83話 建国祭2 接触するピアニスト
響介、仕事を成功させる。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、次あれ食べたい」
建国祭2日目。
始まったばかりの建国祭で盛り上がる首都ルーブルの屋台ひしめく中央広場で食べ歩きをしている響介達がいた。
時を戻そう。それは昨夜のランベール卿の別宅でのことだ
建国祭のオープニングセレモニーを成功させた響介はランベール卿の別宅に用意されていた部屋でライミィ達とこの後の事を話合っていた
「いやぁ、キョウスケカッコ良かったぁ。惚れ直しちゃったよ~♪」
「うん♪」
「本当に素敵でした、私も従者として最良の日で御座います」
「ありがとう。みんなにそう言われると俺も嬉しい」
ふふっと笑いタキシードの上着を抜ぎ首もとを緩めながらソファーに腰掛けると優しく微笑んだ響介。こう3人から称賛されると響介も仕事を受けて良かったと嬉しくなってしまう。勿論ライミィ達もそんな満足そうな響介を見て嬉しくなる。こう誉められたのはパルクールの全国大会で優勝した時位だとふと思い返すが直ぐに切り替え本題に
「早速で悪いがこれからの話をしていいか?」
「うん、エリーのお母さん探しだね」
「そうですね、まずはセフィロトでしょうか?でも…」
「いや、この街にもセフィロトはいるんだ。リリスさん達の記録にもあった」
「じゃ、明日行くの?」
「そうだよエリー」
「じゃあ、それ次第でアルスともお別れだね」
「ああ、状況次第でアルスから出よう」
その時だった。いきなり部屋の扉が開かれたと思ったら
「ちょっと待ってくれキョウスケ君」
「お待ち下さいキョウスケさん」
部屋の外で話を聞いていたであろうランベール親子とメアリーのお付きのメイド達が部屋に雪崩れ込んで来て全員から全力で引き留められた。「アルスから出ていく」という単語を聞きランベール親子もまさか始まったばかりの建国祭の中去るとは露とも思っていなかった為焦る焦る。
「建国祭もまだ始まったばかりだ。せめて建国祭が開かれている間はゆっくりしていかないかい?」
ランベール卿ことアルド・グレノルド・ランベール氏はこのアルス共和国では8大侯爵家の頭目であり国立評議会では副議長を務める実質このアルスのNo.2と言っても過言ではない人物。そのアルスの重鎮は響介達の事を大変に気に入り娘のメアリーと良き友人となってくれた事は勿論特に響介に関しては今では年の離れた友人扱いしている位だ。その行動の速い友人になんとか留まるよう説得を試みるランベール親子の父親アルド氏。
「そうですね…」
どうするべきかと考える響介。視線を外してライミィ達を見るとライミィ達はメアリーから何か模様や綺麗な絵柄が描かれた紙切れ、チケットのようなものを貰っていた。
「メアリーさん、なあにこの紙切れ?」
「これは建国祭期間中にリベラル劇場にて公演されていますアルス一の劇団『ロンドターブル』のルーブル革命を題材にした演劇『ルーブルに吹く風』のチケットですわ」
「公演?演劇?」
「簡単に言うとお芝居ですわ。エリーさん」
エリーを始めライミィとステラの3人に説明するメアリーを見て
(興行か、こういうのは歌舞伎位しか見たことないから興味あるな…)
元の世界の実家の組に歌舞伎が好きな組員が何人かおり、その組員達に誘われて何度か観に行った事を思い出す響介。演者の迫真の演技や鋭く決める啖呵を初めて目の前で観た時は筆舌に尽くしがたい興奮をしたことは今でも覚えている。メアリーの説明を聞いていたライミィ達は段々と興味を持ち始めたようだったので響介は
「エリー。どうしたいかエリーが決めていいぞ」
「いいの?」
「ああ」
エリーに判断を委ねる事にした。これは決して響介が優柔不断だとかでは無く自分達の中でこの件に関して一番の決定権を持つエリーの意見と考えが大切と考えた響介なりの判断だ。それを察したのか口を挟まず優しく見守るライミィとステラ、側では緊張した面持ちで見守るランベール親子とハラハラした様子のメイド達。みんながエリーに注目するが当のエリーは全員の視線を集めていても気にしておらず何時も通りマイペースに
