77話 感想2 こいつ本当に人間か?(リノリノ視点)
騎士団、窮地を響介達に助けられる。
…おかしい。
うん。その一言に尽きるね。
大規模なスタンピードの報告を受けてあたしは急遽討伐隊を編成、このオルレアン平野に来たんだけど…
「あの、リノさん」
「なんだいケリー」
あたしに話し掛けたのはケリー・ローマ・カタン。A級冒険者パーティー『ホウセンカ』のリーダーで今回の討伐隊のリーダーも兼任している娘だよ。
「この状況は…?」
「…あたしが聞きたいよ」
もう目の前の光景には突っ込みが追い付かない。なんでかって?
「うおぉらぁ!」
報告に無かった大型のサイクロプスの顔面に飛び膝蹴りをかまし蹴り飛ばすキョウスケに
「サンダーボルト!か~ら~の~ダブルサイクロン!さらにおまけ!」
幾つもの魔法を無詠唱且つ同時に詠唱しながら魔物を射るライミィに
「ウラー!」
銀色のゴーレムに乗って錬金魔法で創ったウルフ達を引き連れモスマン達を数で押し潰すエリーの嬢ちゃんに
「どっ!せい!!」
身の丈以上のバスターブレードをブン回して雑魚を蹴散らすステラ。
「…どうしましょう?」
ケリーが困り顔にあたしに聞いてきた。ケリーだけじゃない他の面子も困惑してるよ。
誰だってこんなの見たら困惑するさ、だってあの子らのやってること人間じゃないもん。いやキョウスケ以外みんな人間じゃないだけどさ、ってか一番キョウスケがやってることが人間じゃ無いよ!なんだい5メートルの高さを跳ぶはサイクロプスを蹴り飛ばすは挙げ句の果てには
「どおぉらぁ!」
倒したサイクロプスを掴んでブン回して周りの魔物を薙ぎ払いやがったよ!?あれには目を疑った。そりゃそうさ、だってサイクロプスって重いんだよ?そんな魔物をブン回して…
アランがウィングタイガーを片手って倒すって言ってたけどあれじゃ片手でミンチにするんじゃないかい?キョウスケ達の戦いっぷりを見て考えた結果
「…負傷した騎士団の治療と護衛頼むよ。キョウスケ達が終わったら魔石の回収と魔物の埋葬やっとくれ」
「わかりました」
「で、あんた達は何やってんだい?」
戦闘が終わっておかわりも確認出来なかったからあたしは早速負傷した騎士の手当てをしていたキョウスケ達を呼び出した。キョウスケも察した様であたしの目の前で自分から正座したよ。それを見て驚いたライミィ達は同じように正座しようとしたけどキョウスケが制してキョウスケだけ正座してるけど状況を察したライミィ達も申し訳なさそうにしてる。
「一応さ、こっちにも段取りがあるんだよ?もう何もかも滅茶苦茶じゃないか」
「仰る通りです。申し訳ありませんでした」
反省してるようで何より、いろんな奴が見てる中キョウスケは手を地に付け頭を下げると周りからどよめきの声が上がる。その誠意はあたしも納得するけど今回はちょっと言わせて貰わないとね
あたし根に持つタイプだから、と思ってると
「リノリノ殿。その位にして頂けないだろうか?彼も反省しているようだし、なにより彼らがいなかったら我々は壊滅していたんだ」
第2騎士団のライアン団長が仲裁してきたよ。確かに実力派揃いの第2騎士団が2割強の戦死者を出してるあたりキョウスケ達がいなかったら壊滅も嘘じゃないね。実際あの量はケリー達でも際どいとこだ。
アルスの騎士は他と比べて向上心もあって精強だが今回は多勢に無勢だったんだろうな。そもそもあんなスタンピードを一個騎士団で止めろってのが無茶なのさ
「ですがねライアン団長。こっちにも一応事情ってのがあるんだよ」
「今回の事は依頼として参加した冒険者には報酬を出すように私からも進言する。勿論彼らにも報酬を」
「それだよ。キョウスケ達は依頼を受注せずに来ちまったからややこしいのさ」
そう、キョウスケ達は正式に依頼を受けていない。だからどうするかとわざとらしく悩んでみるとキョウスケからこんな事を
「それなら自分達の報酬は戦死した騎士の供養と遺族への対応に充てて頂けませんか?それにレイドモンスターの魔石は傷付けていないので売れると思いますしそれを冒険者の皆さんも今回の足しにして貰えればと」
「は?なに言ってんだいキョウスケ。それだとあんたらの取り分無いじゃないか?ライミィ達もいいのかい?」
流石の発言にあたしは思わず聞き直したしライアンも驚いてる。自分達から報酬を手放すなんて思いもしなかったからね。ライミィ達も
「はい、私達が貰うよりそっちの方がいいかも」
「エリーも、それでいい」
「そうですね。きちんと弔いをして頂けたら私も特には」
欲のない連中だねとあたしは心の中で呟く。レイドモンスターの死体を何体か見たけど例外なく魔石は無傷、特にあの数体のサイクロプスもだ。全部売ればそれこそほとんど遊んで暮らせるのにと思い詳しく聞くとライミィが
「ここでいただか無くても多分ランベール卿からいやでも何かしらあると思いますよ」
このライミィの言葉にキョウスケ達が揃って頷いた。ああそう言われると違いないね。ランベール卿はそういうのはしっかりやる人間だしと納得しているとライアンのとこの騎士がやって来た。
