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異世界に来たらピアニストになった俺~しかし面倒事は拳で片付る任侠一家の跡取り息子の見聞録~  作者: みえだ
第4章 貴族の国 ~本領を発揮するピアニスト~
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79話 動き出す者達

響介、指輪を買う少し前




「くそくそくそくそくそくそくそがぁぁぁ!!」


 時は少し遡る。

大規模なスタンピードが起こったオルレアン平野から離れた森の中で事の成り行きを魔法道具(アーティファクト)らしい水晶から見ていた1人、まるでホームレスのようなみしぼらしい格好をした男は自分の思い描いた結果にならず子供のような癇癪を起こしていた。理由はスタンピードを納めた最たる人物だ


「またあいつらかよ…!ふざけんなよくそがよぉ!!」


 歯をギチギチと鳴らし目を血走らせて水晶に映る響介を恨めしそうに見ていた。

 せっかく呼び寄せたダンジョンモンスターを文字通り蹴散らし自分を追い回し痛め付けた騎士団を助けあまつさえ負傷者をまるで聖女の魔法かのように治し尊敬の集める姿に憎悪の念しかない


「あいつのせいで……!あいつのせいで僕がこんな目にあってるのに……!」


 全て自業自得、今までの行いの因果応報だがそんなのはこの男ロン・ハーパーには関係無い。厚顔無恥で自分勝手なこの愚か者には自分の責任なんて思考は残念ながら持ち合わせていないのだ


「あの白いローブの奴から貰ったこれでスタンピードを起こして騎士団を混乱させているうちにオウレオールに逃げる筈だったのに…!」


 そう言うとそこら辺で拾って身に纏っているぼろぼろローブの下にはいかにもな禍々しいオーラを放った杖がその存在を覗かせている。

 響介達にぶちのめされたロン。気が付いた時はアルスの裁判所内の留置場の牢の中で裁判の時を待つ身だった。

 勇者だ貴族だと騒いでも意味は無く、牢の中であまりに騒ぐものだったので幾度も騎士達に殴られた。

 アルスという国は国境沿いや各要所等の他国と交流がある所には自国の顔として優秀な騎士や兵士を配置しているが留置場や刑務所等の他国の目につかない所の騎士や兵士は国に忠誠こそ誓っているものの素行の悪い者ばかりでありこのような所は謂わば左遷先、特に裁判所の留置場に配置されている騎士達は革命以前の王族やそれに連なる貴族達に苦しめられ恨みを持つ者ばかりで左遷理由も捕らえた元王族元貴族に対して酷い拷問、時には拷問死させるなど行きすぎた制裁を加えた者達なのである。つまりこのロン・ハーパーもそこの騎士達からすれば元貴族達と同類の存在な為遠慮無しに殴られた。本来は行きすぎた制裁を加えた騎士達も処罰されるのだがその上司も留置場の責任者もその騎士達と同じ共通の恨みを持つ人間の為揃って黙認し揉み消し、暴れたから取り押さえた拍子で当たっただけと揃って報告する。いくらランベール侯爵達が公明正大を謳っていても所詮はアルスはまだ新興国家、隅々まで管理体制が出来ていない。つまりこのアルスという国では留置場や刑務所に入った犯罪者に人権など無い畜生以下と言っても過言ではないのだ。

 しかしその事を理解出来ないロンは改める事なく裁判の席でも判決を不服とし裁判官に暴言を吐いた為更に罪を課せられ、父親はその結果も踏まえ終身刑が決まったと言われた時は暴れたが騎士達に袋叩きにされボコボコにされた。

 しかし転機が訪れる、刑務所への連行中の時だった。連行中の馬車が突如魔物の襲撃を受け混乱した時に紛れ込んでいた白いローブの人物に連れ出され逃げた。そして白いローブの人物は


「ロン・ハーパー。トリウス神に選ばれた勇者よ、貴方はここで終わる人間ではない」


 そう切り出しロンに対して機嫌を取るような言葉を並べその気にさせようとする。ロンも今までが今までだったのもありその白ローブの言葉を簡単に信じ、おだてられて上機嫌になる。すると白ローブは杖を差し出し