「明日、セフィロトで、聞いてみよ?」
こんなやり取りがあり結果、セフィロトで安否が確認出来て安全な状態なら留まる。もし危険な状態ならアルスを発つと言うことで纏まりセフィロトに行く前に響介達は朝から街を散策することに、今響介達がいるのは祭りで盛り上がり屋台がひしめき最早屋台街と化した中央広場。100以上の屋台が並び仮設のテーブルセットには家族や冒険者グループがワイワイと食を囲んでいたり朝から飲んでいる人々の賑やかな声があちらこちらから聞こえ街中が活気に溢れている。そうして歩いているとふとエリーが立ち止まる。
「らっしゃい!ホーンディアっつう魔物の肉の串焼きだ!食いてぇかお嬢ちゃん。美味めぇぞ~!」
「うん」
ディアと聞いて鹿の肉かなと考える響介。目の前では肉厚に切られ木串に刺されたホーンディアと言う魔物の肉が鉄板にじゅうじゅうと音を立てて焼かれ、更にはある程度焼かれたら側にあったタレが入っているであろう入れ物に串焼きを突っ込むとさらに鉄板で付け焼きするとタレが鉄板でじゅわ!っと良い音を立てると見てるだけで絶対美味いと言いたくなるくらい香ばしい匂いが立つ。完成したものを店主がエリーに見せるとうんと即答し目をキラキラと輝かせるエリーと響介の横で食べたそうにしているライミィを見て
「店主、4本頂けますか」
「毎度!」
待ってましたと言わんばかりに手際良く熱された串焼きをくるみ響介から代金をもらい渡すと「熱いからきぃつけろよ!」よ笑顔で言われると響介を手を振り答える。そう響介が対応しているうちにライミィとエリーは自分の分の串焼きに手をつけ食べ始めており
「美味しい~♪」
「うん♪」
一口食べて頬を綻ばせる。あまりに美味しいそうに食べるものなので響介とステラも遅れながらも串焼きにかぶりつき
「おお、肉厚だけど脂身が少ないから硬いかと思ってたが思ってた以上に柔らかいな。それにこのタレが良く合う」
まるで日本でもあった醤油ベースの甘辛タレに近いタレが良く染み込み美味く気づけばもう半分を食べていた響介。日本の味付けに近いものだからか味わいながらもしっかりと食べていた。
「確かに美味しいですね、是非レシピを知りたいです」
「そういえばあっちに本が売ってる露店あったよ~後で行ってみようよ」
いつの間にか串焼きを食べ終えたライミィが串を露店があったところを差す。今ルーブルの街は中央広場とその周辺には食べ物中心の屋台が並ぶがそれ以外の露店は商業区及び商業通り、リベラル劇場に続く劇場通りや住宅区通りにはアルスの商会の露店や友好国マルシャンやクオーコから来た行商人が露店を開き大層な賑わいを見せている。その賑わう街を観光しながら見て回っているとふとエリーが響介の服をチョイチョイと引っ張る
「お兄ちゃん、甘いもの、食べたい」
3人から遅れてやっと串焼きを食べ終えたお姫様は食後のデザートをねだってきた。
「甘いものかぁ、屋台になかったよね?」
「そうですね、屋台の物は肉やチーズ、酒類が多く甘いものはなかったかと」
そう言ってステラは自分のアイテムバックの中を確認する。中は出店で買った保存の効く燻製にした肉や乾燥させた貝類にチーズ、後は調味料や香辛料等々、屋台で売っているのは何もジャンクフードだけではない、珍味に分類される食べ物や国ならではの特産品等を扱う物産露店なんかもあったが甘いものを扱っている店はなかったのだ。
「この辺りならそういえば喫茶店なかったかライミィ?」
「あったよねぇ、そういえば」
先日デートした時にあったよなとライミィと話しながら響介は周辺を見回すと丁度中央通りと商業区通りとの境目辺りに繁盛している小洒落た喫茶店を見つけるとライミィに確認する。
「なあライミィ、あの店じゃなかったか?」
「あっ!あれだよキョウスケ!デザートが美味しそうだって言ってたじゃん!」
「うん。言った言った。じゃ行ってみるか」