「あの、今よろしかったでしょうか?」
「どうしたレーゼン」
「申し訳ありません団長。治療の手が足りなくて、先程そこのエルフの子供が治癒術師と聞いたものでご協力願えないかと…」
「おっと、うちからの治癒術師も足んないか」
結構連れて来たしアイテムも持って来てたんだけど足りなかったみたいだね。レイドモンスターの中にモスマンとその上位種もいたし魔獣なんかもいたからなおさら被害も酷かったようだ。でも
「いえ、それが…」
少し言い澱むレーゼンっていう騎士にあたしは不信に思った。その横で
「どう?エリー?まだ頑張れる?」
ライミィがエリーの嬢ちゃんに確認をとっていた。あたしは声に反応しついライミィに視線をやる。
あたしが昔聞いていたラミアの評判やイメージとは全然違いどれも当てはまらないライミィにどうも不信感が拭えないのだ。そしてその様子に
「どうしましたかリノさん。ライミィを見て」
「あ、いやなんでもないさ」
キョウスケはあたしが反応すると一瞬怪訝な目をしたから多分気付かれたかもね。
…今の一瞬すっげぇ怖かった。アランの言ってた事嘘じゃない事が分かった反面、この子のライミィ柄みでブチ切れるとこを怖いもの見たさで見てみたいと思っていると
「うん。大丈夫」
「分かった。すいませんレーゼンさん案内していただいても?」
「あ、ありがとうございます!こちらです」
レーゼンの案内であたし達は負傷した騎士達のとこへ向かったが、案内された先の騎士達を見てあそこでレーゼンが言い澱んだ理由が分かった。
「こいつは酷いね…」
そこの負傷者達は皆腕が無かったり足が無かったりと欠損した重傷者だらけだった。確かにこれはエリーの嬢ちゃんを呼んだのも無理は無いし理由も分かる。
欠損部の再生なんてもんは高レベルの魔法と魔力が無いと出来ない事だ。そんなのは騎士団や魔導師団にいるなんて聞いたことないしオルセーの冒険者ギルドでもいない。そこでさっきのエリーの嬢ちゃんを見て出来るかもと希望を持ったんだな。すると
「成る程な、俺がやろう」
…へ?キョウスケが?あいつは治癒魔法使えるのか?これにはライアン団長達も目を丸くしている。
「ごめんなエリー。割り込んじゃって」
「んーん、多分、お兄ちゃんの、方が、確実」
「ありがとな、よしやるか。すいません、傷を見せてもらっていいですか?」
キョウスケが騎士の千切れた腕を医者みたいに検診し始める。確実ってどういう事だ?と頭の中で疑問になるあたしだった。ライアン団長やレーゼンも同じ気持ちな様で終始狼狽えてるよ。キョウスケは検診が終わると瞑想するかように静かに目を閉じ千切れた腕に手をかざす。すると
「おお…!」
今見てるのは現実か?キョウスケのやつ、千切れた腕を再生させやがった!?綺麗な淡い光に包まれ、元々そこにあったかのように再生された腕は千切れた後もなく、騎士は綺麗に再生された腕を呆然としながら動かして確認する。そんな騎士にキョウスケは状態を尋ね
「違和感はありますか?」
「…いや、ない……」
「ありがとうございます。ですがまだ神経組織が完全ではない可能性があります。何日かは無理をせずリハビリがてら軽く動かすに留めて下さい。では次の方は」
「待ちなキョウスケ!今のはなんだい!?」
「キョ、キョウスケ殿!今何を!?」
あたしだけじゃなくライアン団長も血相変えてキョウスケに確認する。そして帰ってきた返答は
「ああ、気功術です」
さも当たり前に答えるキョウスケにあたしらは衝撃を隠せない。当たり前さ、まさか気功術の使う人間がいるなんて思いもしなかったよ。とっくに廃れててもおかしくはない筈なのに…
「でも気功術に身体を再生させる技なんてあるのかい?」
一番気になるとこをライアン団長が聞いてくれた。確かにあたしが知っている気功術は自身の強化などそれぐらいしかないはずだからね
「これは俺のオリジナルです。今彼にかけたのは治癒功ってのからさらに気の精度を上げた練気治癒功と言うもので」
「気功術を自分で作ったのか!?」
軽く言うキョウスケにあたしは信じられなかったしライアン団長も驚愕の声を上げる。気功術をそんな応用の仕方をするなんて聞いたことがない。
キョウスケの話しによるとスキルボードにあった気功術は自分に合わないということで色々試行錯誤して編み出したとのことだ。その中でも練気治癒功というは治癒功ってのを強化したもののようで細胞レベルから再生するのが可能で、再生した手足も失う前の状態と遜色ないらしい。
うん。こいつやってること人間じゃねえ。そもそもそんな発想出来るか!?
「次の方はどなたでしょうか?」
「は、はい!此方へ…」
レーゼンに案内されてキョウスケは手足を失った騎士達にさっきの練気治癒功ってのをかけて治して回る。次々と見事なまでに欠損部の再生を行い、それを受け傷が治った騎士やライアン団長は皆キョウスケに敬意と尊敬の眼差しを向けていたのが凄い印象的だったね。
そんな事もあってスタンピードはキョウスケ達が鎮圧してあたしら冒険者ギルドの連中は一足先に引き上げた。