84話 建国祭3 遭遇したピアニスト
4人、食べ歩きをする。
建国祭で賑わうルーブルの街に一両の高速馬車が入る。その馬車は他の周りにある馬車とは違う国章、5人の人間が剣を交えているエンブレムを掲げているこの馬車は神聖王国オウレオール国属だと誰が見ても理解出来、ルーブルの住民達は国交が制限されている中オウレオールの馬車が街に入った事をなんだなんだと遠巻きに野次馬が見ていると馬車が立ち止まり中から
「やっと着いたかー、退屈過ぎて死ぬかと思ったぜ」
降りてきて伸びをする色黒の青年を先頭に老魔導師と騎士風の女性、神官の女性と下車する。4人が降りた事を確認した何処かやる気の無さそうな御者は
「では、私めは停留場へ向かいますので失礼致します」
そのまま馬車を停める為停留場へ馬車を出した。馬車が離れていく様子を見ていた最後に降りた神官の女性は開口一番
「全くなんですかあの御者は!聖女様の御者という大役を仰せつかったはずなのに!本来は涙を流し喜ぶところをあんなにも」
「よせパメラ。こんなとこで騒ぐなよ」
道のど真ん中で騒ぎはじめるのを色黒の青年に窘められたパメラと呼ばれた女性神官は微塵も納得していないようでずっとぶつぶつと文句を言う姿をみて青年と老魔導師は肩を竦め、少し離れた場所から聞いていた赤みが入った濃い桃色の髪を綺麗に束ねた騎士風の女性は首を傾げる。
「やれやれ」
「下手に騒ぐとアシリア嬢にも迷惑じゃ、ここで騒ぐものなら直ぐに騎士がくるぞい」
「わ、分かっていますウィル殿!」
この3人はオウレオールの聖女にして勇者アシリア・クラインに仕える元宮廷魔導師のウィル老師と拳闘士レイモンド、パスク教会の神官パメラだ。アシリアを含め彼らは国王の密命によりオウレオールから離れアルスの首都ルーブルへとやって来た。理由は明白
「でも本当にこの街にピアニストがいるのかよ?」
拳闘士のレイモンドが街を見回しながらウィルに確認をする。彼らが探しているのはピアニストなる人物で今まで彼らが集めた情報だと黒髪の長身で一風変わった黒い服を始めとした服装の男性で名をキョウスケ、それと金髪の美少女の恋人ライミィなる人物がいつも側にいるとのこと。ニューポートでは聞き取りが出来た貴族達の目撃情報やオウレオールの諜報機関や他の教会、特に渦中のトリウス教会から情報を集めてと何とかここまで集める事が出来た。
…逆にいえば1ヶ月でこれだけしか集める事が出来なかったのだ。
理由は2つあり、1つ目は響介が自分達の情報を必要最小限にしか周りに明かしていないこと。これには親しくなったニューポートの住民達の協力もある。
2つ目はアシリアがその情報収集全てを人任せにしていたこと。情報を纏め考察することすら人任せにしていたのだ。
「多分いるじゃろ」
「多分、ではありませんよ!ここにいないのならとんだ無駄足ではありませんか!」
「騒ぐなと言うとるじゃろ。そもそもアルス建国祭のセレモニーは5日前に終わっとるがまだ建国祭はやっとるんじゃ、街を見て回っていると考えるなら街の者が見てるじゃろ?まずは聞き込みからじゃ」
「聞き込みって、この街でですか!?」
「パメラ、いい加減それやめろって散々言ってるよな?」
明らかな難色を示した表情をしたパメラにレイモンドが呆れ半分苛つき半分のような声色で注意を促す。
その理由はオウレオールの国柄にある。五神を信仰している神聖王国オウレオールは五神の声を聞く事が出来る種族である人間のヒエラルキーが高く、神の声が聞こえない獣人族やエルフ等の亜人族を見下しており特に各教会関係者や神官はその傾向が顕著であり種族差別の意識がかなり強い。平和を司る神パスクに仕えるパメラだがパスク神官の中でも過激派におり種族差別のみならず選民意識も高く獣人族亜人族にもだが敵対する魔族やどの陣営にも属さないラミア等も見下しているのだ。
レイモンドの懸念はそこなのだ。レイモンドはアシリアに仕える前から冒険者として諸国を歩いていたから種族問題は理解があるがオウレオールから出たことがない神官のパメラは爆弾でしかない。アルスを始めとした大陸南側諸国は獣人族亜人族との交流があり普通に暮らしている住民相手にパメラはトラブルを起こしかねないのだ。