そうして響介が見つけた喫茶店へと足を運ぶ4人。皆考えているのは同じなようなのか甘いものを求めているようで喫茶店は満席な為席が空くまで待っている事に、するとエプロンを着けた毛並みが白く狼耳の獣人、狼人のウェイターがメニューを持って響介達のところへやって来た。
「いらっしゃいませ!只今満席の為先にメニューを見てお待ち下さい!」
店員からメニューを受け取ると直ぐにライミィに渡す響介。
「キョウスケ様?よろしいのですか?」
「いや、後で決めるからみんなで先に決めてくれないか?」
あくまで強制せずお願いのスタンスの響介。響介は基本的にレディーファーストなのだ。その響介の意図を組んでくれたライミィ達は楽しそうにメニューをめくり「これ美味しそう!」「どれにしよう」「こっちも捨てがたいですね」等々和気あいあいと話し合う。その横で響介は楽しそうに眺めながら順番を待つ。
その姿はまるで遊園地でアトラクションの順番待ちをしている父親の如く。暫し待っているとエリーがメニューを持って来た。
「お兄ちゃん、決まった」
「おっ、ありがとうエリー」
「うん♪」
エリーの頭を軽く撫で響介はメニューを開く、ページは丁度パフェやサンデーのページだったが響介はメニューを一瞥するとパタンと閉じた。
「あれ?キョウスケもう決まったの?」
「ああ」
そうして順番を待っていると呼ばれる順番に近くなったようで白狼の店員がやって来ると
「お待たせしております!じきにテーブルが空きますので先に注文をとってもよろしいでしょうか?」
「はーい、私ベリーのタルト」
「エリー、クリームパフェ」
「私はナッツパイをお願いします」
「かしこまりました!お兄さんは何になさいますか?」
注文をメモしながら響介の注文を聞く白狼の店員、すると響介はメニューを開きながら指をさし
「俺はストロベリーサンデーをウエハース抜きにしてミックスベリーのトッピングした物を頂けるか」
この響介の注文を聞いて3人は「えっ?」と驚いていたが白狼の店員は耳をピンと立てたが表情を変えずに
「おや、珍しいトッピングですね。勿論大丈夫ですよ。奥の部屋席が空いたようなので直ぐにご案内しますね」
注文を取り終えた店員は直ぐに奥に引っ込んで行くのを見ていた響介だったが持っていたメニューをライミィがすごい勢いで引ったくるとエリーとステラとしっかりメニューを確認していた。トッピングの事は隅っこにちっちゃく書いてあったから仕方ないよなと響介は思っているとさっきの店員が戻ってきて席に案内される。他のお客さんとすれ違いながら奥の部屋に通されるとライミィは何かに気がついたようで部屋に入ると響介の隣へ移動する。部屋席に案内されると先程の白狼の店員は入り口をピシャリと締め響介に
「…Aの魔術師」
「Bの女教皇」
「この度は我ら『セフィロト』のご利用ありがとうございます『ピアニスト』様」
仰々しく頭を下げる白狼の店員。それを見たライミィは「あー、やっぱり」と溢すとエリーが首を傾げライミィに尋ねた。
「お姉ちゃん、知ってたの?」
「知ってたってレベルじゃないよ~、ただリュインでもおんなじ事あったな~って思った位で今さっき気がついた位だから」
「そっちのピアニスト様はご存知みたいなので言っちゃいますがこういう所の方が情報集まりやすいですからね、おっとリップサービスはここまでですよ」
しーと人差し指を口に当てておどけてみせる白狼の店員の何処か明るいふざけた様子につい口元を緩めてしまう響介とつい笑ってしまったライミィ達。そんなおどけた白狼店員もといセフィロト構成員はすぐに真面目な顔になり裏の仕事モードへと変わる
「今回のご用件は?」
「人を探している。種族はハイエルフ、白に近い銀髪で色白の肌で瞳の色は緋色…でよかったよな?」
「うん、耳に、地母神の耳飾り、付けてる」
「……お名前をお伺いしても?」
「アリス」
「すいません捕捉でフルネームはアリス・リオネルド・リイニッジで良かったよね?キョウスケ」
「ああ」
ハイエルフのアリスと聞いて少し怪訝な表情で考える構成員、暫し思案してから口を開いた