「私から勇者様に餞別でございます。勇者様ならこちらを使いこなせるでしょう。そして…」


 ロンは白ローブから杖の使い方とオウレオールの勇者の秘密なる話を聞き、聞き終わったロンは邪な考えが浮かび今回自身の逃走と騎士達への報復でスタンピードを起こしたのだった。しかしそれを響介達に防がれたということだ


「くそが…!もういい…あいつに復讐しないと気がすまない……!この僕の『勇者』の力で……!」





 そして一方、この頃にアルスへ向かう一両の馬車があった。その中には


「よく高速馬車をとれたなウィル爺さん」


 陽気な声で魔導師ウィルに話すのは聖女勇者アリシアの仲間の拳闘士レイモンド。そこにいたのはアリシアが率いる『タピヒューレ』の4人だ。しかしウィルはレイモンドの言葉が届いてあおないのかずっと瞑想しているかのように佇んでいた。


「ですが、馬車の周りに集まっていたあの方々は…?」


 首を傾げるアリシア。そこを


「アリシア様のお見送りでございますよ!あのような民草を気に掛けるなんてアリシア様はなんて寛大なお心を…!」


 アリシアの疑問に笑顔で答えるパスクの女性神官パメラ。その後も思い付くありとあらゆる言葉でアリシアを称える。しかしそれを片目を開けて見ながら


(そんな訳なかろう戯け)


 ウィルが心中でパメラと言われるがままのアリシアに毒づくのと同時にため息をつきたくなった。

 例のピアニストがアルスの建国祭へ出席するとの情報を入手したパスク教会は直ぐアリシア達が向かう段取りを取った。出国規制をし共和国建国祭を目前に控えたアルス行きの馬車の便はあるにはあったがパメラが勝手にアリシアの名前を使って『勇者の強権』を使ってそれらを停止させ自分たちの為の馬車を速急に準備させたのだ。


 勇者の強権。それは勇者を信望している五神の教会が王国の法や人族国家に跨がって存在する各ギルドの定めている法を無視し勇者の思い通り、謂わば『勇者行為』を許可する法で、教会が何代か前の国王を懐柔し可決させた王国法だ。当然ながらオウレオール国内しか意味は無いがそれでもオウレオールの国民からすれば恐ろしいものだ。つまりたちまちこの強権が発動してしまえばどんな行為も『勇者の為』と言うことで罷り通る。

 

 ウィルはうんざりしていた。元は宮廷魔導師として高い地位に座り後任も決まり隠居しようとしていたが腐れ縁の現国王からの依頼で聖女にして勇者アリシアのお供をすることになった。

 しかし当のアリシアはかなりの世間知らずではあったもののそれくらいならこれから教えればいい、そうレイモンドと話していたが問題があった。

 それがパメラだった。

 パメラは聖女アリシアを神のように信望するあまり、聖女様の為との名目で暴走するときがあり今回もそれだ。

 アルスの建国祭は今回で10年目の節目ということでかなり盛大に執り行う事も聞いていたウィル。当然馬車に集まっていたのはアリシアの見送りなどではなく規制の中数少ないアルス行きの馬車に乗ろうとした民が集まっていたに過ぎないがそれを聖女に都合良く解釈しているようでため息を付きたくなったのだ。今のニューポートで強権を発動させるとどうなるのかを想像する事も出来ずにいる世間知らずの聖女に対して、そしてそれを容認しようとしている神官にも


そして


(流石にこれはアリシア嬢達にはこの場では言えんからのう…)


 ふとウィルは懐に忍ばせている一つの封書を見る。この封書は2日前教会経由で貰った現国王からの手紙であり、今回のウィル達の依頼の内容が記されたもの。ウィルは前もって中身を改めたが中身が中身だったので見た時は驚きを隠せなかったのを覚えている。


(言ったら確実に教会の邪魔が、パメラ嬢からは猛批判が入るからのう、他国だからこそ出来るもののどうなるものか…)


 ふうと、息を吐き馬車の外を眺めるウィル。動き出した者達は皆様々な思惑がある中アルス共和国建国祭が執り行われる首都ルーブルに集うのだった。




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