苛ついたレイモンドのただならぬ態度と脅すような声で言うがそのパメラは納得出来ないと言った表情をし一触即発のような状態に、するとウィルが仲裁に入る。
「何しとるんじゃ戯け共、はよいくぞい」
「ウィル爺さん!だけどよ」
「お主の言いたい事も分かるが今は優先順位が違う。お主達がなんやかんやしてる間にアシリア嬢が見つけたぞ」
「見つけた?何がでしょうか?」
「ピアニストじゃ」
「は?」
「え?」
呆気にとられるレイモンドとパメラはウィルが後ろに指をくいとやっていたので見てみる。指の先は中央広場の噴水付近を差しており2人が見たのは人だかりの中で黒髪の青年が右手一本で逆立ちして腕立て伏せをし、ピンと垂直に張った足にはエルフらしき子供が器用にバランスをとって立っていた光景だった。それを確認したレイモンドとパメラが走り出す。
「あの黒服の奴…!」
「アシリア様は!?」
「アシリア嬢なら見に言ったぞ、なんでもピアニストは建国祭の中ああやって曲芸やピアノを披露してるそうじゃ」
「「はあ?!」」
走るレイモンドとパメラに魔法を用いてウィルは並走するように飛び人だかりへ向かう。たくさんの人だかりを割って入り最前列へ、そこでは
「よっ、とっ、とー」
ピアニストのピンと張った足に乗ったエルフの少女が器用にバランスをとりながらポーズをとる、見ている観衆から拍手が起こると
「エリー、やるぞー」
「はーい」
下のピアニストがエリーと呼ばれたエルフの少女を乗せたまま器用に膝を曲げると大きく蹴り上げエリーはくるくると宙を舞う、するとピアニストは背中に組んでいた左手を勢いよく地面に付けるとまるで上昇気流に乗ったかのようにエリーを追い宙へ、そこに
「よーし!私の番!ステラ行っくよーー!」
「了解!」
今度は金髪の少女が藍色髪のメイドに向かって走り出すとメイドは走ってきた金髪の少女の手を取り
「どおぉりゃぁぁぁ!」
ブンと自身も駒のようにグルンと回ると少女を振り回し宙へと放る。その先はエリーがおりあわやぶつかるかと思われたがここで
「キョウスケ!」
「ライミィ!」
「「ナイス!」」
なんとエリーの後を追っていたキョウスケと呼ばれたピアニストがライミィ呼ばれた少女と空中で足を合わせてお互い真横へ方向転換すると宙にいる3人が同時に月面宙返り3回転捻りを披露する。観衆からは歓声が上がりまたくるくると捻り回転をしながら先にキョウスケとライミィがスタッと着地し
「オーライでーす。エリー様ー」
ステラと呼ばれたメイドが宙を舞うエリーの落下地点に入りキャッチ
「はいどーも!」
最後に4人で決めポーズをとるとわぁと歓声と拍手喝采が起き
「いいぞいいぞー!」
「すごーい!」
「いいぞ兄ちゃんらー!」
大きく歓声が上がり4人は「ありがとうございました」と観衆に頭を下げ周りの品のある女性やそのメイド達と盛り上がっていると
「ようやく見つけましたわ!!」
「ん?」
みんなで曲芸を披露して盛り上がっていると急に大声を出して指を指された俺達。指を差していたのは神官らしき何かマークが入った白いローブを着た女性、その近くには色黒の男や魔導師風のご老人と騎士風の桃色髪の女性。俺達も周りのみんなもなんだなんだとその4人組を見る。
「えっ、何?」
「だあれ?」
横にいるライミィとエリーが困惑している中
「ようやく見つけましたわピアニスト!」
神官の女性が俺を指差してとからどうやら俺に用があるようだ。
「何か俺にご用でしょうか?」
「よくもいけしゃあしゃあと…!!貴方のせいでアリシア様がどんな目に遇ったと!」
「レイモンド、パメラを下がらせるのじゃ」
「あいよ」
その後もギャアギャアと騒ぐ神官を色黒の男が強引に下がらせると魔導師風のご老人と騎士風の女性が前に出てきた。
「連れが騒がせて申し訳ないの」
「いえいえ」
「あの、貴方と貴女はあの時の?」