「…金貨500枚」
「払おう」
懐から懐中時計を出して大きな道具袋を出す、そこから金貨100枚が入った袋の束取り出しを5つ構成員に渡す。響介達の目の前で中身を改め「確かに」と短く言うと何処からかメモを取り出し情報を話し始める
「そのアリスという名前のハイエルフは目撃情報があります」
「本当!」
構成員の話を聞いたエリーがバンと机を叩き身を乗り出して構成員に詰め寄るがその様子に慌ててエリーを宥めに入る響介達3人。エリーの行動に焦っていた構成員だったが響介が話を続けるように促されるとこほんと咳払いをし
「本当です。魔族領と竜人領の境目に当たる未開の深い森の中でラミアの集団が引き連れているラプトルに乗っているのを目撃されています」
「ラミアの集団、ですか?」
ステラが首を傾げ疑問を口にすると同時に響介とライミィが素早く反応した。
「はい。この集団はオウレオールとコンバーテ、魔族領の間にあった未開の森に潜んでいたようで1ヶ月程前から集団で移動しているようです」
これには口を挟まない訳にはいかなくなったが響介より先にライミィが口を開いた。
「すいません。そのラミアの集団の特徴とその中で一番強そうなラミアの特徴はありますか?」
「そのラミアの集団はその集団からは仕掛けてこないのですが戦闘になると個人個人の戦闘能力もですが恐ろしいのは集団戦闘による魔法は勿論地形を駆使し罠も張り巡らしての情けも容赦も無い戦術で人間だろうと魔族だろうと徹底して叩き潰す集団です」
ますます覚えのある響介とライミィ、そして構成員から決定的な言葉が出る
「こちらの報告ではその集団のリーダーと思われるラミアの名前は確かオリビアと」
「何!?」
「ウソでしょ!?」
「おや?ピアニスト様とラミアの婚約者様はお知り合いみたいですね」
「ああ、私の事もバレてるんですね。はいそのオリビアってラミアは母親です」
「成る程そうでしたか!いやぁいい情報ありがとうございます!」
その事実を知り羽ペンとメモを取り出し嬉々として書きしたためる構成員。そんな時に
「お母さん、大丈夫?」
エリーが構成員に質問を投げる。その声色普段の時と変わらないように聞こえるがとても不安そうなのを響介は気がついた。当たり前だろうエリー自身も最悪奴隷として売り飛ばされるところだった為尚更不安だったのは少し考えれば分かることだ。構成員から返ってきた内容は
「こちらの報告によるとそのラミアの集団とは関係は良好。その一団に行き倒れているところを拾われたようで最初鬱ぎがちだったようですが今ではすっかり一団に馴染んだようですね。特にライミィさんの母親のオリビアさんとは仲睦まじい姿が確認されています」
それを聞いたエリーは表情こそ変わらなかったものの
「よかった…」
安心したのかポロポロと涙を溢していた。今まで弱音らしい弱音や泣き言を一切吐かなかっただけに緊張の糸が切れたように泣き出してしまう。そんなエリーをライミィは優しく抱き締め頭を撫でて
「だいじょぶ、お母さん達強いんだから」
泣きじゃくるエリーに優しく声を掛けながらエリーの気の済むまで優しく抱き締め続けた。
構成員は「御持ちします」と部屋を出ようとしたが響介は銀貨2枚を差し出し
「オウレオールの『聖女』の動向を教えて欲しい」
「聖女は昨日アルスに入った事が報告されてますからこのルーブルには明後日入ると思われます」
「ありがとう。続きは食事の後にロン・ハーパーの事含め教えて欲しい」
「かしこまりました。では」
そのやり取りをした後構成員が出ていった。それを見ていたステラは
「聖女がこのルーブルに?」
「詳しい話はデザートを食べてからゆっくり聞こう」
「了解」
「さっ、もうすぐデザートが来るよ、楽しみだね」
「うん♪」
すっかり持ち直したエリーの笑顔は涙目ながらも何処かすっきりしていたように笑っていた。その後やって来たデザートに舌鼓みをうった後、追って来ている聖女の事や脱走しているロン・ハーパーの動向を買い、その夜ランベール卿の別宅に戻った時メアリーの誘いを喜んで受けたのだった。