ろを指したオリビアさん。振り向こうとした時にいきなり抱き付かれた。俺は抱き付いた人物を見て驚愕することになる。
「ライミィ!?」
「そうだよキョウスケ!どう?似合ってる?」
俺は驚いた。以前にラミアのアミュレットを使えば人間に化ける事が出来ると聞いていたが今のライミィは大蛇の様な身体ではなくどっからどう見ても普通の人間だ!
今まで着ていた狩人服とは違い、青いワンピースに白のジャケット、動き易いように加工されたマーティンブーツと動き易さもある服装で肌が白いライミィには似合ってるが一番驚いたのは
「ライミィ、髪の毛は?」
「うん!切ったの!似合う?」
長く綺麗な金髪を短くして、詳しくないがセミロングと言う髪型だろうか?今までの印象がガラリと変わっていた。
「でも、どうして?」
「どうしてって、決まってるじゃん」
ライミィは俺の右手を優しく握り目を合わせる様に見上げる。ライミィのような可愛らしい容姿に上目遣いをされたらこっちが緊張する。そのライミィから出た言葉が
「私もキョウスケと一緒に旅したいからだよ」
そう言って俺に笑いながら抱きつくライミィを見て思う事があった。だが俺は野暮な事を言わずライミィの覚悟を受け入れる事にした。俺はオリビアさんに
「オリビアさん、ライミィは預からさせて頂きます」
「はい、キョウスケ君。ライミィをお願いします」
お互いに頭を下げる姿は何だか不思議な気持ちになるがベラさん達は
「ライミィ!しっかりね!」
「ライミィ!」
「逃がしちゃ駄目だよ!」
「キョウスケー!ライミィ泣かしちゃ駄目よー!」
他にもいっぱいやんや言われた。みんな言いたい様に言ってくれるが悪い気はしない。
やっぱり別れは湿っぽいよりかは賑やかは方がいい。俺はライミィの手を取り。
「皆さん行ってきます!」
「また会おうねーー!」
俺達は走って集落を出た。一人旅かと思ったがライミィと二人なら楽しくなりそうだ。
「行っちゃったわね」
「はい。私達も直ぐに発つので良かったんですよねオリビア様。オリビア様?」
「娘が嫁に行くってこういうことなのね……」
「いやいや気が早いですよ!?」
「いや、あながちそうでもなさそうよ?」
「どうしてよビオラ?」
「二人のことを占ったの、これよ」
ビオラが皆に見せたのは一枚のタロットカード、それは
「運命の輪の正位置」
「あら」
「意味は成功、幸運、宿命、無限のひろがり」
「運命的な結び付きね」
「相応しいのはそれね」
「二人の旅路に幸あらんことを」
また二人に会えることに願いながらオリビア達も新天地を目指す。そしてまた皆で笑い合う為に
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