騎士風の女性が俺とライミィを指差してきた。どっかで会ったけな?俺が思い出そうとしているとライミィが
「キョウスケキョウスケ、この人知ってるの?」
「いや、覚えてないライミィは?」
「私も」
俺達が揃って首を傾げているとご老人が
「んん?おおそうかこの者らはコレクターの時に森で会った者達かアリシア嬢」
「はい、間違いありません」
「コレクター?コレクターってあのマクルスつう気色悪いハゲの事だよな?ライミィ」
「そだね~、キョウスケが脳天に蹴り叩き込んで殺した奴~」
なんでそんな奴の事を言い出したんだ?そんな事を考えてると神官を落ち着かせている色黒の男から声を掛けられる
「なあ、あん時なんでコレクターの事を知らないって言ったんだ兄ちゃん?」
ん?コレクターの事を?そういえばどっかでコレクターの事を知っているかって質問されたな。だがその時は
「いつ質問されたか知りませんがマクルスがコレクターだと知ったのはニューポートって街に行った時にピーター商会の店員に教えてもらいました。そもそもその男は自分とライミィにはマクルスと名乗ってましたしそれ以上の情報が無かったので判断出来かねますね」
うん。嘘は言っていない。あの時リリスさんに見せて貰った手配書にも記されてなかったからな、俺の返答に何処か納得してないようだったが
「で、キョウスケ様に何の御用でしょうか?」
話が見えない事を少し焦れったくなったステラが前に出てあの騎士風の女性達に問いかける。女性にしては身長170後半と高いステラが無表情に近い表情で前に出ると中々の威圧感がある。
「あ、あの、貴女は?」
「申し遅れました。キョウスケ様、ライミィ様、エリー様の従者を務めているステラと申します。以後お見知りおきを」
と、微笑みながらカーテシーを披露して騎士風の女性達に挨拶をするステラ。
微笑んでいるがステラ目が笑ってないな。警戒MAXにしてるのが分かる。騎士風の女性と魔導師風のご老人と色黒の男がステラから何か感じ取り言葉を詰まらせたようにしているとパメラと呼ばれた神官があの色黒の男を隙を見て振り払うと俺に対して
「用ならありますわピアニスト!貴方には出頭命令が下されています!」
「出頭命令?」
…妙だな。ロン・ハーパーはアルスに収監された時にハーパー家の取り潰しが決まりハーパー家ごと「なかった」事にされた事で王家とトリウス教会が揉めたとセフィロトから聞いている。それを考えるとあの神官が言っている出頭命令の中身が気になるな。
「なぜ自分が出頭命令なるものを受けているのでしょうか?理由をお聞かせもらっても」
「理由ですって?そんなの決まっています!貴方達のせいでアリシア様はニューポートの住民から不等な扱いを受けた事による勇者不敬罪の罪による出頭命令です!」
…………は?なんだそりゃ?すごい真面目な面して言うもんだから聞いてみるとただの逆恨みかよ、ただ呆れた。ほらみろライミィとエリーとステラも曲芸見に来てたメアリーさんもメイドの皆さんも周りのみんなも「はあ?」って顔してるだろーが。まあこちらから話すことを試みてもこの手の輩は話が出来ず直ぐ水掛け論になるからな。
呆れたが俺は少し踏み込む事にする。
「そんなに言うならその件に関する証拠でもありますか?出頭命令なんて言うのだから令状の1つや2つありますよね?」
まあ、令状無しで言うことはないだろう。無いのならただの言い掛かりにも程があるから別に言うことを聞く必要はないだろう。
「当たり前でしょう!さぁウィル殿!あの者に」
…あるのか?神官の女性が意気揚々と言うと魔導師風のご老人が前に出てきた。あのご老人はウィルと言うらしいな。
「もう一度言う、連れが騒がせて申し訳ないの」
そう言う何処か申し訳無さそうに口を開いたウィルご老人。あのご老人は話が出来そうだなと思っていると懐から1つの封書を取り出した。その封書にはオウレオールの王家の紋様が入っているのが見えたことからどうやら本当のようだな。ウィルご老人が中身の書状を取り出すと読み上げ始めた。
「ピアニスト殿。貴殿をオウレオール王家の剣客として我が国へ招き入れたい」